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言質は取らせるな

 

 

 

 

 月初めの税――特産品取得税。

 それは来月からかと思いきや、実は今月からであった。

 返却されたカードを見たら所持金が減っていた。階級ランクアップ手続きと同時に差し引かれていたのだ。


 酷い話である。


 引き落とし故に、納税の手続きをしなくていいのは楽ではある。が、せめて日割り計算をしてほしいものだとコロナは思った。



 この税を納めることによって、特産施設に自由に入ることができるようになる。

 もちろん、採取の許可がおりた所に限るが……


 ここでどんな量を採っても無料なのだ。収納道具ストレージ持ちなら、際限なく詰め込むことも可能だろう。

 だからといって、これを売却したり、他人にあげたりすることは犯罪行為となっている。

 お裾分け・・・・など間違ってもしてはいけないのだ。


 ただし、例外がある。

 この税を納めている者には与えても、良い、事となっている。

 そう、だからコロナがいくら水族館ツキジで新鮮な魚を捕ってきたとしても無駄なのだ。

 C級になっていないレイリアには与えてはいけないのだから……



 コロナとしては冗談ではない。


 そのことを抗議した。いや、抗議というほどのものではない。

 改善を要求した……いいや、その意志はもっと弱いものだった。提案というべきだろうか。

 無駄に突っかかるとろくな事が無い、と理解したゆえの行動である。

 コロナも何時までも失敗をやらかすダメ男ではないのだ。


 だが、要求は受け入れられなかった。

 あたりまえである。当時決められたことを、何の問題も出ていないのに改善などできるわけがない。

 ギルドからしたら、冗談にしか聞こえない内容だったのだ。


 コロナは場の雰囲気が、冗談で済む内に逃げ出した。

 これは敵前逃亡などでは断じてない。ましてや戦略的撤退などありえない。

 これこそが、負け犬の後ろ姿だったのだ。

 





 これは昔にあったことだ。


 『同じ固定パーティチームならば、特産品を共有してもいいではないか?』という声も上がっていたことがある。当然だろう。無料といっても、税は払っているのだ。

 ならば、その権利を享受できるならばするべきなのだ。


 それに対してギルドは――


 固定パーティチームならば協力して、その者の階級ランクをあげるべきである。そうすれば良いだけの話だと断じた。

 それは訴えた者たちにとっては不満が残る結果だろう。流石に抗議をしたらしい。


 けれど、『仲間を【ダウト】程度に上げられる自信はないのか?』と問われてしまえば話は変わってしまう。

 無駄にプライドが高いギルド所属者たちは、これに真っ向から『余裕だぜっ!』と声をあげたらしい……


 実に短絡的である。馬鹿としか言いようがない。


 毎度毎度、似たような状況で、常にギルドに上を行かれている。

 探索者サーチャー傭兵ソルジャーたちは馬鹿の集まりなのだろうか……

 ギルドの上をいくものは現れたりしなかったのか……



 そもそも……それはそれ、これはこれなのだ。

 そのことをこの世界の住人は理解ができないのだろうか。論点を変えられたことに気づかないほど愚かなのか。


 そんな考えなしに発言をしてしまえば、ギルドに言質を取られただけに終わってしまう。こちら側には何のメリットもないのだ。

 おそらくそのことには誰も気付いていなかったであろう。


 中には黙って、無料採取分を享受したものがいるらしい。

 けれど、何故かそれがバレてしまうらしい。

 結果的にそれをしたものは、ペナルティに処されてしまう。


 過去の悪習に囚われて、火の粉が降りかかけられるとはいかがなものかと思う。





 その逸話をレイリアから聞いたコロナは――


(張り切って採ってきたのが無駄になってしまったな……)


