せーぎのみかたのお姉ちゃん!
練習作品です。気軽にお楽しみください。
なお、理解しているとは存じますが、この作品はフィクションです。実際の個人名・団体名とは一切関係がありません。もし、同姓同名の方が居たらすみません。
なお、残酷描写はまったくありませんが、念のためです。
どうも、私の名前は星木 癒といいます。偶に妹と比べると、身長や性格が子供っぽいとか言われますが、一応妹の双子の姉で、17歳の高校2年生です。
どこの高校であるかは……え~と、まだ決めてないそうです。すみません。ああ、これは独り言です。気にしないでくださいね。
いきなり何を言っているのかと思われると思いますが、最近、私の妹である星木 実片ちゃんの様子がおかしいんです。
家に帰ってきたかと思うと、私の顔を見るなり突然頭を抱えて悶えたり、眉間にしわを寄せたりしている姿をよく見ます。かと思えば、帰ってきてご飯も食べずにそのまま寝てしまうこともあるんです。
―――――――明らかに挙動不審です。それに不摂生です。
まったく、ご飯はしっかり食べないと駄目ですよ?
…………せっかく作ったのにな……。
後であの人たちのところへ持っていこうかな?
同じ年とはいえ、実片ちゃんのそのような姿を見ていると、『学校でいじめにでもあっているんじゃないか?』というような不安に苛まれてしまいますが、私が何度聞いても実片ちゃんは「大丈夫だよ。疲れているだけ……」と答えて部屋に閉じこもってしまうんです……。
そんな様子の実片ちゃんを心配に思って、実片ちゃんと同じクラスメートで実片ちゃんと仲の良い友達に問い合わせても、いじめなどとは無縁な学校生活を送っているらしいです。新しく来た転校生の男の子とか、親しくなかった人とか仲が良い人が増えているようで、お姉ちゃんはとっても安心しました。
その時、あの転校生君は私の方を見ていたけど何なのかな? まぁ、それはともかくとして。
――――――なら何故そんなに疲れているのかな? 私にはいじめくらいしか思いつきませんが、違うみたいですし。う~ん……。
…………っ!! そうです! あの人たちに相談してみましょう! あの人たちは変わった人が多いけれど、だからこそこういったことには慣れてるかもしれません。
そう思った私は机の上に置いてあった鞄を手に取ると、学校を出る。その途中、何人かに声を掛けられましたが、手を振るだけ振って一直線にあの人たちの家へと走り出した。
その時の私は重要なことを忘れていました。…………後で思い知ることになりますが……。
――――――その数十分後。私は何とか目的の方の家へとたどり着いたのですが…………――――――
「はぁはぁ……つ・・・疲れました……」
――――――あの人たちの家は自宅からは近いものの、学校からは遠いことを忘れていました。運動音痴の私には、学校から直接走って向かうのは無謀でしたね……。
…………一度家によればよかったなぁ。家は直ぐ其処ですし。やっぱいいや……疲れましたし。
とりあえず、手ぶらで行くのもなんですので、お土産に今日の家庭部の部活動で焼いた、バタークッキーをカバンから取り出して手に取ると、見た目普通の民家の玄関先へ行って、インターホンを押す。「ピンポーン」というおなじみの呼び鈴が聞こえた後、少しだけ扉が開いて、中から私にとって聞きなれた声が聞こえてきました。
「どちら様ですか?」
「えっと、私ですよ?」
「あ、その声と気配は癒ちゃん!」
私がそう答えると、扉の先から聞き慣れた嬉しそうな女の子の声が聞こえました。その声と同時に玄関の扉が勢い良く開いて――――――
「むぎゅ!?」
――――――私の顔にぶつかりました。……ものすごく痛いです。
「ああ!? 大丈夫ですか!?」
地面に突っ伏している私に焦ってどこから出したのか、氷を押しつけながらに話しかけてくる黒髪を肩のあたりまで伸ばした女の子。
この子がこの家の主人である亜玖 未方ちゃんです。名前は実片ちゃんと同じですが、漢字が違うんですよね。何か運命を感じます。
彼女の見た目は私と同じように2桁に入るか入らないかといったようにしか見えないのに、なんと25なのだそうです。
世の中不思議ですね~? かくいう私も、小学生の3・4年の頃から背が全く伸びていないので、とても彼女の気持ちが分かります。実片ちゃんはなんというか、その、もでる体型(だっけ?)で168もあるのに、私は未だに140だもん。
――――――ごめんなさい。見栄を張りました。実際は139センチです。あと1センチ……。
…………胸は実片ちゃんよりもあるけど。たしかCとDの間だったかなぁ?
