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5.ワレハチキュウジンダ

 

 

 

 

 とりあえず、おっさんが日本人じゃないことは確定したが、ここがミント・・なんとかという訳の分からない場所なのは変わりない。

 いや、もしかすると……ここは、日本では、ないのかもしれない。

 おっさんが日本語を話してるから、日本だという先入観にとらわれてしまっていた。

 普通、海外に拉致されるとか、考えつかないしな!


 既に気を良くしてみたいだし、おっさんに聞けば答えてくれるだろう。


「話を戻すけど、ここはミントなんたらって街の近くなんだよな? やっぱり聞いたこともない。

 だからこっちが尋ねるけどさ……日本とか東京とかジャパンとか聞いたことないか?」

「民都プロンティアな、普通知ってるはずなんだが……。

 むしろお前が言っているニホン? トウキョー? ジャパン? そんなのの方がしらねーぞ」

「冗談で言ってるわけでは……なさそうだな。もちろん俺も冗談で知らないと言っているわけではない」


 冗談と言ったところでおっさんの顔色が変わったから、思わず取り繕ってしまった。



 ――やっぱりこえぇよ、おっさん。



「結論から言おう。ここは俺が一切知らない場所で、いけるはずもない所ということだ。

 言葉が通じてるから、俺の国を知っているかと思ったのだがな」

「ん? またお前は変なことをいうなぁ。言葉が通じないやつなんているわけないだろ。」

「むっ? ひょっとして違う言葉とか文字とかないのか?」

「違う言葉や文字なんか、あるわけないだろ。そんなのあっても不便じゃないか」


 どういうことだ?

 言葉が一つということはバベルの塔とかの作り話だと思っていたが……まさか過去へタイムスリップしてしまったのか?

 いや……仮にタイムスリップだと仮定しても、日本語を話す俺と会話できてる時点でその仮定は間違っている。

 俺は日本人が古代帝国ムーの末裔とか、某国みたいにすべての起源だとか、そういう思想の持ち主ではない。


「お前さん、それはそうと名前教えてくれよ」

「ん? 田貫狐太郎たぬきこたろうだ。先ほど名乗ったはずだが?」


 おっさんはまだ若い部類なのに……と俺は少し悲しくなった。すでに健忘になりかけているのだろうか……。

 くだらない設定なんか考えて脳のキャパ無駄にしているから、すぐ忘れるのだろうか?


 ――いや、まてよ……。

 そもそもタイムスリップなんて発想まで行き着いたんだ。

 おっさんが廚二病じゃなくて本当――という可能性も……あり得る、のか?

 俺が再び長考に入る前に、おっさんに声をかけられた。


「おまえさんが名乗った――タヌキコタロー――っつーのはファミリーネームだろ? だからファーストネームも教えてくれよ」


 そもそも名といったり、ファーストや、ファミリーネームとか言ってる時点で日本語じゃない――と否定されていろいろカオスだ。

 それだけではなく、さらにおかしな事を言っていた。


 ――まさか『たぬきこたろう』というのをファミリーネームだと思っていたのか!?



「いや、だから『たぬき』がファミリーで『こたろう』がファーストネームだ。

 タヌキコタローがファミリーネームなんて考えるなんて、どういうことだ?」

「だってお前さん、途中で止めなかっただろ? それに順番が逆なんて聞いたこともないぞ?」

「ふむ、そういうことならそちら風に名乗っておいた方が良いかな。

 改めて、俺はコタロウ・タヌキだ。これでいいかな?」

「ああ、それならわかる。普通名乗るときはファミリーネームだけというやつもいるからな。

 だから途中で止まらなかったからわからなかったぜ」


 日本人は会話で姓名の間にブレスなんていれない。これは異文化交流みたいなものなのか?

