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21.おい! ちょっとジュースでも買って来いよ





「【ヒール】で治療してみろ。

 今貴様の顔は、醜く鼻から血を流して居るぞ」

「はい、軍曹殿」


 軍曹殿の理不尽な暴力あいのムチで負傷した患部に対し――


「『傷を負いし、愚かなる者に救済を』 ――――【ヒール】!」


 毒を含んだ呪文だ。本当に癒やしの呪文なのだろうか……

 だが、そんな考えを否定するかのごとく、次第に痛みが引いていく。

 ――おそらく成功したのであろう。

 軍曹殿曰く、醜くなった顔も……ナイスガイに戻った事だろう。



「……どうやら身につけたようだな。だが、貴様のそれは最低限の威力だ。

 さっさと《操作》を10にして強化する精進を続けなくてはいけない。

 だが、名残惜しいがこれで全ての訓練項目は終了だ。

 今後も精進し、己を磨いていくのだぞ」

「はい、軍曹殿」



 終了……終了! 終了だーーーーー!!

 やったぞ! ついにやったぞーーーーー!

 このクソ○×な生活からやっと解放されるんだ!

 こんなに嬉しい事はない!!

 いや、待てよ……。

 追加される前に、まずはここから逃げ去ることが重要なのではないか!?


「それではいままで、ありがとうございました。それでは失礼します」


 そして軍曹殿の訓練室じごくのいっちょうめから逃げ出した。


 ――――しかし、軍曹殿に回り込まれた……なんてことはなく、俺は無事に逃げ出せた。


 そして窓口で手続きをして、愛しのレイニーさんの元へと歩みだしたのであった……。



 どうでもいいことだが、窓口の男は例の職員ではなかった。おそらく休暇だったのだろう――













                     - 完 -






 『- 完 -』じゃねーよ、俺の人生はまだ始まったばかりだよ!!





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 コロナが部屋を出て行く。

 思えば可笑しな男であった。

 すぐ泣きそうな顔をするのだが、それでも止めずこちらの言う事に従う。

 過剰な位痛めつけてやったら礼を言われる。


 ――――マゾなのか!?


 と思ったがとても痛そうにしている。


 おそらく俺の訓練の意味をわかってくれているのだろう。

 これが身になるということを!


 ※怖 い か ら で す。




 あいつは一度注意した事を二度三度と間違えないようにしていた気がする。

 俺はそれに気付き、二度目の間違いをしたときは……それとなく分かるように、大げさに注意してやった。


「貴様、(それは二回目だぞ)わかっているのか!?」

「ありがとうございます。グンソー殿」


 意識をはっきりさせる為にも、過剰な暴力きつけをした。

 そして痛みの訓練は根性と向上欲があったため、過剰なくらいやってしまった。


「貴様、(目指すところはそんな痛み程度ではすまないはずだ)いつまで情けなく転がっている。」

「はい、グンソー殿」


 怯えながらも立ち向かい、恐怖に打ち勝とうという目をしている。


 ――――やはりこいつは、見込みがある!


 才能がなくてもこれほどの気概を持っているんだ。

 きっと何れは俺などを越え、一門の人物になるに違いない。


 それならば――と思い真剣での立ち合いをすることにした。

 他の教官達もそうとう見込みのあるやつでないかぎり、真剣を使うようなことはない。


 本来ならコロナ程度では真剣を使う訳にはいかない。

 だが、これほどの向上心があるやつに情けは無用だ!