羨ましいのか、家では実片ちゃん、こっちでは未方ちゃんに良く揉まれます。こんなもの、私の身長的にただ重いだけですよ? 私からすればこんなものよりも身長がほしいです。
それはともかく、大分痛みの引いてきた私は未方ちゃんに話しかけましょうか。そろそろ氷で顔が痛くなってきたので。
「もう大丈夫です。ところで今、誰がいますか?」
顔に乗せられた氷をどかしながら私はそう尋ねます。今回の件は聞いてもらう人がいっぱいいた方がいいですからね。
未方ちゃんは私の問いにきょとんとしてからああ、といって話し始めました。
「今は私のほかに、ネリスくんと、後は……ディンちゃんがいるよ。リトウくんとグモンくんはバイト中。キャントくんとグトスくんは彼らと決闘中。無理してないといいのだけどね。それよりもどうしたの? なに? またおすそわけ?」
そういうのはもういいのに、という未方さん。
本当に謙遜の多い方ですね。というより私、そんなにおすそ分けしましたっけ? えっと……肉じゃがに魚の煮付け、山菜のてんぷらに手作りケーキ、後は……数えるだけで30回くらいですか? 確か彼女たちと初めて会ったのは一月半前ですから……えっと、二日に一回はおすそ分けしているわけで……。
「別にそこまで多くないじゃないですか」
「やっぱり癒ちゃんはどこかおかしいよ」
特におかしいところは無いと判断した私が胸を張ってそういうと、未方さんに即答されました。
む、失礼な。確かに少しずれているとは言われますが、おかしいは言いすぎです。ふつーの人ならそのくらいはやると思いますよ? だって――――――
「あの時のことがあるじゃないですか」
「うっ……それを言われると私たちはぐうの音も出ないんだよね……」
――――――私が彼女たちと出会った一月半前。彼女たちはボロボロで路地裏に倒れていたんですから。
えっと確かあれは、私が最近元気のない実片ちゃんのために元気の出るものを作ってあげようとして、近所のスーパーでいろいろな食材を買いに行った時でした。
私がスーパーまでの近道である路地裏を通り抜けようとしたとき、何かが複数倒れているような影が出来ていました。不思議に思った私が路地裏へ入るとそこにはボロボロになった大きな魚さん(見た目は高校の授業で習った生きている化石のシーラカンス、いえどちらかというとユーノテノプテロンかな)と、蟹さん(こちらは魚さんと違って下半身は人間みたいです。手の代わりに鋏が付いています)、そして女の子(未方さん)が倒れていました。
慌てて私が駆け寄ってみると、血などは出てはいませんでしたが、擦り傷や打撲が体中に出来ていました。とても痛々しいです。女の子は少し擦り傷がある程度で一番軽い傷です。
なので私は実片ちゃんがいつ怪我をしてもいいように、いつも常備している救急セットで彼らの傷の手当てをすることにしました。流石に私では彼らを路地裏から運び出すことなんてできませんしね。
「うっ・・・くそぉ……いたた……」
私がてきぱきと、傷の酷かった魚さんと蟹さんの手当てを終えて、一番軽傷である女の子の手当てをしていると、魚さんの方から唸り声が聞こえてきました。どうやら目を覚ましたようです。
「えっと……大丈夫ですか? 魚さん?」
ある程度女の子の手当てを終わらせた私が振りかえりながらそう聞くと、魚さんは驚いたような顔をしていました。
…………一体どうしたんですかね?
