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49.ヒルダの浅慮、レイニーの暴露

7章よりタイトルを変更することにしました。

【この異世界ギルドは何処かおかしい -開拓王コロナの軌跡-】

以後はこの名前でよろしくお願いします。

 



 

 コロナはレイリアが語ったその逸話を当然知らなかったが、なんとなくツッコミを入れてはいけないような気がした。

 とりあえずもし元締めに睨まれたら、即反省し行動することを心に刻むことにした。




 食事が進むとともに、どんどん切り替わる話題。

 レイリアが辿ってきた仕事内容だったり、コロナのダンジョン生活についてだったり、そして最後はコロナに装備の販売禁止令について。


「コロちゃん、それは既に解除されていますよ。

 私がここに来る前に本部で――コロちゃんが帰ってきていることの情報を集めているときに確かめましたよ?

 暴言に対する制裁の打ち切りを示した書類がありましたから。

 それによると、既に一昨日付で解除されています」

「マジカー」


 思わず片言になるコロナ。

 色々と覚悟していただけに、思いも寄らない朗報。実感が湧かないのである。


「ですが、ギルド上層部からして、職人達には公布していないでしょう。

 ですから装備を買いに行く前にはギルドに行って、その書類を貰った方が良いですね」

「いやぁ~、マジで組織として腐ってるな、役員一掃して選び直した方が良いんじゃないか?」

「……今回は、精神的支柱だったヒルダ・エコーミックが解雇されたことが原因ですから。

 上層部が伝達指示をしたとしても、現場の意思で拒否されているでしょう。

 未だにコロちゃんの話題で盛り上がってましたよ。『早く死んで欲しい』って。怨まれていますねコロちゃん」

「それはマジへこむわ~。

 俺が悪い訳じゃないのにな……クビになった、そのヒルダって人?

 その人が直接報復するっていうなら、まだしも――っていやそもそもアイツが悪いんだよな」

「そうですね。生活保護者で探検家スペランカーとして舐められていたコロちゃんは、『早く死んで欲しい』というのが上層部の考えだったのでしょう。

 それで彼女――ヒルダはギルド長と仲が良いので、おそらく直接指示があったのでしょうね」

「でも、今回の救出劇で一躍有名になったコロちゃんは、上層部としては認める形を取ったのでしょう。

 けど、ヒルダ・エコーミックは実は解雇されていません」


 コロナはレイニーが一体何を言ったのか理解できなかった。

 クビになったのにクビになっていない? その矛盾している意味がわからなかったのだ。


「あ、ヒルダさんって私の友達の受付嬢カーチャンも、尊敬してるって前に言ってましたよ。

 私の父親オヤジが助けられる以前は、コロナさんのこと愚痴ってましたし。

 ――でも解雇されたってその時は聞きましたよ」

「たぶんその後でしょう。受付嬢カーチャンは解雇。だけど再雇用として経営部の方に回ったそうですよ。結果的にみれば栄転。

 今回のコロちゃんの仕打ちはおそらく彼女の指示だけでしょう。

 だから元締め云々はまだ気にしなくてもいいはずです。よかったですね? コロちゃん」


 なんとも酷い話だとコロナは思う。

 一方的に不利益になっているので、明らかにコロナが負けたという形だ。

 別に戦っていた訳ではないのだが……


「まぁ、あの年増のおばさんには言いたいことは色々とあるが、これで問題はなくなったんだろうな」

「そうですね。私がこのことを言わなければ、コロちゃんは気が付かなかったでしょう?

 一般の人にはこのような仕打ちをしたとは伝わらないので、コロちゃんの暴露のように被害はありません。

 かつコロちゃんが既に解除されているのにも難癖をつけてきたら、更なるペナルティを与えるか、罪に問うつもりだったんでしょうけど……。

 まぁ、その企みは消えることになるでしょうね」

「レイニー様々だな」

「レイニーさんお手柄ですね」

「えっへん」


 そんな遣り取りをした後、どうせならばと、レイリアの依頼終了手続きとともに、コロナの禁止令解除令が記載されている書類を手に入れるために、全員でギルドへ行くことになった。






 総合窓口でアーシャは手続きをし、レイリアは報酬を受け取ると、後ろに並んでいたコロナの番となった。


「アーシャ。済まないんだが、俺の装備購入差し止めの解除がされていはずなんだが、それが記載された書類が欲しい」

「装備購入差し止めですか? そんなの聞いたことがないんですが」

「俺も、親方のところで聞いて驚いたんだ。

 だけどある伝手でそれが一昨日辺り解除されてた……って教えてくれたんだよ」

「そうなのですか、少しお待ちください。探してみますね」



 そういってアーシャは奥へと引っ込んだ。

 待つことしばし――


「ありましたよ、コロナさん。これがその解除令の記載された書類の写しです。

 でもこれって職人に公布されているのでは?」

「いや、念のためにだな。

 偶然・・聞いていなかったり、もしかしたら手続き漏れ・・・・・で上手く伝わっていない可能性も考えられるんでな」

「そうですか、コロナさんは慎重なんですね。はい、どうぞ。……他に用件はありますか?」

「いや、大丈夫だ。アーシャありがとう」


 そして懲りずにコロナはニコポを狙う。



 ――――しかし、効果は現れなかった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 所変わって、ここは例の親方の店――――ではなく、レイリアさん一押しの武具屋。

