30.突撃! となりのダンジョン
コロナは深く、深く落ち込んだ。
回避不能な罠――悪意の塊であるギルドに、はまり込んでしまった事に。
師匠であるレイニー慰めて貰うことで持ち直す事はできたのだが。
「ダンジョンにですか?」
「あぁ、レイニーちゃん。
そろそろ俺もダンジョンデビューをするべきだと思ったんだ。探索者だしな!」
『探索者? 探検家』ということは棚上げにしている。
だが、悪い事ではないと思う。強くなるのには敵を倒す事が一番なのだから。
そのような意見をレイニーに話すと、
「そうですね……、日帰りでしたら問題ないと思います。
【イモ】で許可されている場所でしたら、救助も簡単にされると思いますし。
そもそもあそこには殺傷能力をもつ魔物は居ませんから」
と保証してくれた。
それゆえ安易に飛びつく。
「じゃあ、安全に強くなれる……のか?」
「安全とは言い切れませんね。
ちょっとしたケガならギルドの救護室で直して貰えますが、本来有料なんですよ?
コロちゃんは生活保護を受けているので無料なんですけど……腕が切られたとかとなると、専門の治療を受けないといけないのです。
そこまでは生活保護も面倒を見てくれません。借金という形にされてしまいます」
浮かれ始めたコロナを見越して、釘を刺してくる。
「借金……いやな響きだ。しかし救護室も無料じゃなかったのか」
「ええ、本来私とお話するのにもお金がかかりますよ」
「キャバクラか!?」
「きゃばくら? それって何ですか?」
どうやらキャバクラという言葉はこの世界にはなかったようだ。
(しかし、キャバ嬢なレイニーちゃん……そそるなぁ)
などと、どうでも良い一幕があったとか……。
ちなみにレイニーとの会話が有料というのはもちろん冗談である。
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――――ダンジョン
そこは扉がある祠。
その祠には地下へと続く階段がある。
階段を降りた先には、それぞれ違う世界があると言われている。
コロナは現在地下へと続く階段を降りていた。
そして最後まで降り、ダンジョンという世界を垣間見た。
そこは――――――
街があった。
そう、地球の日本の街が――
「は?」
コロナは幻を見たのかと思った。
ここはお約束である頬を抓ってみる。
「痛い。これは現実だ」
痛みを覚えたからといって、夢じゃないという否定は正直どうかと思うが……。
――明晰夢というのは、感覚さえも有する場合があるという。
そんな状態なら頬を抓って痛かったからといって、それが夢じゃないという証明にはならない。
だが、そんなことはコロナも分かっていた。
――――雰囲気を味わってみたかっただけなのだ。
冷静にならなくても後ろを振り返るだけで、空間にポツンと佇む扉が見えるのだから――ここが地球でない事などわかるのだから……。
(しかし、ここは本当にダンジョンと呼ばれるところなのだろうか?)
周囲を見回し、様子を確認する。
立ち並ぶ家々。ビルなどの高層建物は存在しないが、2階建ての普通の家。――一戸建てではあるが庭などない。
電柱らしき物はあるが、電線はない。しかし街灯が点灯している。
そう、夜の帳に包まれているのだ。
はたして、この世界――ダンジョンに朝という概念があるのだろうか。
またこれは本当に夜なのだろうか?
地下にあるため、暗いだけなのかもしれない。
そんなことを思っていると、明らかに違うと感じる場所を発見した。
それは――――
番犬だ。
番犬といってもただの犬ではない。
都市伝説として有名な人面犬なのだ。
――――すごい気持ち悪い。
いろんな顔のがいるが、特にイケメンなのがシュールだ。
女性型がいないのはせめてもの救いだ。
それと番犬というには訳がある。
一戸建ての家に犬小屋が有り、首輪とリードでつながれているからだ。
(――もしかして、いやもしかしなくても、こいつらは魔物なのか?)
そう思い、武器を取って接近してみることにした。
すると飛びついてくるではないか。
――――これは攻撃だ!
攻撃ではなくても、人面犬が飛びついてくる時点で精神攻撃と見なしていい。
動物保護団体など知った事ではない。気持ち悪いのだ。
コロナは反射的にエペを構え、人面犬を突き刺す。
「きゃい~ん」
(ウ○か!?)
と思わず口に出したくなるような鳴き声だった。
――ちなみにその人面犬はモヒカンではなかった。
どうやら一撃で仕留める事ができたらしく。薄く光りを纏い消滅していった。
特産施設みたいにドロップアイテムがあるか確認したが、何もない。
どうやら確実に落とすという訳でもないのだろう。
気を取り直して、イケメンな人面犬を主とし討伐していった。
弱いし、八つ当たりに最適なのだ。
滅ぶべしイケメン!
しばらく作業に夢中になると、消滅した人面犬の居たところにアイテムらしき物をみつけた。
――箱だ。
箱がある。ラッピングされてリボンが付けられたプレゼントBOXとでも言うべきか。
宝箱ならぬプレゼントBOXをドロップするのか。
そう思い、手に取ると――
『もふもふな毛皮』 を手に入れた
と脳裏に浮かび上がった。
(な、なんだ!?)