「……何で助けた?」
うめくようにそう問いかけてくる魚さん。
何で? と言われましてもねぇ。
「助けたかったから、ですかね」
「助けたかった?」
昔、私たちの名前、特に実片ちゃんの名前を馬鹿にしてくる人がいました。人から見ればおかしな名前かもしれないし、良いからかいの対象だったのかもしれません。
でも、その子が事故に遭いそうな時、私はやっぱりほっとけなくて助けました。少し失敗して私が怪我をしてしまいましたけど。その時もそのように聞かれてこう答えました。だって――――――
「あなた達は本当に悪い人に見えませんから」
――――――実際に悪い人に見えませんし。ただ頭が魚さんだとか、蟹さんってだけですし、こうやって話せる時点でいい人のはずです!
…………そう言ってはよく実片ちゃんに怒られますけどね。根拠が無いって。
まぁ、それは今は置いといて。
「あなたたちのお家はどこですか~?」
とりあえずみんな軽傷ですけど、休ませた方がいいに決まっています。もしもここから遠いなら、私のうちで休んでもらうしかありませんね。
「お、おう。この先の交差点だ」
「あらあら。うちの近所なんですね」
口ごもりながらもそう答えてくれる魚さん。
ならよかった。とりあえず――――――
「えっと、私がこの子を背負っていく(というよりも肩を組んでいくの方が正しいです……)ので、あなたはそっちの蟹さんをお願いしますね」
――――――買い物は中止にして、一旦帰りましょう。なにせ所詮救急セットの簡単な手当てですからね。本当に応急処置しか出来ていませんから。
「分かった」
そう言ってまだ目を覚まさない蟹さんを、軽々と抱える魚さん。
わぁ~。男の方(あれ? この場合は雄?)は本当に力持ちですね~。私に少しでも良いので分けてほしいです。買い物籠とか買い物袋が重くて重くて。
そんなことを思いながら、私は蟹さんを抱えた魚さんの後を、大体同じ身長の女の子を支えながら、てこてこ付いて行くのでした。
――――――――それから十数分後。ようやく彼らの家に着きました。
あまり離れていなかったとはいえ、けが人を背負っていくのは少し疲れました。
…………もしかしたら私がいない方がもっと早く着いたかもしれませんね。何度か魚さんに、未方様は俺が背負っていくから、とか言われていましたし。……ぐすん。
それはともかく、ここに来るまでの間に、彼らがなぜこうなったのか、何故あそこで倒れていたのかを聞くことが出来ました。
魚さん、もといグトスさんは、最初は話すのを渋っていましたが、しばらく粘ることでようやく重い口を開いてくれました。
何と彼女たちは『あくのそしき』(あくのそしきってなんでしょう?)でこの世界を征服に来たらしいのですが、彼らと敵対する人たち、え~と『救急戦隊 マモルンジャー』とかいう人たちがいて、その人たちに負けてボロボロになった後だったらしいです。
そんなに強いんですかね? そのきゅうきゅうせんたいって。あと仮にも『救急』戦隊なのに怪我をさせちゃだめだと思うんだけどなぁ。
それはともかく、今は未方さん(だっけこの子?)とグトスさんが抱えているキャントさんを寝かせるために家の中に入らないと。それにしても――――――
「何か汚くないですか?」
「仕方がないだろう。棄て家なのだからな」
――――――家は少し大きいといったような普通の家なのですが、何か外見が汚らしいです。
壁や窓は泥のようなもので汚れていてべたべたですし、庭も草だらけで手入れをした跡もなく、庭から伸びた蔦状の植物が家の壁を覆い尽くしています。
それよりも棄て家なんですねこれ。確かに結構前に土地の管理者が亡くなって、その後管理していた役場も、誰も居ないはずの中からネズミなどには出せないであろう音などが聞こえてくるから不気味、とかいう理由で誰の物でも無くなったはずでしたね。
あれ? もしかしてその音の原因は彼らなのかな?
それはさて置き、何と言いますか、一昔前に実片ちゃんと一緒に見たホラー映画に出てきた洋館みたいです。でもあの映画は特に怖くなかったけど、この家はやけに怖いです。
……と、とりあえず入りましょう。汚いのは外見だけです! きっと!
