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46.ひとりでできるもーん

 


 


 コロナはその後すぐ、少女――レイリア・ヒューズの名前のことを聞き忘れたことに気付き、引き返して事なきを得た。

 そして、その足でギルドに向かった。


 総合窓口に居るアーシャに指名依頼の申し込みを頼むと、依頼をするための金額を納めギルドを逃げるように去って行った。

 ちなみに依頼受付窓口というものは存在していない。依頼報告用の窓口はあるのだが……。

 そのため総合窓口でも、依頼報告窓口でもどちらでも問題ないのだ。



「さて、¥250,000も取られたわけだが……指名特別費用はもちろんあるんだろうな……。

 仲介手数料マージンが相当あるのは間違いないな」


 コロナの予想通り、D-3-イモとして処理されることになった彼の依頼は、大体のところ¥45,000~95,000ほどが相場だ。

 相当に阿漕なころでも、指名料に同等の金額は取られない――つまりは2倍――はずだ。


 アーシャが対応したからこそ、査定にケチが付いたなんてことはないはずだ。

 そもそもギルド上層部ですら、コロナが依頼を頼むなど考えもしないであろう。

 故に、わざわざそんなことのために、コロナ対策マニュアルを追加しているという訳はない。



 ならば何故この金額になってしまうのか……。

 アーシャは入会の時に、ギルド員は個々での金銭の絡む・・・・・直接依頼は禁止されていると言っていた。

 今回の場合もレイリアが無料で引き受けてくれれば、お願い・・・の範疇で問題なかった。

 しかし、「謝礼を弾むよ」などと言って、直接依頼を頼むのは禁止――違法扱いされてしまう。


(つまりはアレなのか、……いやそうだろう。

 法という最強の盾を元に好き放題できる。これに尽きる)


 合法○○などといった、市民を食い物としているあれらと同じモノだ。


 ――――いや、それすら生ぬるいだろう。


 特許持ちが独占禁止法に適用されずに、なおかつそれに纏わる全ての税金も、自分の手元に入ってくる。


 たとえるなら――


 まず、ギルドに依頼を頼むところで交付税が発生し、ギルド員が依頼を請け負いその報酬を貰うときに所得税が発生する。ここまではいい、税率が高いのは最悪だが。

 次に依頼を誰かに頼む・受けるという権利は、特許を取得しているギルドのみに許されており、これに加入している者は守らないと犯罪として逮捕され、違約金も取られてしまう。

 そして対抗組織が存在しないという。

 他に似たような組織があるならば、ここまで好き放題はできないはずだ。

 未加入ならその限りではないが、情報操作され社会不適格者扱いされることになる。


(まず、¥125,000がギルドの懐に入る。報酬の段階でさらに半額になって¥62,500……あくまで予想だけどそう離れた金額にはならないはずだ)


 マナー違反だが、コロナはレイリアに報酬金額を聞いてみたいとこのとき思った。



 ほぼ同じ階級ランクの者に依頼を出す者がいなかったのか。

 またはそういうものだと諦めているのかは不明だが、このようなことがまかり通っている以上救いの主は現れないだろう。

 傭兵ソルジャーでは報酬額が上がる聞いたが、おそらく所得税に相当する物が安くなる程度のことなのだろう。

 1/4になったものが最大で1/3くらいになる……良くてその程度だろう。

 ならば探索者サーチャーの買取も1/3~1/4くらいにはなっているだろう。

 釈然としないものを感じながら、コロナは料理に使いそうな買い物を済ませ帰宅した。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ――数日後