 いや、まさかな。文化交流の異の意味が違うなんて……ことはないだろうな。

 決めつける前に、消去法でいろいろと潰していった方が良さそうだな。



「言葉が一つしかないって言っていたが、海外――つまり海の向こうの国も同じ言葉をつかうのか?」


 そう、交流が断裂していれば文化も変わる。そして言葉も変わるはずだ。

 他の大陸と接触したことがない位、文明は進んでない可能性も否定はできない。

 だが、


「カイガイ、ウミってなんだ?」

「陸地と陸地の間にある水塊のようなものだ」

「陸地の向こうは虚空だぞ? 何を言ってるんだ?」


 と、その一言で答えがわかってしまった。

 もはや消去法で消していく必要も無かった。


 ――――はい確定。……確定だわ、ここは世界に間違いない。



 いままでのことを整理してみるか。


 ここは異世界……これはほぼ確定だろう。

 天国の扉を開いたら転移した。

 裸で荷物もなかったのは、あの状況のまま転移したからだろう。つまり追いはぎなんていなかった。

 言葉や文字は世界共通、世界と言っても虚空の先に何があるかは分からない。

 廚二病のようなものがリアルな環境。

 ミスリル剣……俺も欲しい。いや、これは今は関係ない。

 ――いずれ欲しいが。



 そして一番重要なことは、俺と意思疎通が可能だということだ。



 またこれから推測できることもある。

 意思疎通できていることは、不思議パワーで変換処理されているのだろうか。意思が伝わっている可能性が高い。

 だから『あか』という文字を、使う人が誤字で書き『しろ』と書いたとしても、読んだ人は書いた人の意思が伝わり『あか』と読める可能性がある。

 問題は、この世界と元の世界の同じような物の単語は伝わっているかどうか、だ。


 もしくは、いわゆる言語チートというやつでこの世界の言葉を俺が使っているのだろう。

 だが、今俺は間違いなく日本語そのものをつかってると断言できる。

 ならばこそ――先に述べた意思の伝達、こちらの可能性が高いと俺は睨んでいる。



 あとは剣が必要な世界に居る事だろうか。

 裸一貫でこの先生き残ることはでるのだろうか。いいやできやしない。

 しばらくおっさんに養って貰う必要がある。今まで廚二病と決めつけて、結構失礼なことを想像していたことは……この際無視しよう!

 直接言ったりはしていないのだからな!

 そう悪い印象は与えてないはずだ、きっと。



 おっさんは俺に今意識を向けずになんか作業してる。

 また何か食べるつもりなのだろうか。確かにあの肉体を維持するのも大変なのかもしれない。


「随分休憩しちまったが、そろそろいい時間だし歩きながら話をするぞ。よいっせ、っと」


 そういうとおっさんは俺を担ぎ出した。


「何故だ、俺は意識もあるし歩ける」

「タヌキ。お前さん服も靴も無しに、この荒れた所を歩いて行くつもりか?」


 逃避していた事――マッパという余りにも無慈悲な一言によって、俺は黙るしかなかった。

 作業してたのは片付けをしていたようだ。未だにおっさんの第一印象は抜けていないようだな。

 気をつけなくては、な。



 荒野におっさん一人。肩に荷物――俺を担いでいく……うん、シュールだ。

 これは会話を続けて、深く考えないようにしないといけない。


「海、つまりライナーさんが言ってた虚空を渡った先。そこに、国があるとか考えたことはないのか?」


 俺は『海=虚空』とするように、強引に話を続けた。

 水の塊とか言ってしまったような気もするけど、気にしてはいけない。

 『のような』と付けてたし断定はしていないからな!

 虚空の先から来た人間=外国人とすればいい。

 異世界人とか言っても理解して貰えるとは思えない。こう言うほかに方法はないだろう。


「――流石に知っているとは思うが、虚空は開拓しないと進めない……。逆に言えば虚空は開拓すれば進めるんだ。

 いずれ進むことができるようになるのに、わざわざ無理して先を知ろうとするものはいないな」


 ――開拓すると進める?

 どういうことだ?

 まだ情報が足りないな。


「俺は気を失う前は、船――つまり虚空を渡るための乗り物に乗っていた。

 そして今に至るわけだ。持ち物や服がないのは、船が壊れておそらく虚空に漂ってるときに失ったのだろう……」



「――虚空を、越えて、来た、だと……!!」



 ドサッ


「ゴフッ」


 おい、おっさん何落としてるんだよ!!痛いじゃないかっ!!





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ライナーは何をいわれたのかわからなかった。いや、わからなかったわけではない。理解できなかったのだ。

 彼の常識からすると、先ほど言ったとおり虚空の先など、いずれわかるものだと思っていたからだ。

 ――虚空は開拓すればいい。

 限られた大地を、恵みをもたらすために、公共事業として進められていることなのだから。


 虚空――それは大地の果てにあるものだ。そこに触れればあらゆる物が消滅する。


 開拓――虚空を除去し、陸地を繋げる――すれば、かつては進めなかった場所も、人が住める土地へと生まれ変わるのだ。

 開拓するための手段が確立・・されているのだ。わざわざ虚空を進む必要がない。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 むかし、ある好奇心の強い男がいた。

 そしてその男は、他の者が無理だ、できないと言うことを『俺ならできる! やってできないことなどないんだ!』と率先してこれまでやってきた。

 それ故に《不可能を可能にする猛者》と呼ばれ褒め称えられていた。



 あるとき開拓が長い間進まず、開拓の責任者がついつい愚痴をこぼしてた。

 それをその男に聞かれてしまった。


「へっ。――なら、虚空を直接渡ればいいじゃないか!

 生ぬるい装甲で進むから耐えきれないだろ?

