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34.脅威のねこパンチ





 気配を殺して、ゆっくりゆっくり近づいていくと、そこには黒く大きいもこもこがあった。

 そのもこもこは先が折れたとんがり帽子を被り、ゴルフクラブのパターのようなものを逆さにした杖を持って、踊っているようにみえた。

 いや踊っているのではない、あれは俗に言うお尻フリフリだ。

 むっちりとした大きいもこもこ――毛玉はフリフリ、フリフリしながらゆっくりと進んでいるようだ。


「にゃにゃにゃー。もう、うごきまわるのはやめたのかにゃー」

「く、僕はまだ負けていない!」

「くちだけはいちにんまえだにゃー」


 どうやら毛玉と、傷つき倒れた少年は争っているようだ。

 いままで見たことがないが、あの喋る毛玉は妖精族というやつなのだろうか……。

 毛深い人族とは流石にコロナも考えたくかった。

 もっとも妖精族というはケット・シーから連想しただけに過ぎない。



(状況がわからない状態で、無条件に助太刀とか可愛いに限る)


 実益しか気にしないコロナは、現状動くつもりはない。

 コロナは少しでも情報を収集するため、【聞き耳】を活性化させる。


 すると動きがあった。


父親オヤジと同じく! お前倒して! 僕も錦を飾るんだぁ!」

「おまえにはむりだにゃ。」

「うるさい! うるさい! うるさーーーーーい!

 『傷を負いし、愚かなる者に救済を』 ――――【ヒール】

  『其は、打ち抜きし風の弾丸』 ――――【ウィンドショット】!」


 少年は傷ついた身体を【ヒール】で癒したみたいだが、完全に治ったようにはみえない。

 あれでは傷口がなんとか塞がっている程度だろう。


 そして続けざまに、装備している《弓》を引きながら矢に【魔刃】を発動し、その上で魔法を使ったようだ。

 矢で放つからこそできる力業であり、それ故使用後は矢が壊れてしまうだろう。消耗品として扱う必要がある使い方だ。



(なるほど……確かに威力はあがるだろう。だけど【魔刃】より【ブースト】の方が理に適っているな)


 コロナの推察したとおり、【魔刃】はその威力のあまり命中率が極端にさがるのだ。まっすぐにとばないといっていい。

 それに引き換え、魔力は上がらないが、命中と若干の威力があがる【ブースト】との重ねの方が効果的だろう。


 しかしその分《操作》の数値が高くないと、魔法の二重発動・・・・は難しいのだ。

 当然補助輪など付けているコロナにはできない荒技なのである。

 平たく言うと、当てるのが難しいか、扱うのが難しいかの違いにすぎない。

 実は今回の場合はどちらも不正解だったのだ。

 そう逃げるのが一番よかったのである。



「むだにゃ。にゃおーーーーーーーーん、いでよミャンター」


 そう毛玉が大声を出すと、どこからともなくミャンター達が現れた。

 そして現れたミャンターの内の一匹が、肉壁となってその攻撃を防いでしまった。


 仲間意識で庇った……というよりも壁にするために、召喚したようにコロナの目にはみえた。


 本来貫通性能のある【ウィンドショット】であったが、矢の耐久性の問題でミャンターに当たるとともに爆散してしまう。

 これが毛玉に当たれば、被害は凄まじいものとなっていた可能性は高い。

 それだけの威力は秘めていた。だが、当たらなければ意味がない。


(大技に頼る典型だな……馬鹿の一つ覚えに近い)



 大技を放っただけに、その消耗は激しいとみえる。

 コロナから見て、既にあの少年はMPも尽きかけて、さらに大技後の硬直をしているようにも思えた。


 その隙を見逃す毛玉たちではなかった。


「ミャンターたちにょ! ひっさつのねこパンチだにゃ!」


 毛玉はそうミャンターたちに命令を出す。

 ここまでくれば、コロナにももうわかっていた。あの毛玉こそ、これが今回危険視されていたボス《魔女ニャンター》なのだろう。

 魔女というからには雌であるはずなのだが、正直わからない……といったほうがいいだろうか。

 仮に判別したからといって、特にいいことなどない。

 だから気にしないことが一番なのだ。


 その《魔女ニャンター》だが、実によくミャンターたちを操っている。

 少年を取り囲ませ熱烈なパンチ、もといひっかき攻撃をくりださせている。


 じわじわとなぶり殺すつもりだろう。《魔女ニャンター》自体は消耗していない。

 つまり隙などないのだ。これでは少年はどうやっても勝ち目はないだろう。


(これが本当のキャットファイト……)


 コロナはどうでもいいこと思っていた。

 暇なときこそ碌な事は考えないものだ。コロナは見物するのにも飽き、暇を持てあまし始めていた。




「ぐうぅ…こんな、ところで……グッ」


 やはり、あの少年はミャンターたちの攻撃で、態勢を整えることができていない。

 しかし、それでも命にかかわるようなものとは思えなかった。


 所詮ひっかき攻撃である。威力などたかがしれている。


 しかし、受付嬢カーチャンは命にかかわると明言していた。

 どうして危険なのか正直コロナにはわからなかった。


 それゆえに横殴り……とかあるんだろうかと悩み、気絶する瞬間まで待ってみるつもりだったのだ。

 だが、受付嬢カーチャンが慌ててたのは、それ相応の理由があったのだ。


「『ゆうがとうにさそわれしものどものごとく、はかなくちれ』――――マジックバ・・」


(――ッ!? 魔法だと!)


