45.ボーイ? ミーツガール
物置部屋で格闘すること、実に20秒。
物がないため、探すなどというのはあまりに烏滸がましく、モノは普通に安置されていた。
ランダムBOX――
それはギャンブル要素が高いアイテムである。
何が入っているのかわからず、振ったとしても音が鳴るわけでもない。
――まるで、その程度の反則などお見通しとばかりに。
そもそも小箱なのだから、物理的に収納できないモノもある。
しかし、それを開けると中からアイテムが飛び出してくる。
まさに色々な意味でびっくり箱だ。
そして今、それとコロナは対面していた。
正座である。むしろ全裸正座で待機したいところであった。
が、流石に変態じみた願掛けはどうかと思い直したところだった。
「この箱を開ければ、どうなるものか……迷わず開けよ、開ければわかるさ」
正座ということである坊さんの言葉を唱えてみた。
そして迷わず開けようとする……が、思う以上に緊張しているらしい。
これは宝くじが残り二桁まで1等と被っていたかのように、
『いいものでるぜきっと』と『ゴミくずに決まってるさ』という背反の考えが浮かび、思わず動けなくなってしまうに近いだろうか……。
つまり、欲がコロナの行動を抑制していたといえる。
「ランダムBOX……。
なかなかやりおるのぅ。この俺を、こうまで手こずらせるとは……」
雰囲気作りは大事なのである。それが格式美なのだ。
たとえそれが端から見ると『恥ずかしい』と思うようなことだとしても、本人には重要なことなのだ。
ただし、お一人様限定というやつだ。
やがて、どうでもいい雰囲気作りに飽きたのか、コロナはついにランダムBOXに手を掛ける。
そして――――
現れたのは――――――
――――――――――――――――――光り輝く盾。……いや、ただの丸い鏡だった。
一瞬盾キターーーーと思ったが、あまりにも小さい。
さらに持ち手がなく、短い一本足だが、スタンドみたいなのがある時点で諦めた。
しかし、ただの鏡だろうか……。
色つやが、何やら気品を感じさせる造りをしている。
そして鏡を覗き込む。
コロナは思わずポーズを取ってしまう。
(うむ。うむ!)
そしてポーズを変える。そして鏡を再び覗く。
(フッ…………決まったな!)
この世界に来て、窓ガラスはみたものの、鏡は見たことがなかった。
そのことから、それほど悪い物では――無価値な物ではないのであろう。
確かに実用品ではあった。
しかし、それは本来欲しかった物――装備とは明らかに違ったものだった。
つらかった。悲しかった。
そんな昂ぶる思いを込めて、ポーズを取り、本来の用途として使ってみた――という事ではない。
――――俺……格好良くなった?
しばらく、鏡を見ていない内に格好良くなったかもしれないな……などと勘違いから取った行動だった。
――そんな事実はないのだが、人は誰しもそんな気分になるときがある。コロナの場合、今がそうだったというだけのこと。
(しかし、久しぶりに自分の顔をみたけど、髪はねてんなぁ……)
これからは櫛を用意して、しっかりと自分の髪を梳かしてやらなければならない。そんな気分にさせられた。
手櫛でいいだろうと思うかもしれないが、なんとなくそういう気分だったのだ。
コロナは今後これを日課にしていこうと心に秘めたのであった。
異世界転移でイケメンになるという良くある話は、空想に過ぎなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ、世の中ままならぬ……か。さて、どうするかなぁ」
鏡をしまうなり、今後のことを考えた。
今回潜った程度の所ならば、正直、武器や防具は必要としていない。
鎧の使い方を上手くするために、敢えて攻撃を受けていたようなことが多いからだ。
そもそも今のチープレザーアーマー程度なら、スキル【物理緩和】のおかげもあってなくても問題がない。
持っていなかった時以上の防御力を今は有している。
ぶっちゃげ、いらない子である。ダサいし……。
攻撃についても、『エペ』はまだ使おうと思えば使える。格闘もなかなか様になってきたから、なくても充分に戦える。
