47.レイニーさんがおうちにやってきた
作る料理はでき次第、素材を取りだした収納道具にしまっていく。
収納道具に入れてしまえば、処分のは後日に回せるため、思いついた料理を片っ端から作っていった。
材料が足りなくなっては買い出しにいったり、お腹が空きすぎたときはできたてのものを食べたり、ほぼ一日中家に閉じこもって料理をした。
コロナの【料理】スキルはレイリアよりも高いため、味は次第にレイリア以上になっていった。
これはこの世界の理不尽さを感じさせる要因ともなったが、レイリアもそのことは理解している。
そのため、彼女が嫉妬をするというような問題となるようなことはなく、出来た物はコロナとレイリアが美味しく頂いた。
その中には、簡単で美味しい料理という『男の料理』などもあった。
コロナはレイリアは洒落た料理が好きなのだろうと予想していたので、これには少し驚いてしまった。
そして、レイリアが満足するまで教えると、
「短期間で私が教えられることはもうありませんね。よく頑張りましたね。合格ですよ」
「ありがとう。これでハッピーライフが送れるよ。感謝してもしきれないぜ」
「ふふっ、どういたしまして」
「1日のつもりがこれほどやってくれるなんて思いもしなかったよ。
こいつは大きな借りになっちゃったな……。
なんか遭ったときは俺にいってくれ、できることならなんでも力になるよ」
「そういうことがあったらお願いしますね」
『借りになった』とコロナが告げたことで、これはお願いのことだと察したレイリアは、有り難くその申し出を受け入れた。
いざというときに、ギルドを通さず動けるというのは、凄く強みになる。
そして、卒業祝いだと称して作った料理を堪能する2人のもとに、予想もしていなかったことが起きたのだ。
そう、――――――サンタが街にやってきた……ではなく、
――――レイニーがコロナの家を訪ねてきたのである。
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「ここが、コロちゃんの借家ね」
レイニーは住所を聞いたものの、一向にお呼び――手紙が来ないため、訪れる機会が訪れなかった。
『いきなり押しかけるのも悪い』その思いで我慢していたともいえる。
そのため1人寂しく、『等身大コロちゃん人形』を作っていたのだが、それを完成させてしまい暇をしていた。
――第一コロナはダンジョンに籠もっている。
その事をアーシャから伝え聞いていたレイニーは、コロナの家に向かっても無駄ということを知っていた。
しかしある日を境に、コロちゃんがギルドで見かけられるようになったという噂を、掃除業者の従業員に聞いたことで気持ちが揺らいでしまった。
そして、久しぶりにギルド本部の建物の中に入り、事実を確かめてきた。
それがわかると居ても立っても居られず、レイニーは一度着替えに『匠鏃の間』へ戻った。
化粧――コロナに貰った櫛を挿したりして、勇み足でコロナの家に向かったのだ。
コロナは来客があったと魔導具によって知らされ、玄関まで出迎えた。
するとその客はレイニーであった。
「お久しぶりですね。コロちゃん」
「れ、レイニーさん……」
コロナの呼び名が気に入らず、レイニーの眉が眉が跳ね上がる。
「レイニーさん……ですか?
相変わらず、コロちゃんは物覚えが良くないみたいですね」
「え? どういうこと?」
いきなり難癖をつけられたコロナは何のことかわからず、困惑を覚える。
「レイニーちゃんです!」
「え? はっ!?」
「どうやら思い出してくれたようですね。
また竹の出番が来たのかと思ってしまいました。消毒も大変なんですよ?
あまり手間を掛けさせないでくださいね?」
「ハ、ハィ。ワカリマシタ」
それからコロナが落ち着くのに少しの時間を有した。
トラウマが刺激されて、瞳に意思が宿るまですぐに我に返るというわけにはいかなかった。
「レイニーちゃん。それで今日は何のよう?」
「用ですか? 用があるのはコロちゃんの方だと思ったのですが……。
折角来てあげたのですよ? 約束したじゃありませんか」
「――ッ!?」
言われて気が付くとはこの事だろう。
まさにコロナはそんな約束など既に忘却の彼方だった。
《ガイニース》でハッスルしすぎたというのもあるだろう。
しかし、一番の理由はレイリアとの時間が楽しかったからだ。
その事に気が付き、彼はまるで浮気がバレたような気分になった。
――結婚をしていなければ、恋人もいないのだが……。
「そ、そう、だった、ね……。確かに、覚えて、るよ」
そう告げるコロナは冷や汗だらだらであった。
一つの選択肢のミスで刺される。そんな気分になっていた。
もちろん、被害妄想であるが、浮気と包丁はセットで連想できてしまう。コロナも当然そういう発想をしていた。
(何とかして――帰って貰うか……。いや、無理だ。理由がない)
どうすればいいのかコロナは判断が付かない。段々と思考の海へと沈んでいく。
しかし、相手は対面にいてそんな考える間を与えてはくれない。
「そうですよね。流石にそのくらい覚えていますよね?
