気になるアイツはロリコン?
つい先日、コロナさんが指名依頼を受けた日。それ以来……彼の様子がおかしいのです。
それまでは、どこかつまらない、そして物足りないという不満げな様子でした。
けれど、その日を境にぼーっと惚けることが多くなりました。
あれは何も考えていない……ということではなく、何かを反芻している。そんな感じです。
それまでは私が話しかけたら、優しく返してくれていました。
でも、最近は無視をされる――話しかけていることに気が付かないこともあります。
私に食事を作ってくれることも、段々となくなっていった。
プリンを作ってくれることもなくなってきた。
私の扱いがおざなりになってきた。
かつては時に、子供を相手にするような接し方をされたこともありました。
とはいえ、それは最初の頃です。固定パーティを組む辺りの前後からは、一人の女性として見てくれていたように感じます。
それからのコロナさんはは、私を一喜一憂させることばかりでしたのに……
――一体何があったのでしょうか。
今日もコロナさんは何処かへと出かけていく。
これでは固定パーティを組んでいる意味などないというのに。
しかし、付いていくわけにも行かない。なんでも長期の指名依頼を受けたそうなのです。
何日も帰ってこないときもあります。
日を跨ぐ仕事は、今までは受けることはなかったというのに……
そして、こそこそと出かけていく。その様子は――
まるで浮気をしている旦那、といった感じがするのは気のせいでしょうか。
そして今日、コロナさんが突然、驚くべき事を言ってきたのです。
今朝もまたコロナさんは一人で出かけていった。
最近では帰ってくるのは私の方が早いという情況です。
今日も同じように、つまらないと感じつつ、ギルド指定ダンジョンに籠もってきたばかりでした。
しかし、コロナさんは帰ってくるなり、このように呟いた。
「レイリア……固定パーティに一人加えようと思っている人がいるんだ」
――気のせいでしょうか?
まるで娘に、「俺、再婚することに決めたんだ。その人に会ってくれないか?」と言っているように聞こえました。
いいえ、気のせいでしょうね。そもそも私はコロナさんの娘ではありませんし。
どちらかというと私が娘に会う側ですね……キャッ。
あれ? あれれ? コロナさんは娘がいるわけありません。何を言っているのでしょうね、私は。
いけませんね。少し妄想が暴走してしまいました。
最近コロナさんが構ってくれないからでしょうか。
「レイリア? 聞いているのか?」
「あ、すみません。ぼーっとしちゃいました」
私はあざとく可愛い仕草でコロナさんに謝る。
「そうか……大事な話だから、ちゃんと聞いてくれると助かる」
「はい、わかりました」
私が頷くのを見ると、コロナさんは『大事な話』とやらを話し始めた。
「今まで俺が指名依頼を受けていたのは、俺の人となりと、実力を確かめるためだったらしい」
どういうことかしら?
――依頼をして、確かめる?
何故そのような無駄な事をするのか、私には理解できなかった。
臨時パーティをして、合う合わないを確かめればいいのだから。
「もっともそれは、最初の1回だけだったんだけど……」
私はその一言でピンと来た。
「もしかして、他の指名依頼と言っていたのは嘘で……
それ以後は臨時パーティを、していたのですか?」
声は震えなかっただろうか……
私は暗い気持ちを抑え付けながら、やっとの思いで、その一言をはき出した。
「え? あ、うん……そういうことになるのかな……」
「へー」
私は眉がつり上がったのを感じた。
「そのぅ……だな。臨時パーティをするということが指名依頼だったんだ。
嘘じゃないぞ!? 確かにギルドを通してやったことだからなっ!」
彼が言う台詞。その全てがうさんくさく感じられてしまった。
これは――――あれですね。
浮気された嫁の気分というやつを味わっているのですね。
わき上がる理不尽な怒りをなんとか抑えつつ、コロナさんに語りかける。
「そ・れ・で! その人は一体どういう方なのでしょうか!?」
――まだ早い。
新しい仲間が女性と決まったわけではないのです。
逸る気持ちを宥め、冷静に聞けるように気持ちを整える。
「あ、あぁ。それで、今、外に待たせて――」
私はコロナさんの言葉を遮って、外に向かった。
百聞は一見にしかず。
焦らされるのはもう十分だ。
私は出入り口まで着くと、迷いなく外に飛び出た。
すると――
そこには――――
私より小さな女の子がいた。
「えっ?」
思わず声が出てしまった。
予想外だったのだ。
男が居るという期待など正直なかった。
コロナさんのことだから、女の人の可能性が高いと踏んでいたからだ。
何せあのレイニーちゃんとかかわる機会があるくらいなのだ。そんな星の下に生まれているに違いない。
だから他に知り合った女の人がいても、おかしくないと感じていた。
目の前にいるのは、確かに女の人だ。
女の人というより、むしろ女の子?
私は少し気が抜けた。
相手がこのような女の子では、私の心配など取り越し苦労に違いないのだから。
荒んだ気持ちが一気に平静になるのがわかった。
そしたら急に余裕が出てきた。
せっかくだから、コロナさんが来る前に挨拶をしておこうかな。
これから固定パーティを組むのだし、仲良くすることは大事だよね。
そう思って私は声を掛けた。
「貴女が新しい固定パーティに入るという方ですか?」
「ええ、私がそうですわ」
随分と可愛い声をしている。見た目通りというところでしょうかね。
ですが、上品な物言いといい、着ているものもかなり上等ですね。
しかも――手に持つあれは、扇 杖かな?