 そう思うと、段々と手加減を忘れついついやり過ぎてしまう。


 一度救護室に運ばれて、救護室長から小言を貰ってしまった。

 やり過ぎを注意しようとも思ったのだが、次にあいつの目を見たときそれを望んじゃいないとわかった。

 あの目は手加減などするな! と言っているように見えた。


 ※目を反らしては殴られると思っているからです。




 訓練中にふと、思いつくことがある。

 俺とだけ仕合っていたのでは癖が付いてしまう。

 そう思うなり他の部屋に入り、交渉する。

 少しでも強いものを厳選し、戦わせその血肉となるように。

 そして戦いが始まるなり気付いた。

 やはり俺と訓練するときほどの動きができていない……、と。


 ※疲れ果てているからです。




 これはいけないと思い、様々な相手を用意した。


 その甲斐があって俺と戦っているとき並には、動けるようになった。

 そんな日々が過ぎ、ついには訓練所が設定した教育課程の終了条件を達してしまったことに気付く。

 名残惜しいが、あいつはここを巣立っても一人できるだろう――


 俺はそう思い、最後の訓練である魔法を教える事にした。

 訓練所で教えられる魔法の内、俺が厳選した魔法だ。


 威力は弱い・・・・・が【魔法剣】取得へと最短で到達できる【ウィンドカッター】の武器派生を教え込む。

 【ブースト】があれば、あいつならなんとかできるだろう。そう思い決断したのだ。


 本来ここ訓練所では3つ教えていいことになっている魔法で、

 最大の威力を持つ【フレアバースト】、最速発動の防御魔法【ウィンドウォール】、そして【ヒール】。

 これらを教え込む。だが、俺は敢えて定番の避けた。

 あれほど回避技能を鍛えたのはこのためだ。


 スキルレベルが高くても回避後の隙はどうにもならない。

 こればかりは個人の意識や身体で慣らすしかないのだ。

 しかしそれができるようになったあいつなら防御魔法などなくてもやっていけるはずだ。


 ※あなたの為というのは、大半が意見のおしつけです





 やがて、全てを吸収し、あいつは巣立っていった。

 その時の後ろ姿は、『まだだ、まだ俺は先に、上へと行ける!』と言っているかのようだった。


 きつい訓練を終えた後だというのに、あれほど元気があるとは――

 それを見てあいつが再び教練所に訪れるようなことがあった場合のことを考えた。


 俺に回して貰うように裏から手を回そうとこのとき決意した。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ――あれから数日後


 酷使された体は、一日二日程度では疲労が抜けなかった。

 心の方はレイニーさんとのふれ合いの中で癒やされている最中だ。

 だが、そんな日々も今日で終わりだ。



 そう、ついにギルドに登録するのだ。

 それを聞いたレイニーさんも、


「穀潰しじゃなくなるんですね。

 あ、でもまだ稼ぎができるかはわかりませんね」


 と毒を吐いていたが、そうならないように頑張るつもりだ。

 甲斐性をみせ、いずれは――――、ゲヘゲヘッ。


 おっと、いかんいかん。

 ――ついつい妄想がMAXヒートしてしまった。


 気を取り直してアーシャの所へ行くとするか。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「はい。――これで全部終わりました。

 では開拓共同体認定書りれきしょの発行手続きをしますので、少しの間お待ちください」


 そう言ってアーシャは後ろに引っ込んでいった。

 前回来たときは詳しい描写をしなかったが、窓口の後ろには部屋がある。

 事務室というやつだろう。暇な時間はあそこでお菓子とか摘まんで他の職員とおしゃべりをしているに違いない。

 それはともかくとして、そこにアーシャはコロナの書類を処理しに行ったのであろう。


 登録手続きは変わっていた。

 書類を書く……そこまでは普通のことだろう。

 字が汚いらしいので、コロナが書いたわけではないのだが――


 だがしかし、渡されたリトマス紙みたいなものに血を垂らすものだった。

 染みこんだ後に自己能力ステータスを表示させ、それを押しつけたのだ。

 すると自己能力ステータス――ウィンドウ画面そのものと表現していいだろう。その情報がそれに吸い込まれて行くではないか。

 吸い込んだそれは、血の赤色――元は黄色だった――から変色し、緑となる。


(光の三原色か!?)


 そしてそれと誓約書みたいな書類をもって、アーシャは後ろへと引っ込んでいった。


(さて、どのくらい時間が掛かるのか読めないな)



 そう思うやいなや、空いた時間でギルド内を廻ってみる事にした。

 これまで建物の内部は、食堂の端っこの弁当専用窓口と宿舎の往復だけであった。

 だからどのような物があるのか、この際調べる事にしたのだ。


(まずは、メインの依頼板というやつからだな)



 依頼板――それはギルドに依頼を頼んだ仕事を掲示する場所。

 何も掲示板一つという訳ではない。その周りは煩雑としていて、まとまりがない。

 おそらく早い者勝ちなのであろう。協調性というものが一切感じられない。

 後ろの方で言い争いしているのは、どちらが依頼を受けるのか言い争いをしているのだろう。


(これでは近づけないな……)


 コロナは思い、別の場所に行こうかとした。

 その時、不意に声を掛けられた。


「おう! お前、この前アーシャちゃんを泣かせてた不届きなヤローじゃないか?」

「?」


 振り返ると顔に深い傷が有り、日本ではその筋の人と見られる男がいる。

 その男の周りには、いかにも手下のヤンキーっぽい雰囲気の取り巻きが3人ほどいた。















 コロナに声を掛けたのは下っ端の一人だろうとその様子からわかった。



(世紀末風装備か……、こんなのも普通の装備としてあるんだな)


