48.加入規約の真相
投稿を始めてから一ヶ月になります。
時間が経つのははやいものです。
禿げる禿げないはさておいて、呪いなど初耳であったレイリアは混乱してしまう。
「それに呪いってどういうことですか? そんなの聞いたこともありませんよ!」
「加入規約……ちゃんと読んだか?」
「受付嬢に説明して貰いましたけど、そのようなことは言ってませんでしたよ!!」
「記入用紙の下の方に細かく色々書いてあるけど、あれ読ませないようなマニュアルできてるよ……。
そうだろレイニーさ…ちゃん」
「れ、レイニーちゃん……ですか?」
「いや、そう呼ばされているんだよ。今はそれはおいておいてくれ」
規約云々についての話であったが、コロナの『レイニーちゃん』発言に思わず聞き返してしまう。
『コロちゃん』と呼ばれている事は先ほど知ったとはいえ、まさかコロナもちゃん付けをしているとは思わなかった。
コロナの性格からして、それはありえないし、不自然にも感じた。
しかし、あの様な容姿のレイニーに、『レイニーちゃん』という呼び名はとても似合わない。
それ故、今聞いた事ははたして本当だったのかと耳を疑い、聞き返してしまったのだ。
一方コロナも、そのような呼び方をしているとはレイリアに思われたくなかった。
それで『レイニーさん』と呼びたかったのだが、レイニーの威圧に負けてしまったのだ。
見栄よりも平穏無事で過ごしたかった。そんな彼は悪くは無いだろう。
そしてレイニーも、レイリアの困惑に気付き、優しく微笑を浮かべ、
「レイリアちゃんも私のことはレイニーちゃんって呼んでね」
と淡々と答えたのだった。
無表情にみえる顔でそう言われてしまえば、思わず、「はい」と答えてしまうのも無理もないことだろう。
「レイニーちゃん」とレイリアに呼ばせ、満足そうに今度こそ本当に笑みを浮かべたのだった。
それは実に魅力的な表情ではあったが、他二名は精神的ダメージでそれを堪能する余裕などなかった。
つまりこの場における勝者とは、レイニーただ一人の事を指していた。
そして二人が回復するのを見計らってレイニーは話を続けた。
「コロちゃんの言うとおり、規約にちゃんと書かれていますよ。
受付嬢は配属されるときに、それを読むことができない呪いが掛けられます。
なので、彼女達の責任ではないことを一応言っておきます。
ですから教わったとおりの手順で、加入手続きを受付嬢はしています。
『下に書いてあることは、今言ったことを難しくしてあるだけですよ』というセリフみたいなことを、教えられているだけですのでそれに従っているに過ぎません。
疑いもなく署名すると、晴れてギルドに加入できるというわけです」
(疑いもなくとか……言っちゃって平気なのかね。まぁ、確かに疑わなかったけど……ね)
色々考えさせられる事はあれど、まだ話の続きである。
コロナとレイリアはレイニーが紡いだ言葉に心臓が縮む思いをしながら、耳を澄ませていく。
「それで今は呪いの話でしたね。
規約の所にさらにこれでもかというほど小さい文字で、ちゃんと書かれていますよ。
元締めとは書かれていませんが、『ギルド長を越える権力を有する者に逆らった者は、その者のもつスキルを一切封じる呪いがかかる』と」
「スキルが封じられる…だと……」
「…………」
「つまりはそういうことです。スキルもなしで永遠とダンジョンに籠もっていられるわけなどありえません」
「確かにパラメータが高くても、スキルが無ければそれを発揮することもできませんからね……。
やはり言い伝えられていた通り死ぬしかなくなっちゃうんですね」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。
ギルドの管理下のない国に行ったら、なんとかなるかもしれないだろ!?」
そのコロナの発言に、2人とも「何こいつ言ってんの? 死ぬの?」みたいな目で見てきた。
――もちろんそれもコロナの被害妄想だが……。
「はぁ~、どうやらコロちゃんは相変わらず世間を知らないようですね」
「相変わらずって、やっぱり常識を知らないってことですか?」
「その考えで間違いないと思います。だからコロちゃんはコロちゃんなんです」
そのあまりとも言える説明は、説明になっていなかったが、なんとなくだがレイリアは理解できてしまった。
今まで振り返っても、突拍子もない行動を稀に起こすコロナ。どう考えても子供のように常識を身につけていない事は明らかである。
「コロちゃんいいですか?
