14.はじめてのせんとう
擬音とか難しい……
――朝焼けが目に染みる。
薄く目を開けると既に日は昇り始めていた。
あれから――
一晩中試した。
一晩中あらゆる考えられる事を試した。
『滝行』
滝は近くにないので冷水を使う禊ぎ。
――心臓麻痺が怖いので、ぬるま湯にしたが。
『断食行』
とりあえず1日抜いてみた。腹が減ってしかたねぇ。
『写経』
経文を知らないので、ポエムを書いてみた。
『坐禅』
結跏趺坐をとり瞑想を――いつの間にか寝ていた……。
ここまでが、あの後すぐにしたことだ。
そして二日目――。
リアルな修行では『俺は覚醒することはできない!』と思い、俺は古き良き古典の修行法をとってみた。
龍○を参考にして、手で土を掘ってみた。指が痛くなった。効果はない。
戦女神の戦士達が行った修行法の岩を砕いてみたりもした。――砂団子だが(笑)
当然効果はない。砂遊びをしただけにすぎないのだから。
木の棒を見つけたのであることを行った。スペシャルハードコー○だ! 初日を再現した。
疲れるまで岩を叩いた。無駄な動きから最適になるまで叩き続けた。
だが、疲れたら最適な行動になるわけがない。疲れたらいい加減になってしまうのだから。
やはりア○ン先生がいないとダメなのだろう。初期のポ○プのように根性なしには無理なことなのだろう。
やがて俺は、太陽のエネルギーを再現した呼吸法を取り入れてみた。
――ちなみにどういう呼吸法なのかいまいちわからない。だからなんとなくだ。当然意味はなかった。
正直に言えば、スペシャルでハードなコースがつらすぎた。つまり呼吸を整えてただけに過ぎない。格好つけて言ってみたにすぎない。
ポーズなんかも取ってみた、それでさらに疲れたのは黒歴史だろう。少し関節や靱帯も痛くなっている。
あ、ちなみに岩は街からちょっと離れたところに、いくらでも転がっている。
ついでに平べったい石を顔に被せてみたのは内緒だ。
――残念ながら人間は辞められなかった。
跳躍系だけでは効果は現れなかった。
ならば、違う古典を引用するべきだろう。
俺はそう思いはちまきを巻いた。
煩悩を刺激したり、想うままエロいことを考えに考えた。鼻血が出そうになっただけだった……残念。
これもはちまきに竜の力が宿っていないからだろう。結局無駄だったわけだ。
ちなみに、はちまきは貰った物だ。ナマポで衣服を支給して貰うときに、要望したらあっさりと貰えた。指ぬきグローブは存在しなかった。
ならばと地面に円を描いた。
その中に虫を入れて戦ったりもしてみた。――虫はカメムシモドキだが……。だが、無駄に終わった。
契約魔術の儀式は、卵に血を付けて孵化させるところからやらないと意味がないんだろう、きっと。
こうして古典式修行法も無駄に終わった。
――――最初から期待してなかったけどね。
そして力尽きたところで、今に至る。
断食中なのでろくに頭も働かない。
この世界は自己能力を出せないと、スキルを取得できない。
またパラメータ次第で、何ができそうかが分かる。これによって戦闘以外の仕事も見つけられる。
それに俺はナマポ生活者だ。ギルドに所属してやっていくしかない。
内勤とかできないかと尋ねたが、どうやらスキル【事務】とある程度鍛えた【口述】・【記述】が必要らしい。
この世界は学歴社会ならぬスキル社会。
だからこのままでは俺の人生は終わったも同然なのだ。
――――どうせ終わりなら、自殺でもした方が楽になれる……
頭が回らなくてろくな考えが浮かばないようだ。ネガティブ思考になりがちだ。
まったく……。逃げに走るとか、最悪だ。
それにナマポを打ち切られ、追い出されるまではまだ大丈夫。
打ち切られてから考えるべきだろう……。ナマポサイコー。
とりあえず、飯でも食うか……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後――
狐太郎は引きこもった。
ナマポニートの誕生である。最底辺である。クズ爆誕である。
それに伴い、浮かべる笑みもゲス顔をするようになった。服装も実にだらしない。
健全な精神は健全な肉体に宿る。狐太郎はまさに真逆。不健全な精神は健全な肉体を害すだ。
食っては寝て、食っては寝ての繰り返しだ。
彼は心配するレイニーを対し、おざなりな態度を取るようになっていた。
心配する声を無視し、そして時々ゲスな顔をして彼女を眺めていた。
だがそれもしばらくしたらなくなった。レイニーに会うのは食事を取りに行くときだけなのだから。
当然一緒に食べるような事もなくなった。心配の声を煩わしく感じるようになったからだ。
『どんな感じですか? 魔力は感じられましたか?』
『がんばりましょう! きっとできます』
などの応援が、頭の中で変換される。
『働かないの? ただ飯は美味しい?』
――と。
だから彼は惨めな気分になるのだ。
(ニートもきっと『頑張ればできる』という言葉を聞くのは嫌に違いない)
狐太郎は落ちるところまで堕ちかけていた。
そうして彼は頑なになっていく――
「コタローさん。今日は時間が取れたので一緒にがんばってみましょう!!」
レイニーは明るい声で狐太郎に話しかけた。それは見る者を元気にさせる威力があった。
