ミサイル
「彼は、一言でいえば、科学の申し子だった。
先祖代々、有名な研究者を輩出してきた家柄に、彼は生まれた。科学者であった彼の両親は、彼に膨大な知識と深い、深い愛情、それに『使命』を与えた。彼は、そんな両親と祖先たちに多大な感謝捧げ、小中高大と学生時代をとんとん拍子に進んでいった。そして、大学の院で同じような境遇の女性に出会い、彼らは恋をした。最も、専門分野は微妙に違っていたからあまり会うことは少なかったようだが、彼らは一緒になってお互いの研究を助けあっていたそうだ。そして、20代の中ごろ、運命が彼を表舞台へと引っ張り出したんだ。
そう、キミも知っての通り、大総統閣下が、彼の研究に目を付けたんだ。それから、彼の人生は一変したんだ。多大な資金に、大勢の部下を与えられた。そして、様々な特権と、若い研究者として破格の待遇を受けることになったんだ。その恩に報いるため、彼は寝る間も惜しんで研究に没頭し、とうとう完成させたんだ。そうそう、ちょうど同じころ、彼の奥さんも研究を完成させたと言っていたね。
あとはもう色々と調べたんだろう?そう、彼は『使命』を果たしたんだ。」
そう言って、老人は紅茶の入ったティーカップを口に運んだ。私は今聞いたことをメモに書き留め、同じように紅茶をすすった。
「しかし、彼の話を聞きに来るなんて、最初は驚いたよ。」
老人はそう言ってはにかんだ。
「そうですね。物好きなのかもしれません。でも、彼の話は、やはり後世に残すべきだと思ったんです。」
「そうか。それは、きっと彼も喜ぶだろうね。」
そのあと、いくつかの質問を老人から聞き取り、私は丁寧にお礼を言って自分の家へと帰った。
シャワーを浴びてさっぱりした後、集めた資料と本、そして先ほど聞き取った調査のメモを持ち、パソコンの前に座った。
「さて、書きますか。」
そう呟いて、私はキーを叩き始めた。彼が両親から与えられた『使命』、『歴史に名の残る科学者になる』事に成功した、大量殺戮兵器を作った男の物語を。