「素材の切り方は特に問題ないようですね。基本の物にかぎりますけどね。

 特殊なものは、それぞれ変わった処理が必要なので、本職の方でも怪しい所があったりしますが」

「まぁ、Dは碌な依頼がないからな。

 条件に合わない場合は結局食堂で働くことになるからな、このくらいはできるようになる」

「そうですか? 一緒に働いてた人はもっと杜撰な処理をしていましたよ。

 コロナさんができるのは、真面目にやっていた証拠です」

「そうか? まぁ、そう言われると、少し嬉しいな。

 で、次はどうしたら良い? やっぱり下味とか付けた方が良いのか?」


 現在、コロナたち二人は彼の自宅で料理を行っていた。

 デートやら2人で仲良くいちゃついてる延長としてではなく、当然ギルドに指名依頼をしたからだ。

 これはレンタル彼女=指名依頼として頼めるのではないか、などと下劣な考えがふとコロナの脳裏によぎってしまった。が、まずはやることをやらないといけない。

 ――当然料理のことだが。


 ちなみに報酬を聞いてみたが、予想した金額よりは多かったことをここに告げておく。




 レイリアはちぎって、挟んで、炙って食べるというコロナの言葉から基本から教えることにした。

 しかし、思った以上にコロナができるので、もう少し難度をあげてもいいかと思っていた。

 コロナの肉や野菜を切る手つきは様になっており、切り口はそれなりに一定かつ整っている。

 ここまではスキル【料理】が一切意味をなさない段階である。

 だが、下味、調理、盛りつけ、この段階になると【料理】のスキルがモノをいうようになってくる。


 『下味』

 ここでスキルがないと、染み渡るまでの時間が多く掛かってしまう。また染み込み具合もたかがしれる。


 『調理』

 料理における一番味が決まるポイント。ここでのスキル効果は、味を良くする、だ。

 たとえそれまでの処置が微妙だったとしても、なんとか食べられるようにできてしまう。


 『盛りつけ』

 これは味に関係なく、見た目が全てのように思える。しかし実際は、手早くやらないと冷めるなどの変化によって、味が劣化してしまう。

 それを【料理】の効果によって、できた状態のまま保たせることができる。

 つまり、見た目が綺麗になるとかではない。


 料理人のセンスが問われるのは、食材の加工と盛りつけの見た目だけなのである。




「スキル【料理】があるならば、どんな下味でもいいので付けるべきです。

 肉に塩やハーブを乗せるだけでも効果があります。

 揉んだり叩いたりする必要はなく、スキルを使うと思うだけでいいのですから」

「へ? 【料理】を使うと意識するだけでいいのか?」

「【料理】も持っているだけで効果はあるのですが、使う・・と意識するだけで効果は上がるのですよ。

 耐性系のスキルも、意識するだけで抵抗力が上昇するくらいですし」

「なら、干し肉をスープにする場合は、水につけたところで【料理】を使うだけでいいってこと?

 それで火に掛けるだけでそれなりになるのか?」

「そういうことですね。野営やダンジョン内ではちょっとした食事になりますよ。野菜などは嵩張りますからね。

 もっとも高い収納道具ストレージを所持していれば、そんな悩みは無視できますけどね」

「あれは…高いからなぁ…………」

「そうです、ね……ちょっと手が届かないですよね」


 お金のゆとりのない二人は、そんなところで共感をする。

 その様子は、寒さに堪えた者が肌を寄せ合うようなものだ。


「いちばん安いやつも対した量は入らない。食料だけで満杯だぜ。

 木材を運ぶのに使っていたやつなんか、どのくらいすることやら」

「あ、あの依頼をやったのですか?

 あれって今後の役に立たないからって、受ける人はまずいないって聞きましたよ。

 ――――でも、受ける人もいたのですね……」

「金額的に割がよかったからな~。

 他の低賃金の依頼じゃ、装備を買うまでにいつまで掛かったか、わかりゃしねーし」


 初期装備は両親に与えられるものと考えていたレイリアは、コロナのその言葉に驚いてしまった。

 この世界では両親が、子供のために装備を買い与える。それも親の階級ランク層の一つ下辺りの物を与えるのが良いことだとされていた。

 そのことからギルドに所属している者はD級では結婚などできず、どうしても結婚したい場合は違う職に就かなければならなかった。


 つまりD級の最高ランクである【ニート】では、当然結婚など夢のまた夢なのである。

 こういった理由から【ニート】という名前が付いたかは、定かではない。



 また、そのことからレイリアはコロナが生活保護を受けていたことが推測できた。

 それは恩だけでなく同情という感情も合わさって、よりコロナに優しく、より丁寧に教えなければいけないな、という気持ちにさせた。


「とにかく、そういうことで食材はなんでもいいから、【料理】で下味をつけると美味しくなります。

 一見これは不味くなると思われるようなものでも、美味しくなってしまいますよ。

 あっ、当然スキルの強化次第ではその限りではありませんけど。

 5回ほど強化されていれば、雑草で包んだだけでも美味しくなるそうです。

 私はチャレンジャーじゃないので、ちゃんとした下味を付けますけどね」





 それからというもの、レイリアは自分の失敗談、公的に良いとされているもの、ネタとされているものなどを比較対象に上げていき、懇切丁寧にコロナを導いていった。

 その指導は1日だけで終わらず、数日にも跨いだ。

 より美味しくなる切り方、見た目の良い切り方などは当然として、食感の差異がでるようなものにまで及んだ。


 調理に関しては鍋のかき混ぜ方、火の通り具合の見極め方、あとは入れる順番――この程度だった。

 これには【料理】のスキル強度がすべてものをいうから、他に指導すべきことがなかったのだ。


 そして見た目に拘ったものから、手早く、かつそれなりの形になるようにと工夫を凝らしたものなど様々だ。


 時には手を取り直接教えることもあった。

 それは指導に熱が入りすぎたためだ。レイリアはそのことを気が付かないときもあったのだ。

 身体が小さく出るところも少ない為、コロナは特に反応することはなかった。

 そのことはどちらにとっても幸いだったことだろう。

 もし、意識してしまえば、料理をしているなんてことはできなかったのだから……。


 あのレイニーとの一件以来、コロナは匂いフェチに目覚めつつあった。

 しかし、料理から漂う香りのおかげで、そのようなものは一切感じられなかったことも幸いだったのであろう。


 特に問題なく、順調に時は進んでいったのであった。

 

 

 

 

 

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