 なら通常以上の厚さで作ったフルプレートアーマーで進めば問題ないはずだ!」


 などと言って、男は準備を始めてしまった。

 今まで貯めてきた資金を使い、鎧を手配する。

 そしてそれが完成するなり、直ぐさま虚空の境目へと向かった。


 そして周囲が見守る中、男は虚空に踊りでた。

 ――その瞬間、失敗に終わったことがすぐにわかってしまった。


「腕がーーーーーっ! 脚がーーーーーっ!!」


 男は情けなく叫び転がりっていた。失敗は一目瞭然である。

 虚空に触れた手足が男から焼失している。

 見るも無惨な姿だ。誰もあんな姿になりたいとは思わない。加えて情けなく転がり回るのもごめんだ。

 やはり虚空を越えるのは不可能なのだろう、と見てる人にさらに印象づける結果となってしまった。


 虚空を直接どうにかしようとする計画は、こうして無残な結果に終わることとなってしまったのだ。





 蛇足だが、その男は3日後に息を引き取った。そしてその言葉が今も残されている。


 俺の屍は、虚空から一番離れた場所に埋葬してくれ」


 とんだヘタレである。

 勇気を持って虚空に挑んだのではない。おそらくノリで言ってしまい、途中で降りることができなくなったのだろう。


 実の所、無理だ。不可能だ。できない。などと言っていた者達は、単に面倒臭くてやらなかっただけである。ただ、(面倒で)という言葉を省略していた。それだけのことだったのだ。

 それを鵜呑みにして男は良いように使われ続けていた……というだけの話だった。



 やがて、この話を元にある格言が生まれた。


『お調子者に餌はあげてはいけません』


 そしてこれは教訓として『やってはいけないシリーズ』の物語になっている。童話として今も広く知れ渡っている。

 まさか男もこんな形で歴史に名を残すとは思っても居なかったであろう。

 タイトルは《不可能は不可能》であった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 こんな逸話があったからこそ、ライナーは狐太郎の言葉を理解できなかった。

 それとライナー自身も開拓に関わる仕事をしている。

 それは、探索者サーチャーと呼ばれる《ダンジョン》を潜る者達のことだ。


 《ダンジョン》とはこの世界に最初からあったものだ。

 これを最下層まで踏破することによって虚空がなくなり、新たな土地が生まれる。

 中には当然魔物が徘徊してたり、罠があったりと簡単に踏破できるものではない。

 危険な場所だが見返りも充分に多い。その為、探索者サーチャーになる者は多い。


 不思議になことに、ダンジョンでは無作為に宝箱や体力などが回復する泉などが発生する。

 だがそれはこの世の常識なので、誰もおかしいとは思わない。

 また魔物の増殖も繁殖などではない。いつの間にか増えているのだ。それも誰も気にしたりはしない。

 素材に使えるので困ることなどないからだ。いや、むしろ居なくなっては困るくらいだ。


 踏破済みダンジョンでもこれは変わらない。

 尽きることのない資源のため、一攫千金を狙い探索者サーチャーになる者はいっこうに減ることはない。

 その為、生産職につく者が少ない。それ故に進んでない分野と、進んでる分野では差が激しいのだが……。

 今は関係のないことだろう。


 それはさておき、虚空からやってきたという狐太郎について考えた。



 黒髪黒目で、おそらく成人したかどうかというところだろう。

 背丈は一般平均位の男くらい。肉の付き具合はいまいち――ライナーの主観では――だが、引き締まってはいるようだ。

 裸で転がっていたからこそ分かるが、特に古傷などなかった。つまり戦いに関わる仕事をしていなかったことがわかる。


 荷物もなく、何故あのような場所に捨てられて居たのか不思議に思っていた。しかし、彼は虚空の先より来たときに消失したといっている。

 そんな事が可能なのだろうか。

 すべてが消滅する以上……何も身につけていないことは理解できる。

 ――むしろ身体だけでも残っていることの方に疑問が残る。


 もし、耐えられる身体だとしたら、古傷がないのは……傷一つつかなかっただけなのかもしれない。

 戦いをしたことがない、と決めつけるにはまだ早いと思う。布で包み拘束しておいて正解だった。

 はたして拘束が役に立つのかは確信が持てないが、ないよりマシだろう。



 こちらに危害を加えるような行動をする様子もない。

 彼自身かなり困惑している様子で、嘘を言っているようには見えない。

 言葉が他にもあるような事を言っていたし、冗談だとしたらひどくセンスもない。

 ところどころ矛盾したことを言ってる気もするが……彼自身混乱しているのだろう。表情を見ればわかる。

 何にしても、こちらと交流を持とうとしている。それはこちらとしても有り難い。

 頑なだと、探りをいれることもできないからな。



 ただ一言いえることは、羞恥心をもっているということだ。

 そのことから望んで全裸になっていたという訳ではないということだ。






「あぁ、すまんすまん。少しばかり驚いて落としてしまった。」


 彼は謝り、狐太郎を持ち上げる。やはり肩に担ぐつもりのようだ。

 そして再び歩き始める。


「ゴホッ、ゴホッ……ゴホン、まーいいでけどよぉ。

 気をつけてくれよ。高いところから受け身もとれずに落とされたら、流石に痛ってレベルじゃ済まないんだからな。

 何をそんなに驚いたかは知らないが、俺はあんたらからしたら理解の及ぶ範囲じゃないんだな、きっと。」

 

 痛みが治まるなりそうぼやく狐太郎、そして……


 

「なにせ、宇宙人だからな!(外国人だからな!)」


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 そして時が止まった。

 

 

 

 

 

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