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終天の異世界と拳撃の騎士  作者: ふるろうた
3. 燦然のヘリオドール
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70. ハルシネーション・ファッシネーション

 太陽こと昼の神、インベレヌスが山の向こうへ帰ろうとしている夕方。


 ディアレーから戻った流護は、ロック博士の研究棟前へとやってきていた。

 ミアの件の報告を兼ねて、例の『臓器に魂心力プラルナが宿っており、さらにはそれを取り込むこともできる』という内容について、博士に話しておこうと思ったのだ。

 ――が、


「……だるい」


 包帯はもう取ったものの、まだかすかに身体が重い。

 この世界へやって来て約二ヶ月。この短期間で、随分と病院の世話になっている。

 流護はふと、子供の頃のことを思い出す。実は小さな頃は病弱で、それも空手を始めた理由の一つであったのだ。

 自分でもすっかり忘れていた昔のことを思い出し、少し懐かしいような寂しいような気持ちになった。そんな気分にさせるのは、周囲を照らす夕陽のせいだろうか。


 紅に染まる研究棟を仰ぎ見て、ひとまず簡単に報告だけ済ませてしまおうと思い、薄暗い室内へと入った。

 通い慣れた階段を上がると、見慣れた部屋が視界に入ってくる。


「…………え?」


 そこで思わず声が漏れた。

 見慣れた部屋に、見知らぬ人物がいたからだ。


「……ん?」


 当然のように博士のデスクに座り、何らかの資料に目を通していたその人物は、流護へと怪訝そうな顔を向ける。


 ロック博士と同じ白衣姿だった。しかし、一歩間違ったら性犯罪者にしか見えない岩波輝とは対極。そもそも、女性だった。

 年齢は全く読めない。二十代後半ぐらい……だろうか。美しい金髪をポニーテールに結わえ、黒縁のメガネをかけた、知的な雰囲気の女性。少しきつめな目つきではあるが、すっと通った鼻梁と、真っ赤な口紅をさした唇は、大人の色気というものをビンビンに感じさせる。かなりの美人だ……と流護は思わず息をのんだ。


「……え、えーと……?」


 で、誰だこの人。まさか博士の……オンナ!?


「……黒髪に低めの身長、ちょーっと幼くて可愛らしい顔立ち……ふぅーん。キミがアリウミリューゴくんね」


 艶やかな声。

 白衣の女性は、妖艶でありながらも値踏みするような視線を流護へと向けてきた。


「え、あ、はあ。ところで、ロック博士は……?」

「ンフフ。いやぁね。こーんな美人のお姉さんが目の前にいるのに、アタシより博士が気になる?」


 女性は目をうっすらと細めて、笑みを深くする。

 興味がない訳ではない。ただ「どこどこの誰々です」と自己紹介を受けたところで、この世界の知識に疎い流護は理解できないと思ったのだ。まあ白衣を着ているところから考えて、王都の研究者か何かだろう。


 ――しかし。

 女は、流護が予想だにしなかった言葉を口にする。


「死んだわ」

「――――――え?」


 発せられた自分の声が、やけに遠く聞こえた気がした。



「ロック博士は、死んだって言ったの」



 ギラリと、女のメガネに夕陽が反射する。


 豹変。

 その妖艶な笑みが、残虐に角度を増した。鋭い――睨むだけで人を殺せそうな眼光が、矢のように流護を射抜く。



「――アタシが、殺した」



 ぞっと、流護の背筋が凍る。


 ――やばい。この女は、やばい。

 本能が、流護の持つ鋭敏すぎる感覚が警鐘を鳴らす。


「て、めぇ……!?」


 流護は思わず身構えた。


「――ンフフ」


 女が、わずかに肩を揺らして笑う。


「『ペンタ』相手にそれじゃ、遅すぎるわよボーヤ!」


 ゴッと、女を中心に広がる烈風。同じ――ディノと同じ、力を顕現するだけで荒ぶ衝撃波。散らかった室内に置かれている紙束や本が吹き飛んだ。

 同時、部屋に広がる――白いもや


(……これは……! 何だ、こいつの属性は――、ッ!?)