 レイリアさん曰く、あそこの親方は正直センスがなくC級の低位階級ランクまでのクオリティはないとか。


 それを聞いた俺は少し世話になった親方のことを記憶から抹消する。

 金銭にかかわることはシビアでなくてはいけないのだ。

 縁故で購入した者は失敗する可能性が高いのだから……。


 ――――まぁ、世話になったといってもほんの少しだけだしな!



 そして、レイニーちゃんとレイリアさんに見立てて貰った装備各種はこれだ――――



 《刺突剣》サーブル 価格¥750,000

 これを使うようになったら一人前といわれる《刺突剣》。

 魔鉄という物でできているらしい。



 《鎧》グラインコート 価格¥2,800,000

 全体的に真っ黒なコートアーマー。

 魔獣グラインの革が主な素材らしく、急所と思われるところは魔鋼という金属で薄くだが補強されている。

 どうやら魔鋼は魔鉄を作るらしい。鉄から鋼を作る製鋼法と同じような物だろう。縫製はグラインの毛を使っているらしい。



 《防護服》マジッククロース 価格¥200,000

 《鎧》の下に着込む防御力や衝撃を吸収するための厚めの服。

 《パペッター》が落とした魔布をたくさん使い作ったものらしい。



 《盾》グローヴァ 価格¥600,000

 金属製の小型の盾が着いた籠手。

 魔鉄でも魔鋼でもないジルタイトという金属で作られているらしい。盾撃バッシュを繰り出すのは不可能で、主に受け流しに使う感じだ。



 《靴》シルヴァンブーツ 価値480,000

 魔獣シルヴァからはぎ取ったシルヴァンフェザーを使って作られた靴。

 速度にプラス補正がかかる。




 これらは前回買った防具と比べるのも、烏滸がましいほど見た目も良い装備だ。

 本来ならば所持金には遠く及ばなかったが、レイニーちゃんのおかげでなんとか手に入れることができた。


 店に入った途端、店員がレイニーちゃんに釘付けになっているのがわかった。

 俺だけでなく、全員がわかったほどだ。あからさまにも程がある。


 その事を利用しようとレイニーちゃんは画策を始める。


「コロちゃん、レイリアちゃん。いいですか?

 少し高めの値段の装備を探してください。あれは……やれます」

「そうですね。あのような店員に気を使う必要はありません。

 搾り取ってあげればいいと思います。私に任せて下さい!」

「あぁ、何せ俺の装備だぜ? 遠慮なんかするかよ」




 装備を選ぶ段階になって判明した事、それは――


 レイニーちゃんはおもしろ装備しか選んではくれない!


 流石にそんな物は装備するつもりにはなれなかった。

 だから俺が注文したのは『格好いい』一言だけで、後は全てレイリアさんにお任せした。

 そして、選び出された装備がそれだった――という訳だ。


 それを店員に渡し、会計をするときにレイニーちゃんが仕掛けた。

 チラチラと店員に視線を送りながら、さりげないポーズを取っていく。

 店長だか親方だか分からないが、店員はそれに見とれていて交渉合戦も上の空だった。

 その結果、簡単に合計¥4,400,000まで値下げさせることができたのだった。



 しかし、思った以上に使ってしまった。


 残金¥18,456。


 暫くは骨休みするつもりだったが、賃貸料で3日分しか余裕がなくなってしまった。

 食料は大量に作ったため余裕があったが、またしてもダンジョンまで遠征に行く必要性が出てきてしまったな……。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「先輩! 先輩!」