そのレイニーが狐太郎の手を両手で取り見つめる。
「が、がんばった、ところで……」
レイニーパワーにより、狐太郎は少しは元気を取り戻す。
その活力で、ようやく小声でぼそぼそした口調ながら話し出す。
そのはっきりとしない態度は、今の彼の自信のなさを表しているかのようだった。
「私がコタローさんに魔力を流して込んでみます。
それで感じ取ってみてください」
「あぁ、そんな方法もフィクションではよくあるよね……すっかり忘れていたよ。
――でもどうせ無理だよ」
「そんなことないですよ。これを子供の内からやると《操作》の値が高くなるって噂もあるんですよ」
「噂…とか……。所詮確証ないんだろ……。
それに俺にはきっと魔力ってやつがないんだ。だからいくらやってもできないんだ」
レイニーを信じ切れない狐太郎。
そんな彼にレイニーは優しく接する。
まるで赤ん坊をあやすかのごとく、慈愛の笑みを浮かべ。
だがその努力もむなしく、狐太郎にいくら魔力を流し込んでみても感じ取れない。
それでも優しく接するレイニー。
彼女は結局、一日中彼に付きっきりで指導したのだ。
彼はずっと繋いでいた彼女の手の温もりに心地よさを感じた。
彼はふと、あることに気付く。
(こいつ、俺に惚れてね?)
――――錯覚である。
沈んでいるときに優しくされると感じるアレである。
人は都合の良いように感じる生き物だ。
だが狐太郎はそう思ってしまた以上、止まれなくなる。それは暴走へと変わる……。
惚れているなら何をしても許してくれる。許される――と。
そして彼は引きこもるのを止めるようになる。
ある行動を起こすために――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コタローさんが最近、部屋から出てくれるようになった。
――それはいいことなのですが……。
何やら私を見つめる瞳が怖く感じる。
時折意味もなく笑っていて不気味です。
思わず鳥肌が立ち、逃げるように自室へ駆け込んだこともあります。
昔は――とはいってもそれほど前のことではなりません。
『魔力の特訓だ!』と元気よく訓練所やらどこかに出かけたり、ぼろぼろになって帰ってきていた頃が懐かしく思えます。
なのに、今は出かけても汚れるようなことはありません。何をしているのかもよく分からない。
――――おそらく、訓練はしていないのでしょう。
でも気分転換をして、これから頑張ってくれればいいのです。
あと変わった事……といえば、お風呂に入る時間が長くなった事でしょうか?
彼は今までは、あまり浸からず、すぐにでてくるスタイルでした。
それが急に変わるという事は何かあったのでしょうか……。
ちゃんと出てきているということは、逆上せているわけでもないのでしょうけど。
とりあえず、彼を信じましょう。
もし厚生できないときは――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(ついにこの時がきた――)
狐太郎はこの日のために、色々と調べたり小道具を作成していた。
手持ちのお金があるわけではないので、小間使いをしていた。それで材料を貰ったりしてなんとか完成させたのだ。
当初は、思いの丈をぶつけレイニーを押し倒そうとしたのだが――
勘違いだったときは、一緒に住んでいるわけだし気まずくなる。
またスキルが使えるレイニーの方が自分より強い。撃退をされたとき、勢い誤って自分を殺してしまう可能性があると考えたからだ。
――――殺される事に否はない。
むしろこのままなら殺して貰った方が楽だ。
だが、彼女に人殺しの業を背負わせる訳にはいかない。
そう思い、考えを改めたのだ。
だが……、『覗きくらい許されるんじゃね?』と甘くささやく、俺の中の悪魔。
悪魔の誘惑に対するダイス判定はあっけなく敗亡してしまった。
狐太郎は悪魔に操られ、想いのまま行動を取り始める。
彼が用意したものは3つ。
足音を消すための厚い布靴モドキ。ドアの開閉の音を消すための細工。それに風呂の脱衣所の保護色をした全身タイツであった。木目のタイツが隠密性を増している。
――この世界の風呂も日本の銭湯のような作りだった。
この"3種の神器"をもってレイニーの攻略をする。
――現時刻をもって作戦を決行する。
「こちらスネ○ク、風呂場に潜入した(ボソ」
狐太郎は注意深く、それこそ細心の注意をもって脱衣所に潜入した。
そこで風景に溶け込み、堂々と観察するつもりなのだ。
そもそも潜入もなにもない。
最初から外にでなければいいだけなのだから。出た振りをすればいい。ただそれだけのこと。
しかし、彼は雰囲気を大事にした。格式美である。
心に潤いがなくなった場合は既に経験済みである。あんな状態に戻らないためにも、遊び心は必要だ。
そんな間抜けな狐太郎は獲物が来るまでの間、待ちに待った。
心拍数をすら操り、音を微塵も発生させない――つもりだった。もちろん、そのような事は不可能だ。
そして長く、とても長い時間が過ぎた。
――実際はそれほど経っているわけではないのだが、待つ時間は長く感じるものである。
ギシッ ギシッ
来た!
