23.ギルドの悪意
――――コロナは加減を覚えた。
あまり構い過ぎると、アーシャは前回みたいに使い物にならなくなってしまう。
ほどほどが一番なのだ。
「えへへっ。言わないでくださいよ? 絶対!」
「大したことでもないし、誰しも面倒なのは嫌いだよ。それがあからさまに無意味な事はね」
「そうですよね~。でも『役職名など絶対略すべからず』って規約があるんですよね。これのせいでどうすることもできないんですよ。
一時期無駄は省こうと議題になったらしいのですが――
上の決断で会議を通ったものを、鶴の一声で消されてしまって……」
「随分と横暴だね。上ってそこまで権利あるのか?」
「ギルド長会議だったのですが、永久名誉会長なるものの一声の方が上なんですよね。
どんな人なのか謎なんですよね。ここ本部だけでなく、どこの支部のギルド長も口が堅くて……」
アーシャは口を手で押さえ、まるで周りに聞かせないように話す。
オフレコというやつなのだろう。
内緒にしろといいつつ、内緒話が好きなのはやはり彼女も女性だということだろう。
そんな彼女を微笑ましげに見ながら、コロナはその内容を思い返した。
――――永久名誉会長。
日本人に縁があるのだろうか。
変なこだわりを持つところなんかいかにもらしい。
「それはさておき、階級名でしたよね。
え~と、あったあった。これを見てくださいね。
結構あるので忘れちゃう人が居るため、こういった目録があるんですよ」
それによると――
下級(D) 1-【チキン】 2-【タコ】 3-【イモ】 4-【サル】 5-【ニート】
中級(C) 1-【ダウト】 2-【うましか】 3-【ピーオー】 4-【ダイス】 5-【パシリ】
上級(B) 1-【エリート】 2-【邪気眼】 3-【ブリッジ】 4-【チンピラ】 5-【ジョーカー】
最上級(A) 1-【ハート】 2-【クラブ】 3-【ダイヤ】 4-【スペード】 5-【小判鮫】
となっていた。
(な……なんだこれは!?)
コロナは開いた口が塞がらない。
書いてある階級はふざけているとしかいいようない。
下級であるDを見ると、悪口やらマイナス要素を含んでいる。
最初はチキン・タコとかで『ひまわり組』みたい幼稚園の組名の様に思った。
――食べ物で統一されているのか……と。
しかし、イモは食べ物だが種類が変わっている。
そしてサルときて、あからさまにそのような意図ではないと気付く。
そして最後のニート――
これは明らかに侮辱だ。下っ端だと貶されるのだろうか。
これを命名したものには悪意しか感じられない。
チキン=臆病者。
タコとイモ=侮蔑。
サル=人間扱いではない。
あるいは下半身が……という意味だろう。
ニート=これは働かないやつ。
この程度の階級じゃ、無給に等しいとでも言っているのだろうか……。
他はトランプに纏わる名称があるようだが、所々に悪意が潜んでいる。
うましか――これは明らかに馬鹿といいたいのだろう。
そして――
C-3ーピーオー。
(これは宇宙戦争のC-3○Oのことか? 舐めているのか?)
コロナはこれを作った者が、どこまで本気なのかわからなくなってしまった。
遊ぶなら、全部ふざけた名前にすればいい。
――――中途半端すぎるのだ。
これは考えてはいけない。
エリートより邪気眼やチンピラの方が上なのだから。
もう意味がわからない。
そんな中にある重要なものがあった。
最高階級の小判鮫のことではない。
一番の稼ぎなのに、小判鮫――姑息な野郎扱いされているも気になることはなるが。
そんなことよりも重要なことだ。
中級(C) ―――――――― 5-【パシリ】
(あの男の名前は……シーファイブじゃなかったか?)
確かに――
『シーファイブ(キリッ パシリだ!』
と言っていたような記憶があるのだ。
だが、これを見る限りC-5-パシリという階級だったのであろう。
その事に愕然とする。
(名前ではなかったのか!?)
あの男はパシリではなかった。【パシリ】だったのだ。
パシリとは使いっ走りのことではなく、階級名に過ぎなかった。
彼は【パシリ】であることに誇りを持っていた。
そして中級、つまりCの先達としてコロナに気を配ろうとしていた。
だから『何かあったときは自分を頼れ』と言ったのだろう。
――――まずい。
(なんてことをしてしまったんだ!)
