19.恐怖! 鬼軍曹
「なら教官は、――ロナルドさんかな。
これを持って、1番と書いてある訓練室に向かってくれ」
渡された書類と《刺突剣》エペを持ち、訓練室に向かった。
これは生活保護による支給として貰った初心者向けの安い《刺突剣》だ。
『エペ』これから俺とともに生きる輩でもある。
これから向かう場所にて、待ち受ける教官に『お前には才能がある』などと言われる妄想をし、期待に胸を膨らませ軽い足取りで向かった。
意味もなく剣を抜き、『えへっ』とやりたくなる感情を抑えるのは大変だった。
おっさん――ライナーが剣を自慢していたのもわかるような気がした。
部屋に入るとそこには一人の男が佇んでいた。
――――他には誰も居ない。
――――ただ立っているだけ。
尋常ならざる精神の持ち主だ。
客もいないのに立って待っている。かといって何かをしている訳ではない。
待機室で他に作業をしているとか、暇つぶしで身体を動かすとかしているなら理解ができる。
生徒がいないなら他にすることはあるのだから。
かといって自分の修行をしているようにもみえない。
まるで仁王立ちこそ修行だと言わんばかりの迫力だ!
――――なんだ、この人は!?
俺は思わず戦慄する。
別にボディービルダーのようにポージングを決めているわけではない。
ただ、ただ仁王立ちしているだけなのだ。
だが、そこから伝わってくる気配ゆえに感じる事がある。
――――この人は、ただ者じゃないっ!!
浮ついていた気持ちが思わず引き締められた。
ある程度近づくと、男に話しかけられた。
「――訓練を望む者か?」
「はい! コロナ・パディーフィールドといいます。よろしくお願いします」
俺は思わず敬語になってしまった。せざるを得ないといった感じだろうか。
俺の中では彼は上位者と認識してしまっていた。
――――これが……格の違いってやつか!?
「その手に持っているものを見せて貰おうか」
「はい。どうぞ」
そして受付で発行してもらった書類を渡す。
ピリピリと空間が軋んでいるように感じる。
――――くっ、脚が震えてくる……。
「ふむ……、まぁ良かろう」
何が良いのか分からないが、なんとなく合格を貰ったような気分になった。
それにより、少しプレッシャーが弱くなったような気がした。
「俺は、ロナルド・オニグンソー。
指導は厳しいが着いてこられるなら一人前くらいにはしてやる」
――――お、鬼、鬼軍曹、だと……ッ!!
自分で鬼と名乗る軍曹に戦慄する。
――この世界にも群階級があったのか!?
逆らったらやばいと、俺は心に刻み込むのが精一杯だった。
「ご、ご指導を、お願いします! 軍曹殿」
「グンソーか――。フッ……、そう呼ぶものも稀にいる。まぁ良かろう」
『様』付けしなかった事に、不快感を与えてしまったのかと恐怖した。
だが、許されたようだ。このまま呼ぶ事にしよう。
――――言葉に一々気を付けないと、命が幾つあっても足りないぜ……。
「まずは貴様の動きを見てやる。適当に動いて見せろ」
声に少し力が入っているのがわかる。
これは覚悟しないといけないかもしれない。
『隙を見せたらやられる!』そのくらいの気持ちでいないとダメかもしれないな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日、久しぶりに俺の元に訓練生が来た。
《刺突剣》
これを選ぶ若者は年々減少傾向にあった。
【魔法剣】は強力だが、それを会得するまでの期間は長く、苦しい。
それ故に強力な武器を望む傾向にある。
軟弱なやつらだ。神の武器たる《刺突剣》こそ究極にして至高な武器なのだ。
そんな気概を持ち、精神を高揚させているときに現れたのだ。
あまり興奮させたまま話しかける訳にはいくまい。
そう思い呼吸で落ち着かせていると、やって来た男は何やらこちらを警戒し始めた。
落ち着くのが少し遅れて怖がらせてしまったか?