 まさか、魔物が魔法を使うとは思っておらず、油断していたといってもいいような状況だった。

 そしてこれこそが、危険視されていた理由なのだと瞬時に判断し、戦闘に急ぎ介入した。


(まずいっ!! 間に合わん!)


 コロナはとっさの判断で、ポケットに入れてある石を取りだし【投擲】で投げつけた。【魔刃】を使う余裕すらない。

 とはいってもスキルの効果でその石は勢いよく跳び、《魔女ニャンター》の後頭部らしき所に当たることになる。衝撃で態勢を崩させることには成功した。


「ニャッ!?」


 バランスを崩した拍子に、地面に手をつき声を上げてしまう。


(セ~~~フ。――どうやら詠唱中断は現実でも有効らしいな)


 やはり、ゲームになぞって行動をするコロナ。

 それが良いか悪いかは別として、今役に立ったのは事実である。



「いたいにゃ! だれにゃ!?」


 そう言って振り返る《魔女ニャンター》。

 初めて正面から見たその顔は、すごく――ブサイクだった。

 ひょっとこのような顔に猫のひげ。それでいてぱっちりとした猫目。そしてプニプニではなくブニュブニュとしてそうな肉球。

 これを可愛いや、モフモフしたいと思うものはまず居ないだろう。


 だが、この場においては有り難いことだったろう。愛玩動物を攻撃するのは流石のコロナも、精神的苦痛を多少なりとも伴うのだから。



「ふん、貴様に名乗る名などない! 俺はかつて田貫狐太郎と呼ばれた男。ただそれだけだ」


 微妙に名乗っているが気にしてはいけない。

 ――――彼はピンチ出かけ付けるお助けキャラに酔っているだけなのだ!


「にゃら、そのまま、にゃのらじゅしぬがいいにゃ。

  『ゆうがとうにさそわれしものどものごとく、はかなくちれ』――――【マジックバルカン】」


 さきほど不発だった魔法をコロナに向かい放つ。

 ――魔法【マジックバルカン】とは、ただ魔力で作られた矢を連射するだけの魔法だ。

 だが、その数はあまりにも多い。完全に回避することなど不可能に近い。



「『周囲を拒む空気、彼のものを拒絶せよ』 ――――【ウィンドウォール】」


 【ウィンドウォール】は魔力風の障壁である。

 物理攻撃だけでなく、むしろ魔法を防ぐための防御魔法。その構成は全魔法中最速と言われており、まさに後出しじゃんけんといえる。

 ただ問題もある。相手の《魔力》の方が明らかに大きかったり、使用者の《操作》があからさまに低すぎたりする場合は、貫通してくることを覚悟しなければいけない。

 そして今回の場合、《魔女ニャンター》の魔力はそれほど大きいわけではないのだが、補助輪魔法使いのコロナの《操作》は前提条件にひっかかってしまう。


 所々、魔力の壁を抜けてくる魔力の矢。それを【魔刃】を使用したエペで切り払っていく。

 だが《刺突剣》は切り払いに適さない武器である。それ故にこのまま無理を通せば、そう遠くない内に壊れることになるだろう。


 そこでコロナは削れた魔力風障壁を足場とし、飛び上がった。同時に魔力の制御を止め、【ウィンドウォール】を解除する。


「にゃんだと!」


 《魔女ニャンター》は驚きのあまり声を荒げてしまう。予想外だったのだ。

 本来、《魔女ニャンター》は丁寧な言葉を使いをしている。かならず敬語である「にゃ」を付けることを忘れない。

 だが驚きのあまり思わず語尾に『にゃ』を付けるのを忘れてしまった。



「『炎よ、踊れ。紅蓮に染め上げ塗りつぶせ』 ――――【フレアバースト】」


 そしてコロナは空中で戦況を確認し、取り巻きのミャンターからまず始末することにした。


(少年にとりついてるのは範囲外にしたが、多少は爆風でダメージがあるかもしれないがな……そこまでは知らん)


 【フレアバースト】の効果により炎が煙を生じ、巻き起こした爆風が煙を拡散させる。それによって辺り一面は白く彩られている。

 未だ空中にいたコロナはその限りではないが、彼以外の視界は塞がれていることだろう。

 不穏な考えもあったが、予想の範囲内でしか爆発は起こらず、少年にまで被害は及ばなかった。


 爆風が収まれば、次第に視界がはっきりしてくる。そうなってしまえば、また猫たちの饗宴が始まることだろう。

 そんなことはさせないと、コロナは地面に着地するなりすかさず行動に移す。


「『我は全てを求め、全てを手に入れる』 ――――【ブースト】」


 それと同時にその場所から飛び跳ね、少年にねこぱんちをしていたミャンターに襲い掛かる。


「はっ!」

「フニャー!!」


 コロナの突きだした『エペ』は、ミャンターの頭に突き刺さり光となり消え失せる。

 そして次の標的――と思ったときだった。


 辺り一面の視界は既に開けて始めており、もはや煙幕として体裁を保っていなかった。


「いくらミャンターをたおしたところで、むだにゃ。むだにゃ!