知ってますか? コロちゃんって嘘を付くときは、必ず汗が流れ落ちるんですよ?」
嘘を付けば心拍数があがる。それは当然のことだ。
人によってはそれにより、汗が出てしまうものもいるだろう。それはコロナに限った事ではない。
だが、その事に気が付かないコロナは反応してしまう。
――――嘘を見破られた……と。
そして嘘を見破ったレイニーのコロナを見る目が、『浮気ですか? 最低ですね。なんで生きてるのですか?』と言っている様にみえた。
あまり表情を変える事のないレイニーは目で多くを語る。
――それもコロナの錯覚だが……。
だが、レイニーにはそのような気持ちなど一切ない。
他人の家に遊びにいくという感覚で妙な気分にさせられ、どちらかというとコロナの考えているものとは真逆のドキドキ――つまりは興奮していたのだ。
そもそも浮気などしていないし、そういう関係ではないのだから、別に嘘を付く必要もなければ隠す必要もないのだから……。
二人の対照的なドキドキは、当然刃傷沙汰を引き起こすこともなかった。
何時までも帰ってこないコロナに焦れたレイリアが現れたことで話は進む。
互いに初対面である二人に促されるままに、彼女たちの紹介をしていく。
このときの意識ははっきりとはしていない。無意識の行動だった。
だがそれでも無事に、レイリアの紹介を終えることができた。そしてレイニーも。
そして室内へと誘ったのだった。
彼女たち二人も特に互いに含むようなことはなく、適度に成り行きを話ながら食事を進めていた。
「――――ということだったんですよ」
「コロちゃんはやっぱりしょうのない人ですね」
「こ、コロちゃん?」
「ええ、彼は私の弟子ということで、そう呼ぶことにしたのですよ。可愛いでしょう?」
「あははは、私からは何とも」
レイリアは年上の男性にちゃんづけをするようなことはなく、その呼び方はどうかと思った。
しかし、それは個人の問題であって、相手もそれを許しているなら、「まぁいっか」という気分だった。
コロナとしては第三者が居る場合は、かつてのように、「コロナさん」と呼んでくれると思っていた。
しかし、レイニーはレイニーのままであった。何時までも自由気ままの。
そんなマイペースのレイニーをコロナは少しだけ怨んでしまった。
これには深くもない理由がある。見栄を張りたかった。ただそれだけだ。
恩人扱いされて、少しだけ格好をつけていたかったのだ。
たとえ、料理を習ったという様にならない状態だとしても、それが男心というものなのである。
それを、「コロちゃんはやめてくれよぉ」と思ってしまうことに罪はない。
そして先ほどからずっと固まってしまってるコロナを放って、二人は話し続けていた。
「それにしても、……コロちゃんがこれを作ったのですか?」
「ええ、いま食卓にのせられている料理は、私は一切手を加えてませんよ」
「美味です。ギルドで提供される弁当とは比較になりませんね。
まぁ、弁当を食べていたのはコロちゃんがいた頃だけなので、今はちゃんと食堂の方でとっているのでその限りではないのですが」
「レイニーさんって……宿舎の管理をしているんですよね? そちらの方で料理を自分で作ったりは……」
「当然しません」
すこし得意げな顔で、全然自慢できないことを宣言するレイニー。
そのことに少し、困惑を受けるレイリア。
そして端から見ているコロナは、「レイニーちゃんはどこまでもレイニーちゃんだな」などと思っていた。
「当・・然なのですか?」
「ええ、当然です。美味しいものがあるなら、そちらを食べるべきです。自分で作る必要は感じられません。
無駄な時間は……まぁ、たくさんありますが、だからといって無駄なことをする必要はないと思います。
――スキル【料理】を持っているわけでもないですし」
「今後覚えるなんてことは……」
「ありえませんね。SkillPoint的にも労力的にもです。
美味しい物は作る物じゃなくて、食べるものですよ?」
ますます得意げになり、その有り余る胸を張り強調させていく。
それを見たレイリアは、その破壊力におののき敗北を認めるしかなかった。
逆にそれを見たコロナは復調した。
「宿舎というと、管理人が食事を提供しているという……イメージがあったのですが」
「レイニーちゃんは風呂の準備と、細々とした備品の管理をしているんだよ」
「コロちゃん何を言っているのですか?