 肩当てに棘があるのはわかる。恐らくショルダーチャージに使うのであろう。

 だが、ブレストプレートにも棘があるがこちらは正直どうなんだろう。

 盾をかざしたときに受けた衝撃で、腕に刺さらないだろうか……。

 それともボディープレスとか実践でやる馬鹿なのかもしれない。


 そもそも腕の可動範囲が狭まるし、用途が想像もできない。


『ヒャッハーーーッ!』


 とかはっちゃけたりしてるだけなのだろうか。


 今までのコロナであったなら威圧されて、思わず財布の中身を取り出したかもしれない。

 しかし今の彼は鬼軍曹の扱きを耐え、その程度の装いでビビるほど軟弱ではない。

 そもそも財布に中身などありはしないのだから。


「やっぱりそうだ。あの時のヤローに間違いありませんぜ、兄貴」

「ほう、ならケジメってやつを教えなきゃならねーな!」


 どうやらこの男達は、コロナがアーシャを虐めたと勘違いしているのかもしれない。

 泣かせたのは事実だが、あれは不幸な勘違い――ロリコン疑惑が原因なのだ。


 要らぬ反感を買う必要はないと、彼らに事情を説明する。

 当初はすぐにでも暴力に訴えそうであった。

 しかしコロナのその殊勝な態度に頭を冷やし、耳を傾けるようになっていった。

 そして一通り話をすると――


「ギャーハッハ! そりゃ犯罪だべ、そんな事実があったなら俺は殺ってるよ?

 いくらソロ狩り(ボッチ)として有名なライナーさんのおやっさんだからって、そんなことしたら俺殺ってるよ?」

「あぁ。アーシャちゃんと関係勘違いしたのはいただけないが……」

「いや~、でも幼妻って憧れるだろ?

 俺らだってアーシャちゃんみたいなと……って誰もが思ってるだろ?」

「――――ッ、謝って許しを得たなら問題はない。騒がせたな」


 手下1、2、3と最後にその道のプロの男。

 流石にプロの男は格が違う、とコロナは感じた。


(他の三人とは比べものにならないな……)


 無様に騒ぎ廻る手下に比べ、威厳というやつを感じられる。


(どこの世界でもこういう関係は生まれるのだな)


 とコロナは深く頷いた。

 そんな時、男は真剣な顔をしてこう言った。


「騒がせた詫びというか……。何か困った事があったら俺に言え。助けになろう」

「それは助かります。さきほど手続きをしてギルドの一員となったばかりなので」

「フッ、そうか。

 俺は若い連中の顔役……とでもいうか、トラブルを仲裁してたりもするからな」


(流石だ。やはりアニキ的な存在なのだ!)


 そう思うと、確かに頼りがいを感じる。

 たとえいぶし銀を醸し出しているのにも関わらず傘――コロナは魔導武器の一つの《扇  杖アンブレラ》ということに気付いていない――を持っていたとしても。

 傘張り浪人という単語がコロナの頭に浮かんだが、気にせず続ける事にした。


「何かあったときはお願いします」


 このまま名乗り合って、別れていたら問題はなかったのであろう。

 だが、ギルドに所属している者は決まり――というか習慣になっていたことがあったのだ。


「俺は、C-5-シーファイブ【パシリ】――」


 と続けようとした。そう、名前の前にギルド階級ランクを付ける習慣だったのだ。

 だが、それを知らないコロナは『シーファイブ』という名前で、『パシリ』にされていると勘違いをしたのだ。


「ぷ、ぷぐ、ぷぎゃ、ぷぷぷプギャーハッハッハ!

 その風体ふうていで! 雰囲気で! パシリってぷぷぷ、プギャーーー!」


 指まで差してしまった。

 ツボというものは鍛えられないのだ。そう、笑いと言う名のツボだとしても。

 二度ネタならば耐性がついているだろう。

 だが一度決壊したものは如何なる強靱な精神を以てしてもふさぐ事などできないのだ。



「な、何がおかしい!! 何故こっちを指さし笑っている!!」


 その慌てふためく姿がより笑いを誘う。

 これまでにコロナが抱き、感じた印象がボロボロと崩れさっていく。


 ――――こいつは『アニキ』ではない『三下』だ、と。


「あんたさ、そんなナリ・・をして、子分なんか引き連れている割に、パシリとか恥ずかしくねーの?」

「…………」

「何? 黙っちゃって? そんなに恥ずかしいの?」


 最初はガキの戯言だと、耐え黙していた。

 しかしそれも、二度目の罵倒に男は我慢の限界だった。


「お、お前に馬鹿にされる筋合いなどない!」


 そう叫ぶなり男はコロナを殴りつけた。

 それはコロナが視認できる早さではなかった。

 殴られたコロナは壁まで吹っ飛び、そして激しい音を周囲に響き渡らせた。


「ごふっ」



 そしてその衝撃で意識が薄れる。

 修行して、確かに強くなっていたコロナであったが、先達者とは自己能力ステータスの数値が段違いなのだ。

 上位者が思わず力を込めて全力で攻撃したら、一撃で死んでしまう可能性すらあったのだ。

 気絶するだけ済んだコロナは運がいいとしかいえない。

 即死しなかったこと。下手に立ち上がらなかったこと。

 もし立ち上がろうとするものなら追撃が待っていたのだから――



「雑魚ほどよく吠える」






 そう男が最後に呟く声を聞いたところで、完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

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