25.そんな装備で大丈夫か?
土木作業は過酷であった。1日で《肉体強度》が1あがるというほどに。
辛い仕事だったが稼ぎも良いため、連日で続けようとしたが……。
短期集中工事だったらしく、その後見かける事はなかった。
(ぐすんっ)
そして再び家具職人の手伝いをする日々が戻った。
それは探検家と貶される日々でもあった。
ガラの悪い傭兵達はコロナを『便利屋』と呼ぶ。
【パシリ】のシルバーに世話になっていた者は、
「探検家のダセェやつが今日もいるぜ」
と絡んでくる。
上級階級の者はそんなことに興味ないのか、特に反応はない。
むしろ構っている暇がないのだろう。彼らは更なる研鑽を積むために、日々努力している。
(俺も努力せねば……)
探検家脱却を目指しそう決意する。
職員達からは生暖かい視線を感じてしまう。
無理を言ってアーシャに担当して貰っている。
本来アーシャはまだ登録手続き業務だけしか許されていないのだ。
だが、研修も兼ねてということもあってか許可が下りた。
アーシャもそんな雰囲気を気にしてか、色々と気を使ってくれたのだった。
「コロナさん、そろそろ防具のお金貯まりそうですよね?」
「ん? あぁ、若干足りないくらいだけどな」
「それなら、なんとかなるかもしれません」
「どういうことだ?」
「実はですね――」
アーシャはそこで止め、コロナの耳元に顔を寄せた。
コロナは彼女から漂ってくる香りにくらくらしてしまう。
(チョロ系だけじゃなく、無防備とか。どんだけだよ……)
思わず、彼女を心配してしまった。
それに気付かず彼女は話し続けている。
「――知り合いの親方が、中古品を扱うことにしたって言ってたんです。
それを整備して販売する形になるので、新品を買うよりも安く済ませることができるはずなんです」
「中古品か……、だけど信頼性がどうこう言ってたのはアーシャじゃないか」
そう、確かに言われたことだ。
――装備は信頼性が命だと……。
「私が言ったのは素人が作ったものの事です!
ちゃんと整備されているので、簡単に壊れるようなものじゃありませんよ」
「まぁ簡単に壊れるかはどうかは素材次第だと思うけど。
ふとしたときにパーツが分かれるなんてことにはならないか」
「ええ、そういうことですね。破壊されるのは別として、不良品ないはずです」
「一度見てみるのも悪くはないな」
コロナがそう言うと、アーシャはパァっと顔をほころばせた。
「それじゃ、私の仕事が終わるころ外で待ち合わせしましょうよ。
身内価格って感じに交渉頑張らせて貰いますから!」
興奮したように、顔を上気させ、早口で喋る。
(何に興奮してるのかは知らないが、多分期待することではないだろうな……)
コロナはそう判断した。
思い込みで行動したときは碌な目にあわないのだから。
「じゃあお願いしようかな。でも、そんなことしていいのか?」
「いいんですよ。コロナさんはそんなこと気にせず、周囲を見返してやるって気持ちでいればいいんです」
どうやらコロナの状況に憤慨していただけのようだ。
思わず暴走しなくてよかったと、コロナはそっと胸をなで下ろすのだった。
だが、当然この遣り取りを見ていた者達がいた。
――若い衆である。
彼らは皆アーシャのファンである。
このように親しい間柄を見せつけられては、当然嫉妬してしまう。
コロナに辛く当たるのは、何もシルバーの件だけでないと、二人は気付く様子はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここが、親方の店ですよ」
アーシャが案内した先は、一般的な街の建物だった。
それは当然四角い石造の建物だった。
(正直、店なのかすらも、わかんねぇ)
「ここがそうなのか? 普通の家のようにみえるが……」
「見た目ではわかりませんよ。
武器を扱う店は開拓共同体に登録して貰い、そこから紹介するって形になっているので」
「開拓共同体? あぁギルドのことか」
一瞬なのことかわからなかったが、ギルドの事だと思い出す。