 瞬間、心臓が止まりかけた。


 白い薄靄に包まれた一室。部屋の奥、博士の椅子に座っていたはずの女が、いつの間にか目の前にいたからだ。音もなく。気配すら感じさせずに。

 至近距離。鼻先三十センチの距離で凶悪な笑みを見せる、白衣の女。


「な、めんな――!」


 流護は苦し紛れに右フックを放つ。もう、相手が女だとかは考えなかった。考える余裕がなかった。

 ただひたすらに脳が発し続ける警告。「コイツはヤバイ」。


 笑みを浮かべた女が、流護の一撃を迎え撃とうと振りかぶる。

 女は無手。大きく振り上げられたその右手に、神詠術オラクルの宿されている様子はない。武術に精通している動きでもない。

 先に届く。女の顎先を打ち抜くべく、流護の右拳が真横から軌跡を描いた。


 ――瞬間、



 流護の右腕が吹き飛んでいた。



「――、あ?」


 放物線を描いて前方へ飛んでいくそれを、流護は唖然として見送った。飛んでいった右腕は、ゴンと音を立てて棚に激突する。


 白衣の女が、撫でるような優しさで右手を横へ薙いだ。

 ガクンと、流護の視界が、『落ちた』。

 回転する視界。見れば、手足。胴体。全てが、バラバラになった自分の姿――。


「うああああぁぁああぁッ!?」


 絶叫と共に顔を上げる。


「……は、あ? あ…………、え?」


 そう、『上げる』。

 右、左。両方の手のひらを見る。ある。手は、ある。身体を見下ろす。身体だって、繋がっている。当たり前だ。


 キョロキョロと、周囲を見渡す。

 夕陽の差し込む、研究棟の一室。白い靄など、どこにもない。椅子に座ってこちらを見ている、白衣の女。いつの間にか目の前に迫っていたはずの女は、いつの間にか元の位置に戻っている。最初からその場を動いてなどいなかったかのように。

 何だ。今のは、何だ。


「ンフフ……どうしたの?」


 女は妖艶な笑みを崩さず、どこか悪魔的な声音で尋ねてくる。


「どうかしたのかしら? 悪い夢でも見た?」


 ゆ、め……? ここで? 今? 立ったまま?

 ――訳が分からない。何だ。今、何があった。


「悪夢でも見たのよ。例えばアタシが『ペンタ』で、部屋にブワーと白い靄が広がって、このお姉さんが妖艶でありつつも残虐な笑みを浮かべて、アナタをバラバラにしちゃう。そんな悪夢だったりとかね」

「!?」


 流護は相手を睨みつける。


「……何だ。てめぇ、何者だ……!」

「んもー。目上の大人に『てめぇ』はないでしょう。めっ。えーと……それで、どこまで話したんだっけ。ああ。――アタシが、ロック博士を殺したっていうところだっけ?」


『先ほど』と同じ。残虐な笑みを見せる、白衣姿の怪人物。

 悪夢か、幻か、現実か。もう何が何やら分からなかった。しかし油断なく身構える。


 翻弄されるあまり、流護は気付かなかった。


「こんにちはー。ベルグレッテですけど……あ、リューゴ」


 研究棟の中に。

 自分のすぐ背後に、ベルグレッテが来ていたことに。


「ベ……ッ!?」


 流護は弾かれたように振り返る。

 まずい。この女は、やばい。ベルグレッテを逃がさなけれ――


 そのベルグレッテは白衣の女を見て驚いたように目を見開き、明るい声を上げた。


「学院長!」


 そうだ、コイツは……、学院長?


