43.汚いな、さすがギルドきたない
雪掻きが怠いです。
俺は寂しいおっさんを見送り、民都のギルド本部へとやってきていた。
(精神的に)疲れた俺は、重くなった身体に鞭を打ちながらも家に帰るようなことはせず、先にギルドに向かうことにした。
無理せず、休んでからいけばいいって?
冗談はやめてくれよ、金がないだよ!
金がなければ家にも入れないという、ここのシステムを忘れないでくれ。
そんなわけで汚い姿のまま――身体は拭いていたが――ここにいるわけだが……。
相も変わらず、いや『こいつまだ生きてんの?』という受付嬢の目で出迎えられる。
「…………ご用件は?」
なんか凄く嫌そうにしてやがる。客を選ぶようでは三流だな。
だが、可愛いので許す。可愛いは正義だからな。
長い間女の娘を見ていなかったせいか、沸点は高くなっているようだ。
――――俺も大人になったもんだ。
「こいつの買取を頼む」
俺はギルド証を取りだし、受付嬢に預ける。
ニコッスカードのCMの田街悪和をイメージしたポーズだが……、――大人の色気は出ているだろうか?
しかし、結果はすぐにわかった。
今までだったら、「お預かりします」や、「少々お待ちください」と声が掛かったのだが、無言で奪い取るように持って行きやがった。
充分に大人の魅力が出ていたならば、目をハートマークにさせ、俺にめろめろになっていたことだろう。
…………それは流石に言い過ぎた。そんなことは流石にありえないな。
せめて、笑顔を返してくれる――その程度だろう。
これがこの人だけ、っていうなら苦情を上に言いつければいいものだが。
会社――ギルドぐるみともなると……接客マニュアル自体が終わっている、としか言いようがない。
話は変わってしまったが、証にため込んだアイテムは結構な額になるに違いない。
今回は制限数いっぱいになるまでため込んだからな。
――いくらピンハネしようがそこそこ貯まるはずだ。
以下の物が今回の収容物だ。
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煉瓦 ×255 シルク ×255
狼の牙 ×255 狼の爪 ×255
狼の毛皮 ×255 キツネの毛皮 ×255
犬皮 ×255 くず鉄 ×255
魔布 ×255 下級羽毛 ×255
魔樹の枝 ×255
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以上だ。
食料品は収納道具の方に入れてある。
非常食にもなるし、アイテム化してあると難癖つけられる可能性もあるからな!
大体何がどれを落としたかわかるだろうけど、想像つかない物も中にはあるだろう。
『魔布』は人形の兵隊みたいなのが落として、『魔樹の枝』は15階層にいた木のお化けみたいなのが落とした。――手がしなって鞭みたいに攻撃してくるんだよ。
どちらも名前からして、結構良い値段が付くと期待しているやつだ。
あとは正直……ね。シルク以外は二束三文?
そんな感じがするネーミングだしな。
そんなことを考えていると、受付嬢が査定を終えたのか、こちらにやってきた。
査定といっても、なんか機械に証ぶっさしてら処理終わるんだけどな。
――まぁ、魔導具なんだろうな……。
「全部で、¥5,102,550になります」
やはり、なかなかの金額だ。
「単価、教えて貰えるかな」
「…………」
しかし受付嬢は何も言わず、俺に証を突き返してきた。
「次の方お待たせしました」
どうやら俺の言葉を無視することにしたらしい。
文句を付けたいところだったが、他の受付嬢も俺をにらみつけている。
ここで騒ぎを起こすのは下策だろう。
そう思い俺は泣く泣く引き下がるしかなかった。
ちなみに、あとで証を確認したらギルド貢献ポイントが増えていなかった。
――――やってくれるぜ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
換金を終えたコロナは、今度こそ汗と垢を落とすために風呂のある家に戻った。
認証するときに証を挿したが、やはり44日分の半額ほど引かれていた。
こういうところは、流石にぼったくることはできないらしい。
家具や物を置いただけで、1日も済んでいないので自宅という気はしなかったが、人心地つけるのに変わりはない。
そもそも契約しないで、そのままダンジョンに向かえば無駄はなかったのでは、という考えも中にはあるのだろうが、ギルドに所属している以上住所不定は許されない。
ではギルド脱退すればいいのではないか? という意見も当然あろう。
しかし忘れてはいけない。
ナマポ受給したものは一定期間以上ギルドに貢献しないといけないのだ。
そしてそれを守らない場合は罪に問われることとなる。
つまり、コロナが住所不定になった瞬間、犯罪者として認定されてしまうのだ。
(色々考えることはあるが、まずは風呂だ…)
コロナはそう思って風呂場に向かったのだが、入れ方が分からない。
(これ、蛇口……? 嫌ただの飾りっぽいな。ん~これは湯沸かし? それっぽい魔導具のような……)
露天風呂のような石を積み上げた浴槽と、排水溝らしきものがあるだけでいまいちよく分からない。
地球の風呂に似ている様で、根本からして異なっている。
(これは原始的に、お湯を沸かして入れていくしかないか……)
諦めかけた拍子に、ふとあることに気が付いた。
【クリエイト(水)】を使えばいいのではないかと。
【フレアバースト】を調節して、お湯にしようという考えもあった。
しかし、水蒸気爆発を起こす可能性も否めなかったので、それは辞めることにした。
「『砂塵に没し、末期に求めたる其の一滴』 ――――【クリエイト(水)】」
魔力を普段以上に込め、水をとにかく大量に生み出す。
しかし、一向に貯まる様子はない。
何故かというと、栓がしまっておらず、排水し続けていたからであった。
(やっべぇ、恥ずかしい……)
きょろきょろと見回し、ついつい誰かに見られていないかと確認してしまう。
――たとえ、誰も見ていないとわかってもだ。
(しかし、こんなことならレイニーちゃんの手伝いを、無理にでもさせて貰えばよかっただろうか?)
