31.もうスペランカーとは言わせない
「知らない天井だ」
それは当然である、他人の家なのだから。
中に入った家の造りは、3DKといったこぢんまりとしていた。
フロアリングのダイニングキッチン。そして和室が3室。
畳がある事に驚いたが、休憩するにはちょうど良いと思い寝っ転がる。
一息をつき、水筒から水を飲む。
ゴクッ、ゴクッ、ゴク
限りがある水なので、少しずつ飲み干し、潤す。
お腹は空いている……というほどでもない。下手に腹を膨らますと動きが鈍るため、弁当を食べるということまではしなかった。
人心地をついた後、さっそくやるべき事を果たした。
――――そう、家捜しである。
この宅では何もなかったが、
(勇者である俺は家捜しをする義務があるのだ!)
コロナの中では勇者というものは、タンスなどを漁る者を指していた。
もちろんそんな意味はないのだが、彼らはその事で罪に問われることはない。
――これもゲームでの話である。ゲーマーでないといいつつも、すっかりゲーム脳になっているのだ。
コロナはそういう気分になって、他の家もと……次々に入り込み調べていった。
(いや……待てよ? 勇者は壺とタンスと宝箱しかあけない……。俺がやっているのとは違う)
――――ならばこれは家捜しではなく、そう家宅捜査だ。
(選ばれし者達――捜査令状を持った警察機関のみができるというその御技だ)
3件目――
そこには、ダンジョンといえばこれ……というべきあるものが安置されていた。
「ほう、宝箱を見つけたか!」
そう、宝箱。ゲームにおける謎の一つである。
宝箱自体に細工が素晴らしいものがあったりするものだが、今回見つけた物は木製のものであった。
ダンジョンに何故か配置されている。
そしてダンジョンのボスを打倒しうる装備が、支配する領域に置かれているという。
最近ではインスタントダンジョンというものがあり、ダンジョン構成自体の構成が変わり、宝箱も永遠に生産される。
――――何故だろう? このボスは頭が悪いんじゃないのか? 自殺願望なのか? 作っているメーカーもご都合主義的なものはそろそろ止めろよ――――
と、そんなことを考えた事はあると思う。
あって嬉しい宝箱。開けて嬉しい宝箱。あの武器が欲しい。あの装備じゃわからん。装備しましょ。そうしましょ。
――――○○は呪われた!
普通はこうあるべきだ。
客観的に見るとおかしい、間違っている! と主張したいが、いざ自分の……となると、当然あって欲しいに決まっている。
その事を棚上げにして、迷わずオープン・ザ・ボックス。
コロナは宝箱を開けた……………………宝箱には…………なんと、石けんが入っていた。
『石けん』×6 を手に入れた
(石けんだと……こう――、生活用品だと、ますます家捜しした気分になるな)
いままで風呂場に石けんやシャンプーなどがあった。
コロナはどこで作っているのか不思議だった。
魔道具とかで作っているのかと思ったいたくらいだ。
(こうしてダンジョンで入手したということは、これも一種の特産品とでも言えるのだろうか……)
しかし、気にしていても何も解決はしない。
――――ならば行動だ。
(よし、検証というなの家捜しを続けよう!)
そう正当化して次の家宅に突入した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギィギギーッ
むむっ!? ……玄関ドアが開いたようだな。
ガタン…ガタン……ギシ…ギシ ――カチャ
どうやら中に何か入り込んだようだ……。
私は身を音を立てずに潜め、ある場所に隠れた。
バタン!
何かは扉を勢いよく扉を開け放った!
ガサガサ…ガサガサ…
やった!
やつは私が仕掛けた罠に嵌まったようだな。
クククッ。
身を潜めたところから躍りでて、背後から敵を奇襲した。
私が放つ鋭い斬撃に、敵は回避する事もできない。
どうだっ! やったか!?
しかし、堅い物で防御したようだった。
――――クソッ。
私は仕方なく後ろに飛び去り、相手の射程範囲と思われる所から退避した。
ガサ、ガサガサ
この暗い室内では私の位置を把握できないのだろうか……敵は少しずつ動いている。
だが、私には見えて居るぞ!! そこだ!
そして再び襲いかかる。
今度は防御させる事もなく、奴の肉を切り裂いたのを感じた。
しかし、残念ながら……それほどダメージを与えたようには見えなかった。
焦るな! ……このままじわじわ削っていけば、必ず勝機はあるっ!!
そう言い聞かせ、私はまた闇に潜み気配を殺した。
ガサ カサ……
――しまった!
やつは罠から逃れたのだ!
これではやつの場所がわからないではないか!
