42.地底民の目覚め 光射す地上へ
「ない」
「ない、ない」
「ない、ないぞーーーーーーーぉ! なんでないんだよ! ふつーあるだろ!」
俺は今、喚き叫んでいる。
俺がこのように叫んでいるのはもちろん理由がある。
まぁ、理由なく叫ぶ人は色々と問題があるので遠慮したい。
それはさておき、何故このような醜態を晒しているかというと、ダンジョンにあるべく物を見つけることができなかったからだ。
それは――罠?
いいや、そんな物はお約束だろうとない方がいいに決まっている。
では―――守護者やボス?
もしかしたら奥へと行けば、いずれ遭遇することもあるだろう。
そんなものでは断じてない。
ならば何か? そう問われれば――
――そう、宝箱だ!
ここまで潜ったのにもかかわらず、俺は宝箱を見つけるような事ができなかった。
隠し部屋とかあるかと疑ってみたが、そのような場所はなく、通路も行き止まりすらない。
いかにも宝箱がありますよ~という場所すらなかったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれから35日―――、18階層にコロナはいた。
食料と計算が合わないのは理由がある。
持ってきた食料を食べるだけが、生きる術ではないということだ。
『ドロップアイテム』
食料を落とす魔物も存在する、ということを忘れてはいけない。
彼は調理されていない食料品を食べることによって生を繋いでいた。
B4F――4階層に出没する魔物《コゴォオン》
『油揚げ』ならびに『豆腐』をドロップするキツネ型の魔物である。
大豆から作られたそれは貴重なタンパク源であり、糖分もそれなりに含まれている。
だが、これだけではない。
9階層の魔物《ハンターピジョン》
全長1mほどの鳥型魔物であり、これが『ハト肉』というものを落とした。
生で食べる訳にはいかないが、調整した【フレアバースト】で焼いて食べたのだ。
調節が難しく、直接炎に面している肉は焦げてしまう。
まとめて焼くことで、なんとか食用とすることができる程度には工夫を凝らした。
もちろんこれだけでは、とても生きて行くには成分が足りない。
そこで2日に1度しか、持ち込んできた果物やパンなどを食べないようにして節約することにしていた。
それでも厳しいものがあった。
食料もだが、精神的にも限界に近い。
ずっと日の光を浴びていないことも、戦場に居続けることも、精神の疲労でストレスが溜まっていく。
『そろそろ戻り時かな』なんて思った所で、せめて一つだけでも宝箱が見たい。
そんな考えから、現在留まっている階層を隅々まで探し終えたところだった。
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「何故だ……。
踏破済みのダンジョンの1階層であれほど宝箱――中身は石けんとか――あったというのに、何故こうも見つからない。
まさかっ!? このダンジョンはドロップ率が高い魔物が多い。だから、宝箱は存在しないとかそういうのがあるのか?」
コロナの考えの通りこのダンジョン、《ローヌギア》には宝箱はない。
――正確にはあるのだが、それは最奥の間にあるだけだ。
《ローヌギア》は鍛錬向けダンジョン、とでも言うべきだろうか――――
B1F~B10Fまでは1種類しか出没せず、敵が単純であり、攻略法を見つければ特に苦戦するようなことはない。
B11F以降はB15Fまでは、B10Fまでの魔物が複数種類出るだけで、特に新しい種類は出てこない。
今までのお復習いと、応用問題かと問われているかの様に、強くなったりはしないが、編成次第でその脅威度は増すといったものだ。
だが、それでも今まで慣らしてきた敵に過ぎない。
戦術を組み立てて慎重に進んでいけばやはり問題はない。
そもそもソロ狩りで、未踏破ダンジョンに潜る者の方がおかしいのだから。
そしてB15、16,19Fがそれまでの魔物と、今まで以上に強力な魔物が1種類ずつ増えていく。
現在18階層のコロナには関係ないが、20層で序盤のボスともいえるモノが待ち構えている。
初級編の終了検定試験といわんばかりに、地下への階段の手前で待ち受けている。
以降、罠満載、魔物部屋あり、中ボス徘徊などのハードモードに切り替わり、B50Fに最奥の間が存在している。
そこまでいかないと、どんなに探そうが宝箱など見つかるはずもない。
――――つまり、無駄な労力だったというわけだ。
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ここまで来るのは苦労であった。
サル型の魔物《ゴルタール》に石を投げつけられお尻ペンペンで馬鹿にされたり。
もふもふしていない犬人型魔物《ドッグファイター》に抱きつかれたり。
やっとまともなゴーレムかと思ったら、ぼろくずのようなゴーレム《スラッグゴーレム》だったりたり。
人形の兵隊さん《パペッター》に追い回されたり。
極みは先に挙げた《ハンターピジョン》だ。
こいつには糞を引っかけられそうになった!