俗称ばかり使っていると、確かに忘れてしまう。
「そうですよ、せっかく教えたんだからちゃんと覚えていてくださいね。
まぁぶっちゃげギルドでいいですけど。私も面倒なので最近はギルドって言っちゃってますけどね。
ちなみに紹介といっても、何処が武器屋なのか、という案内図を渡すだけですけどね」
アーシャはそういって、地図を渡すような仕草をとる。
手に何も持っていない状態でそれをやると、手裏剣を投げているようにもみえるから不思議だ。
「地図は貰えるのか? 作るのは結構手間が掛かるだろ?」
「【地図複製】のスキルで簡単に作れるので手間は掛かりませんよ。
でも、そのスキルを覚えるとお給料が上がるんですけどね。羨ましい!」
「ははははっ」
現金なアーシャに思わず笑いがこぼれ、心が温まる。
それはあたかも学生時代に望んだ光景であった。
青い春である。思わず恥ずかしい気分になってしまう。
「それじゃ早速中に入りましょう」
赤面しつつあった顔を隠す為にも、彼女の案内に従い、その後に続いた。
簡単に後ろを見せてしまうアーシャは実に無防備だ。
(この娘は男を虜にできても、利用などできないな)
赤くなっていた顔が思わず苦笑いへとかわってしまった。
「親方~いますか?」
中に入ると、アーシャがそれなりに大きな声で、親方という人物を呼んだ。
その呼び声が聞こえたのか、奥からドシドシという音が聞こえてきた。
――奥からやってきたのはガタイのいい男だ。
見るからに武器を作ってますといった体裁である。
「おー、アーシャちゃんじゃないか。
今日はどうした? 父親さんのお使いか?」
「違いますよぉ、も~ぅ。いつまで経っても子供扱いなんだから。
私もう働いているんですよ! いい加減子供扱いはやめてください」
「ハッハッハ、俺から見たらアーシャちゃんはいつまで経っても子供と同じよ。
それで父親さんの用事じゃないとすると何の用だい?」
「それはですね、こちらのコロナさんの装備を見繕って貰いたいんですよ。
彼は生活保護を受けていて、身一つから頑張ってきた人なんですよ~」
その遣り取りから、親しい間柄なのがわかる。
アーシャが浮かべる笑顔に堅さなど一切見受けられない。信頼している証拠だろう。
それに反して語られている内容は、胸が締め付けられるようだった。
アーシャは親から独立しているのに対し、自分は――と。
(それにしても生活保護を強調するのは、やめて欲しいなぁ……)
「そうか、初期投資なしでやっていくのは結構厳しいからな。
それで予算はどのくらいあるんだ?」
急に話しかけられ、心構えのできていなかったコロナは少し慌ててしまう。
「え? あ、あぁ。予算だな?
¥221,000しかない。訓練所で聞いた額だと……少し足りないって所だな」
ロナルドがコロナに最低限だと提示した金額は、¥250,000だった。
「ふむ。その金額だと新品は確かに足りないな。
中古装備ならなんとかなりそうだな。ついでに必需品も買えるだろう。
装備はともかく、必需品の水筒、ロープ、灯火の魔道具は消耗品だから、中古って訳にもいかない。
成り立ては、こういう所でケチって失敗するから気を付けろよ? 命にかかわるからな」
親方はコロナにそう注意を促す。
やはり小言が多くなるは年配者の悪癖だろう。大きなお世話だと言いたい。
話の流れを絶つ為にコロナは動くことにした。
「それで買えそうなものはどんなのがあるんだ?」
「どんなのつーか、一つしかないからな。
それで良ければ売ってやるよ。――ちょっと待ってろ」
親方は奥へと戻っていった。恐らく商品を取りに行ったのだろう。
奥からゴソゴソという音が聞こえてくる。
その事から、余り大切に保管されていたのではないと想像がつく。
そしてしばらくすると、捜し物が見つかったのだろう。鎧、盾、靴の順に持ってきた。
「こいつらだ。どれも長く使われてすり減っているが、ちゃんと補強してある。
それに新品で買えるやつよりは、1ランク上の防具だぜ?」
それは、なめした革を木製の型に貼り付けたものであった。