「おっ、ベルグレッテ! 久しぶりねー」


 女は明るい声でベルグレッテにウインクをしてみせた。


「お久しぶりです。いつ帰ってきたんですか?」


 全く無警戒な様子で部屋に入ってきた少女騎士は、親しげな口調で白衣の女へと歩み寄っていく。


「昨日の夜よー。もうやんなっちゃうわよね。遅くまで仕事してばっかでさー、お肌が荒れちゃうったら」

「ふふ。おきれいですよ、学院長」

「おー!? 何だこら、それは若さゆえの余裕か!? この、デカイ胸しやがって! そんな短いスカートで太もも出しやがって、誘ってんのか!?」


 突然ガタッと立ち上がった女は、寄ってきたベルグレッテをがばっと抱き寄せる。


「ひゃっ!? ちょ、やめてくだ……、やっ!」

「うっわ、太ももすべすべ……ありえねえくそ……、スカート短くない? 誘ってんの?」

「な、なに言ってるんですか! 制服をデザインしたのもスカート丈を決めたのも、学院長じゃないですかっ」


 白衣の女の手を振りほどくベルグレッテ。

 呆然とした流護の視線に気付いたのか、ベルグレッテは心なしか太ももを隠すように手で覆いながら話しかけてくる。


「リ、リューゴは初対面よね? 学院長」

「……学院長?」

「うん。このミディール学院の責任者、ナスタディオ学院長」

「おおう。そういえばまだ名乗ってなかったわね。ナスタディオよ、よろしくねボーヤ。覚えたかな? ンフフ、まあこんな美人のお姉さん、一発で覚えたに決まってるわよね。強烈に覚えすぎて、今夜は一人で頑張っちゃったりする? フフフ」

「は、はあ……」


 ――と返事をしかけて、流護はハッとする。


「じゃねえよ! あんたさっき、ロック博士を殺したって……!」


 その言葉に、ベルグレッテがナスタディオ学院長へと視線を向ける。……ジト目を。


「……学院長?」

「いやっはっはっはっ」


 学院長は反発する磁石のように、ベルグレッテから目を逸らした。


「……あー、リューゴ。嘘だから。学院長、驚かせようと思って嘘ばっかりつくんだから」

「う……そ?」

「うん。この人ね、変に悪の幹部ぶって子供じみた嘘ばっかりつくんだから」

「な、何よベルグレッテ。悪の幹部ぶって子供じみたって――」

「ふーん。じゃあ学院長、ロック博士を手にかけたんですか? それが本当なら、お話を聞かせていただかなければなりませんけど? 城までご同行願えますか?」

「……え、えーとほら。あの人、そのうちリーフィアに手ぇ出して死ぬって。社会的に」


 楽しそうにそんな会話をする二人。


「……じゃ、あ……さっき俺が見たのは、何なんだ……?」


 はっきり覚えている。

 部屋を包んだ白い靄。吹き飛んでいった自分の腕。バラバラになった、自分の身体――


「ンフフ。あれこそがこのアタシの神詠術オラクル。学院長にして『ペンタ』、二つ名『幻儚ヴァーヘリア』と呼ばれし知的で妖艶なパーフェクトレディ、ナスタディオ・シグリスとはアタシのことよっ」


 ウインクしてくるナスタディオ・シグリスという女。

『ペンタ』。あのディノと同じ、数少ない選ばれた天才。

 そういえば、ロック博士が言っていた。学院の生徒である上位五人の『ペンタ』とは別に、国に所属している八人の『ペンタ』がいると。学院長がその一人だと。


「もう分かってるとは思うけど、アナタが見たのは幻覚。フフ。びっくりしたでしょう?」

「びっ……くり、て」


 そんなレベルの話ではない。あれが幻覚とはとても思えない。あまりにも生々しい、千切れ飛んだ腕と、細切れになっていく自分の身体の映像。

 いや。だが、しかし――


「動揺してる動揺してる。でもホラ、痛くなかったでしょう? ま、自分で言うのも何だけど凶悪な技よ。こうして、相手に疑心暗鬼を植え付けるワケ。例えば今、こんな風に話してることも幻覚かもしれない。ベルグレッテは実際にはこの部屋に来てないかもしれない。ううん、そもそもキミはファーヴナールを倒してなんていないかもしれない……ってね」