ついに来たのだ!
レイニーが歩み寄る足音が鳴り響く。木造建築故の音だ。
無垢な獲物は肉食獣がその血肉を喰らおうと、身を潜めタイミングを計ろうとしていること気付いていない!
そもそもこんなこととなど想像してすらいないだろう……。
彼女は恐らくいつものように、籠の前に立ち服を脱ごうとしている。
狐太郎は目が血走り、思わず息が荒くなる。
シュッ シュシュシュ……
脱衣所に広がる音は、狐太郎の官能を呼び起こす。
帯を緩め解く、その姿は艶やかだ。
(はやく、はやく、はやくその次を!!)
彼は興奮し、どんどん心拍数が早くなる。
次なる光景を想像し、鼻息も荒くなる。
「ハァ、ハァハァ……ハァ」
シュッ シュシュッ
――――――バシッ!
「ぼふっ」
狐太郎の顔に何かが襲い掛かる。彼は何が起きたのか理解できなかった。
レイニーは帯を完全に解いた瞬間、狐太郎が隠れている場所に向かって帯を投げつけた。
――これは彼女の持つスキル【捕縛】だ。鞭・縄などを使い相手を拘束する効果がある。
スキルはその効果を十全に発揮し、帯は狐太郎の顔に絡みついていく。ぐるぐると。
狐太郎の上半身は完全に巻き付いていて、身動きも取れなくなる。
「ふがーーーっ!、もがーーーー!!」
狐太郎は突然のことに何があったかわからず、混乱する。
だがしかし、顔には帯が絡みついてしまっている。喋ることもできない。
いや、そもそもすでに捕縛されて身動きがとれないのだ。
たしかに下半身は自由だ。だからといって、首と手が使えない状態で足だけで立ちあがることはできない。
ましてやその状態で逃走するような器用さは狐太郎は――持ち合わせていない。
「何をしているのですか?」
無様な姿で捕縛されている狐太郎に、レイニーは無情に告げる。
「ふがー!ふがーーーー!!」
「ふがふがじゃ分かりませんよ?
殊勝にも掃除をしていた……という訳ではないようですね。一体何を、ここで、していたのですか?」
「ふが、ふが、ふが」
「ふむふむ、――人としての言葉を忘れてしまったようですね」
ガサゴソ……ギュッ
ガタンッ! ガシッ
ギシ ギシ
狐太郎はみえないが、恐らく着替え直しているのだろう。
しかしその姿を想像するだけでも、狐太郎は興奮してしまう。
「まぁ、覗きとしか考えられないですよね?
部屋から出るようになって、何をしているかと思ったら――まさか覗きの準備とは……」
レイニーから尋常ならざるプレッシャーが放たれている。みえていないが間違いない。空気が凍てついている。
服を整え、あるもの掴み、狐太郎の方へと向かう。
その手に持つものは――
「お・し・お・き、が必要のようですね。
さて……覚悟はいいですか? いいですよね?
まぁ待てと言われても待ちませんが」
そして、手に持った竹槍を突き刺す。
そう、狐太郎の急所の一つ――お尻の穴へと。
「ふごーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
狐太郎はその痛みに、のたうち回る……こともできない。固定されているからだ。
竹槍を掴んだままのレイニーと帯による捕縛。その痛みにただ、ただ涙と涎を垂らす。
その魂の血滴はレイニーの帯にしみこんでいく。
「あぐ、あぐぅ」
彼は痙攣し、見るも無惨な姿になっている。
そんな相手に対し、レイニーは竹を掴み直し、狐太郎ごと持ち上げ肩で背負う。
「うんしょっ、っと」
「むーーーー! うーーーーー!」
その振動に刺激を受けピクピクと震える狐太郎。
その姿は見る者に憐憫を感じさせる。
――まるででっかい肉巻き棒のようにもみえる。
レイニーはそれを担いだまま、外に出る。
そして、それをそのまま木に吊したのだ。
「しばらく反省するといいのです」
そう言い、狐太郎を吊したまま放置し、立ち去っていった。
臨場感が感じられないので、文章になれてきたら修正するかも