私は首を動かし、やつの居所を探った。
――――見つからない。
まずい……このままではやられる。
そう思った瞬間――
ビシューッ
ぐはぁッ
くそ! 躱したと思ったが、敵の攻撃を擦ってしまったらしい。
ガコーン!!
ぐぐぐぐ! よくも!
やつは私が身を潜めていた場所を吹き飛ばした。
このままではやつを倒す事はできない。
これだけは使いたくはなかったが、仕方がない。
私はそう決断し、最終手段に出る事にした。
「ニャーーーーオ、ミャオーーーーーン!」
魔物《ミャンター》はスキル【集会】を発動した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いきなり猫は鳴き出した。
なんだこいつ? 痛くて泣いているのか?
そう思って、様子をみる……なんて殊勝な態度を取る俺じゃない。
――――弱った敵には追撃だ!
そしてエペを握り直し、トドメとばかりに襲いかかる。
ステップを踏み、万全の姿勢からの刺突。
かつてないほど改心の突きだ。
これはやった!
と当てる前から手応えを感じた。
しかし、その攻撃は外れる事となった。なぜなら――――
ぐうぅ! 伏兵だと!?
そう、横から何かが腹にタックルしてきた。
それだけではない、顔にも攻撃がきたのだ。
決して油断していたわけではない。しかし予想外のことに対応できるほど、成熟しているというわけでもない。
……一度状況を確認する必要があるな。
バックステップをしてその場から離れたあと、深呼吸を繰り返した。
――――影が3つに増えている。
やはり伏兵だったのか!?
室内には他に気配などなかったはずだが……。
俺が部屋に入ったときには、紙のくずが床に散らばっていた。
何か怪しく感じたから警戒していたのだが、案の定猫が奇襲してきた。
やつはこたつの中に潜んでいたのだ。
周りを見て他には何もない事を確信した後、それの中を確認することにしたのだ。
【ブースト】を唱え、じわりじわりと位置取りを変える。
攻撃とともに蹴っ飛ばせる位置に来たとき、俺はためらいもなく猫に襲い掛かった。
刺突を終えると同時に、そのまま全力でこたつを蹴飛ばした。そしてそれは壁まで吹き飛び、ばらばらになった。
このとき、こたつがあった場所には何もいなかった。
それで猫に引導を渡すべく、渾身の一撃を放ったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3匹の猫がコロナに襲い掛かる。
その連携は熟練のもの、というよりは本能がなせる技なのだろう。
一見ばらばらな動きなのだが、それは実に理にかなっている。
コロナが攻撃を仕掛けようとすると、別方向から時間差で2匹襲い掛かってくるのだ。
1匹ずつ相手にしていては拉致があかない。かといって複数の標的に放つ技は持っていない。
【ウィンドカッター】にしても縦か横の一直線にしか狙えない。
他に方法はない。コロナはそう決断すると、ある行動にでた。
――――そう、肉を切らせて骨を断つ。
一匹の猫が襲い掛かってきた瞬間、その猫を無視した。
それをしてしまっては先ほどと同じ結末になるからだ。
向きを変え別の方向から襲い掛かってきた猫に、コロナは集中する。
「『風よ切り裂け、其は兇刃の刃なり』 ――――【ウィンドカッター】!」
動作を入れない、威力の弱い魔法を唱えた。
斬撃込みの詠唱だと、攻撃を受けたときに態勢を崩されてしまう。もしかしたら外す可能性がある。
そしてその目論見通り、一匹の猫を両断した。
次いでタイミングをずらしてやって来た猫を串刺しにし、
「『風よ切り裂け、其は兇刃の刃なり』 ――――【ウィンドカッター】!」
再び魔法を唱えた。今度は斬撃を込めた【ウィンドカッター】だ。
猫が刺さったままの斬撃は、その猫を吹き飛ばし、最初に攻撃してきた猫を切り裂いた。
そのまま、猫どもの様子をみていたが、光となって消滅した。
「ふぅ、かつてないほどの難敵だった。まさかチームを組んでいるとは……」
ぼっちなコロナには、その点において敗北感を感じたのであった。
「『傷を負いし、愚かなる者に救済を』 ――――【ヒール】」
最近あまり使わなかった【ヒール】。
すっかり呪文を忘れているかと思ったが、使おうという気になった瞬間に呪文が脳裏に浮かんできた。
――身に刻まれたことはこうやって忘れる事がないのだ。
そして呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻すと戦闘の名残を残した乱雑な部屋を眺める。
するとあるものに気付いた。
そう、コロナはドロップアイテムを探していたのだ。
コロナはプレゼントBOXに近寄り、その手に触れる。
『缶詰』 を手に入れた
(ねこ缶……、まっしぐらというやつだろうか)
いや、別にねこの食べ物限定というわけではないだろうが……。
しかし、あれだけの戦闘の後に、これしかないと少し脱力を覚えてしまった。
コロナはダイニングに戻り、弁当を食べる事にした。
猫との戦闘で疲れたのと、気分転換。それが必要だった。
気が乗っていないと集中力が散漫になってケガにもつながるし、良い事でも悪い事に変わってしまいそうな感じがしたのだ。
そして弁当を食べ始めてると、不意に缶詰が気になった。
缶切りがないので、食べる事ができないかもしれない。
しかし気になる物はどうしようもない。
少し悩んだ後、ギルド証からアイテム化をしてみた。
そう、アイテム化をしていなかったから、実験をするという名目なら自分を許せるからだ。
すると――――
目の前に光が集まり――魔物が消滅する時の逆再生――缶詰が現れた。
どこからどう見ても缶詰だ。
(ラベルはないし、製造年月も書かれていないな。消費期限とか大丈夫なのだろうか……)
など地球のものとの違いを探した。
しかし特に違いは無く、至って問題などなさそうに思えたのだ。
一方違う意味での問題があった。
――――プルタブ。
そう、プルタブがあったのだ!