お風呂は自動で管理されていますよ。備品は掃除業者が全部やってくれています」
驚愕の事実である。レイニーは一切管理と言う名の仕事をしていなかったのである。
彼女がするべきことは、入舎と退舎の手続きだけだったのだ。
それを知らなかったコロナは、レイニーにお風呂の炊き方を教えて貰おうとしたが、事実無駄だったのだ。
そして第3候補にあげていた料理を習うという考えも、やはり論外であった。
「えっ? じゃあ、風呂ってどうなっていたんだ?
ここの風呂を初めて沸かしてみたとき大変だったんだぞ。
水はでないわ、どうやってお湯にするのかもわからなくて困ったくらいだぜ?
途中で魔導具を使えば良いことに気付いて、【クリエイト(水)】で貯めて……。
それから魔導具に魔力を込めれば良いことに気付くことができて、事なきを得たんだが……」
「一々魔力を込めなければいけない魔導具は不便ですが、動力が別になっているものもあるのですよ。
あの宿舎のものは大半が魔導具なのですが、動力室というものが別にありましてね……。
そこに魔力を一月分くらいは込めておくことができるのですよ。他の魔導具もそこの魔力を使って自動で作動します」
「それは随分と、高価な魔導具ですね」
「そんなことはしりません。私の懐は特に痛みませんしね」
どうやらあの宿舎は魔力による、オール電化とも言える造りとなっていたらしい。魔力の自家発電故に経済的にはエコだ。
魔力の消費による環境汚染とかあるかはしらないが、生活と魔力は密接な関係にあるようだ。
そのようなことをコロナは感じ、レイニーの家事能力皆無なことを逃避していた。
このような美しい女性が……まさか何もできないなんて、などとは思いたくなかったからだ。
「しかし、それは楽で羨ましい限りですね。安いなら住んでみたいですけど……」
「いくら払っても、入舎することは残念ながらできませんね。
ギルド長会議で規則が変われば話は別ですけど、まぁ、無理でしょうね。
あの連中は収益を増やしたいから本来は開放したいらしいのですけど、元締めが許さないらしいですからね」
「そうですか、元締めが……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。元締めって一体なんなんだ!?」
ふとした会話の中で、何やら不穏な名称がでてきたことにコロナは思わず口を挟んでしまった。
黒幕を思わせる名称だ。嫌な予感がひしひしとしてくる。
「元締めは元締めですよ?」
「そうですね、元締めとは……一体どのような人物なのかは秘匿されているので、誰1人その正体を知るものはいませんが……。
ギルド設立から存在している人、もしくは一族とでもいうのでしょうか。
その者あるいは者たちこそがギルドの真の意味での頂点ということです」
彼女たちの言葉からコロナはふとあることと結びつける事が出来た。
「む、そいつ等が階級名とか規約とか考えたのか?」
「主な名称はそうですね、規約とかは駄目出しするくらいだと聞いてます」
(やはり、元締めというやつの近くに日本人の影があるに違いない……)
「へ~、そうなんですか。レイニーさんって物知りですね。
私なんて元締めに逆らったら、この世界で生きていけないと聞いてただけですよ」
「実際そうですね。コロちゃんみたいにギルドに逆らった馬鹿はまだしも、元締めに逆らったら住む場所も、食べるものも一切手にはいらないと言われています」
「未踏破ダンジョンに潜れるなら大丈夫じゃないのか」
「その考えは甘いと言わざるを得ません。
一度ギルドに登録したものは、その情報が残っており、また証を発行するときに呪いみたいなものが掛けられています」
呪いと聞いてコロナは『頭が禿げる』という、かつて訓練所の窓口で聞いた話を思い出した。
「は、禿げるだけだろ?
それなら生きていけないというほど酷くはないだろ。人前には出られないかもしれないが」
「それは嘘発見の呪いですね。証を相手に握られた段階でしかそれは発動しませんから、普段嘘をついてもなんら問題はありません」
「は、禿げる、ですか? そんなのがこの証にあるんですか?」
「あぁ、あるらしいんだ。
だから禿げているやつをみたら、そいつはギルドにやられたと思った方がいいかもしれないな」
とコロナは禿げる原因をギルドのせいにする。
しかし実際は、ギルド:遺伝=3:7くらいの割合だった。
禿げるやつは禿げる。
――つまりはそういうことだ。