そもそも【魔法剣】の火力が必要というような敵とはまだまみえたことがない。
ならば他のスキル取得を狙ってみてもいい。
つまり、急ぎの用件かと聞かれれば、「別に後回しでもいいんじゃね」と返せるような案件なのだ。
故に次なる問題解決をするための行動に出ることにした。
――――そう料理だ。
【スキル】の影響で味が良くなる、ということはあれど、出来はレシピ次第である。
だから料理を習う必要が出てくるのだ。
依頼で食堂に入るという手もあるが、対人関係が劣悪な環境になる可能性がある。
俺の人脈から考えると、第1候補はタチアナだ。
彼女の料理はなかなかに美味かった。
顔は好みではなかったが、料理メイドとして雇ってもいいくらいに思えた。
おっさん――ライナーも自慢しているくらいなのだから、相当なはずだ。
次の候補は、アーシャだ。
前に自炊しているということを本人に聞いたからだ。
彼女は俺に対して、特に酷い態度を取ることはない。
しかし、彼女のためを思うとそれは避けた方がいいように感じる。
彼女以外の受付嬢は全員敵だと思っていい。
だから人前で仲良くするようなことがあると、迷惑が掛かってしまうだろう。
そして最後はレイニーちゃんだ。
彼女は……料理できるのかそもそも謎だ。正直疑問だ。
外見のイメージから完璧にできそうな気もするが――彼女の性格を思うと出来ないような気もする。
しかし、伝手はこの程度しかない。狭い交友関係すぎるも考え物なのだ。
そんなことを考えていると人にぶつかってしまった。
「すまない。考え事をしていた」
「こちらこそ、すいません」
二人とも倒れるようなことはなかったが、ぶつかった相手――少女は手荷物を落としてしまったようだ。
俺は急いでそれを拾う手伝いをする。
俺とて礼儀を弁えている。女の娘には優しくしろだろ?
よく顔は見なかったが、声から幼い感じがしている。
とても可愛らしい声だ。きっと期待できるだろう。
「これで全部かな」
「ありがとうございます」
荷物を渡すときに始めて相手の顔を見た。
綺麗というにはまだまだ早い。そんな少女であった。
紫色の髪を右側頭部で一つに縛りサイドテールにしている。それが肩まであるということは、腰くらいの長さだろうか?
前髪を軽く左側で分けていて、ほんの少しみえるおでこが愛らしい。
少し疲れた様子をしているが、表情が影のある少女という感じを醸し出している。
少女はまだ、成人――15歳以上のこと――はしていないようで、それほど身長も高くはなく頭を撫でるのに丁度いい背丈だった。
――――うん。可愛いな。文句なしに可愛い。
レイニーちゃんほどではないが、かなりレベルが高い。
異世界に来てから美人と遭遇する確率が高くなっている。
全体的に美形という訳ではない。
――――つまりこれは運命だろうか?
いや、まだ早い。おちつけ! 落ち着くんだ!
…………よし、落ち着いた。まずは挨拶をしなければならないだろう。
「それは食材ですね。晩ご飯の買い物ですか?」
よし、爽やかな笑顔で出来ているだろう。
先ほど鏡で練習していたから間違いなくできているはずだ。
レイニーちゃんで慣れていなかったら、今もぼけーっとしたまま醜態を晒していたことだろう。
それに少女も笑顔で返してくれていることからも、深いな気分にはさせていないとわかる。
「えぇ、趣味で色々と作っているんです。
仕事を入れていないときは、結構凝ったモノとか作りたくなって……」
「へぇ、いいね。俺もまっとうな料理を作ってみたいけど、スキルだけ強化したんだけど作り方が分からなくて困っているんだ。
今日も肉焼いて、それと野菜をパンで挟んで食べることになる状態なんだよ、なさけないけどな」
そんな聞いても居ないことを話すコロナに対して、少女はじっと顔を見つめてくる。
まさか……惚れたな? なんて思い始めた頃、
「…………もしかしてあのコロナさんですか?」
まさかっ!?
――――俺のファンか!?
「あの……っていうのはどのだかわからないけど、俺はコロナだ」
「やっぱりそうですか、あの……ありがとうございました」
どういうことだ?