『開けろ!』という欲求と再び戦う事になるコロナ。
買い取り価格はどのくらいなのかわからない。そのため悩みに悩んだが、結局好奇心が上回ってしまった。
好奇心猫をも殺す、だ。
本来ならこのまま持って帰るのが本道だろう。
(だけど……猫を殺して手に入れたのだから別にいいよね?)
ことわざよりも事実を優先するべきだ。
好奇心で猫を殺したんだから、好奇心で缶詰を開けても問題はないはず、とコロナは思ってしまった。
高く付いたところでこんな低層で獲れた物だ。たいした値段は付かないだろう。
そう決断をし、蓋を開けた。
缶詰の中身は――……桃缶だった。
(デザート代わりにいいな)
そしてスタッフが美味しくいただきました。
後々聞いた話でコロナは冷や汗をかくことになる。
――何が入っているかわからないから、シュールストレミングみたいなものの可能性もあったのだと……。
お腹が膨れ、コロナは再び家捜しと、街の探索を始めた。
この街の外は人面犬と蝉《ゼミナール》、そして屋内には猫《ミャンター》しかいなかった。
ちなみに名称は後日、ギルドでこのダンジョン《ガイニース》の文書を読んだときに判明する事になるが、今は関係のないことだろう。
それはさておき、今現在の話だ。
一度体感したコロナにとって、ゼミナールと人面犬のコンビは問題としなかった。
「み、みずぅ、みずこわぁああああい、でものどぉおおおおかわいたぁあああ」
といってるゾンビみたいなのを時々見かけたが、訳あって見なかった事にしたのだ。
――ただ単にコロナを馬鹿にしてた連中だったからだ。探検家ダセーと。
あんな事叫んでると余計のど渇くのにと冷ややかな目で見たてしまったものだ。
コロナは自分に優しくない者に親切にするほどお人好しではない。
むしろ指を指し、「ぷぎゃーーー」と叫んでやった。後悔はしていない。
がしかし、彼らはそれどころでなかったようでコロナが『プギャー』してるのも気が付かなかった。
気付かれないほどむなしいものはない。
コロナはそっとその場を離れたのだ。
次に室内。
ミャンターの伏兵に今度こそ、と気を付けたのだが――猫が叫ぶと伏兵が現れる。
これにより伏兵ではなく、増援――召喚に近いものだと初めて気が付くことができた。
3度目は先手必勝とばかりに、部屋に入るなりこたつを【ウィンドカッター】で切り裂いた。
結果これだけでミャンターは死んでしまった。
(お、俺のさっきまでの苦戦って……いったい…………)
その事に気付き、地に膝をつきうなだれてしまった。
それからは家宅捜査がとてもよく進んだのであった。
そしてダンジョンを引き上げる頃までに手に入れたアイテムは、
===========================================
・石けん ×36
・シャンプー ×8
・リンス ×9
・もふもふな毛皮 ×21
・黒蜜 ×11
・ねこ缶 ×7
・ナイロンの服 上下 ×3
===========================================
であった。
トリートメント、洗顔料、そして化粧品はなかった。
もっと下の階層に行けばあるのかもしれないが、B1Fには存在しなかった。
そして『ナイロンの服』。これは今着ている服よりも、肌触りがいい。
(所詮生活保護者が着る服か……)
と納得せざるをえない答えに、再びうなだれるしかなかった。