  にゃおーーーーーーーーん、いでよミャンター!」


 《魔女ニャンター》は再びミャンターたちを呼び出した。まるで先ほどの録画を表示するかのように。

 しかし、それだけでは終わらなかった。


「「「「「「「「ニャーーーーオ、ミャオーーーーーン!」」」」」」」」


 《魔女ニャンター》に呼応するように、呼び出された8匹のミャンターがそれぞれ【集会】を使い2匹ずつ呼び出したのだ。


 ――――総数24+1



「にゃにゃにゃにゃ。みにゃのもの、かかるのだにゃ! ねこぱんちのまいだにゃ」


 《魔女ニャンター》が発した声とともに、ミャンターたちはコロナへと襲い掛かる。

 だがしかし、それにコロナは慌てるようなことはなかった。


(フッ、遅いなっ!)


 ミャンターたちの動きは確かに速い。しかし、目で追えない速さでもない。

 さらに室内でかつて苦しまされた時とは違い、ここは屋外。その動きは直線的で実に単調だ。



「『風よ切り裂け、其は兇刃の刃なり』 ――――【ウィンドカッター】!」


 コロナ普段以上に大きな素振りをする。

 『密度を薄く、範囲を広く』それをイメージした斬撃だ。

 それが形となると、馬鹿正直に突っ込んでくるミャンターたちを切断し、貫通していった。


 風の刃が通り抜けた後は、ほぼ全てのミャンターは光になって消えていく。

 そして、この隙を見逃すコロナではない。


「『我は全てを求め、全てを手に入れる』 ――――【ブースト】」


 使い慣れた【ブースト】を使い、《魔女ニャンター》に駆け寄る。


 ――――スキル【疾駆】を習得しました――――


(ん? スキルが手にはいったか……。――だが今は後だ!)


 目的であったスキルの習得よりもいまはただ、あのブサイクで、猫の風上にも置けない魔物を消滅させたい。その気持ちでいっぱいだった。


「猫は……猫は! 猫人が許されるのは可愛い子だけだろーがああああ!」


 魂の叫びに導かれ、コロナは無心で力を振るい続ける。

 素早く動き敵の懐に入り込む。その動きはもはや《魔女ニャンター》では捕らえきれない。

 完全に無防備となった《魔女ニャンター》にコロナは怒りの鉄槌を下す。


 ――――【魔刃】と【連撃】の同時使用。


 普段使いもしないスキルも混ぜ合わせ、自分の実力以上のものを発揮した。

 スキルの二重発動は魔法ほどシビアではない。肉体に負担がかかわるため、HPが下がる程度だ。

 だが、それでも普段のコロナでは扱えない技術。怒りの力とは時に人の限界を超えるものなのだ。



 一方、完全に不意をつかれてしまった《魔女ニャンター》。

 不意はつかれたとしても、態勢は崩れてはいない。その身を素早く動かし後ろへと飛び跳ね、コロナが繰り出す連続突きを回避しようとする。

 そして大きく後ろに飛ぼうとした瞬間――


「『周囲を拒む空気、彼のものを拒絶せよ』 ――――【ウィンドウォール】」


 コロナは《魔女ニャンター》の後ろに魔力風障壁を生み出す。

 逃げ場を失った一匹の哀れな猫に、慈悲もなく『エペ』で蜂の巣にしていく。


 その攻撃に《魔女ニャンター》は耐えきれず、ついには膝をつく。そして光に包まれ、消失するかという寸前――


「いいかげんするにゃぁあああああ!」


 と叫び声を上げコロナに襲い掛かる。


 それはあまりに完璧なカウンター。

 伸びきった腕と足、回避することも、防御するにも1動作を必要とする状況。

 まさに死に体であるコロナを《魔女ニャンター》は殴りつけた。


「くっ!!」


 コロナは咄嗟の判断で、動きが可能である腕――盾をかざし、それを防ごうとする。


 しかし、それは強烈な一撃であり、たとえ盾越しだとしても、スキルレベルの低い【衝撃耐性】など貫通してしまった。

 力負けしてしまったコロナはあっけなく吹き飛ばされてしまった。

 その身体は宙を浮き、勢いよく吹き飛んでいく。人間砲弾と化したコロナは塀を破壊し、家の壁にまでヒビを作ってしまった。

 ――住人がいたら、コロナは賠償金を取られたことだろう。



「ぐぅ、く、くっ、こいつ、魔法や召喚より、格闘した方がつえんじゃねーのかよ」


 その衝撃で、一瞬気を失ってしまっていた。そのことに思わず悪態をついてしまう。


 そんなコロナの前に影が現れた。


(まさか追撃か!?)


 まともに動けない状態に冷や汗をかきながら、顔を上げると……そこには――――



 ――――人面犬が居た。

 

 

 

 

 

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