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気持ち

作者: 黄月筒木

  昔僕が小さかった頃の話なんだけど、ある晩僕は布団を頭まで被って小さくなりながら寝ていたんだ。蒸し暑くてさ、息が詰まるから目がひっきりなしに覚めるんだ。でもまあ、その分あったかいからすぐにまた寝ちゃうんだ。

 何の音もないし、誰の声もしないもんだからあまりたいした記憶じゃあ無いんだけどね。僕はその時のことを鮮明に憶えているんだ。

 例えば、僕がその時何回目が覚めて何回息をしていたとかさ、寝ていたはずなのに不思議だよね。全部知っているんだ。可愛いぼうやの僕は寝かけるたんびに起こされて三十と四回起きた。大して吸えもしない小さな鼻で五千と二百三十五回息をした。

 でも、その時の僕が何を考えていたかだけは思い出せないんだ。なにひとつさえ、決して出てきやしない。もしかしたら、夜に食べたキノコのパイを思い出してたかもしれないし。はたまた、小さな妹のジョンの事を考えていたかもしれなかったのにね。出てこない。

 僕の思い出は一体全体どこへ消えてしまったのか。きっと歩いて行って隣のおじさんが作るパイの具になってしまったのかもしれない。あそこの家のご飯はとってもまずいから、これで少しは美味しくなると良いのだけど。

 ジョンの事なんだけれど丁度千四百回目の息を吸った時、大きな手が僕を掴んだんだ。それが十二回目に起きた時のことなんだけどさ、あの手は間違いなくジョンの手だった。

 ジョンの手は大きいんだ。巨人のように。そのこの手は少しざらざらしていたね。ジョンはそのまままた布団に潜り込んできた。僕は眠たいから布団に隠れてしまおうとするんだけど、ジョンは力強くてね。

 それからまた、二千回目の息を吐いた時にはジョンも疲れてきたのか僕の耳元で肩を揺らしながら荒く息を吐いていたよ。時々甘えたいのか僕の頬っぺたをべろりと舐めるんだ。まるで犬みたいに。ジョンは歯を磨いたのか苦いメンソールの臭いがした。

 気がつくと僕は四千五百回目の息を吸っていて、その時にはジョンは終わったのかごそごそと何かを用意して僕の部屋から出て行ったみたいだった。ようやく僕は安眠を手に入れた。

 五千二百三十五回目の息を吐いて、三十四回目の目覚め……要は朝起きた時、やっぱりジョンは居なくて安心して体を起こすと少し腰が痛かった。多分何度も起こされたからだろう。

 お腹が空いたからお母さんの作ったご飯を食べてから歯を磨いた。いつも美味しいご飯の味を安いミントの味で消してしまうのはもったいないと僕は常々思っていたね。

 それから、僕はまだ小さなベッドの上で寝ている可愛い妹を見てから学校へ向かったんだ。やっぱり夜更かしは良くないよね。


 今でも時々現れるんだ。消えちゃった気持ちは出てこないけどね。そんな時はまた布団に潜って朝まで呼吸と起きた回数を数えるんだ。

ありがとうございました。

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