残念ながらファンではないらしい……それはまぁ、いい。
しかし、初対面の相手にいきなり礼を言われるのは、それ以上に意味がわからない。
「礼を言われる覚えはないんだが」
「あ。そうですね。いきなりじゃ、わからないですよね。
実はあれから父親がダンジョンで行方不明になってしまったんですが……。
あの件があったおかげで、なんとか助かったんですよ。
本来は立ち入り許可のされていない高階級の探索者達が、捜索してくれることになって」
「ほう、そいつはよかったな。そう言われると、ギルドに睨まれても良いことをしたって気分になる。
だけど礼ならその助けてくれたやつらにしてやってくれ」
「それはもちろん、もうしました。
だけど私も探索者なので今回の変更点は嬉しいのですよ。
何かあったときに――今回の父親みたいにちゃんと救助して貰えるとなると、やっぱり心強いですよね」
「まぁ……な」
確かに俺以外の探索者にとっては、今回のことは良いことなのだろう。
しかし、その分一身にギルドの恨みを買ってしまった。
素直に喜べない俺は心が狭いのか……。
「その、ごめんなさい。私ばかり喜んでしまって。
そうですよね……。あれ以来コロナさん……その――ギルドの職員さん達から怨まれてる様ですし……」
「あぁ。正直、きついぜ。
買取窓口で貢献ポイント貰えないし、装備も購入拒否されているからどーしたもんかと」
「え……そんなに厳しい状況なんですか?」
「まぁな。買取拒否されなかっただけ、マシなんだろうがな」
思わず愚痴になってしまったが、一度開いてしまった栓は閉じられない。
長く一人で居たせいか、誰かに聞いて欲しいということもあったのだろう。
「料理も食堂で覚えようかと思ったが、正直なところ気まずいし。
頼る当ても……ないことはないが、家庭持ちの女性だしなぁ」
「それなら依頼を出したらどうですか?」
「依頼?」
「ええ。『料理を教えてくれる人募集』の依頼書と金額をギルドに納めれば、請け負ってくれるはずですよ」
「うーん、できもしないやつが金額に釣られるなんてことはないか?
というかギルド側で料理できないやつを派遣とかされそうで怖いな……」
「それなら私に指名依頼はどうですか?」
「君に? 階級はいくつなの?
料理講座とか正直そんな高いランクは要らないはずだけど……」
「私はD-3-イモです。つい先日なったばかりですが」
「うーん……。そういう依頼には、丁度良いくらいの階級なのかな?
まぁ、ギルドに行ってやってみるよ。その時はよろしくね。じゃあ、またね」
「はい、おまちしてます」
流石に『ただで教えてくれよ』などとは言い出せなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
提案した美少女――レイリア・ヒューズは、父親が救助されたときにかかる費用を若干収めなければならなかった。
ギルドが負担するとは言っても全額ではない。
遭難したものが悪いのだから救助されたものは仕方なくも、それ相応のお金を払う義務があったのだ。
恩人の一人であるコロナに、本来ならば対価なしで料理くらい教えてもよかったのだ。
しかし、今の彼女は親の援助がなくなり、かなり厳しい状況にあった。
まだ成人前にもかかわらず、早くからギルドの仕事をこつこつとこなしてきた。
ようやくサルになって、ダンジョンに潜るといったところで父親が遭難。足を引っ張られてしまったのである。
家が借金するようなことは無かったのだが、武器をなくしてしまった。
そのため装備を新調したために、レイリアの生活費までは捻出できなくなったのだ。
まだ成人していないので、実家に帰れば本来はいいのだが、少しでも生活を助けたかったのと、自立したかったために戻らなかった。
幸いなことに、装備は既に買い与えられていたので、仕事に困るようなことは無かった。
しかし、余裕はなく、毎日仕事をしていかなければ生活が成り立たない。そんな状況だった。
それ故に、がめつい女と思われても仕方がないと諦めて、コロナにそのような提案をしたのだ。
しかし彼女は気付いていない。
そう、コロナに名乗り忘れたと言うことを。
そしてコロナは名前を聞き忘れたことに気付いていなく、
――――ロリコンか……業だな。しかし、悪くないものだな。
などと考えていたのだった。
お待たせ? しました。
女の子一人追加です。