「なんですか、ミリア。

 この前も言ったでしょう? 落ち着きを持ちなさいと」

「でも、でも~」

「『でも』じゃありません、いいですか?」

「はい、ごめんなさい。先輩」

「わかったのならいいのですよ。それより一体何があったのです?」


 ヒルダは転属以来、順風満帆であった。

 仕事に慣れ始めると、次第に大きな案件を委される様になり、今では経営部になくてはならない存在となっていた。

 新参にもかかわらず、周囲に頼りにされその存在を強くアピールし、もはや彼女が居ないと立ちゆかないこともちらほらとでき始めていた。

 そんなある日、再びミリアーナが押しかけるように営業部にやってきたのだ。

 普段は食事休憩や、ちょっとしたことでお茶を共にすることはあったが、このように押しかけてきたのはあの日以来であった。


 そしてそれはヒルダにとって、思わしくないことが起きたという予兆でもあったのだ。


「実はですね、アイツが新しい装備をつけてダンジョンに潜っていたようなんですよ。

 先ほど私の隣の窓口で、買取手続きをしているのを見ましたから間違いないです!」

「……それで?」

「いえ、それだけなんですけど……。

 これって、どこかの職人がギルドの決定を無視して販売したということではありませんか?」

「それはないはずよ。一度ぼろぼろな装備でダンジョン《ガイニース》に潜る姿を確認されています。

 それと武器職人のモリアードさんから苦情が来てたわ。

 『装備を求めに来た若者を帰すのは忍びない。もうこういうことはやめてくれ』って」

「それで、その人が売った……ってことは流石にないですよね。そんなことしたら商売できなくなってしまいますし」

「ええ、売らなかったそうよ。その代わり手入れの仕方を教えたそうだから、既存の装備を使い潰すつもりだと思ってしまったわ。

 一体どうやって手に入れたのかしら」







 ―――後日


「先輩、わかりましたよ」

「それで何がわかったのですか。落ち着いた事は良い事だけど意味不明よ」

「アイツがどうやって装備を揃えられたのかですよ!」

「……話しなさい」

「どうやら総合窓口の方で、解除令の複製書類を発行して貰っていたそうです。きっとそれを見せて買ったんだと思います!」


「………………ふぅ。なるほど、そうね。その発想はなかったわ。きっとそれで間違いないでしょう。

 公布しなければ大丈夫かと思ったのだけど、甘かったようね」

「解除したのはやっぱり失敗だったのですか?」

「いいえ、あれはやっぱり解除しなければ不味い状態だったのよ。

 私の権限でできることは反省を促す、という名目での一時的装備購入禁止だったのですから。

 長期に渡ってそれをすると、ギルド長でも庇ってくれる限界を迎えてしまうわ。

 私だってギルドの権威を笠に着て好き放題したあげく、元締めに目をつけられるような状況にはなりたくないわ」

「その……やっぱり先輩くらい有能でも、元締め……は容赦はしてくれないのですか?」

「たとえギルド長でも、個人的用件で権威を利用することがあったら罷免されてしまうわ。

 ミリア。いい? 絶対に元締めだけは怒らせてはいけないわ」

「は、はい! それはもう!

 ――ですが、それほどの方なら、ギルドに不利益をもたらしたアイツを処断してもらえば、いいのではないですか?」


 そのミリアの発言に、何と言ったらいいのか少しヒルダは考えた。


「ミリア……。ギルドの不利益とはいうけど――ギルド本部とギルド全体では話がまったく変わってしまうわ」

「ギルド全体ですか?」

「そうよ。ギルド全体とすれば階級ランクが低い探索者サーチャー傭兵ソルジャーでも今後どのような活躍をみせるかわからないし、そもそも彼らもギルドの仲間よ。

 彼らの救助に全力を尽くして助けられるなら、それは不利益ではないもの。

 そもそも、彼らが死ぬようなことは戦力の低下を意味しているわ。たとえそれが無能であったとしても」

「じゃあアイツは、ギルド全体には不利益にはなっていないってことですか?」

「そうよ、あくまで一時的な損失にしかならないわよ。ここの部署に来てそれがわかったわ。

 どんな仕事でもいいからやってくれる人が多ければ多いほど、ギルドは潤うわ。

 もちろん遭難するような者たちが、懲りずに、身の丈に合わないことを繰り返されたら赤字になるけど……」

「一度怖い目にあったなら、大体は臆病になるものですから……。

 そうですね、確かに繰り返すような人は見かけませんね」

「そうでしょ?

 受付嬢カーチャンの頃は、どれだけ仲介手数料でギルドが抑えていたか知らなかったのだけど、ちょっとすごい割合よ。

 なんで、上層部は救助隊は失敗させるように指示していたか……ちょっとわからなくなるくらいに」


 ヒルダにとっても正当性のある理由で、指示が出されていたとは思えなくなり酷く混乱していた時期があった。

 だけど昔からある対処マニュアルは様々な変更をされてきていた。だから何かしらの理由が当時あったはずなのだ。

 しかし、どのような状況で改正されたという情報は残っておらず、これは全てギルド長会議の行われる秘密とされている場所に保管されているらしいのだ。



「まぁ、そのようなことはどうでもいいわ。

 彼が新しい装備を手に入れられてしまっては、こちらからできることは何もないわ。――――しばらくはね・・・・・・



 そのようにヒルダは意味ありげに呟いた。

 彼女としてはもう過去のことなので、ある程度仕返ししたためどうでもよく感じていた。

 だが、なんとなくミリアーナと続けるこの遣り取りが好きだったので、ノリで言ってみただけだったのだが……。


「おまかせください! 何かアイツに不利益なことがあったら、すぐさま報告しますね!」



 と、ヒルダとは違いコロナに悪感情があったミリアーナは本気で行動することになる。




 この考えの差がいずれこの2人にどんなことが起こるかは不明だが……

 

 

 

 

 

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