44.ニャンターの遺産
「親方いますか?」
店に入るなり、コロナは奥に声を掛けた。
鍛冶をしているような音は一切聞こえない。
(奥に前も居たみたいだが……一体何をしている?)
手持ち無沙汰に展示されている武器を見ていると、奥から親方がやってきた。
「おめぇは……たしかアーシャちゃんと一緒に来たやつだな。どうした?」
「装備の新調をしたくて。
……見てください。もうぼろぼろでしょ?」
「ずいぶんと……まぁ、酷い扱いしてるみたいだな。確かにこれはもう修理も無駄だな」
コロナの見立て通り、どうやら限界に来ていたらしい。
「その分、結構貯まったんでな。それより装備を見せて欲しい」
「――――……残念だが、そりゃ、無理だ」
「無理? 無理ってどういうことだ?
材料がないのか? それとも忙しいとか……」
『店は潰れるのか?』と続ける前に言葉を遮られた。
その言葉が口から出てこなかったことは、どちらにとっても幸せなことだった。
「そういう意味じゃねぇ。俺としても悔しいことなんだがな……。
おめぇさんには装備を売るなって、お達しがきちまってる。
わりぃが……俺程度じゃギルドには逆らうことはできねーんだ。
材料は全部あそこから買ってるから、逆らったら仕事できなくなる。すまねぇな」
「ギルドから? じゃあ他の所にいっても無理ってことか?」
「そういうことになるな。中古の売買も個人同士でやることも違反行為だから、おそらく何をやっても手にはいらねぇ」
(またしてもギルドか……)
思わず顎に力が入り、コロナは歯ぎしりをしてしまう。
「――なら、素材を持ち込んだら作って貰う……なんていうのはできないのか?」
「そういうのも駄目だ。いや、ギルドに加入してないものなら持ち込み可能なんだが、加入している者は材料はギルドに一度回す決まりになっている。
どうしてもその素材を使って装備が作りたいときは、窓口で言う必要がある。そのとき手数料を取られちまうがな」
どうやらギルドが全て仲買する権利を持っているらしい。
たしかにそれでは、ギルドに逆らったら仕事が成り行かない。
思った以上にでかい、というレベルではなく国家、いや世界国家レベルに等しいのかもしれない。
(この分では装備も手に入りそうもないな……)
コロナはいったいどうしたらいいかと悩んでしまう。
「まぁ他に手がない訳ではないんだがな」
「どういうことだ!?」
思わずその言葉に飛びついてしまう。
「おちつけ……まぁ、落ち着けっていうのも無理があるか。
いいからとりあえず聞け!」
まるで暴れ馬をあやすようにコロナを宥めていく。
「それで手段だったな――
それは装備を自力で手に入れるという方法だ。それなら問題はない」
「自力で手に入れる?」
「1つ自分で作る。
2つドロップアイテムで装備を落とすやつが居る。
3つ宝箱からでる。
そして4つ目――」
親方はそこで区切った。口に出すべき迷っているようにみえる。
「4つめはなんだ? ここまで来て勿体ぶるなよ」
「あぁ、ランクがCにならない今だからこそできる手なんだよ。
お前の階級じゃ情報は普通手に入らないことなんだが、お前は既に遭っちまってるからな。
だからこれは公開しても問題ないことだ」
「ん? 遭っている?」
勿体ぶるなと要求したにもかかわらず、勿体ぶる親方にすこし苛立ちを覚えるコロナ。
そんな様子をみて、親方は思った以上に余裕がないその態度にため息をつく。
「《魔女ニャンター》だ。」
「あいつ? あいつが何なんだ? まさか喋れるから取引をしろとかいうのではないだろうな?
魔物だから個人間取引に引っかからないとか、そういう冗談みたいな話じゃないんだろ」
「当たり前だ。《魔女ニャンター》にはある秘密がある」
商売人だからだろうか……コロナはすっかり親方のトークに引き込まれてしまっている。
これがセールスだったならば、簡単に騙されていることだろう。
「秘密だと?」
「あるアイテムを落とすんだ。
――――その名も『ランダムBOX』」
「…………」
「ん? どうした? まぁ、いいか。よく聞けよ?
