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6.モフモフですか? いいえ、アシモッフです





 狐太郎は、自分で何を言っているのかわからなかった。いや、わからないのではない。わかりたくなかったのだ。

 ――彼は言い間違えたのだ。

 異世界人と言わないように気をつけてた為に気を使いすぎていた。

 それゆえに何故か、口が勝手に動き出したとしても仕方ないことである。そう仕方がないのである。

 だが、ライナーからしたら宇宙人も外国人も大差ないはずだ。

 異世界の話なのだから、そう異世界の話なのだから!



「ウチュージンというのはなんだ? よく分からないのだが……。

 そういえばコタローって名前も変だが、なんか由来でもあんのか?」


 宇宙人については誤魔化せそうな感じがしたが、トラウマを刺激されて少し気を悪くする狐太郎。


「変な名前って……。俺のいた所では変ってわけでもなかったぞ。

 この辺りでは似たような名前はないのか?

 それと宇宙人というのは、虚空の先にある大陸は結構あってな……。

 それぞれ違う文明があるわけなんだが――

 それで自分たち以外の大陸に居る人たちを宇宙人と呼んでいるんだ。自分と同じかそれ以外という組分けだな。

 だからライナーさんから見た俺は、宇宙人ってわけだ!」


 狐太郎は宇宙人という名前がないことに気付き、それを利用する。

 惑星を大陸と見、宇宙空間を虚空とすればあながち間違いではない……間違いはないのだ!

 つまり宇宙の意味を変えてしまえば良いのだ。今後発展し宇宙に進出したときに困るかもしれないが。

 のちの世のことなど知ったことではないのであった。 



「あぁ、聞いたことないな。変わった名前でもハムタローやタロジローならあるんだが、な。

 コタローなんて弱そうな名前を付ける親はまず居ないな」


「なん…だと……」


 『こたろう』は人間の名前ではないのかとおののく。

 

(落ち着け、落ち着くんだ。某ロボットパイロットの恋人もいってたじゃないかアツクナッタラマケと)



 狐太郎は気持ちを落ち着かせる。

 そして日本の縁がある名前が例に上がったことを考える。


(もしかしたらここに日本人が来たことがあるのかもしれない。ただの偶然の可能性もある……まだ喜ぶことではないな)


 狐太郎はぬか喜びにならないようにと、今は流すことに決める。

 弱そうとディスられたことはこの際、気にしてはいけない。

 ハムさんやジローさんより弱いとは思いたくなかったのである。



「と、とにかく宇宙人を知らないとなると、さっき俺が言った船――虚空を渡る乗り物も、車、飛行機、TV、PCも知る訳がないよな」

「あぁ、聞いたことも想像もできないな」

「なら理解して貰うために、大まかに説明すると――」



 そうして狐太郎は騙り始めた。そう、適当にねつ造して教えたのだ。

 ねつ造するより他はなかったのだ。何せこの世界に乗り物は人力車しかなかったのだから……


 《車》

 人に忠実な生き物であり、奉仕することを使命としている。人力車と違い、疲れることを知らず永久に走り続ける。そして何倍も早い。


 《飛行機》

 凄く大きい空を飛ぶ生き物で、100人以上余裕を抱えて行動することができる。稀に人に反逆を企み、少ない人数ながら殺されることがある。

 ちなみにこの世界の1つの集落はだいたい30-50人くらいらしい。


 《TV》

 魔導具。遠くの映像だけでなく音すら完全に映すことができる。ただし、対となる《カメラ》なるものが必要。


 《PC》

 神との対話ができるもの。これがないと心が弱い者は生きていけず、今あげたなかで一番重要なものである。



 それぞれ特徴としては嘘は言っていない。生き物でなかったり、燃料が必要だったりするが。

 PCはネット上で神と呼ばれるものもいる事は確かだ。ネット以外にも利用できるが説明することはできないと思ったためにそれだけを述べたのだ。


「どれも恐ろしいくらい凄いが、特に《PC》ってやつはすげぇ~な」

「まぁ……な。人によっては神との対話だけが、生活のすべてというやつもいるしな」

「あぁ、神との対話なんて普通はできない。神は気まぐれに神殿にお告げを下さるだけだからな。そんな神器みたいなものがあるのか」

「個人で所有している者もいるぞ。俺の居たと所だと神は身近な存在だからな」



 ライナーは虚空から来たとか宇宙人とか、ほら話だと思っていた。

 やはり自分の理解の外にあるものは、信じられないものだからだ。

 だが、ここに来て狐太郎の話を信じるようになった。

 なぜなら聞いたこともないような事を作り出す発想も、ここまでくると嘘ではないと思えるからだ。


「――簡単に説明するとこんな感じだ。ところで何処に向かっているんだ?

 結構進んだように感じたが……目的地までまだかかるのか?」

「ん? あぁ行ってなかったな。今日は結構遅くなったから家に直帰使用と思っている。まあ、お前さんを発見して予定が狂ったからなんだけどな」

「そいつはすまなかったな。それより帰宅するのか……俺はどうなるんだ?

