4.刃物とおっさん
――さて、どうやってこの廚二病感染から逃れようか。
おっさんが設定した世界観を下手に否定したら、あの剣で脅迫されてしまうだろう。
「どうだ? 素晴らしい輝きだろ?
ついこないだ新調したばかりなんだぜ(ドヤッ」
そう言って剣を構える。片手から両手へと握り直し、流れるような動きで剣を顔と平行になるように持って行く。
おいおいおいおい、ポーズ決めて決めてるよ。
おっ、左手を外して前にかざしてるポーズか……意外とかっこいいな。
――ッ!?
あぶないあぶない。感染するところだったぜ。
あんな剣を持ってたら、誰も見ていないなら俺で得もポージングしそうだし。やはり――廚二病は危険だな……。感染してしまう。
「こいつぁ~なんと!ミスリル製なんだぜ(ドヤッ)
純ミスリルには手が届かなかったが……それでも結構したもんだぜ」
「確かに美しい刀身だ。素人目にしても良い物に感じる。
あえて難点を言わせて貰うとしたら、そうだな……鍔のデザインがいまいちだな。
それが刀身の神秘性を穢しているよう気がする」
刃物を抜いている相手に対し、扱き下ろすだけのようなことはしてはならない。
プッツンして斬りかかってこないとも限らない。
故に褒めることから始めなければいけない。しかし、ただ媚びているだけじゃないということアピールする。
そうすることによって、あなたのお仲間にはなりませんよと伝わってくれれば良いのだが……。
だがミスリルというところにツッコミを入れてはいけない。
やはり憧れるものだからな!
刀身に見とれて思わず言ってしまった……なんてことはない。
そう決してないんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
狐太郎は自己否定に忙しく、男がある力を込めていることに気付かなかった。
ピカッ!
突如、刀身が光りを放つ。そしてその光りは安定していく……。
それはまるで、光りの剣のようであった。
そして光り輝く剣を振り回す。目の前にいる敵を想定しているかのように、切り刻む。
剣の軌跡に残光が残る。
そして見るものが見れば、間違いなく殺気が籠もっている太刀筋だった。
シュッ シュシュッ ビシュッ ……カチンッ
それは狐太郎に見せつけるようにしていた。が、狐太郎は何か驚愕して見ていない。
男は剣を見せつけるのを止めて、鞘に収めなり狐太郎に話かけた。
「見ての通りこいつは実用品だ。飾って楽しむ美術品じゃないぜ?
まぁ、実践で使えるような素晴らしい鍔なんてあったら、欲しいものだがよ」
(何かおっさんが言ってるな……。見ての通りって何をやったんだ?)
音がしていた。
狐太郎は素振りでもしてたのかと予想する。
――剣を持っているならそれ以外考えられないからだ。
既に剣はしまっている。それをみて勧誘は諦めてくれたと判断する。
ならばと頃合いかと思い――
「そういえば、名乗っていなかったな。俺は田貫狐太郎だ。
保護してた貰った形になったのかな? とにかく助かった、ありがとう」
狐太郎は今までタメ語だったことに気付く。今更敬語とか使う必要も感じられなかったので、フレンドリーな自己紹介をする。
さりげなく礼を言ってのは好感度稼ぎを狙ってのことだろう。
その紹介に男は頷き、自分も名乗り始める。
「おう、そういえばそうだなぁ!
俺の名前はライナー。ライナー・トルストルイだ。
こういう場所では助け合いは義務みたいなもんだ。あまり気にすんなよ!」
(ん? 今まで日本語でしゃべってたから、日本人か日系外国人かと思ったが……ハーフでもないのか?)
ライナーの容姿は、角刈りで茶髪黒目の190cm位でガタイのいい、渋めの顔。
日系ハーフか、濃い顔の日本人だと思っていた狐太郎は、ライナーを注視する。
名前だけなら当て字とかキラキラしたような名前は現代ではおかしくはない。
恥ずかしいか、恥ずかしくないか。――それだけが問題だ。
嫌なら中学卒業まで我慢して改名手続きをすればいい。クラスには結構居るし、イジメにあう状況でもなくなっている。
敢えていうならば、狐太郎の方が名前で弄られていた。
そもそも名前など小さいころは漢字で書かない。それ故、馬鹿にされることもない。
顔も幼いため日本人特有の顔から離れていなければ、差別されるようなこともあまりない。
むしろ、ひらがなで書いてあったからこその弄られる名前がある。
精神が弱いやつならイジメと判断するだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねぇねぇ。こたろーくんってさぁ……たぬきのこたろーって名前なんだよね!」
「たぬきのこたろー。たぬきのこたろー。たぬきのこたろー」
「グスッ(涙目」
「おい、コタ。お前タヌキなのか、キツネなのかどっちかにしろよな(笑)」
「おれは赤な?」
「おれは断然緑派」
「やっぱ、コタはどっち両方とかいう……舐めたこと言うどっちつかず?(笑)」
「タヌキとキツネだけじゃなくて、こうもりもかよ。ギャハハッハ」
「クッ(ぐぬぬ)」
「あのね、狐太郎君。動物は好きだけど、狐太郎君とはちょっと……付き合えないかなぁ」
「どどどど、どうしてか、き、聞いても良いかな?(ぐぬぬぬ)」
「うん。あのね、狐太郎君。私どっちかというと……」
「ど、どっちかというと?(くっ、また名前のせいなのか……)」
「女の子の方が好きなの!」
「へっ?」
「あのね、あのね。犬とか猫はもふもふして可愛いし、さわり心地もいいでしょ?
それと同じで女の子もさらさらしてたり、化粧とかして可愛いからいろいろ目移りしちゃんだけど……」
「しちゃんだけど?」
「うん、うん、それでね――男の子ってカサカサしてるし(汗)臭いし。
ちょっと触りたいなぁって思わないんだよね!」
「………………」
「あと狐太郎君って、なんか話も合いそうにないし。今までも結構話聞き流してたんだよね~。
だからさ、もう一度いうけどさ……『絶対無理』」
無理 無理 無理 無理 むり ムリ ムリ・・
「それじゃ私帰るね。じゃあね~」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――よくも純情を弄んでくれたなーーーーーー!!
『いままで通り友達で居ましょう』
って言葉すらなかったってことは――友達でもなかったのか!!
……
…………
……………………
おっと最後は違った。苦い想い出だから一緒に出てきやがったか!
今はそんなことどうでもいい。やるべきことがあるはずだ。
――――思い出しても辛いだけだからな……。
話を戻すが、日本人に近い容姿で名前が外国人に近いからと言って、判断できなくなっているのだ。
だが、おっさんは間違いなく日本人ではないだろう。
なぜなら――
名字までキラキラしたやつなどいないのだから!!
名前によるイジメとか、キラキラネームとかは想像したものなので。
スルーしてください。