びっくりして、周囲を見渡す。
しかしコロナに話しかけたとしても、聞こえるような所に人などいない。
これはどういうことか、それに『もふもふな毛皮』と思っていると、
『もふもふな毛皮』 をどうしますか?
→ 収納道具にしまう
開拓共同体認定書にしまう
このままアイテム化する
すてる
と表示された。
収納道具は持っていないし、アイテム化すると邪魔になる。
→すてる それをすてるなんてとんでもない。
そういうことで開拓共同体認定書――ギルド証にしまう事にした。
確認のために、ギルド証を使ってみると、
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開拓共同体認定書
名前:コロナ・パディーフィールド
存在強度:24
種族:渡界人
職業:探索者
階級:D-3ーイモ
HP:624+1700
SP:142
パラメータ
攻撃力:20+10
肉体強度:26+12+5
魔力:(5+35)
器用:32
操作:(16)
速度:17-26
依頼履歴>
ダンジョンアイテム化>
===========================================
ダンジョンアイテム化という項目が増えていた。
そこを押してみると、画面が切り替わり、
・『もふもふな毛皮』×1
表示されていた。
これをアイテム化することで物が出てくるのだろう。
最大数とか気になるが、現状では調べようがないのでコロナは気にしない事にした。
それにそれ以上に気になるところがあったからだ。
『職業:探索者』
『?』が消え、探検家が消失していたからだ。
確認のために自己能力を表示して見たが、そこでも消えていた。
コロナは両手を天に向かい、勢いよく振り上げた。
「やった、俺はついにやったぞぉぉおおお!」
叫んでも仕方がないことだろう。それほど嬉しかったのだ。
しかしここは――ダンジョンである。
「グハァッ」
横から衝撃を受け吹っ飛んだ。
腕を振り上げていたために、無防備な横腹へと何かがタックルをしてきたのだろう。
コンクリートらしき塀までノックバックし、よりダメージを受ける事となった。
ダンジョンはそうそう気を抜いていい場所ではないのだ。
「い、いてぇ」
だが、ロナルドの訓練はこの程度のもの数ではなかった。
頭を振り、気付けをし、素早く立ち上がり、腰を低くして盾を構える。
そして状況を確認することにした。
すると――
『ミーンミンミンミンミーーーーーン』
と蝉の鳴き声が聞こえた。
(セミ?)
段々とその鳴き声が大きくなる。
『ミーンミンミンミンミーーーーーン!!!!』
あまりのうるささに耳を塞ぎたくなるが、そんな事をしては隙ができる。
――――敵がいるのだ!
その時、飛来する黒い影を視界に捉えた。
(何だ!?)
気になったものを観察する。
そして……衝撃を受ける。しかし、今度は盾でしっかりと防御することができた。
その結果、その影は跳ね返り地面へと落ちた……ように見えた。
コロナはそれを確認すると――
(セミだ……しかし、とんでもなくデカい!!)
その影は巨大な蝉だった。
――コロナは知るよしもないが、それはゼミナールという名前の魔物であった。
この魔物はその泣き声で、敵対するものの意識を集めてしまう特性がある。
そのせいで人面犬への注意が散漫にしてしまう。
また人面犬にはスキル【狂犬】というものがある。
それを食らってしまうと水が怖くなり、快調するまで水すら飲めなくなってしまうという効果だ。
このタッグコンビのせいで、水が飲めず、体力を失い行動不可能になって、自力脱出できず救助されるといったケースがある。
レイニーが命の保証があるといったのは、日帰りならばその日帰ってこない時点で救助隊を派遣できる。
そして低層故に衰弱死する前に見つけることも容易という意味だったのだ。
今回の場合は、鎖につながれた人面犬は既に倒しているために、この悲劇に襲われることはなかったのだが、油断していたのは確かだ。
そしてその幸運を無駄にしないために、墜落した蝉を始末するために追撃をした。
コロナは足を乗せて飛び立たないようにしようとした。
しかし、落下した蝉は防御力があるというわけではなかった。蝉はあっさりと踏みつぶしてしまい、足は胴体を突き抜いてしまった。
ビチャッ
体液が身体に飛びつく。
(きったねぇ……)
などと思っていたら、その体液ごと消滅した。そのことにコロナはほっとしてしまった。
『黒蜜』 を手に入れた
すぐさまギルド証にしまい、油断なく索敵をする。
再び蝉に襲撃されなるようなことはなさそうだ……などと安心した途端、疲れを感じるようになった。
(これは不法侵入でもして身体を休ませる必要があるな)
休むために、近くにある家の玄関へと行きドアを開ける。
ここでコロナは開かないようなら、窓をぶち破ってでも侵入するつもりだった。
しかし、都合良く鍵が掛かっていなかったので、そのまま侵入することにした。