その『ランダムBOX』は本当に何でも出てくるらしい。
伝説の名剣……とまでは行かないが、そこそこ上位の武器が出てきたり、それこそ石けんが出てきたりな。
《魔女ニャンター》以外にも落とす敵はいるらしいんだが、早くから手に入るのはこいつだけだ。
それに駆け出しで強力な武器を手に入れて活躍する……というのは冒険譚で人気あるからな。広く知られている」
コロナには一つ思い当たることがあった。
そう、《魔女ニャンター》を倒したときに、二つのドロップ品が確認できた。
『またたび酒』と『ランダムBOX』だ。
当時はよく分からなかったものの、ボスドロップということで使わずに取っておいた物だ。
記憶はないが、いつの間にかに持ち帰っていたらしい。
状況判断から《魔女ニャンター》から手に入れたと判断していたに過ぎない。
これらはアイテム化して現在は物置部屋にしまい込んでいる。『大事な物はしまっておく』の精神だ。
そもそもアイテム化したのも、ギルドに所持していると知られたくなかったというのもある。
証を渡したときに、ぼったくられたり、こっそり抜き出されてしまうことも考えての上だ。
(だが、ここに来てようやく日の目をみることになりそうだ)
「そいつがあれば、運次第でなんとかなるのか?」
「あぁ、ここ最近まともな武器は出ていないとも聞いているがな……。
あと、自分が使える武器とも限らねぇ。まさに博打ってやつよ」
(この世界にも博打あるのかよ……)
「ギルドで売買とかはしてないのか?」
コロナはダメ元で聞いてみた。
ゲームでの鉄則として、クジアイテムは大量に使わないと元が取れない。
もしあるなら、当座資金以外はそれにつぎ込むのもいいかもしれない。そんな気分になっていた。
「あそこはランダムBOXだけは買取しない。
売りたければ開けて、中身を確かめろってことらしいな」
ねこ缶は買い取っているのに、ランダムBOXは買い取らない。
その事からコロナは理解した、いやできてしまった。
『統計的に外れが多い』とギルドは確信しているのだろう。
(どっちみち売れなかったということか……。
いや、証に入ってるのを見られたら、痛くもない腹を探られたかもしれい。やはり正解だっただろう)
「なるほどな。ちなみに装備品のドロップする魔物とかは、教えて貰う訳にはいかないか?」
「こいつはギルドで情報規制されているから、流石に俺にもわからねぇ」
「そうか……なら、俺に装備の作り方を伝授して貰うということはできるか?」
「SkillPointの能率が悪すぎる。
そいつはオススメできないな。生活保護を受けたんだろ?
それの拘束期間が過ぎる頃まで探索者続けてたなら、もう生産職についても碌な仕事もできねーよ」
(どうやらSkillPointがキツキツになるらしい。
これはいずれ自前で生産者を育てる必要も出てきそうだ。パトロンでもいいが)
大体必要なことは聞き取れたとコロナは判断した。
もはやここには用はないだろう。
「最後にもう一つだけ聞きたい」
「なんだ?」
「仲間がギルドに登録したままの生産職に就いたとする。
そいつには素材をギルドに通さなくても渡せるのか?」
「あぁ、定期的に仕事をして、ちゃんとギルドに探索者もしくは傭兵と認められているなら問題はないだろう」
「そうか、色々教えて貰って悪かったな。店に金落とすって訳でもないのに」
「気にすんな。これは詫びだからな」
「それじゃ、俺はもう行くぜ。邪魔したな」
「あぁ、がんばれよ。にーちゃん」
(まずはランダムBOXを開ける、他の事はそれからだ)
そう判断して、早足で家に戻っていくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「先輩。……どうやらアイツ、生きてたみたいですよ」
「ミリア。そんなことをいうものではありませんよ。それじゃ死んで欲しいみたいに聞こえるでしょ。
また、1人1人把握できないのにもかかわらず、低階級の人を区別してるのは、他の方と比べ、贔屓しているようにも取られてしまいます」
「はーい、ごめんなさい」
所変わって、ここはギルド本部の経営部。
ここにいるのはヒルダと、コロナの買取を担当した受付嬢ことミリアーナ・ルサインベルグである。
彼女はヒルダ・エコーミックの熱狂的なシンパであり、『お姉様』と慕っていた。