 無念に感じながら、調理中の魚を収納道具ストレージにしまうことにした。

 ギルドに内緒でこっそり食べさせてしまおうとしたのだ。

 しかし、それはあまりに危険なことらしい。加工してしまえば大丈夫じゃないか、という考えも浮かんだが、自分の事ではなくレイリアに及ぶことなのだ。

 安易な考えでそれを臨む訳にはいかない。


 ちなみに使った収納道具ストレージは生もの専用の物である。

 臭いが移るなどと言うことはありえないのだが、嫌悪感がぬぐえない。

 何となくではあるが、コロナは衣服などを同じ収納道具ストレージにしまいたくなかったのである。それ故に専用の物を買っててしまった。

 大した値段でもないのだから、精神の安定のためにも必要な散財だったといえるだろう。



 事実、容量が小さい物は安いのだ。たくさん買ってもそれほど値段は嵩張らない。


 しかし、小容量を複数個分の容量、それに匹敵する大容量の物を買うとなると話は違った。

 最小量の30種30個の収納道具ストレージを10個分。それに匹敵する300種300個の収納道具ストレージは桁が優に2つも違っている。だから当然無駄と言えるだろう。


 そのため、大きいものを買うよりも、一番安いものを大量に買った方が経済的に有利であった。

 そのために、既に新居の一室は収納道具ストレージ部屋と化していた。



 だが、それはあくまでも値段の話なのだ。

 幾ら小さくて便利な収納道具ストレージだからといって、たくさんあれば場所をとってしまう。また見栄えもよくない。

 そのため早速、同居人であるレイリアから苦情が出てしまった。


 コロナはこの方法を許して貰うためにある作戦を実行した。


 ――同罪にすればいい……と。


 彼女にも収納道具ストレージ部屋に荷物を置かせてしまえばいいのだ。

 彼女に収納道具ストレージをプレゼントしてしまえばいい。プリン専用の物をほしがっていたではないか。

 だが、それだけではまだ拒絶される可能性が高いとみていた。


 そのため、その収納道具ストレージには満帆になるまでプリンを詰め込んだのだ。

 30×30個など作っている時間はなかったため、全て既製品だったが、高級品を選んだために安い買い物ではなかった。



 これも全て、用途で分けるためだ。その方が便利なのだ。

 捜し物も楽に見つかるし、コロナとしては譲れないことだった。

 もっとも外見は全て同じなので、タグを付けて管理しなければならなかったが……




 それは今は昔のこと。

 結果的に夕食のメニューが駄目になってしまった。

 そのため収納道具ストレージに入っている非常用を食べる事にした2人。


 もちろん、収納道具ストレージに入っているから出来たての食事だ。実に都合のいい存在だが、暖かいまま、冷たいまま保管できるのはいいことなのである。そのことに文句などあろうはずもなかった。



「それにしても、悪しき前例を作ったやつら……非国民として、歴史に名を残しておくべきだったな」

「非国民は……さすがに言い過ぎじゃないですか?」


 苛烈なコロナのセリフに、レイリアもそこまでは……という気持ちで同意はできない。


「いいや、やつらは非国民だ。

 交渉の『こ』の字すらなっていないやつらのせいで、レイリアとの食事にケチが付いたようなものだ。

 ――これを悪と言わずして何をいう?」

「わ、私は別に……こういう食事でも満足ですよ?」


 自分のために怒ってくれているとわかり、レイリアは思わず嬉しくなってしまう。

 だがコロナにそのような意図はない。単にレイリアを出汁・・にしているだけなのだ。

 愚痴を言いたいだけなのだ。否定されてしまうと、面白くないのだから。


 こう言えばレイリアも簡単には否定はできまいという作戦だった。

 はたしてそれは的を射ており、見事に成功したといっていい。ゲスではあるが……



「これは、レイリアの為を思って作った料理じゃないからなぁ……

 ――やっぱり食べる人を思って作った方が俺的にも嬉しい」


 チラチラと様子を窺いながら、そう攻め立てていく。

 その猛攻の前に既にレイリアはノックアウト寸前だった。


「そ、そうですね。悪習は正すべきですよね」

「そう思うだろ? だが、一度決まってしまったものはなかなかにくつがえすことができない。

 だからこそ、条件を決めるは時は慎重に行わなければならない。その事をよく覚えておいて欲しい」

「わかりました!」


 そう言って、レイリアは力強く頷いた。



 コロナは特産品が使えなかったことで、ここまでレイリアに主張もとい、愚痴を言っているのではない。

 彼が言いたいことは一つだけ。


 ――――ご利用は計画的に


 ということであった。


 考えなしに契約および署名をしたら、破滅……とまではいかないまでも、不利益を被るということを言い聞かせているに過ぎない。

 レイリアは時々暴走をする。それ故、強く言い含める必要があったのだ。


 しかし、本当の意味はそんな事ではなかった。

 つまり――遠回しに、勝手に階級ランクを上げられたことを非難していた……ということだ。

 既に【ニート】ではなくなったからといって、恨みは忘れないのだ。


 これ以上『荒ぶるコロナ』が目覚めないようにと、しっかりと言い聞かせることこそが目的であった。



 だが、頭がお花畑状態のレイリアには無駄なことであった。

 そのような深い意味を汲み取ることなどできる訳がない。ただ、コロナとの食事に水を差した先人たちに恨みを抱いただけであった。

 

 

 

 

 

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