それだけでも許しがたい行為だ。しかし先があった――本当に引っかけられてしまったのだ!
10階層までは、1種類だったから問題は無かった。
それ以降でやられてしまった……ということだ。
――もちろん【クリエイト(水)】で洗ったさ……しっかりとな。
複数出てくるだけなら、まだいい。問題は複数種だ。
頭上だけではなく、眼前そして背後、様々な方向に気を使わなくてはいけなかった。
そして……一瞬の隙にやられてしまった――というわけだ。
致死性の攻撃には今ひとつ足りないが、嫌がらせに関しては必殺ともいっていい。
こいつら真面目にやってるのかと問い詰めたいくらいだった。
そんな隙があるなら攻撃してこいと言いたいね!
それはさておき、宝箱に未練があるが、そろそろ地上に戻らなければならない。
脱出魔法でもあって一発で出られれば楽なのだが、そんなモノありはしない。
いやあるのかもしれないが、取得していない。
そのため来た道を、脳裏に浮かぶ最短ルートに従って戻っていく。
もはや、作業といえば作業なんだが、気を抜くことはできない。
糞もあるが、何より命が掛かってるからな。
《パペッター》が盾・槍・弓の編隊をして現れた。
更に隠れていた《ギャオーン》が奇襲をしてくる。
最後に《ハンターピジョン》が急降下して、糞を落としてくる。
いつものことだ、もう慣れた。
糞を見る度に苛立つがな!
しかし、誰が清掃しているのだろう……往路で汚れた床は、ピカピカに磨かれて名残がない。
こんなことを気にしている余裕も今ではできている。
俺は先頭にいる盾を無視し、その後ろから飛ばしてくる矢の軌道を予測しつつ槍を避ける。
まずはこの編成で一番やっかいな《ギャオーン》を串刺しにする。
こいつと《ハンターピジョン》のコンビがやっかいだからな。
ダメージはないといえ、態勢を崩されたら事が事だ。
そして空から迫る攻撃には盾で防ぐ。盾と言っても、装備してるやつじゃない。肉壁だ。
スキル【急加速】で加速し、さらにスキル【疾駆】を使い、瞬時に《パペッター》盾に近づくと、糞よけに利用する。
このスキルは2歩目から最大速度になるというものだ。緊急時にも役立つが、普段でも充分に役立つスキルだ。
そして臭いやつを無視して、『エペ』を【投擲】して弓に投げつける。同時に槍に組み付き、首をへし折る。
これで残りは出し尽くしてすっきりしてそうな《ハンターピジョン》と、それに組み付かれている盾だけだ。
「『炎よ、踊れ。紅蓮に染め上げ塗りつぶせ』 ――――【フレアバースト】」
炎が踊り、臭いゴミを燃やし尽くす。
『エペ』を使った【ウィンドカッター】でもよかったのだが、『汚物は消毒だ』の精神で焼失させることにした。
第一取りに行かなくてはいけない。なら衛生的な方がいいだろう。
――――と、このように戦闘を危なげなく消化していき、光射す場所へと向かっていた。
もちろん、被弾することもあった。
だがそれはわざと受けることで、【反撃】を効果的に使うためである。
もはやコロナにとって編成をいくら変えて現れたところで、慣れてしまって消化試合に過ぎない。
経験値やアイテム収集といった狙いすらもはやないので、なるべく気配のない道を進むことを考えた。
しかし、迂回、迂回と繰り返して、結局は遅くなる可能性の方が高かった。
それで結局魔物を倒してでも最短でいくことにした。
何故アイテムに興味がなかったかというと、ドロップアイテムがしょぼいなどというわけではない。
ギルド証に収納限界があったのだ。入るモノは全てその数に達していた。
――――その数255。
「16進数か!」とか一昔のゲームのにおいがした。
だからどうしたって話なのだが、そうなっているものは仕方がない。
それ以降のアイテムはなくなく諦めたのだった。
幸いなことに、種類の方は未だ限界を迎えていない。
そのためゲームの発想敵に99種類、もしくは255種類で限界がないとは言い切れない。
収納道具は既に食料でいっぱいになっている。
やはり一番安い収納道具では駄目なのだということがわかった。
下は¥200,000だが上を見るときりがない。
民都にあったのは¥94,4000,00が最高値であったが、これが最高の物という保証もない。
「ソロプレイ辞めるか、買い換えしかないだろうな……。
ギルドに睨まれてるから、組んでくれる人とか見つかるとは思えないし。
おっさんのこと笑えねぇ――……俺もぼっちなんだなぁ」
普段なら考えるだけで声は出さないだろうが、1人の時間が続くと次第に独り言が増えてくる。
誰しもそうだとは言わないが、俺はそういう人種なので仕方がないことなのだ。
もちろん、自己確認のためや、言い聞かせるためにもつぶやく人はいる。
俺はそういう人とは仲良くできそうだと、この時初めて感じた。
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――――戻ること3日ほど
コロナはついに地上へと舞い戻った。
より上位の探索者はこの程度の距離は1日で移動できる。
それはスキルも影響しているが、何より一人ではないからだ。
戦闘時間がなければコロナの方が早い。それはスキル構成や身軽な装備をしているからだ。
天職によるマッピング能力があるのは、確かに有利といっていい。
だが、行きはともかくとして、帰りは既に地図が作られているため大差ない。
脳内で見るのと、目で何回も確認する程度の差が多少あるくらいだ。
しかし、一匹ずつ処理をしてSP消費を抑える行動をするコロナとは違い、分担できるためあまりSP調整を考えなくていいからだ。
それでも戻れたことに変わりはない。
ぼっちなコロナが悪いだけという話なのだから。
ぼっちとソロ狩りはそもそも違う。負け犬と孤高――いや一匹狼。そのくらい違うのだ。
組めないのと組まないのでは根本からして違っている。
そして――――その証拠がこの後訪れる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そろそろ民都プロンティアに着く辺りだな
ダンジョンの中ではわからなかったが、昼?
