番外編 調教師レイニー
コロちゃんが【狂犬】から回復して、ようやく元気になりました。
数日は色々思うことがあり、部屋に閉じこもっていましたが、それも昔のこと。
固く閉じられた扉は今日、開かれることになったのです。
――あの日
コロちゃんに何かしてあげられることはないかと、資料室で色々調べたりしたのだけれど、結局力及ばず何もできることはなかったのですが……。
コロちゃん向けのスキルを色々と、見つけることができました。
その事を私の部屋でお茶を飲んで寛いでいるコロちゃんに切り出しました。
「コロちゃん。スキルの指導のことなのですが……」
「ん? この前の基礎訓練は終わったんだろ?」
「いえ、コロちゃんの病気について調べていたときに、変わったスキルを見つけたのですよ」
「変わったスキル? 使えるスキルじゃなきゃいらねーよ?」
なんだが、コロちゃんの癖に態度がデカイですね。
「――使えるスキルだと思いますよ。私はそう思いました。
未熟なコロちゃんでは……使いこなせないかもしれませんが、ね?」
「…………」
言葉に含みを持たせて反省を促すように答えると、コロちゃんはビクビクして何もいえない状態になってしまいました。
可愛い顔をしても駄目です。ですがそんな顔を見せても今日は許しませんよ?
何せ戦闘訓練をしますし、和気藹々とするわけにはいきません!
「それじゃコロちゃん……完全装備をして庭に出ていてください。
――私も準備をしたら向かいますから」
そういって、反応を待たずして『匠鏃』の間に向かいました。
「顔を向けては駄目です! 目だけで捉えてください!」
私はそう言って、コロちゃんの斜め後ろから石を投げつけます。
当たれば痛い程度に威力を抑え、それなりの速度で。
これはスキル【視野拡大】の習得を目指した特訓。
それゆえに、このような訓練方法をとっているのです。
しかしコロちゃんは、どうしても顔を向けてから避けてしまう。
正面からギリギリみえる位置で投げているはずなので、顔を動かす必要はないのですが――。
「う! 分からない人ですね……わかりました。
こうなったら二方向から同時に投げますね。
――まぁ、そうなると手加減はできませんけど、仕方がないですよね?
だって言ってもわからないなら、身体でわからせるしかないじゃないですか」
正直、コロちゃんを虐めるのは好き。でもいたぶるのは好きじゃない。嫌なことを思い出すから。
気持ちに蓋をして魔法を唱える。
「『剔れ、水滴石を穿つ』 ――――【アクアショット】」
私は発動する魔法に威力を弱め、打ち出す。
そして時間差でさらに2つ水弾別方向からを放つ。
1つ目は先ほどよりも早く、2,3発目は先ほどと同じくらいの速度に調整していきます。
案の定、コロちゃんは1発目に対し顔を動かし避けてしまう。
――――だけど、残念。
その角度からでは残り二つは絶対に見えない。そういう方向に水弾を放ちました。
避けた分の位置の微調整をし……そして――――
「ぐぎゃッ、うぎゃ」
2つ目の弾丸が後頭部に当たり、前傾姿勢になった後、頭にさらなる追撃をする。
結果的にコロちゃんは、地面に崩れ落ちることになった。
顔さえ動かさなければ、全部みえるはずなのですけどね……。
コロちゃんはなかなか人の言うことを聞いてくれません。
この日はひたすら、コロちゃんを打ち据えるだけで終わってしました。
これを2日間行いましたが、【視野拡大】ではなく【急加速】を身につけるという結果になってしまいました。
――――相変わらず予想外なコロちゃんです。
次の日は、「先に違うスキルを覚えたい」と、泣きながら頼んでくるので仕方なく予定を変えてあげました。
うん。やっぱりコロちゃんは泣き顔が一番可愛いですね。
その日は、まずコロちゃんを地面に寝かせます。
そして寝転がったコロちゃんを私が鞭を使って叩きます。
訓練内容は以上です。
え? それじゃお仕置きにしかならない……ですか?
いいえ、ちゃんと目的はあるのですよ?
これは【緊急脱出】というスキルを習得するのに、一番痛くない方法だと思うのですよ。
【緊急脱出】はどんな無理な体勢でも、身体を無視して強制的に回避できるというすごいスキルなのです。
ですが、態勢の状況によっては足が折れたり、骨が砕けたりする可能性はありますが……。
【ヒール】と【治癒力向上】をコロちゃんは持っているので、次の日には完治できるので問題はないですよね?
そもそも立って避ける訓練をしますと膝が壊れてしまう可能性が高いです。
しかし、こうして転がって避けるだけなので、問題はありません。
【緊急脱出】で、転がる方向を変える程度なら被害は少ないはずですし。
そんな訳でひたすら、コロちゃんに鞭で灸を据えているわけですが――
え? 灸を据えるって表現はお仕置きなのではないか? ですか……?
ええ、当然お仕置きですよ!
こちらは真面目にやってるのに、コロちゃんは転がりながら、私の下着を見ようとするのですから。
ズボンを履かなかった私も悪いといえば、悪くなってしまうのですが。
そもそも覗くということはいけないことなのです。
それは当然お仕置きをしてもいい、という合図でもあるはずなんですよね。
だから私はそんな余裕を持たせないように、ビシバシと打ち据えてあげました。
訓練という名の、お仕置きを終えると……ボロクズになったコロちゃんが、「スキルを手に入れた」と言ってきました。
私にはとても【緊急脱出】が発動してたようには見えなかったのですが――いったい、どういうことなのでしょう。
「あぁ、手に入ったのは【視野拡大】の方だよ」
私は考えても、何故コロちゃんがそれを得たのかわかりませんでした。
けど、顔を見たら……なんとなくわかりました。
――――だってすごく締まりのない顔をしているのですから!
「コロちゃん……私の下着、どうでした?」
獲物を狙うように、かつ相手に気付かせないように笑みを浮かべ尋ねます。
ここで殺気を漏らすのは三流もいいところです。
「あぁ、もちろん! さいこ……ハッ!!」
自供したお馬鹿なボロクズ。
私は持っていた鞭で【捕縛】を発動する。
コロちゃんをぐるぐる巻きにしたあと、前回吊した木にぶらさげることにしました。
「反省してくださいね」
そう言って、私はコロちゃんの元を去って行きました。
そうそう。
食事はぶら下がったままの彼の前で食べました。
――――美味しそうにみえるようにして。
――後日
訓練のときは、ズボンを着用するようにしました。
鞭で叩かれるよりも、むしろそちらの方にコロちゃんは涙していました。
まったく、コロちゃんはどうしようもないですね。
そして【緊急脱出】を覚えるまでに、【物理耐性】が【物理緩和】になったそうですけど……。
コロちゃんはこれが狙いだった、なんてことは――流石にないですよね?




