601. 思いつき
眼下の舞台では、美青年騎士からレクチャーを受ける十数名の女子生徒らがきゃいきゃいと嬌声を響かせていた。
「ふわぁ……俺らは何を見せられてんだ」
流護はあくびを噛み殺しつつ、身体をぐっと伸ばしてぼやく。正直なところ、早く終わらないものかと思い始めていた。
(闘技場、とかいうからちょっと楽しみにしてたんだけど……)
ヒュージコングとの一戦はまだしも、やはりどちらかというと『ショー』的な意味合いの強いイベントだったらしい。
もっとも、年若い学院生を多く招いた見世物だ。最初から、あまり過激で血生臭いものは予定されていなかったのかもしれない。
「レヴィンさんって、あんなイケメソなのに全然遊んでそうじゃないっていうか……誠実そうでいいよね! さわやかで!」
「はあ、さいですか」
最初の剣舞で「イケメンがかっこいい動きをしてるとなんかかっこいい」といった趣旨の適当なのか真理なのかよく分からない感想を残していた彩花としては、やはり眺めているだけで目の保養になるらしい。
「…………」
微妙に唇を尖らせて彩花が見つめてくる。
「何だよ。何を見ている、貴様」
「あんな人に『今夜は、帰したくない』って言われたら、どんなカタブツでもオチちゃいそ~」
「……何でそのセリフをチョイスした、貴様」
「べっつにー? 深い意味はないですけど~」
……相も変わらず性格の悪い幼なじみだと思う少年であった。
「むにゃ……眠くなってきちゃったよ」
そこはかとなく退屈に感じていたのは流護だけではなかったようで、彩花を挟んだ向こう側のミアも目尻をこすっている。
「あっ。ね、寝てていいよミアちゃん。私が起こしてあげるから……」
「うーん……で、でも……」
「だ、大丈夫大丈夫」
何というか、ハムスターの無防備な寝顔を拝見したいのだろう。邪心まみれの幼なじみが露骨に促している。
「変態のおじさんみたいになってるぞ、彩花」
「しっ、失礼すぎません?」
とはいえ自覚はあったのか、やや反論が弱々しい。
などと、緩み切った空気が漂っている最中だった。
「きゃっ!」
下方から響いてくる少女の悲鳴。
「! 大丈夫ですか」
そして気遣う青年の声。
何事かと舞台へ目をやると、女生徒の一人が足首を押さえてうずくまっていた。そこにレヴィンが駆けつけ、片膝立ちで介抱している。
どうやら指導の最中に足を挫いてしまったらしい。レヴィンが跪くようにして彼女の様子を確かめている。
「ふぁー、ガチ恋距離! 優しいし、誠実だし……あんなんされたらオチちゃってもしょうがないですねぇ……」
彩花が夢見る乙女みたいなうっとり顔で呟く。
しかしそれも、当人たちの間では『審議あり』な出来事だったらしい。
「ちょっとあんた、レヴィン様に心配されたくてわざとやってるんじゃないでしょうねぇ……?」
「ち、違うって……! いっ、いたたた」
「大丈夫ですか。ご無理はなさらないように」
「も、申し訳ありませんレヴィン様……お手を煩わせてしまって……」
「良いのですよ。こちらで休まれてください」
「きーっ、レヴィン様にあんなに近づいて……!」
友人一同から心配より疑惑の眼差しを受けつつも、少女はレヴィンに肩を貸してもらいながら隅っこへと移動した。
「チッ、なら私だって! ねえあんた、私の脚折って! 今すぐ!」
「さ、さすがに正気に戻って!?」
そこで苦言を呈するのは、今や溜息を吐き続けるマシーンと化したクレアリアさんである。
「全くもう。どうせケガの治療をするのは姉様の役目になるんですから……余計な仕事を増やさないでほしいですね」
それを聞いた彩花が羨ましげに口にする。
「ケガの治療、かあ。でも改めてすごいよね。神詠術の力で、魔法みたいにパッと治療できちゃうんでしょ?」
「いや。単に早回ししてるだけだ」
流護が答えると、幼なじみは怪訝そうに首を傾げた。この世界で一年を過ごした遊撃兵として、少年は経験と知識の両面から説明する。
「回復術ってのは一瞬で完璧に全部が元通りになる訳じゃなくて、本来の治癒で掛かる時間をショートカットしてるだけなんだよ。それも術者の技量によって対応できる度合いも変わるし、部分によっちゃ後遺症が残ることもあるし、間違った処置すれば悪化することもある……。そういや、お前に見せたことあったっけ? これとかいい例だな」
そう言って、流護は自分が着ている長袖の服――その左腕の袖の部分をまくり上げる。
「っ!? え、なにそれ……!?」
彩花が瞠目も露わに息をのんだ。流護の左腕――肘の部分にぐるりと刻まれた、見るからに痛々しい縫合痕を目にして。