それに仇成したコロナはもはや、犯罪者、いや異教徒であり、この世に存在してはいけないものであった。
そこで被害者であるヒルダに、「アイツ、生きてやがったぜ。親分どうしますか?」と三下ヤクザの如く、判断を仰ぎに来たのであった。
「そうね。それで? 話題の的なのにかかわらず、しばらく話を聞かなかったけど……。
――どうしてたのか、わかるかしら?」
「ドロップ品の買取だったので、大体どの当たりかはわかるはずですよ。私には無理ですけど先輩なら――」
「それは自慢にならないわ。その辺りの知識は付けておいて損はしないから。励むように、ね」
「わかりました、先輩。
それでですね、煉瓦、シルク、狼の爪・牙・毛皮それとくず鉄、あとは魔布に魔樹の枝とかだったかな」
「――――……そうね、他の国に近いダンジョンならそちらの支部に行くだろうし、近辺から考えられるなら未踏破――」
「未踏破!?」
「ミ・リ・ア! 話は最後まで聞きなさい!」
「ご、ごめんなさい…」
「いい? いい女というのは、落ち着きがなくては駄目よ。
それで話を戻すけれど、未踏破ダンジョンなのは確かです。
それでどこかというと、……おそらく《ローヌギア》の15階層から18階層かしら」
「どうして分かるんですか?」
「それらのドロップ品から、そのダンジョンなのは間違いないわよ。階層については魔樹の枝までしかないことかしら。でも売らなかったということも考えられるわ。
食料品は手元に残しているみたいですし……。
次の《ブルトーガ》は『牛肉』と『灯火の魔石』ともに消耗品で売る必要がないものですからね」
「なるほどなるほど~」
聞いてはいるが、覚えるつもりがない様子にヒルダはあきれ果てる。
そして『いつものこと』と諦め、思わずため息をつく。
「――まぁ、いいわ」
「あ、言い忘れてました!」
「何かしら?」
「えっとですね……あいつの貢献ポイント今回換算してやらなかったのです!!」
酷いことを得意げな顔で言うミリアーナ。
ヒルダはこめかみに指をあて、抑え付ける。
考え無しの行動しかしないミリアーナにほとほとあきれ果ててしまう。
「あなたね……そういうことが今回の原因になったのよ?
こちらのミスを疑われるようなことは止めなさい!」
「ご、ごめんなさい…」
「もう、しょうのない娘ね。まぁ、何とかするわ。
何か言ってきたら、訓練費用分のポイントだとでも言っておきなさい。
無料だけど、必要貢献ポイントが増えることになったんですし、前からそうだったことにすれば問題ないわ。
ミスで早く階級が上がってしまったことに気付いて、後から差し引きしたというだけのこと。手続きは後でしておくわ
そういうことにしておきなさい。わかったわね?」
「はい、わかりました」
ミリアーナの話が終わったことで、今度はヒルダが用件を切り出した。
「そういえば、彼の武器・防具屋の出入りを禁止したままだったわね」
「はい、未だ禁止処置を取っています」
「彼の装備どんな状態だったかしら」
「え~とですね、見るも無惨にぼろぼろでしたね」
うっぷんは晴らしたものの、やはりまだ腹に据えかねているものがあった。
生活基盤の出来ていない者の生活保護を打ち切っただけでは物足りず、ついつい魔が差して、装備の販売禁止令を発令してしまった。
そして、その結果が現れていることに胸がすく思いだった。
「ええ、そう、そうね。ふふっ。
――――明後日には解除しておきなさい」
「解除ですか?」
「ええ。だけど、通達はしない。いいわね」
「あぁ、そういうことですか」
「そういうことよ、うふふふ」
ヒルダの言わんとしていることを理解し、ミリアーナは口端が思わず歪む。
そういうことには理解が及ぶ。
――つまり性格が悪い。
これで結婚願望が強いのだから、思わず男も逃げたくなるものだろう。
折角可愛い顔をしているのに、実に勿体ないと最近は噂が広がってきている。
コロナと相対するときの辛辣な表情が、周囲の好感度を引き下げる原因となっていた。
コロナを貶めるつもりで、自分までも貶めている。
それに気が付かない彼女は、まだ結婚などすることはできないだろう。
少なくとも上辺だけでも取り繕えるようになるまでは……。
「「うふふ、あっははっはははは」」
こっそり? 短編を書きました。
腰の低い神とは何なのかを妄想した作品です。
良かったら呼んで下さい。




