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終天の異世界と拳撃の騎士  作者: ふるろうた
15. 皓然のフロウ・ライン
619/667

619. 帝国中枢にて

「うわー……」

「アホ面で大口開けよってからに」

「だってすごいじゃん! めちゃ大きいじゃん!」


 絶賛語彙力低下中の彩花をなだめつつ、流護も幼なじみが釘づけとなっている窓の外へと目をやった。


 城、である。

 但し書きをつけるとすれば、ここからでは全容が視界に収まり切らないほどの。


 帝都バークリングヒル、その中心部へ向かう馬車に揺られること一時間弱。賑々しい大通り沿いにひしめく建物群のその向こうに、縮尺が狂っているのではと思うほど巨大な白灰色の石城が登場していた。

 遠景としてはあまりに存在感がありすぎる。これほどの規模となれば、さすがに事前情報がなくても見るだけで察することはできよう。


「あれがバルクフォルトの王城か」

「ええ」


 流護の呟きをベルグレッテが裏づける傍ら、彩花が納得いかなそうに口先を尖らせる。


「あんたは何でそんな落ち着いてんのっ」

「いや、レインディール城と同じぐらいの大きさだろ。レフェの何ちゃら王城とかバダルノイスの宮殿もそうだったし、まあこんな感じだろなと」


 流護も当初はこうした本拠の巨大さに度肝を抜かれたものだったが、そもそも三桁単位からなる兵や貴族などの勤め先かつ居住地である。建物というよりは、天井を備えたひとつの街とでも考えればいい。

 進むにつれて少しずつ明確になっていく岩城の外観は、さすがに他とは一線を画す貫禄を纏っている。

 見るからに分厚くそびえる堅牢な石壁の造りは、どっしりとした威圧感を誇りつつも、柱や窓際に施されたきめ細かな装飾が荘厳さを醸し出している。そこかしこに掲げられた青旗には水竜ヴィルベィルが描かれ、風にそよぐその様は海原を泳ぐがごとしだ。


 壮観なそれらを仰ぎつつ進むことしばらく、ようやく建物群を抜けてお膝元が明らかとなった。

 城の周囲は幅広な堀に囲まれており、植樹などがされていないため見通しも良好で広々としている。不審な者が近づけば即座に見咎められるだろう。

 敷地内に入った馬車が減速を始める。


「さあ、着きましたよ」


 クレアリアの目線を追うと、堀を割って延びる白く長い橋。城へと続いているその袂に、ふたつの人影があった。


「……直々にお出迎えか。ご苦労なこって」


 ともに見知った人物。

 ニコニコと漫画的な擬音が聞こえてきそうなほど満面の笑みをたたえたローヴィレタリア卿と、眉目秀麗という表現では足りない超絶美青年騎士レヴィン。

 バルクフォルト帝国の最高幹部とも表現すべき二人が、そこで一行の到着を待ち受けていた。






「ホッホ。交流学習の方は順調ですかな? リムめがお手を煩わせておらねばよいのですが」

「とんでもございません、ローヴィレタリア卿。リム嬢もより一層、詠術士メイジとしての技量を高めておられるご様子。妹にとっても、本人は言葉にはしませんが非常によい刺激となっているようでして」

「ね、姉様!」

「改めてこないだの夜はどうもー、レヴィン殿〜。おかげさまで、ウチの子たちも大喜びだったわ〜」

「ご無沙汰しております、ナスタディオ学院長。お目汚しかと存じましたが、お楽しみいただけたのでありましたら幸甚です」


 上流階級の挨拶を一歩引いた後ろから他人事で眺める流護の下へ、おもむろにその男がやってきた。


「どうも。先日はお手合わせいただきありがとうございました、リューゴ・アリウミ遊撃兵」


 一点の曇りなき笑顔を輝かせる青年騎士、レヴィン・レイフィールドである。


「……、……ああ。どもっす」


 少年はというと、いきなり気さくに話しかけられるとは思っていなかったため、反射的に素っ気ない挨拶を返すに留まった。


「頭部をお打ちになられていたようでしたが……お怪我はございませんでしたか……?」

「……いや、まあ。全然、大丈夫っす」

「おお、それならば安心いたしました! 結果として、互いに慮外の事態となってしまいましたが……またいずれ機会がありましたら、その時は是非ともよろしくお願いいたします!」