いやそれよりちょっと前というところか……。
今回の探索は色々と為になったぜ。まさかあんな攻撃をしてくるやつらがいるなんてな。
――――だが、これで俺は強くなった。
ふっふっふ。これで傘の【パシリ】の人に絡まれても、そうそう無残な結果にはなるまい。
そんなことを思っていると、道が舗装されている地点にたどり着いていた。
すると、前からいかにも探索者ご一行というのが見えた。
ふ~ん、パーティってやつか。
ちょっと羨ましいけど、俺には関係ないな
どうやらこの先が目的地方面らしい。
俺とは反対方面に歩いているため、段々とその集団に近づいていく。
やがて、顔がわたる辺りまで来たところまで接近した。
俺はふと、気になりその集団に顔を向けた。虫の知らせみたいなものだろうか?
【直感】も反応しなかったことから、第六感以上のものだろう。
すると…その中におっさん――ライナーがいた。
なっ!?
おっさん!!
――そうか、ぼっち辞めたんだな……。
俺はおっさんのその頑張りを心の中で称え、思わず涙腺が緩むのを感じた。
そしてその努力の邪魔をしないように、こっそりと立ち去ろうとした。
「おっ、コタローじゃないか!
いや、今はコロナになったんだっけな。タチアナから聞いたぞ」
しかしおっさんは、俺の気遣いを無駄にしわざわざ話しかけてきた。
団体行動がまだまだなのは、ぼっち歴が長いから仕方ないな……。
そしておっさんは集団に一言いって、こちらに近づいてきた。
「最近どうだ、元気してたか?
――しかしお前も馬鹿だな。ギルドに喧嘩売るなんて。
でもまぁ、よくやった! 褒めてやろう!
お前のおかげで、俺たちは少し待遇良くなったしな! ガハッハハ」
「まぁ、そういう状況だからそんなには調子はよくないぜ。
あれからずっとダンジョンに籠もってて、今出てきたばかりだ」
「ん? こっちから来てダンジョン……《ローヌギア》か!?
お前もう未踏破ダンジョン潜ってんのか? 命知らずなやつだな」
「仕方がないんだよ。ほとぼり冷めるまで、どこかに隠れて居なきゃならなかったし。
金もないから、じっとしてるわけにもいかなかったしな」
「そうか……一応考えてのことだったなら文句はねぇ。生きて帰ってきた訳だしな。
俺がせっかく助けてやったのに死なれちまっちゃ、助けた甲斐がなかったってことになっちまうからな」
「あぁ、心配かけてすまんな――
……それより、一体どうしたんだ?
集団で行動しているなんてぼっちは卒業したのか」
俺は気になっていたことを、思い切って尋ねることにした。
祝福するにも切っ掛けが必要だからな!
だが、おっさんは思いも寄らないことを言ってきた。
「あぁ、ありゃ臨時パーティだ。ソロ狩り辞めてねぇ―よ。
久しぶりにソロ狩り連中が集まって、デカイ華咲かせよーぜ――って集まったんだ」
オ フ 会 だ と !!
ぼっちでオフ会とかどんだけなんだよ!
まじやべぇ、おっさんやべぇ!
「そろそろ走って追いかけないと遅れちまうな。
じゃあ、そろそろいくな。今度顔見せろよ」
「あぁ、そっちも気を付けていってくれよ」
そうしておっさんは去って行った。
俺はそう言って見送るしかなかった。
――――おっさんはどこまでも寂しいおっさんだ。
夜に5章1話の冒頭部の出来事を番外編として投稿します。