そう思い少し後悔したが、何時までもこうしているわけにはいかない。俺はそう思い話しかけた。
「訓練を望む者か?」
「はい! コロナ・パディーフィールドといいます。よろしくお願いします」
――――コロナというのか。
女のような名前だが、武を志す者に名前など関係ない。
その精神こそが重要なのだ。そして彼から受け取った書類に目を通した。
ふむ。バランスが偏ったパラメータをしている。
だが《操作》さえ上がれば、《刺突剣》は強力な武器となろう。
強化ボーナスも振ってない状態でこれだからな。
ある意味逸材だ。天職に戦闘関連のものが一切ないところは少し残念だが、これから頑張ればいい。
「ふむ……、まぁ良かろう」
思わず口にでてしまう。
彼をどのように訓練を施し、どう成長するか楽しみになって口がにやけてしまう。
それを隠すように自己紹介をした。
「俺は、ロナルド・オニグンソー。
指導は厳しいが着いてこられるなら一人前くらいにはしてやる」
そう名乗ると、彼は何故か俺に怯えたように見えた。
――――まさか俺の名前を知っているのか!?
まぁ、俺も若い頃色々とやらかしたからな。
それを親や周りの大人達から聞き知っている可能性も捨てきれない。
「ご、ご指導を、お願いします! グンソー殿」
「グンソーか――。フッ……、そう呼ぶものも稀にいる。まぁ良かろう」
やはり聞き知っていたようだ。
俺の二つ名である《鬼喰らいのグンソー》
――武による力を求めるあまり、戦うその姿が鬼のように見えた事が由来だ。
その名に恐れるあまり涙目になっている。
厳しく指導してやるつもりだったが、この調子だと逆効果になりそうだ。
――――フッ、かつての俺とはもはや違う。
優しく指導してやるとするか。
「まずは貴様の動きを見てやる。適当に動いて見せろ」
そう普段以上に優しい声をイメージし、指導を開始した。
一通りの動きを試して貰うと、全然なってないことがわかる。
これは基礎から指導せねばなるまい。
彼は《盾》も使う予定だと、言っていたので貸し与えた。
今は使う訳ではないが、バランスで問題がでてくる。
早くから装備した状態で慣らすべきだからな。
その日はひたすら突きを練習させた。
そして疲れたところで、受け身を教え潰れるまでやらせた。
一瞬もう辞めたいという顔を浮かべた顔をしたのだが……。
『少し休憩するか?』と思わず声を掛けようとしたところで、彼は気合いを入れ直して訓練を再開した。
――――なかなか見所のある男だ!
やはり《刺突剣》を選ぶようなものは根性が違うなと実感してしまう。
次の日も彼はやって来た。
前日の疲れがあるのか、昨日よりも動きが鈍い。
だが、疲れているなどという言い訳はこの世界――武の道に入った以上、泣き言にすぎない。
彼もそれをわかっているのか。俺の言う事に黙々と従い繰り返した。
「剣先まで気を込めろ! そんなんでは突き刺す事など夢の又夢だ!」
「形が崩れて居るぞ! それでは十分な力が伝わらず、はじき返されるぞ!」
「重心がぶれているぞ! 威力が半減するし、フェイントを掛けると転んでしまうぞ。敵と戦う以前の問題だぞ」
と優しく、コツを教えたり――
「疲れているときにこそ、受け身をしっかりしないと大けがにつながるぞ!」
「そんなゆっくりとした受け身では追撃を受けるぞ! もっと素早く丁寧にだ!」
「それでは動きが大きすぎる! もっと小さく鋭くだ!」
「方向が違う! 相手に攻撃を貰いに行くつもりか!!」
とマニュアルにない独自の指導をしたりもした。
そんな俺の指導に彼も納得しているのだろう。
特に不満げな様子もみせず、俺の言うことを忠実に守り、身体を動かしている。
このまま、どこまで着いてこれるか楽しみだ。
しばらく、この二つだけをやらせた。
そして身体ができ、身体が着いてくるようになると、回避方法を教えた。
もちろんそれだけでなく、受け身を混ぜた動作をやらせた。
段々と早くノルマをこなすようになり、時間が余るようになると魔力操作の練習をさせた。
彼はパラメータからもわかるようにこれが苦手だ。
【魔法剣】は最重要だが、取得するまでは【魔刃】を他の武器以上に使いこなさなければいけない。
そのため《操作》は重要である。
本来【魔刃】と突きを同時に訓練させるのが、訓練所でのマニュアルなのだが……。
――彼の場合は無理だろうと別々に練習させている。
だが焦る必要はない。
このロナルド・オニグンソーが必ずや一人前にしてやる。