「はあ。まあ……」


 終始晴れやかな笑顔。軽い会釈で締めてローヴィレタリア卿の傍らへ戻っていくレヴィンと入れ替わる形で、流護の後方に控えていた彩花が寄ってくる。


「さわやかー。それに引き換え、あんたの素っ気なさすぎる返事ったら……もうちょっと気のきいたこと言いなさいよ」

「やかましいわ。むしろ逆に、何であんな馴れ馴れしいんだよあいつ」

「社交的なんじゃん。誰かさんと違って」


 そんなこんなで両陣営ともにそれぞれ挨拶を交わし終えて。


「ふむ。では、あのメルティナ・スノウ殿の……?」


 器用にも、『喜面僧正』がその表情を崩さぬまま驚きの色を示す。

 バルクフォルト幹部両名の興味深げな視線を受けたその人物――レノーレが、静かにその場で頭を垂れた。さすがは貴族、その所作には自然な気品が感じられる。


「……はい。……メルティナの従者として相応しい能力を身につけるべく、現在はミディール学院へと留学しています」

「此度の会談内容には彼女からの証言も必要と考え、同行を願いました」


 風雪の少女の挨拶にベルグレッテが付け加えると、レヴィンが真剣な面持ちで唸った。


「なるほど……。先冬、バダルノイスにて何やら不穏な動きがあったと聞き及んでおりますが……」

「はい。それも関係してくる内容となっております」


 少女騎士が同意すると、ローヴィレタリア卿が笑顔のまま眉を寄せた。


「ふうむ、穏やかではなさげですな。して、そちらのお嬢さんは……?」


 そして再度、バルクフォルト代表二人の意識が揃って向けられる。彼らにしてみれば素性の知れない、蓮城彩花という少女に。


「え、あ、はい! その……」


 注目されてガチガチな本人に代わる形で、やはりベルグレッテが紹介を務めた。


「彼女はアヤカ・レンジョー。普段はミディール学院の食堂にて勤務する従業員なのですが……とある事情により此度の会談において欠かせない人物と判断しまして、同行を願いました」

「よ、よろしくお願いします……!」


 いかにも不慣れな急角度のお辞儀に対し、レヴィンが笑顔を綻ばせる。


「こちらこそよろしくお願いいたします、レンジョー殿。そのように構えられずとも大丈夫ですよ。楽になさってくださいね」

「は、はい……! あっ、ありがとうございますっ!」

「つーか早速だけど本題に入りましょうぜベル子よ」


 イケメン相手にネコ丸被りな幼なじみに何となくムッと来た流護は、割って入るように先を促した。いきなり矛先を向けたせいか、少女騎士も若干戸惑い気味に首肯する。


「え、ええ。そうね。してお二方、此度のお話についてなのですが――」

「ホッホ。それでしたらここで立ち話も何ですので、歩きながらに致しませぬかな」

「いえ。お言葉ながら、まずは今この場にてお伝えしておきたいことがございまして」


 ベルグレッテの意見を受け、促しつつ踵を返しかけていたローヴィレタリア卿の足が止まる。

 彼に追従しようとしていたレヴィンが、油断なく視線だけを周囲へと彷徨わせた。


「……先日の夕餉の席において話題が出た折も、とかく周囲に気を払っておられるご様子でしたね。それほどの内容でしたら、尚のこと城内にて話された方が安全かと存じますが……」


 そんなレヴィンの提案はもっともだ。が、あくまでそれは常識的に考えた場合の話。


「…………いえ。この一件に関しては、やや特殊な事情があるのです」


 あのバダルノイスの一件を……オルケスターとの交戦を経験してきた身からすれば、安易な楽観は厳禁。これから城内で何気なくすれ違う貴族が『内通者』かもしれないのだ。


(……いや、それどころか……)


 すでに警戒域に入っている。

 今まさに目の前にいるローヴィレタリア卿やレヴィンですら『容疑者』となり得るのだから。

 ゆえに、


「まずは、お二人に見ていただきたい物品がございます――」


 そして、ベルグレッテは制服の内ポケットから取り出した。

 手のひらに収まる程度の大きさしか持たぬ、しかし恐るべき殺傷能力を誇るハンドショットという凶器を。

 少女騎士はそれをレヴィンらに向けて突きつける――ことなく、


「お手に取って、ご確認いただけますでしょうか」


 静かに差し出して、そう促した。


「ふむ……?」


 ローヴィレタリア卿がおずおずと受け取り、隣のレヴィンも不思議そうに注視する。


「どうぞ。容易に壊れることはございませんので」

「……珍しい造形ですな、ホッホ。一風変わった玩具のようにも思えますが、はて」


 上下左右へ傾けて様々な角度から眺めつつ、両者ともに思案顔で首を捻った。


「その細長い部分の先端に小さな穴がありますね。……筒状になっている……のでしょうか」


 気付いたレヴィンが覗き込むようにしたり、


「この持ち方がしっくり来るかの。……ここにちょうど指が掛かるようじゃが……、む?」


 あれこれ弄るうち、正しく銃把を握ったローヴィレタリア卿の人差し指が引き金を引いた。もちろん弾は装填されていないので発砲することはない。


「この部分が引けるようですが……これは問題ありませぬかの?」


 彼らの視線を受けて、ベルグレッテは「ええ、正常な動作です」と淡い笑顔を返した。


「……うーむ、しかし特に何も起きませんね。ただ、何でしょう……猊下の持ち方が正しいとすれば……その指のかかる部分を引くことで、向きから考えてもこの先端の穴が何らかの働きをするものと思われますが……」

「うむ。それは間違いなさそうじゃの、ホッホ。……してベルグレッテお嬢様、この物品は……?」


 さすがの観察というべきなのか、ほぼ的を射ている。

 しかしやはりこれが絶大な威力を誇る武器との答えには至らなかったようで、結論を求めた両者が少女騎士を見やった。

 神妙に頷く彼女が口を開く。


「それは武器です。ハンドショットと呼ばれる、極めて強力な――」


 そして語り始めた。

 その凶器を生み出したオルケスターと呼ばれる闇組織の存在と、彼らが齎す脅威について。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いったん二人ともシロ…っぽいかな?
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