「前に言った、学院襲撃してきたドラゴンとの闘いで付いたヤツだ。この傷なんか、もう消えそうにないしな」
ファーヴナールの一撃によって千切れ飛んだ肘から先。ベルグレッテが必死に回復術を施し接合してくれたおかげで、隻腕にならずに済んだのだ。幸い、何の後遺症もなければ動かすに問題もない。彼女の高い技術力ゆえの結果だ。
「……、な、なんで言わなかったの、そんなケガしてて……!」
「やっぱ言ってなかったっけ。つか、別にいちいちお前に報告する義務もねえだろ。見た目はこんなだけど、今は完全に治ってるし」
「あるもん。あんたのことは、姉代わりとして知っておかなきゃだもん」
「何の使命感だよ。……まあとにかく、そういう訳だから回復術も万能じゃない。ケガで消耗した体力とかはその場ですぐには戻らんし、痛みとかも続くことは結構ある」
「……そう、なんだ」
おそらく、ゲーム的に考えていたのだろう。
深刻なケガも秒速治療、すぐに元通り動けるようになる、と。
流護も当初はそのように考えていたが、よくよく考えたならそれで済めばこの世界に病院や医療などは存在していないはずだ。
ケガをしたなら安静に。
それは、自然治癒だろうと神詠術だろうと同じこと。
「あっ。ミアちゃんがうとうとしちゃってる……! はいかわいい。眠気を覚ます術とかもなさそうなのかな」
「無理に覚ますより寝てればいいだろうしな」
……そうした会話を横目で眺めていたらしく、
「ふふ。アリウミ殿も、何だかんだと知識をつけられたようで」
「さすがにな。クレア先生に褒めていただいて光栄っす」
「別に褒めてなどいませんよ。それぐらいは知っていて当然のことで……」
ピタリとその言葉が停止する。
「…………」
「ん? どした、クレアさん」
途中で途切れた声に違和感を覚えた流護が首を横向けると、
「……ケガ、を……」
彼女は何やら、考え込むような面持ちでレヴィンたちが戯れる風景を凝視していた。やはり姉妹というか、沈思しているその横顔はベルグレッテがそうしている仕草によく似た雰囲気を感じさせる。
「……アリウミ殿。ふと思ったのですが」
やにわに、そのクレアリアが向き直って告げてきた。ひどく真剣な眼差しで。
「ケガなどをしたら、お流れになりませんか?」
「ん? あー……、何の話だ?」
普段なら、「二度言わせないでください」だの「察しが悪いですね」だのといった言葉が飛んできたことだろう。しかしクレアリア自身まだ考えがまとまり切っていなかったのか、彼女は改めて己に言い聞かせるような口ぶりで仕切り直した。
「……レヴィン殿がここでケガをしたなら……この後、姉様とお出かけする予定はご破算になる……そう思いませんか?」
その真意を流護が解するより早く、クレアリアが畳みかけてくる。
「何も、深刻なケガでなくとも……それこそちょっと足を挫いただとか、少し手首を痛めた気がするだとか……思ったより体力を消耗してしまった、もしくは疲れたなどでも構いません。とにかくそういった状態になったなら、大事を取って今夜のところは見送っておきましょう、となると思うんです。姉様やレヴィン殿ならば」
……それはつまり。
「……こっからレヴィンに想定外のトラブルとかがあれば、ベル子と出かける話はなくなる、と」
そんな流護の理解に頷きつつ、姉を敬愛しすぎる妹は提案するのだ。
「……アリウミ殿。レヴィン殿と一戦交えてみませんか?」
ようは――阻止しろ、と。
ベルグレッテとレヴィンが出かけてしまうことを。
「……」
もちろん、思春期少年としては面白くない。
想い人の少女とイケメン騎士がこれから二人で夜の街へ消えていくなど。正直、話を聞いてからずっとモヤモヤしているし、もしかすれば闘技場をいまいち楽しめていない理由のひとつでもあるかもしれない。
「……、い、いやでも俺、生徒じゃないんだけど……立候補しちゃまずくね?」
「いえ。挑戦者については、生徒に限定していませんでしたよ」
ハッとする。
『それではいよいよ、最後の演目となります! ……さて、演目……とは申しましたが、これにつきましてはお集まりの皆様次第! ということでしてさぁ皆様! この場でレヴィン・レイフィールドに挑戦してみませんか!? もし試合に勝利することができれば、そこのあなたが次のレヴィンかも!? さぁさぁ我こそは! という勇敢な方は挙手、またはご起立にて意思の表明をお願いいたします!』