 確かに、痛みは感じなかった。だが――

 まさに『悪夢』という表現がしっくりくる。

 突拍子もないことが起きているのに、それに対して違和感を覚えないような。夢ならではの、あの感覚。


 流護は思わず息をのむ。

 どこからが現実で、どこからが幻覚なのか。

 そんなにも恐ろしいことはない。例えばこの学院長と名乗る女は本当に敵で、今この瞬間にも幻惑されているのかもしれない。夢を見ているのかもしれない。そういう話だ。


「学院長……あんまり、リューゴを脅かさないでくださいっ」

「おおっと、怒られちゃった。てへ」


 ジト目で睨むベルグレッテと、反省の色が見えないナスタディオ学院長。

 こんなやりとりも幻覚かもしれない……ということになる。疑い出したらきりがない。


「リ、リューゴ……顔色悪いわよ? だ、大丈夫?」

「おわ、効果覿面こうかてきめんすぎたかしらね、ンフフ。お姉さん、アナタみたいに純粋なコは好きよー? 大丈夫。さっきもちょーっと言ったけど、この幻覚は痛みとか感じないから。腕が飛ばされた、身体がバラバラになった、っていう意識はあっただろうけどね」


 それを聞いた真面目な少女騎士が、ジト目からつり目に切り替わった。


「う、腕が飛ば……!? 学院長っ! リューゴにどんな幻覚見せたんですかっ!?」

「いや、ちっ、ちょーっとからかっただけだってば!」

「ちょっとじゃありません! あなたの術は、簡単に人の精神を壊してしまえるんですよ!? それを……!」

「ご、ごめんってば! お姉さん悪ノリし過ぎました!」

「リューゴに謝ってください!」

「ご、ごめんねボーヤ! このとおーり!」


 両手を合わせて目をつぶるナスタディオ学院長。流護はただ呆然と「はあ……」と呟くのみだった。


「だーってさー。ファーヴナールとかディノとか倒したスゴイ子だなんていうからさー。ちょーっと試してみたくなるのが心情ってもんじゃなあーい?」


 学院長は子供のように頬を膨らませる。


「そうそう、城の凍結庫に保管されてるファーヴナールの死体、見たわよー? 頭部が軽くヘコんでて、両目は真横にブチ抜かれてて……人間の仕業とは思えないって評判なんだから。あれを素手でやったんでしょ? なんかスゴイ怨魔の仕業だって言われたら信じちゃうものあれは。ヴィントゥラシアがやったって言えばみんな信じるんじゃない?」


 そんな調子でペラペラと喋り続けていた学院長だったが、


「……とまーそんな訳で、よろしくねアリウミリューゴくん!」


 などと笑顔で締め括った。


「………………」


 流護は無表情にして無言だった。

 つまりあれだ。今、この瞬間だって幻覚を見ているかもしれないのだ。いや、そもそもあれだ。こんな世界に来たことが幻覚なのかもしれない。いや、幻覚だと言われたほうがしっくりくるのではなかろうか。こんなファンタジー世界なのだ。とすれば、どこからが幻覚だったのだろうか? ……いや、そもそも俺はこの世に生を受けてないのかもしれないぞ。


 少年は無表情なまま立ち尽くす。


「学院長……リューゴ、完璧に術中にはまってるんですけど……どうするんですか……?」

「あーもう。ボーヤ、さっきも言ったけど、幻覚かどうか簡単に判断する方法があるわよ? ほれ、ベルグレッテのおっぱいでも揉んでみ?」

「はぁっ!? な、なにを言い出すんですか!」


 ベルグレッテがサッと真っ赤になる。

 ははは、かわいいなこいつ。……いやまて騙されるな。これも幻覚かもしれん。


「よく聞くのだボーヤよ。現実ならば、ベルグレッテのそのたわわな果実を手に取れば、モチモチした確かな柔らかさをその手に返してくるであろう。あ、こう下着の中に手ぇツッコむ感じでね。幻ならば、その禁断の実を手にすることは叶わぬであろう。さあゆけ! 真実を掴み取れ、勇者よ!」


 セリフと共に、バッと右手を前に突き出す学院長。まさしく城から旅立つ勇者を送り出すかのようだ。


「ウ……ウ……」


 えーと……おっぱいを掴み取れば、幻覚かどうか分かるんだな……?

