24.サーチャーですか? いいえ、アルバイターです。
――数日後
コロナは一人でサメモドキを解体していた。
尾びれが二股になり、足のように発達している。当然歩くこともできる。だから脚で攻撃できるのだ。
サメのくせに跳び蹴りをしてるのを見たときは、正直どうかと思った。
なのに一番威力がありそうな攻撃のかみつきなどはしてこない。これはイージーモードなのだろうか。
ここ水族館にいる魚モドキは種類が豊富だ。
サハギンタイプ。サメタイプ。貝類タイプ。アジや鯛などといった普通の魚タイプ。
魚じゃないのもいる。アザラシやクジラタイプだ。
マグロタイプが出たときは歓声があがったことから、この世界でもマグロは尊ばれているのだろう。
(なるほど、水族館とはよく言ったものだ)
コロナは漁場ではなく水族館ということに納得してしまった。
手際が早くなると、空き時間が出てくる。
そんなときは傭兵達の戦いを見学する時間となる。
魔法主体の人もいるが時折直接攻撃や、防御に参加する。
純魔法使いという役割はおそらく存在しないのだろう。
そもそも動作と魔法を併せる事で強力になる。このことからして、あり得ない選択なのだろう。
そんな魔法主体で戦っている人は《弓》を使っている。
敵にとりついて引きつけている人は《大盾》を持っている。
――あれはタンカーと呼ばれる役割をしているのだろう。
他に《剣》や《槍》をもって戦っているものも居るが特筆する事はない。
(あれはただ攻撃しているだけだな)
だけど、そう捨てたものじゃない。そんな彼らでも攻撃の仕方は勉強になる。
【魔刃】を使った攻撃が主な手段だが、時折魔法を混ぜているのだ。
そんな中コロナは一つの魔法に注目する。
火炎魔法と言うべきだろうか。凄まじい爆炎を伴い、魚モドキを焼き尽くしている。
(一体あれは何なのだろうか?)
武器を触媒とした魔法ではないようだが、凄まじい威力だと感心する。
その魔法の威力に思いを馳せ、自分も使ってみたくなる。
その魔法こそロナルドが選ばなかった【フレアバースト】であり、知らぬはコロナだけ。
そんなことに気付きもしない彼は、ただその威力に『いつか俺もきっと……』と憧れたのだった。
やがて、この仕事場になれた頃。
水族館の存在について色々と分かってきた。
――ここは魚モドキ創造施設なのだ。
かつて作業員が何やら弄ってモドキを出していたのは、あの作業をすることで生み出すことができる。
何が生まれるかはランダムで、水族館内にはいくつかの装置があった。
数グループの常駐の傭兵がいて、稀にギルドに頼みフル稼働することがあるみたいだ。
さながら彼らは漁師といったところだろうか。もっとも養殖専門の漁師だが……。
解体作業は職員一人に対し、依頼でやってきた数人の見習い達が付きまとっている。
それを管理・指示することで効率化を図っているのだろう。
コロナの他にも数人、同じ場所で作業しているが、彼は周りと比べても年上だ。
それは目立つ。とても目立つ。
彼以外は中学生にしかみえない少年少女しかいなかったのだから……。
不思議そうな目で見られる日々。それは辛かった。そっと涙したこともあった。
スタート地点が違うのだから、仕方のないことなのだ。しかし、どうしても涙が出てしまった。
それはさておき、職員にここの謎を聞いてみることにした。
「ここが不思議かい?
ここ水族館みたいな場所は特産施設と言うんだよ。
各迷宮を踏破して新しい土地が生まれると、神殿の他にも必ず一つだけ特産施設もできるんだよ。
――中には複数出現する場合もあるらしいけどね。僕らには関係のないことさ。
まぁここみたいに、戦う必要があるところは少数だがね、ハハッ」
特産施設、またこの世の不思議がでてきた。
まるで不都合を無理矢理実現する為の施設のように感じられる。
海がないのに魚があったりなど――
おそらく他の特産施設も、そういった物が生み出される可能性は高いだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
普段水族館、飽きたら皿洗いという生活を続けた。
皿洗いをする職場、つまり食堂は美味しそうな香りが漂っている。だが、それを食べる事はできない。
つまり拷問のような職場である。
出される賄いも、ナマポ定食よりも美味しくない。
だからコロナにとってはNGな仕事であった。
そして――
「おめでとうございます。これでコロナさんはD-2ータコになりました。
これで階級以下指定依頼の他に、同級指定依頼も請け負うことができるようになりました」
「ありがとう。……でも探検家のままなんだね」
コロナは証を確認し、それを見つけ思わずうなだれた。
「それは仕方がありません、探索した訳でも、戦闘を重ねたわけでもありませんし……」
「そっかー。それじゃ仕方ないよね……」
言葉に力がない。やはり、探検家脱却を目指していただけに、消沈してしまう。
探検家が取れなかったばかりか、自己能力も何ら変わったところはなかった。
そうそう甘いものではないらしい。
「D-2になったから戦闘可能なんだよな~。
そっちのが実入り良いしやってみようかなぁ」
「そんな装備では戦闘に耐える事はできないと思います。
安くても良いので防具は必要ですよ」
「んー、やっぱり最低でも《盾》は必要か……。
ウッドシールドでもいいから木を買って、自分で作ってみようかなぁ」
「素人が作ったものはオススメできません!
もしものときを考えるならば信頼のおける職人が作ったものを使うべきです!
