番外編 【直感】の持ち主
コロナが最も頼りにしている相棒――スキル【直感】。
かつて《ガイニース》のダンジョンにおいて【好奇心旺盛】で取得した、このスキルにも当然持ち主がいた。
その持ち主とは――
この話はコロナがダンジョンに潜る様になる前の話である。
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ギルドには受付と双璧をなす、なくてはならないものがある。
――――そう、食堂だ!
ギルドの賑わいを、周囲に見せつけるためにも必要としている設備である。
そしてそこに【直感】の持ち主が居た。
席に着き、美味しそうに食事を食べている女性。
その人物が【直感】の持ち主である。
彼女の名前ミルキー・ママアジー。
ギルドの救護室で働いている中年を過ぎた女性だ。
彼女は、日々やってくる荒くれどものケガを一身に引き受ける、白衣の天使的存在。
たとえ外見がかつての栄光だとしても、心は常に乙女。
彼女に「おばさん」と言った者はケガを治しに来たというのに、違う場所にケガをして帰ることになる。
言わば、勉強代ということだろう。治療費の他に払う物があったというだけのこと……
そんな彼女は、いつものように考え無しどもを治療していた。
だが、その日はいつも以上にケガ人が多い。
(これは一人だけでは無理ね……)
彼女は限界まで頑張らない。
少しでもサボるため…………というわけではない。急患に対応するためだ。
MPがなくて、死亡しましたでは話にならない。
そんな思惑から、ヘルプを頼もうとした。
だが、同僚のキャシーは先日旅行に出かけ、一月ほどの休暇を申請している。だから彼女はいない。
残りは往診に出かけている。――ここに来られないほど傷を負った者の所へと。
これはどうしたものかと思ったとき、【直感】が囁いた。
そしてそれに従い、周囲を見回した。そこで一人の青年が目が留った。
――コロナ・パディーフィールド
生活保護を受け、天涯孤独になりながらも、一人で頑張っている青年だ。
彼はロナルドの扱きで、よく救護室に来ていた。
当然ミルキーが世話をしてやったものだった。だからよく知っている。
そしてコロナも彼女には頭が上がらない様子だった。命の恩人なのだから当たり前だろう。
(使えるね……!)
【直感】が再び囁き、そう思ったミルキーは、何処かに行く予定だっただろうコロナを無理矢理確保した。
「あんた、ちょうど良い。【ヒール】の練習はここでしていきなっ!」
コロナの事情など無視し、強引に救護室へと連れて戻ったミルキー。
そんな彼女は早速仕事に掛かった。
【ヒール】で手に負えない者以外は、コロナに任せることにした。
本来ならば彼女一人だけで、何とかなる量ではあった。
しかし、前日に旦那を酷使しすぎてしまった。
その結果……旦那は腰を痛めてしまい、その治療でMPをそこそこ使ってしまったことで心許なかったのだ。
けれど、軽い患者をコロナに任せたことによって、なんとかその日を乗り越えることができた。
前日に旦那を酷使し、そして今日は断れないコロナを酷使する。
これがまさにおばちゃんパワーと呼ばれるものである。