そう思うことにして、玄関の扉を開けました。すると、
「な、何この匂い? ちゃんとお掃除とかしてるんですか……?」
中から匂ってきた異臭に思わず自分の鼻をつまんでしまいました。玄関の端には何時のか分からないゴミ袋が幾つも積み上がり、コバエどころか大きなハエやその幼虫であろう蛆が湧いています。この異臭の原因はおそらくこの生ごみの入ったゴミ袋ですね。
「そうじ……? なんだそれは?」
「え?」
グリスさんのいかにも初めて聞きました的な反応に思わず声を上げてしまいました。
掃除を知らない? まさか……!
「お掃除……していらっしゃらないんですか……?」
私が恐る恐る聞きます。すると、グリスさんは自身の魚の頭部分をがりがりと掻くと苦虫をつぶしたような顔をしました。
「今まですべてを本部のメイドにやらせていたから、ここにいる奴らは誰もやり方が分からないんだ」
なんですと? やり方が分からない? それにこの汚さ。…………これはなんて……なんて……!――――――
「どうしたんだ? 癒ちゃ…………」
「私にやらせてください!」
――――――なんて素晴らしいんでしょう! これだけの規模の大掃除なんて初めてです! 思わず武者震いをしてしまいました。
学校でも真面目にやる人が居なくて私一人でやったり(行ってしまえば一人の方が効率がいいですよね)、家のお掃除も大体一人でやったりしていますが、いざ終わってみると、思ったよりもやりがいが感じられないんですよね。
学校では業者さんが大まかにやってくれているし、家もお母さんとかがたまーにやってくれているので以外にゴミは少ないんですよ。
ですがこの家なら満足できそうです! あの汚れた窓! 草だらけの庭! そしてこの家の中のごみ! すべてがやりがいがあるように見えます。
まだ玄関までしか見てはいませんが、おそらく他の場所もこのような状態でしょう。ならば私のやることは1つです!
「今から家に戻ってお掃除道具と洗剤を持ってきますから、待っていてくださいね!」
「え? あの、ちょ」
私は困惑するグリスさんに告げるだけ告げてその場から走り出しました。
さぁ! 頑張るぞ~!
――――――まぁ、そんなこんなでグリスさんに教えながら大掃除をして、起きた未方さんとキャントさん、そして本部やバイトから帰ってきた人たちに挨拶をして、お料理もほとんどだれも出来ないみたいだったので教えたり(バイトをしていた人は少しですができていました。少し味付けや盛り付けが雑でしたが)、先ほども言った通りにおすそ分けや掃除を手伝っている間に仲良くなった、というわけです。
今では私が怪人さんたちの愚痴を聞いたり、偶にお掃除やお料理を教えたり、実際に作ったりしています。そのおかげか、大体の怪人さんがお料理やお掃除を手伝ってくれるようになりました。
私には相変わらず『あくのそしき』というものは分かりませんが、私が来ているときでさえ、怪我をして帰ってくる怪人さんがいます。その治療をしたりもしています。
あ! そうそう。未方さんから癒しの魔法というのを教わりました。何でも私には癒しの魔法の素質があるようで結構簡単に使えるようになりました。名前も癒ですしね?
まぁ、今はその話は置いといて。
「実は相談したいことがありまして。…………あ! これ、おすそ分けです。私が作ったクッキーですが良かったら食べてください」
今は相談に乗ってもらうことの方が大事ですからね。とりあえず先ほど渡せなかったバタークッキーを手渡しました。そこへ、
「あー! 癒ちゃんのクッキーだー! 私、それ大好きなんだよねー!」
そういって私に抱きつきてきた赤髪少女はディンちゃんです。本名はもっと長いんですけど、長いのでこの支部で一番偉い未方さんでさえ本名を覚えていないそうです。
彼女は確かサキュバスといういんま? で、何というか、こう、ないすばでぃのお姉さんなのに言動が子供っぽいという、妖艶でありながらもかわいらしい方です。
確かすりーさいずが凄いことになっていましたね。
…………私ですか? まぁ、すりーさいずはまだいいんですけど、身長がね……。すりーさいず的には幼児体型でないだけまだましなのかな?