この世界には5つの国が現在あります。大きさはそれぞれ違いますが、そのどれも元は未踏破ダンジョンを攻略したことで生まれた土地なのです」
「あぁ、そのようなことは聞いた覚えがあるな」
「ならば次です。
始めの国フロンティア民国、つまりこの国です。ここは未踏破ダンジョンなどではなく、最初から踏破済みダンジョンと周囲に未踏破ダンジョンがありました。
そして神殿が全ての始まりであり、託されたのがギルドということになってます。
他の国はあくまで派生国であって、フロンティア民国と神殿の承認の元に建国という形になります。
その結果ギルドが治める宗主国のフロンティア民国には当然逆らえません。
いえ、程度の低いことなら逆らうことはできますが……。
魔導具の規格や証認証などの様々なものはギルドが抑えているので、過ぎた行為は制裁を受けてしまいます。
しかし、ギルド長会議でもその制裁の仕方は伝えられておらず、それを成せるのは元締めだけなんです」
つまり元締めといわれる者、もしくはその一族がこの世界の支配者ということなのだろう。
コロナが以前感じた、世界国家という印象は間違ってはいなかったといえる。
ギルド職員もしくは上層部がその国の王ではなく、ただの役人に過ぎなかったという違いがあるだけだろう。
「フロンティア民国、人族が統治しているトリキア王国、妖精族のオリアコン森国、王族が断絶して共和制に移ったヨゼンメゼンダ共和国、様々な種族が共同統治している合議制のジルオール商国。
この順番に国が生まれました。
建前上、国家間の上下はなく、特産品と工芸品などの貿易以外はすべてフロンティア民国を通して取引が行われます。
正式にはフロンティア民国というよりは、ギルドの本部と支部と言った方が正確なのでしょうけど、実質変わりはありません」
ギルド本部が王宮で、支部は大使館に近いのだろうか。
フロンティア民国内にも支部が置かれている都市はあるそうだが、役割的には大使館も兼ねると言った方が正しいのだろう。
「金銭の遣り取りは、魔導具の証認証によるのは個人でも組織でも変わりありません。これを封鎖されてしまうだけで、成り立たなくなります。
元ヨゼンメゼンダ法国はそれによって滅びたとされています。
つまり元締めの力は国さえも凌駕すると言えるでしょう」
「そいつぁ……、凄まじいな」
コロナはその一言を紡ぐのが精一杯だった。
頭の中は『マジパネェ』という言葉で埋め尽くされてた。
「お馬鹿なコロちゃんでも――ここまで元締めの恐ろしさを伝えれば、自重も覚えるでしょう。
まぁ、元締めは変わっているけど優しいらしいので反省をし、それをギルドに伝え、奉仕活動を行うことである程度許されるらしいのですけどね」
「あ、知ってます『《怠け者》の懺悔』の話ですね」
「ええ、あの様な慮外者ですら許されるのですからね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここで『《怠け者》の懺悔』について語ろうと思う。
《怠け者》の懺悔ことエルンダナ・バッドガイルという男が居た。この男は大層働くことが嫌いだった。
探索者としてギルドに加入したにもかかわらず、真面目に働くようなことは一切なかった。
『真面目に働いたら負けだと思っている』
それが彼の口癖でもあり、座右の銘でもあった。
彼は生活保護者ではなかったが、ある制度を利用し働かずに生活していた。
――不測の事態に陥って、まともに仕事ができない間はギルドが生活を保障してくれるという制度を。
ダンジョンに入っては、1層の入り口付近で遭難したことにする。
そこでわざと死闘を繰り広げたかのような偽装をした。もちろんそれは自分で傷をつけたものだ。
そしてそのまま消息を絶つわけだ。
しかし、近場であるために簡単に発見される。
見つかった後は、当然救助される。見て見ぬ振りをするものなどいないのだから。
もちろん、『0』というわけではない。しかし、通りが激しいため誰かが必ず助けてしまう。
救助された後は、脱水症状や精神的疲労でまともに仕事をすることができない。
そして救助の代金の一部の費用も払えず、ギルドが立て替えるというようなことを繰り返していた。
借金は一切払っておらず、また違反しているようなことは一切ないため、邪魔なだけな存在であった。
彼は最初から借金を返すつもりもなかった。
彼の言葉を表すなら、「勝手に助けたのに何故払う必要がある?」というものであった。
当時は、強制脱退させることはギルドもできなかった。そういう規約はなかったかだ。
ダンジョンに行くときも、「今日これからダンジョンに行くから。稼いだら借金を返すよ」と受付嬢に告げてから行くから性質が悪い。
このような言葉を掛けられては、見かけなくなったらダンジョンで遭難したとわかってしまうのだから……。
だが、あるとき元締めから通達があった。
――――ギルドを辞めるか、借金を一年以内に返すかどちらかを決めろ――――
エルンダナはそのような通達を当然ながら無視をした。
そしてこれまで通り、普段通りギルドに養って貰おうとした。
「冗談にしても面白くねぇ」
と。
この頃になるとエルンダナの評判は最低を通り越して、最悪であった。
彼の所業は知れ渡っており、彼をダンジョンで見つけた者は思わず顔をしかめてしまうくらいに。
しかし、だからといって見捨てる事はできない。彼のためではなく、自分の良心がそれを許さないからだ。
やがて彼らは、エルンダナを無視するようになった。
ダンジョン以外では関わりになりたくないと……。
だが、エルンダナはそれでも構わなかった。
楽に生活できるほど、素晴らしいものはないのだから。
それでも多少の変化は起こった。大多数を敵に回していつも通りにするわけにも行かなかった。
一番の変化は食事だ。生きるために一番必要だと彼が感じているものでもある。
食堂では非難してくる者が多い為、自然と自炊するようになった。この程度なら別に構わない。自分のためだからだ。
彼は、いつものように適当に食材を買って、家で料理を作ろうとした。
しかし、食材を買おうにも魔導具が証を認証してくれない。
「ふーん、魔導具が壊れたのか」
などとしか思っていなかったエルンダナは、他の客は問題なく使えることに気が付き、初めて疑問を覚えた。
なら俺の証がおかしくなったのかと楽観的に考えていたので、ギルドに駆け込み受付嬢に再発行手続きを頼んだ。
やがて、処理を終えて受付嬢が戻ってくると、彼女が困惑しているのが見て取れた。
「新しくなっていないみたいだが、それで問題なく証は使えるのか?」
「いいえ、壊れていませんでした。
この証の所有者には現在、魔導具が認証できない状態になってます。
新しく発行することもできません」
受付嬢の理不尽な言葉に思わず暴れて、ケガをさせてしまったエルンダナは、その場に居た探索者や傭兵にボコボコにされてしまった。
ケガを治して貰おうと救護室に向かおうとしたのだが、入り口の認証に失敗して中の建物に入ることができなかった。
彼は他人ができることは自分でしない性質なのだ。
――それがギルドによる保証により無料になっているならばなおさら。
そして彼は仕方なく、自分で治そうと【ヒール】を唱えようとした。
だが、魔法の呪文が思い浮かばない!