魔導武器は使う人を選ぶと言われているだけあって、その扱いは難しい。
敢えて選ぶ人も少なく、装備もほとんどがオーダーメイド。
だから当然値段も高くなる。
その事から、彼女はお金持ちの生まれか、それとも実力者ということになる。
見た目から考えると、彼女は前者でしょうね。
コロナさんも、ギルドに加入したばかりの娘を連れてくるなんて、随分と思い切りましたね。
それはまた彼女が優秀な証でもある。そうでなければ、わざわざこのような娘を選ぶ必然性がない。
彼女の才能に少し嫉妬するとともに、自分より年下の娘がいることで、自分もしっかりしなくてはという気持ちにさせられる。
「そんなところで話してないで、中に入ってこいよ」
後ろからコロナさんから声を掛けられた。
それに釣られ、私は振り返る。
「はーい、今入りますよ~」
返事を返したことで、それもそうだと思った。
確かに、いつまでもこのような場所で話すものではありませんね。
そう思い、彼女に声を掛けようとする。
――いないっ!
私が振り返るまでの間に彼女は消えてしまった。
何処に行ったの!?
私はキョロキョロと周りを探す。けれど見つからない。
いない……もしかすると帰ってしまったのかな。
そんな事を考えていると、再びなかから声が掛かった。
「レイリアも入ってこいよ」
――ん、あれ?
今『レイリアも』という声が聞こえたような気がした。
その事から考えるに――
彼女は私が勧めるまでもなく、家の中に入ったということ?
釈然としないまま、私はコロナさんの元へと戻ることにした。
すると、とんでもない光景が目に入ったのだ。
あれ? 何か、変だな?
なんで、コロナさんの膝の上に女の子がいるのだろう……
なんで、コロナさんの顔に腕を回しているのだろう…………
なんで、コロナさんの顔に唇を押しつけているのだろうっ!
私は再び嫌な予感に襲われた。
でも、でも……あれはじゃれているだけだよね?
私は、開けてはいけない蓋が開き掛けている気がした。
だって、コロナさんは大人の女性が好きなはずだもん、ね。
きっとそうに違いない。
私はそう思ったからこそ、大人の女の魅力を磨くことにしてたのだから。
わがままをいわない――ではなく、わがまま感じさせないように誘導するとか。
化粧とか、他には……他にも色々と……かなぁ?
と・に・か・く、大人の魅力を磨いていたのだ。
だからコロナさんがその――少女嗜好ということなんてないはずだ。
うぅん、あってはいけないことなの。
捨て去ったものが必要だとしたら、それは悲劇。
もはやその武器を手に入れることはできない。だから私的にそれはあってはいけないこと。
そんな私の気持ちを読んだのか、
その少女は私の方をみて、クスリっと笑った。
そして再びコロナさんの方に振り返り――
彼の唇に……
唇に…………
唇にぃーーーーーっ!
少女は唇を押しつけたのだ。
「ぷはぁっ、おい、いきなりは止めろよ」
「ふふふ、私もう我慢できませんでしたの」
「だからといってレイリアの前で……」
「良いじゃありませんか。いずれはバレてしまいますわよ」
「いや……それでもさぁ」
「んふふふ、チュ」
「バカ、止めろって」
そんな遣り取りが聞こえる。
私は正直なところ、立っているか、座ってしまったかわからなかった。
あれは何なのかな?
夢でも見ているのかな?
うん、わかってる。
わかってはいるんだよ。
現実逃避ということくらい、分かっては居るんだよ。
でもね、でもね……
信じたくはないの。
ゆっくり、そしてじっくりとコロナさんを調理しようとしていたら――横からパクっと食べられてしまった。
そんなことなんて信じたくないの。
でも、認めなければいけない。
コロナさんも決して嫌がったそぶりは見せていないということに。
口では嫌といいつつも、実に嬉しそうな顔をしている。
そしてあの女の子――いえ、敵ですね。
あの敵もコロナさんに首ったけというのがわかってしまいます。
「ゴホンっ。いい加減にしてくださいっ! ずるいですっ!」
「ずるい?」
ギラッ
疑問を口にしたコロナさんに、私は視線をぶつける。
荒ぶった私の気配を感じたのか、口答えをするようなことはなかった。
「そ・れ・で! 何時になったら紹介してくれるのですか!?」
「あ、あぁ……すまんっ!」
「そういえばそうですわね。挨拶しただけで名乗ってはいませんでしたわね」
可愛くとぼけたって私は騙されません。
あの敵は私のことをわかって、敢えてあのように振る舞っています!
「私は――コロナの生涯の伴侶となるシャーロット。シャーロット・ベルリアンですわ。
どうぞ、よしなに」
「私はレイリア・ヒューズよ! コロナさんと結婚するのは貴女じゃなくて、わ・た・し、よっ!」
勢い任せについ言ってしまった。
どうしてこうなったのかな……
泣きたい。