『ええと皆様、身構えられずとも大丈夫です。せっかくですので記念に……とか、僕が気に食わないから一丁揉んでやろう、とか。ちょっと身体を動かしたいな、闘技場の雰囲気を味わってみたいな、などの理由でも一向に構いません! どなたでも是非、お気軽にどうぞ!』
確かに、進行役のエフィも……そしてレヴィンも、対象を生徒に限定してはいなかったかもしれない。
「原則として、生徒らに向けて発した提案ではあるでしょう。そもそも我々ミディール学院生を招いての催しですしね。……が、そこでそれ以外の者が手を挙げたとして『学生さんではないようなのでご遠慮ください』とはならないと思います。どなたでもどうぞ、といったような募集をかけておきながら、そのような情けない真似はできないはず」
「…………、」
やや屁理屈っぽいような気もしなくないが、一理ある。
『ペンタ』ともあろう者が――それも自ら対戦者を募った高名な英雄が相手を選んでいては格好もつかない。
「…………」
そう考えると、何だか少し腹が立ってきた。
レヴィンは元々、このイベントを危なげなく終わらせてベルグレッテと出かけるつもりなのだ。
ヒュージコングを『魅せプレイ』で軽々と撃破して、学院生を手玉に取って。
『ペンタ』といえど人の子。ケガの可能性が決してゼロではないこの催しを、しかしレヴィンは最初から無傷で片付けて帰るつもりでいる。
(……そんだけ余裕、ってことか)
一見、誠実で朗らかな美青年騎士。その奥底に別の一面を垣間見た気がした。
「いかがです? レヴィン殿に勝つ自信はありませんか?」
クレアリアの試すような問いに対し。
「いや、全然。勝てるよ」
――遊撃兵たる少年は、昂るでもなく断言した。
それはどうやら、期待する答えだったらしい。
妹さんは、ちょっと悪そうに……それでいて満足そうに口元をほころばせた。
「? 二人とも、何話してるの?」
そこでミアの寝顔にご満悦だった彩花が首を突っ込んでくる。
「あー? 何だようるせー、いちいち首突っ込んでくんなよ」
「む! のけ者にしなくたっていいじゃん!」
そんなやり取りを交わしていると、クレアリアが珍しくもふっと吹き出した。
「お二人は、本当に仲がよろしいんですね」
「! え、いやち、違うってば」
「クレアさんの目には眼球の代わりにビー玉が詰まってんのか?」
「は?」
「と、彩花殿が仰っておりまする……」
「おりませんが!?」
毎度毎度の応酬を繰り返していると、エフィの広域通信が木霊した。
『はい! ミディール学院女生徒の皆さん、ありがとうございました! よき思い出になりましたでしょうか? では、観覧席へお戻りくださいませー!』
音声に従い、この上なく満ち足りた雰囲気の女子たちがゾロゾロと戻ってくる。
『はい、そろそろ終わりの時間も差し迫って参りました! ということで、次で最後となります! では、最終の一戦! 我こそはと思わん勇敢なる挑戦者の方、是非! 挙手かご起立にて表明ください!』
ここまで来ると、即座に応じる者は存在しなかった。
気概ある者は軒並み挑戦してあえなく返り討ち、追っかけの女子陣もご満悦。
そして最後となれば、自然とオチというか締めも期待される。今この場に、その役目を率先して請け負おうとする者はいなかった。
「最後、だそうですよ」
クレアリアの囁きを受けた流護は、
「おう……」
自分の両膝に手をつきながら――、それを支えに立ち上がった。
「……え?」
すぐ隣の彩花が見上げてきて瞬きを繰り返す。その向こう側の寝ぼけまなこのミアも。
『おおーっと! 現れましたね、最後の挑戦者の方! ただちに伺います! 少々お待ちを~!』
エドヴィンやダイゴスらもこちらを振り向き、それぞれ「おー?」「ほう」と意味深に笑う。レノーレは、なぜか無言でぐっと親指を立ててきた。流護も適当に同じサインを返しておく。
観覧席の各所からは、困惑したようなざわめきが起こり始めた。
そんな中、すぐさまエフィが駆けつけてくる。
『はい! お待たせいたしました! あ! お閑所に行かれようとして立ち上がっただけ……とかでは、ありませんよね!? では、お名前をどうぞ!』
『あ、トイレじゃないっすよ。えっと、リューゴ・アリウミって言います。自分、生徒じゃないんですけど……挑戦してもいいすか?』
名乗りつつ申告すると、案内役の女性は観覧席の最上段に位置する部屋や舞台のレヴィンのほうを窺いつつも、
『おお! そうなのですね! 生徒さんではないのですね……、大丈夫ですよ!』
特に確認を取るでもなくすぐに頷いた。少し間はあったが、やはり生徒以外が希望しても受ける算段となっていたのだろう。