せめて風呂ぐらいは入れておけば良かったかと後悔をする。
ひとまず風呂に水をため終えると、今度は沸かすことを考える。
まず、考えられる事は魔導具だろう。
この世界では、魔導具が電化製品の代わりをしているなんて物が多々ある。ならば、湯沸かし魔導具ぐらいありそうだ。
そう思って周囲を探すと、何やら魔導具らしきものがあった。
意表を突いて換気の魔導具ということも考えられるが、それなら普通は換気口があってしかるべきだろう。
他にもあるかもしれないと見回してみたが、は見当たらない。それならば別の何か……ということはないだろう。
そう考えて魔導具を作動することにした。
それは確かに湯沸かしであった。
魔力を込め始めると、浴槽の水が熱を持ち始めたのがわかった。
(これって、沸き終わるまで……このままか?)
適温になるまでは、魔力を維持しなければいけないのかと思っていると――
《標準的温度になるまで必要な魔力は貯まりました》
とアナウンスが流れた。機械音声みたいなものだろうか。
思った以上に、異世界はハイテクだったというわけだ。
バッテリー機能にナビ付きらしい。
一回一回魔力を込めなければいけない面倒だということもあったが、それ以上にSPに余裕を持たせて置かないと、仕事上がりに風呂は望めそうにない。
この点を除けば、十分のような気がした。
(それ以上は贅沢という物だろうな)
湯船に浸かりながら、コロナは今後のことを考えていた。
まずはお金を貯める、という作業は終えていた。
ならば次は仕事道具である装備品の買い換えだろう。
今まで使っていたものは手入れも碌にせず、もはや修理などできない。
――廃棄か、リサイクル行きだろう。
(リサイクルがはたして、この世界にあるのかはしらないけどな)
その次は、やはり生活環境の向上だろう。
潤いのない生活。ただ働いて稼いで生きるだけというのは、少々いただけないし、華がない。
特に食事だろう。
ギルド内の食堂という手もあるのだが、職員に嫌われているから何を入れられるかわかったものではない。
都市伝説で伝えられている、お茶に入れられるお湯がぞうきんの絞り汁……みたいなことも考えられる。
ならばこそ、料理スキルを上げて、自炊してみるというのも良いだろう。
ただ焼いて挟んで食べる。生のまま丸かじり。茹でてぶっかけて食べる。
こんな食生活を送ってしまえば、精神的にも余裕がなくなる。
時々ならば、ライナーの家に押しかけてごちそうになるという手もありだろう。
だが、毎日は流石に無理だろう。
(タチアナさんに悪いしな)
ライナーだけだったら気にしなかっただろうが……。
それを考えて、迷わず自己能力を弄り、スキル【料理】を最大まで強化した。
SkillPointが勿体ないとは思うが後悔はない。
美味い物が食べたいという気持ちに、一切の偽りはないのだから。
続いて衣類――普段着だろう。
確かに貰った物がある。が、どうせならおしゃれをしてみてもいいだろう。
(【イモ】ではなくなったが、所詮【サル】だ。
せめて芸能サルくらいにおしゃれはしてもいいだろう)
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これで衣食住はカバーできただろうか?
住に掃除も含まれるって?
そんなものは『汚れたら適当にやれば良いんだよ。敷金もないんだしな』の精神だ。
どうしても耐えられないと思ったら、礼金もないし、他の借家に移動すればいい。
――――誰も困らないのだから。
だが、洗濯は考えないといけないかな?
洗濯機モドキの魔導具でもあればいいんだが……。
部屋を探しても、そのような魔導具は見当たらなかった。
おそらくはないか、自前で用意するしかないのだろう。
この部屋の作りからして浮くということで、配備しなかった可能性も考えられる。
とりあえず、今考えられることはこのくらいかな?
便利魔法とかも探してみるのもいいかもしれない。
――ギルド以外に魔道書があればいいのだが、現状は分からない。
なら街探検をするのも、いいかもしれないな。
クラゲのようにぷかぷか浮いて、風呂も満足して――身体を洗おうかと思ったところで、ふと気が付く。
石けんもシャンプーも手元に残ってねぇ……。
これは街をぶらつく前に、《ガイニース》で取りに行かないといけないな。
買うという手段があったことは、後に聞いて気が付いたことだ。
――やはり、異世界ブラインドが俺の思考にもやをかけてしまっているのだろう。
誰でも気が付くことに、気が付かないなんてな……。
――翌日
壊れかけた防具を身につけ、さくっと《ガイニース》一層に潜り、さくっと帰ってきた。
あくまでこれはついでである。
――――本日のメインは装備の新調なのだから。
俺は以前世話になった、あの親方の店へと向かった。
どこでもよかったんだが、何処に何があるかわからない。だから選択肢がなかったともいえる。
道中――
「おい、あいつだぜ」
「何で生きてんの?」
「アイツが反抗起こしてくれたおかげで、俺のアニキは助かったんだぜ」
――などと言った声が聞こえてくる。
どうやらまだまだ、反響が残っているらしい。
人の噂も七十五日といったところだが、まだ半分くらいしか過ぎていない。
この調子だとまだまだ収まらないだろう。
ため息をそっとつきながら、すごすごと歩くしかなかった。
別作品の自己成長アプリケーションもよろしくお願いします。