 流護は言われるがまま、両腕を前に突き出してベルグレッテへとにじり寄る。真実おっぱいを掴み取るために。しかしその挙動はどう見ても勇者ではなくゾンビだった。


「え、いや、うそ!? り、リッ、り、リューゴだめ! だめに決まってるでしょ!? だめだめだめだってば!」


 ベルグレッテはぶんぶんと両手を振って後ずさる。


「おいおいー。ボーヤが現実と幻覚の区別つかなくなって大変なのよー? 協力してあげなさいよー」

「誰のせいだと思ってるんですかぁっ!?」

「ああ……もう、じゃ、しょうがないな。ほれボーヤ、アタシのおっぱい揉んでみる? ベルグレッテほどデカくないけど、まだまだ若いモンには負けないわよ?」


 学院長が両腕で挟み込むように、真実おっぱいを強調する。

 ベルグレッテほどではないが確かに大きい、ゆるやかな曲線を描く丘が二つ。


 ――あの丘にたどり着けば、俺は真実を知ることができるだろうか――?


「ウ……ウ……」


 カクカクとした動きで、学院長のほうへ方向転換する流護。


「そ、それもだめっ!」


 ベルグレッテが渾身の叫び声を響かせる。

 ハハハ、大変だなベル子。もういいや。こうなったら二人とも揉めばいいんじゃね? おっぱいなんていくつあったっていいと思うんだよ。ああおっぱいおっぱい。


 自分でも何を考えているかよく分からないまま、すり足でカクカクと二人へにじり寄っていたところで、流護は床に放置されていた分厚い本に躓いた。

 思い切り転び、無様にも鼻を打ちつける。


「がばっ!」


 受け身を取り損ねるあたり、格闘技者にあるまじき不覚だった。

 痛い。つー……と、鼻から伝う温かい何か。


「わ、リューゴ、大丈夫? 鼻血出てるっ」


 甲斐甲斐しく駆け寄ってくるベルグレッテ。


「お。ちょうどいいじゃない。どうボーヤ? 痛い?」

「……何だろうな……鼻も……心も……痛ぇや……」


 うん。涙も出るぐらいに痛い。

 そこへ聞こえてくる、階段を上る音。そして、部屋の入り口に現われる男。


「たっだいまーっと……ってうわ、お客さんいっぱい!?」


 ……タバコを口に咥えたロック博士だった。


「なになに、みんなどうしたのさ。何かあったのこれ。流護クンは鼻血出して泣いてるし……」


 ああ、ロック博士生きてた。流護は心底脱力してうなだれる。あっ、鼻血が床に……。


 ナスタディオ学院長と対峙したときに感じた、あの危機感。脳が発した、「この女はやばい」という警告。

 やばいなんてものではなかった。シャレになってなかった。ていうか俺は何か悪いことしたの?

 ベルグレッテが、柔らかい止血用の布をぐいぐいと鼻に突っ込んでくる。


「い、痛え。ごめんベル子、神詠術オラクルで何とかならないか?」

「あっ、えっと。鼻だから、変に呼吸できなくなっても危ないし……」

「あ、あがあ。そうか……ベル子は優しいな……ベ、ベル子、幻覚じゃないよな?」

「うわ……リューゴ、目がうつろだよ……生まれたての雛みたいに震えてるし……大丈夫、私は本物だから」

「ボーヤ、騙されないで。幻覚かもしれないわ。おっぱい揉んで確かめたまえ」

「学院長はもう黙っててくださいッ!」

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