 流石にこの格好で放置されると困るんだが……」

「ガハハッハ、安心しろ。ちゃんと家で面倒をみてやるぞ。

 裸でいけるところなんてないからな!」


 面倒をみる――その言葉を上手く引き出せた狐太郎は、ここに来てようやく人心地することができたのだった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 それからしばらくすると、生活の名残みたいなものが見かけられるようになった。

 狐太郎は目を凝らして遠くを見る。すると随分先には建物のようなものがある。


(俺はこの状態で……あの集落に運ばれるのか?)


 簀巻き状態で担がれているのを忘れてはいけない。

 とても間抜けである。




「見えてきたようだな。あれが俺の家がある集落だ」

「名前とかあるのか?」

「いや、特にないぞ。新しくできた村や街ならあるんだが……そういう所だと借家だからな。

 ある程度稼ぎのあるやつは追い出される時期が決まっているんだよ。だから追い出される者達が集まって集落を作る」

「追い出されるとか、尋常じゃないな」

「でも税金ってやつを納めれば、そのまま住み続けることもできる。けど、そんな無駄金使うならさっさと家作った方が良いからな。

 周りにある土地を耕せば畑にしてもいい。家だって好きな形で作れるし、悪いことなど一切ない」

「そういうものなのか……」

「そもそもだな、街で保護されてるようなやつら――国の機関に所属してるようなやつ以外――は、力がないって証拠だからな。

 正直自分は一人前じゃありませんって公言しているようなもんだぞ。腰抜けだ!

 まともな精神のやつは恥ずかしくて街を歩けないぞ」

「でも街っていうぐらいなんだから、住んでるやつは多いんだろ。おかしくないか?」

「あぁ、仕事として住んでるやつはいるぞ。――職人とか商人とかはな。

 そもそもそういう職は国からの支援があるからな。仕事も近くでやらなければいけないし、仕方ないんだろう。

 だが――男ならやっぱり外に出て戦うべきだ」


 ライナーは男なら探索者サーチャーをするべきだ。むしろ街で仕事しているようなものを軟弱だと見下していた。

 それ故にこのような発言をしたわけで、実際に腰抜け扱いされるわけではない。

 しかし探索者サーチャーの人口が多いため、このようなことを声にしているものが多いのも事実だ。

 なによりわざわざ街まで買い物に行く必要があるため、不便極まりないのだから。

 


「ん~、俺は戦うことができないから、街に行った方がいいのかな?」

「なぁに、訓練所があるから、そこで男を磨いて一人前になればいいんだ。そうすればいずれ街から出られる。

 若いやつらは家を持とうと無茶して死ぬやつが多いからな。

 まぁ……慎重なくらいなら良いが、程度が過ぎるとただの腰抜けになっちまう」

「ふ~ん、訓練所か……」

「まぁ詳しくは後で話してやる。そろそろ家が見えたんでな」


 話しながら歩いている内に、家らしきものが見えた。

 それは木造建築などではなく、石造りで隙間に土を入れて補強してある感じに見えたが、よく見ると石とも土とも違うようだ。

 異世界特有のものなのか。もしくは自分の知識にないものなのかは判断できない。


 ライナーは一つの建物の前で立ち止まった。そこは入り口のようなものだろうか……。

 ドアらしきものが見当たらない。だが立ち止まった以上、ここが入り口なのだろう。


「おう! 俺だ! ライナーだ!

 今帰ったぞ。ヒラ○ゴマだ」



 開け、ご○――それは千夜○夜物語余りにも有名なオ○プンセサミの呪文だ。

 そう、この世界では入り口は音声認証とこの呪文によって現れる。


 狐太郎はこんな所にも、元の世界の名残を感じた。

 原典由来ではなく日本独自の物に……やはり日本人はいた可能性は高いと睨む。だが、まだ結論を出すのは早いと感じる。


 その呪文に従い、建物からは入り口が現れる。そうして入り口が現れると、なかから女性が現れた。

 その女性はすごい美人……なんてことはない。165cmくらいで赤髪茶目、結っている髪は癖毛だ。中年太りがゆえに優しいそうにみえる。

 顔のつくりは近所にいるおばさんみたいな感じだ。気をつけて学校に行きなさいとか言ってきそうだ。


「おかえりなさい、あなた。あら? お客さんかしら?」

「ああ、タチアナ、ただいま。こいつは行き倒れだ、急で悪いがこいつの食事とか用意してくれ」


(ちょ……行き倒れはないだろ)


 そんなやりとりをし夫婦がていると、なかからバタバタと音を立てて子供が駆けて来た。


父親オヤジ、おかえり!」


 そうしてライナーに飛びつく少年。それを抱き留めるライナー。


「ただいま、アシモッフ。良い子にして訓練していたか?」


 そして落とされる俺。



「グフゥッ、――またかよ……」





 俺はまだ簀巻き状態のままだったのだ。

 

 

 

 

 


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