コロナはその場で頭を抱え、うずくまりたくなった。
彼は徴発と受け取ったのだ。明らかに格下の者から、あのように徴発されては立つ瀬がない。
彼からしてみれば『中級程度で何粋がっている』と言われたようなものだ。
――怒るのも無理もない。今更後悔しても無駄なのだが……。
だが、そんなコロナの様子にアーシャは気が付かない。
彼女は覚え込む為に、必死で見ていると思ってしまっていた。
「意味分からない名称ばかりでしょ? なかなか覚えられなくて……。
そもそも最上級の階級なんて引退した人しか今は居ませんし、誰も覚えていないと思うんですよね。
この前課長も間違っていましたよ」
まるで同士を見つけたかのように、愚痴を吐く。
「あぁ、そうだね。どうせならA-5は【ビーフ】とかにした方がよかったかもね」
気のない言葉で適当に返す。
おそらく彼は自分が何を言ったのか、あとで思い出す事はできないだろう。
「それでも意味不明ですよ~。アハハハッ」
気がつくと、いつの間にかアーシャの説明が終わっていた。
あの後どんな説明をされたかコロナは覚えていない。
だが、気を取り直す必要がある。
脱・探検家を目指さないといけないのだから。
コロナは気合いを入れ直し、依頼板の所へと向かった。
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D-1ーチキン
・牧場の虫退治 ¥300(1時間あたり)
・水族館で魚の解体作業手伝い ¥4500
・食堂での皿洗い ¥1000 (賄い付き)
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D階級の大まか分類されているのもあったが、チキンでは請け負う事ができないみたいだった。
無論そちらの方が金額も大きい。まったく、ままならないものである。
突然だが、お金が出てきたためざっと説明しようと思う。
この世界の時間単位とお金の単位だが――
まず時間だ。
地球と同じ24時間で12ヶ月。だがここからが違う。
360日の1週間は5日だ。さらに分と秒という概念はない。
あの金ピカで趣味の悪い神殿から音が鳴り響き、『1時間過ぎましたよ』と告げるのだ。
深夜だろうが早朝だろうが、鳴り響くのだ。迷惑この上ない。
神殿を見たとき鐘などなかったはずなのだが……どうなっているかは一切不明だ。
もとより神殿の存在自体が、謎そのものだから調べたところでわかるわけもない。
次にお金の単位だが、円だ。
円記号も使われている。
だが、千万億――といった繰り上がり桁は存在しない。
たとえば「¥300」と「¥4500」だがそれぞれ「サンゼロゼロ円」、「ヨンゴーゼロゼロ円」と読む。
硬貨や紙幣といったものは存在しなかった。
電子マネーみたいなもの通貨らしい。
開拓共同体認定書や貯金通帳と言った証に数字で記帳され、管理されている。
支払いのやりとりは、カードリーダーみたいなものに差すだけだ。
金貨・銀貨などに少しあこがれもしたが、ないものは仕方がない。
ちなみに俺の開拓共同体認定書にお金の項目がなかったのは、裏面にしか表示されないのと、本人以外に見えないという理由だった。
そしてこの世界の大体の生活費だが、1日辺り¥10000ほど必要だ。
1食あたり¥1500ほど掛かる。残りは宿泊費用だ。
街や村に住むことはできるが、賃貸しか存在しない。
家が欲しければ外で建てろという決まりだ。
そしてその賃貸だが、鍵代わりに証をさして、解錠の呪文を唱える必要がある。
賃金は日割り計算されて証から抜き取られる。
1週間支払いが確認されない場合は追い出される仕組みだ。
ちなみに管理運営は国がしている。
さて、ここで依頼の賃金と生活費を比べてみよう。
【チキン】では一日働いたところで生活などできないのだ。
そもそもある程度階級をあげてから、親元から独立するためだ。
つまりコロナでは、まだまだナマポ生活を卒業することはできないということだ。
それにしても…水族館とかギャグかよ。
水族館の魚とか食っていいのかよ。
興味があったが、気絶している時間もあったので時間がない。この後すぐ請け負うには時間が足りない。
そのため単位時間で区切られている虫退治をすることにした。
特段述べる事はないので、たいへんよくできましたとだけ言っておく。
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コロナは今、兼ねてから気になっていた水族館にやって来ていた。
そこの外観はいかにもシーパラダイスといった感じだ。
しかし、中に入るとそこは想像したものとは別世界であった。
血生臭い臭いが充満している。
――ここまでは、解体作業とあったから予想していた。
だが、まさか魚らしきものと戦っているなど予想もつくわけがない。
飛び交う魔法。
それを援護とし、気合いを入れた声とともに肉薄する戦士。
そして切り刻まれる魚っぽい何か。
――地球の魚と比べ、ヒレが翼の様になっている。他にも何かしら違うところがある。
――――そもそもでかすぎる。
それを倒し終わると、職員らしき者が何やら作業をする。
すると新たな獲物が現れ、次の標的に向かう戦士達。
そして魔法を――
といった流れ作業を繰り返す。
(ここは何なのだ? それにあれは傭兵だろうか?)
コロナは探索者はダンジョンに籠もるものと思い込んでいた。
だから消去法から彼らを傭兵と推測した。
コロナがぼーっとそれらを見ていると、後ろから声を掛けられた。
「やぁ、君は作業手伝いに来た子かな?」
その男に依頼書を見せると、確認できたのか着いてこいと言って中に誘った。
「じゃあ、彼ら水族館専門傭兵達が倒した魚たちを解体して貰おうかな。
最初は分からないだろうから、僕の後に付いてきて補助をしてほしい。
そして慣れたら一人でやって貰う事になるけどいい?」
「ああ。だが、今日すぐに一人でできるとは思えないが……」
「ここに来たってことは君は成り立てだよね?
そういう子は大体ここで階級をあげるんだよ。
食事が付いてくる皿洗いも悪くはないけど……。
傭兵達の戦いを間近でみることができるから、ここでの作業の方が人気があるんだ。
もう1個の虫の作業は……まぁ物好きか、他の二つの時間に間に合わなかった場合のみだね」
「なるほど」
「まぁ、習うより慣れろだよ。
ここで培った作業も魔獣の解体で役に立つからね。
とにかく数をこなして貰えばこちらも助かるし、そちらも勉強ができるって訳さ」
説明を終えると職員は、サクサクと魚モドキ解体していった。
コロナは彼の補助をして手際をよく見る。
補助と言っても簡単なことだ。魚の尾びれを以て解体しやすいようにしたり、切断されてた部位を集めたりなど。
時折激しい音が聞こえるのが凄く気になるが……。
――――まずは解体の勉強だ。