そのことに彼は混乱し慌てる。
未だかつて、一度身に付いた魔法の呪文を忘れるなどといったことは、聞いたこともないからだ。
ボケた隣のじいさんですら魔法だけは忘れていない。
それがエルンダナは忘れてしまった。これは異常なことだ。
傷ついた身体を引きづりながら、再び受付嬢の元へと戻る。
当然別の受付嬢の元へだ。
だが素気なくされてしまった。彼女たち受付嬢は結束が強い。
このような無体を働いたエルンダナにもはやまともに取り合うつもりもなかった。
それをたまたま様子を見に来ていたギルド長が、やむを得なく対応した。
彼としてもエルンダナにはかかわりたくはなかったのだ。
しかし、誰かがやらなければならない。そんな義務感からの行動だ。
「お前は元締めにさからったから、全てのスキル・魔法は封じられた。
これはもはや我々ではどうすることもできない。
決まりではお前の生活を保障せねばならないが、そのためにできることは全てこちらでは対応できない」
「それなら、現物を! 飯を食わせてくれ!」
「悪いが、食堂では無料の提供はできない規則となっている。それが可能なのは生活保護の対象者だけだ」
食費は貰えたのに何故できないとしつこく迫ると……。
ギルド長は食費を渡すことは規則で定められている。
また生活保護者に食料を渡すことは規則で禁じられていると答える。
ならばどうすればいい、どうすればこのような状況から脱せるのかと問うと、
「通達のあったとおり、ギルドを辞め……というのは証が認証できないからもはや不可能か。
ならば、一年以内に借金を返すことくらいだな。だが、それも証の遣り取りが必要だな……。
お前もう自殺したほうがいいんじゃないのか?」
ギルド長の本心からその言葉が紡がれた。
本来彼の立場からしたら、これは問題発言だ。許されない事である。
当然周りに居た者も、その言葉を聞いてしまっている。訴えられたら罷免されてしまうことだろう。
しかし、ギルド長の言葉はこの場にいる者全ての総意でもあった。そのため彼らはギルド長の言葉を聞き流して聞いていないことにした。
そんな死刑宣告をしたギルド長の前に、1人の受付嬢がやってきた。
2人はエルンダナを放置し、話し始めた。
雑な対応にもかかわらず、それどころではない彼は難癖をつけるような余裕などはなかった。
そして職員同士の遣り取りが終わるなり、ギルド長はエルンダナに対して、こう告げた。
「朗報だ、エルンダナ君。元締めからの指名依頼だ」
「指名依頼? 依頼は手続きできないんじゃなかったのか?」
「これには一年間の君がやるべきことが書かれている。
――それによるとだな。一度の依頼につき食料を現物支給すると書かれている」
「現物支給……」
「そうだ。それ以外の差額は全て、ギルドの借金に返済されることになっている。
もちろん君が、現在泊まっている借家の費用は、借金計上になるので何もしなければどんどん増えていくだろう。
それによっての期間は延びることになるな」
「しかし、スキルが使えないんじゃ、依頼なんて……」
「安心したまえ。依頼の最中には一部スキルが開放されるそうだ。よかったな!
報酬の査定についても、この用紙に全て書かれている」
そのようギルド長は告げると、カーチャンが持ってきた紙を持っている手とは別の手でバシと叩く。
こうして生きるために、後悔しながら仕事をすることになるエルンダナ。
しかし、彼は1週間後に自殺することになる。
「ふっ…………一週間も真面目に働いちまったぜ。
どうせならすぐさま自殺するんだったな。頑張った俺の身体すまねぇな」
と深く懺悔しながら。
蛇足だがこの逸話も《不可能は不可能》おなじく、何時までも反省しないものはどのように諭しても無駄、という教訓を元に童話となっている。
そのタイトルは《情け与えるべからず》であった。
夜にバレンタインネタの番外編を投稿します。