馬鹿な事は止めてくださいっ!!」
「ご、ごめん。でも探検家はやっぱり嫌なんだよ」
「いくら嫌でも命を落とすよりはマシです!
私をもう泣かせないと言ったのは嘘なんですか!? 死んじゃったら私悲しいです」
「馬鹿な事を言った。生活保護を受けているから出費もない。
もう少し堅実に稼いでから考えるとするよ」
「そうですよ。そのための保護なんですからね! もう本当にやめてくださいよ」
そんな遣り取りがあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして今、俺がしているのは――
「おいにーちゃん、この辺りなら問題ないから一本置きに切っていってくれ」
「あいよー」
そう、木こりだ。へいへいほ~。HEYHEYHO。
ぎこーぎこーとノコギリで木を切っていく。
数日続けて《肉体強度》が1あがったのは内緒だ。
周りのおっちゃん達も気の良いやつらで、若い連中みたいに俺を『探検家ダッセー』という目で見たりはしない。
ちなみに解体作業で一緒になったやつらは親からの援助で装備を調え、戦闘依頼をこなしている。
『スネかじりどもめ!』と貶すがナマポのコロナが言ったところで説得力が皆無だ。
差がつく事に焦る気持ちがあるが、涙目になってとめてくるアーシャを思うとそんな事も言っていられない。
無心で木をぎこーぎこーと削っていく。
ぎこー ぎこー ぎこー ぎこー ぎこー ぎこー
するとそこには光り輝く竹が……なんてことはなく、普通の木を切っていく。
ある程度伐採すると、今度はほどよい形に切り出して材木にしていく。
そしてそれが終わると、それらを街まで運ぶ作業だ。
収納道具というアイテムがあり、そこに入れようとすると、吸い込むように収納していく。
何が入っているかは、収納道具の表面に表示されている。
ゲームにあるアイテムボックスやら、インベントリというやつと同じだなぁと思ったが、こう色々あると驚く気も失せる。
――――木だけに。
というくだらないギャグをいうのも、おっさんが周りに居るせいだろう。きっとそうに違いない!
その収納道具をもって家具職人の所へ向かう一連が仕事内容だ。
これで日給¥10100なのだ。
生活費+¥100。ナマポがなければ¥100しか貯蓄できないのだ。
それに比べ戦闘がかかわる物は、取れる素材を含めて大体¥20000は堅い。
どんどん差が開く一方だ。
そんなジレンマの中、ある一つの転機があった。
《器用》が高いということをおっちゃん達に話した事から、ギルド経由で家具職人達の補助の依頼を指名して貰う事ができたのだ。
持つべきは縁故である。
木こりの仕事より楽で、また稼ぎの良い仕事だったので少しずつ防具費用が貯まっていく。
しかし、それでも焦るコロナ。
そんなときある依頼が目に飛び込んできた。
――――――――――――――――――――
階級フリー
・街の拡張による整地作業 ¥30,000
――――――――――――――――――――
これだ! そう思うやいなや依頼票を掴もうとする。
その時声が聞こえた。
「おい、土木作業とかしてんのか?
これだから探検家は嫌だよな。
あんな歳で探検家とか俺なら恥ずかしくて死んじゃうぜ」
「おいおい、そんなこと言うもんじゃないぜ。
探検家だって役に立っているんだ。
だけど俺ならお断りだがな! ハッハッハァ」
「あいつって、【パシリ】のシルバーさん笑ったやつだよな?
何様のつもりだよって、探検家様だよ。ギャッハッハー」
「探検家が許されるのってガキくらいだよな。あーやだやだ」
(く、くそぉ~)
コロナはその場を逃げ出した。
しかし回り込まれ…………るようなことはなかったが、その姿は哀れであった。
だからといって依頼票を忘れるようなことはしない。
ちゃっかりしているのである。
その夜、レイニーに泣きつき癒やして貰った事をここに記して置く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近仕事以外に日課になった事があります。
コロナさん、――いえコロちゃんで十分ですね。
そのコロちゃんが涙目で甘えてくるのです。
そしてよしよしと撫でてあげる事こそが新しい日課なのです。
私にすがりついてくるその姿はとても愛らしく、それとは逆に妬ましくも――
――――あぁ、この人は真剣に生きているのね。
生きる事に疲れ、ただ惰性で生きながらえている私は違う。
感情を露わにし、心の赴くままに行動している。
それがどんなに素晴らしいことか。
それがどんなに素晴らしいことだったのか今ならばこそ分かるけど……。
かつての私ではそんなこと思う余裕などなかった。
今のコロちゃんはそんな未熟な頃の自分のようです。
よしよし。よしよし。
時折、抱きついて、胸やお尻を触ろうとする気配を感じる。
だけど、コロちゃんはとても分かりやすい。
そんなときは頭を叩いて、優しく注意をする。
「ついでき心でぇ」
とか
「手が勝手にぃ~」
とかはしゃぐ姿にはきゅんきゅんする。
とても明るいコロちゃんだけど、彼がいない時間私の周りは時が止まったかの様。
そんなときはコロちゃんの事を反芻する。
そして手慰みに趣味である人形を作ったりもしている。
今はコロちゃん人形だ。
チクチク チクチク
「できた。かんせ~い」
そう一人呟いて人形を掲げる。
あっ、まだ完成はしていなかった。
そしてあるものを手にとり、コロちゃん人形を今度こそ完成させました。
「これで本当に完成」
さて、そろそろ掃除でもしますか。
レイニーが部屋を出た後に残るのは、ナイフが刺さったコロちゃん人形だけだった。