裏地は布で保護され、身体に優しい造りとなっている。
ただ……気になる事が一つある。
――――裏地の布だ。
これは前の使用者の汗が染みている可能性があるのだ。
綺麗好きな日本人であるコロナとしては、流石にそれはちょっと……、となるようなものは身につけたくない。
女性が使ってた汗ならばと、変態じみた考えも浮かんでしまう。
しかし、このような鎧は女性は使わないだろう。サイズも合わないし、そもそも胸部が女性用ではない。
裸で倒れてた男とは思えない贅沢さである。
随分と偉くなったものだと思わず自嘲する。
そもそも洗濯済みとはいえ、おっさん――ライナーの服を着ていたのだ。今さら誰かが使ったと気にするのは微妙だろう。
だが、お金はあるのだ。ちょっとしたことくらいは良いだろうと思ってしまう。
「それの裏地の布って交換してあるのか?」
「ん?あぁ裏地は消耗品だからな。整備を依頼されたときに交換するのが常だ。こいつも既に交換済みだから問題ないぞ」
「そうか、それならいいんだ」
「裏地の布も気にするとか、素人の癖になかなかいいセンスしてるぜ。
裏地がすり切れて、露出した木やら金属に擦られて、集中を乱して死ぬやつもいるくらいだからな。
俺から言わせたら、そいつらは死ぬべくして死んだんだと言いたいね」
「はははは」
コロナの言葉に何やら勘違いしたらしい親方は、自己主張を始める。
そのことに苦笑するしかない。
「それでどうするんだ? こいつを買うか?」
「ええ、問題もないようなのでお願いします」
「必需品もここで扱ってるからな。全部で¥200,000でいい。
アーシャちゃんの紹介だし、少しまけてやる」
親方が本当にまけたかどうかはわからない。
内訳もわかっていないし、領収書もない。
日本でもおまけしましたからといいつつ、内訳を出さない店もある。
本当におまけしているの問い詰めたいところであるのだが、安くなっているしアーシャの手前でもある。
ここで下手に騒げば、アーシャの面子を潰してしまうだろう。
「ありがとうございます。調整の方は今やって貰えますか?」
他に選択肢はない。返事するしかなかった。
「見た感じ、このままでも問題なさそうだが、命にかかわる事だからな。
後ろにいって、着替えてこい。着方が分からなかったら遠慮なく言えよ」
「はい、では着替えてきます」
そして受け取った防具を着込む。
《鎧》
チープレザーアーマーとでもいうべきか。
前と後ろに分かれてるタイプの上半身鎧だ。肩の所で結びつけられただけの簡素な造りをしている。
下に着込む防具服など必要としていなかった。薄い木の胸鎧に、やすっぽいなめし革を打ち付け、ある程度の防御力を高めたのであろう。
木の鎧だけでも、革の鎧だけでも中途半端なのを組み合わせた感じだ。
純革製で防御力のあるハードレザーアーマーに比べると重いし、レザー特有のしなやかさがない。だが、防御力はある。
しかし、このような使い方をするならば、金属を革にに打ち付けたスタデッドレザーアーマーを装備するべきだろう。
まさに金がなかったからと妥協した鎧だ。
《盾》ウッドバックラー。
小型の円形の盾。
割れにくい切り方で切り出した木を円形に成形し、申し訳程度に縁を金属で覆って補強してある。
又表面はなだらかな弧を描き、ひび割れなどを防ぐために漆のようなものでコーティングされている。
《靴》レザーブーツ
厚底になっており、支給してもらった靴以上に頑丈な造りをしている。
特筆すべきものはないだろう。
これらを身につけ、親方に見せる。
やはり所々調整が必要でだった。それを終えると違和感がなくなり、決まっているように感じる。
所詮安物。されど防具。
格好悪いが、これで準備は整ったといえるだろう。
(これで、あと10年戦える……という訳ではないが、戦闘準備は完了だ!)
そして必需品の使用法を確認し、親方の店を辞去した。
帰り道には、アーシャと明日以降の受ける依頼を相談し、その日を終えたのだった。
物の描写がすごく難しい・・・