私のことは置いといて、彼女のことで不思議に思った私が未方さんから話を聞いたところ、ディンさんは生まれてから5年しか経っていないため、元々、体と精神の年齢があっていないんだそうです。つまり生まれた時からこの見た目ってことらしいですよ。
なんと羨ましいことでしょうね。
私も一お姉ちゃんとしてそのくらいの身長がほしかったです。今もディンちゃんに抱きつかれているというよりは抱えあげられてぬいぐるみのように抱きしめられてますからね。
少し前、ディンちゃんはサキュバス、つまり怪人さんなだけあって力持ちなので買い物を運ぶのを手伝ってもらったんですが、その時に私がディンちゃんの子供だと思われていたらしく、スーパーの近所の人がディンちゃんを見ながら、「その子あなたのお子さん?。可愛いわねー。お嬢ちゃん歳幾つ?」そう言ってから私の方を見てそう聞かれました。
しかもその後、ディンちゃんが、そんなのあたりまえだよ! といって私を抱きしめてぎゅっとするものだから余計に勘違いされてました。
私の方がお姉さんなのに……。ぐすん……。
「ディンちゃん?。とりあえず下ろしてね。結構高くて怖いから」
これだから低身長は困るんですよね……。ディンさんは確か180近くあるんだっけ?
40センチ近くの身長差でこれだものなぁ。ものさしとかで見る40センチと、実際の身長的な意味での40センチの壁は厚いみたいです。同じ40センチなのにねぇ?
「何か玄関が騒がしいと思ったら癒さんだったんだ。何してるの?」
「ああ、ちょうどよかった。ネリス君、助けて? 未方さんはにこにこしながら見てるだけで助けてくれないし、ディンちゃんも下ろしてくれないの」
私がなかなか下ろしてくれないディンちゃんに苦戦していると、家の中から男の子の声が聞こえてきました。
そちらを見れば、見た目中学生くらいの男の子がいます。
この子はネリス君。見た目は完全に人間の男の子だけど、じんろうの怪人さんなんですって。ところでじんろうってなんでしょう?
「というわけだから下ろしてあげなよディン。じゃないとそのクッキー全部僕が食べてしまうよ?」
「それだけは嫌! でもこのぬいぐるみも譲れない!」
「今、私のことをぬいぐるみって言いませんでした?」
「言ったねぇ。けど何で聞こえるんだい?」
ネリス君がディンちゃんをたしなめますが、ディンちゃんはそう言って私を先ほどより強く抱きしめてしまいました。それに小さな声で私の名前を言ったときに、明らかにぬいぐるみと聞こえた気がします。
気のせいですかね?
「それよりも相談に乗ってほしんですけど……?」
うん。もう諦めました。このままで良いので相談に乗ってもらいましょう。
そう思った私がそういうと、疑問符を上げてその場にいる全員が私の方を向きました。それを確認した私が続きを話そうとしたところで――――――
「いたた……すみません未方様。また負けてしまいました」
「すみませんッス」
――――――またも聞き慣れた声が聞こえてきました。振り向こうにもディンさんに抱きしめられているので身動きが取れません。
声で誰だかわかりましたが、一応確認してみましょうか。
「その声はグトスさんとキャントさんですか?」
「おお! その声は癒ちゃんじゃないか」
「昨日ぶりッスね」
ディンさんが振り返ってくれたおかげで私もそちらを振り返ることが出来たので、そちらを見ると相変わらずの打撲と擦り傷があるユーノテノプテロンのような怪人さんと人間と蟹が合体したような怪人さんがいました。
顔は見たことありませんが、救急戦隊も少し手加減してあげればいいのにね。怪人さんたち結構いい人ですよ?
話せば結構面白いですし、近所でアルバイトしている怪人さんもいますし。まぁ、あの人たちは人間の姿になれるから働けるんですけど。
「あなたたちのその傷だらけな姿を見ているとあの時のことを思い出しますね。本当に懐かしいです」
「そうだな」
「自分は気絶していたので覚えていないッスけどね」
そう言って笑う私たち。本当に懐かしいです。
さてそれよりも、
「ディンちゃん。彼らの傷を治してしまいますから下ろしてください」
「え~。もう少し~」
私を抱きしめながら駄々をこねるディンちゃん。そろそろ本当に下ろしてほしいんです。
「また後でね?」
「ぶー」
私がそういうと、不貞腐れはしたものの何とか下ろしてもらえました。
うん。相談事もありますし、さっさと治してしまいましょうね。
そう思った私はてこてことグトスさんとキャントさんに近づくと手をかざします。
私はまだ対象に手をかざさないと癒しの魔法が使えないんですよね。かざさずに使うと辺りにある植物や動物(微生物含む)が活性化・巨大化してしまうんですよね……。
それは置いといて、私が傷が治ることをイメージすると彼らの傷がみるみる消えていきます。そして10秒と掛からずに2人の傷が消えていきました。もうどこにも傷が残っていませんね。
「ありがとな」
「ありがとうッス」
「いえいえ、えっと……それで相談なんですけど」
2人のお礼を受けてそう返した私が2人にも聞いてほしくて口を開こうとした時でした。
「そこまでだ!!」
聞いたことのあるような男の子の声が聞こえてきました。その場にいた全員がそちらを見ると、色違いのマスクとスーツを着た5人組が立っていました。
「げっ! 救急戦隊!?」
「今日は追って来たんッスか!?」
グトスさんとキャントさんが驚愕の声を上げました。
まぁ、そうですよね。今まで倒されてもおってこないのに、今回になって追いかけて来たんですものね。
それにしても彼らが『救急戦隊』ですか……。色が違うだけでみんな同じデザインなのは突っ込んじゃだめなのかな。
違うとすれば胸にそれぞれ付いているワッペンのデザインくらいでしょうか。赤色の人が炎、青色の人が水、桃色の人が何故かハート、黄色の人が砂、緑色の人が草が描かれています。
救急戦隊というのだから赤は消防車、青はレスキュー船だとは思うのですが、他の色の人は全くわかりませんね。
私がその人たち(顔は見えませんが)を観察していると、桃色の人がわなわな震えながら私を指差すとこう叫びました。
「お姉ちゃん!? 何でここにいるの!?」
「あら? この声は実片ちゃんなの? それとさっきの声はあの転校生君よね?」
そう返す私に、額に手を当てる実片ちゃん(暫定)。マスクで表情は見えませんが、呆れているんでしょうか?
それにしても……実片ちゃんが最近疲れていたのは戦隊としての活動の所為だったんですね~。解決して良かったよかった。
「えっと? 癒ちゃん。救急戦隊とは知り合いなの?」
私がひとりで納得していると『あくのそしき』の方の未方ちゃんが聞いてきました。まだ暫定ですが答えておきましょうかね。
「ええ、マスクを着けているのではっきりとは解りませんけど、声からして2人は知っています。真ん中の赤い人は名前は知りませんけどうちの高校への転校生、そして桃色の人が私の双子の妹の星木実片ちゃんですよ~」
私がそういうとその場にいた全員が沈黙しました。その数秒後、私とその転校生、そして今度は頭を抱えている実片ちゃん、そしてよく分かっていないディンちゃんと、肩をすくめているネリス君以外の人が叫びました。
「「「「「「はあああぁぁぁぁ!?」」」」」」
うるさいですよ。近所迷惑です。
こうして私の『あくのそしき』と『せーぎのみかた』の橋渡し生活が始まるのでした。さ~て、腕がなりますね。
とぅーびーこんてにゅー?
このような作品を読んでいただき、誠にありがとうございました。練習作品ではありますが、辛口感想・評価をお待ちしています。この作品を含め、作者のすべての作品はユーザー登録していなくとも感想を送れるので、とりあえず感想お待ちしています。
図々しいとは思いますが、気が向いたらでかまわないので、作者の他の作品も読んでいただけるとまことに恐縮です。
ではまた、時間と縁があれば。