「お……、おぉ!? そっ、そうだよ! この男がいたじゃねえか!」
男子たちを中心として、ざわめきが大きくなっていく。
「……そうだよ……ど、どっちだ? アリウミとレヴィンとなると……これ、どっちが強いんだ!?」
誰かが明確に口に出したことで、ざわめきは歓声へ、歓声は熱狂へと膨れ上がっていく。
「おおおぉ! いや本当だよ! どっちが上なんだ!?」
「とっ、とんでもねぇ! ここに来てすげぇ一戦が実現じゃねーか!」
否が応にもその異変を感じ取ったエフィが、戸惑ったように観覧席をぐるりと見渡す。
『……っ? な、何でしょう、すごい、今までにない盛り上がりを見せておりますが……!?』
遥か下方の舞台に佇むレヴィンも、同じようにして観覧席へ首を巡らせている。
「ちょ、ちょっ流護!? 本気!?」
彩花が周りの熱気に飲み込まれまいと声を張り上げてくる。ここまで眠そうにしていたミアも一気に目が覚めたのか大きな瞳を輝かせて、
「リューゴくん! やるの!? 勝つよね!?」
そのように無垢な期待を寄せられては、口にしない訳にもいくまい。
「楽勝。ちょっと行ってくる」
「……はっ!?」
長椅子に横たわっていた女子生徒が我に返ったように目を開く。
「あ、気がついた?」
傍らに腰掛けていたベルグレッテが顔を覗き込むと、彼女は瞬きを繰り返して首を巡らせた。
一階の広間。
場には、他に若干名。
同じく長椅子に横たわったり、具合悪そうにもたれかかったりしている女子生徒の姿が見受けられる。
「あれ……? 私……? あ、レヴィン様!」
自分が置かれた状況を察したらしく、いきなりガバリと起き上がる。
「ほーら、まだ安静にしてて」
学級長は苦笑しつつ、そんな彼女を押し止めた。
回復術を受けたとて、しばらくの間は大人しくすることが肝要である。
「うっ、うう……せっかくのレヴィン様の演舞を見れたのに、こんなとこで寝てる場合じゃ……、ってもしかしてベルグレッテ、もしかして私らのせいであなたもここに……?」
「あ、うん。気にしなくていいから……」
「ごめんねえ……ごめんねえ……せっかくレヴィン様をお目に掛かれる機会なのにぃ……」
「もうっ、さめざめ泣かない。レヴィン殿と接する機会なら、きっとまた作れるわよ。滞在期間は二週間もあるんだから」
「ほ、本当に!?」
「ええ。だから次は気をやってしまわないように、今のうちに心構えを持っておきなさいよー?」
茶化して言うと、彼女は「分かった!」と大真面目な顔で自らの頬を張る。
その瞬間だった。
どっ、と足下を震わせるほどの大歓声が巻き起こる。
ベルグレッテを含め、思わずその場の皆が目を向けるほど。出所はもちろん観客席に違いない。この広間からでは、その様子を窺うことはできないが――
その熱狂。尋常でない盛り上がりだ。
「な、なに? なにがあったの?」
級友のそんな疑問ももっとも。
これまでのような女子の黄色い悲鳴ではなく、男子らの雄叫びじみた喝采が多かった。
「すごいわね。どうしたのかしら……」
一体、何が同級生らを沸かせたのか。その原因が気にかかったベルグレッテは、席を立って一階部分の入場口へと近づいていく。
観客席出入り口と廊下の境目には、壁へもたれかかって腕を組みつつ佇むナスタディオ学院長の姿があった。何やら興味深そうに闘技場へと視線を注いでいる。
やってくるベルグレッテに気付いた彼女が、問われるよりも早く意味深に微笑んだ。
「ンフフ。面白いことになったわよ」
メガネの奥の切れ長の瞳を細め、首をクイと動かしてその光景を示す。釣られる形で視線を追うと、
「っ、え!? リューゴ!?」
円形闘技場。その舞台にて、遠間に向かい合う人物が二人。
レヴィン、そして流護。
「ど、どうして……!? い、一体なにが!?」
「レヴィン殿が挑戦者を募って、リューゴくんが応じたのよ。分かりやすいでしょ」
「んなっ……」
「確かに、レヴィン殿も挑戦者を生徒に限定はしてなかったからねー。つまり、アタシが出ても許されるんだろうけど。いや、さすがにやらないけどね?」
おどけて含み笑った学院長が、おもむろに問うのだ。
「さてさて。これ、『どっち』だと思う?」
こうなったなら、飛び出して当然の疑問を。
「……、」
この二人、干戈を交えたならば。
より強いのは。勝つのは、どちらなのか――?
有海流護の強さなど、もう今さら語るでもない。
彼が起こした奇跡にも等しい闘いぶりや勝利の数々を、ベルグレッテは近くで何度も目の当たりにしてきた。
そして、天下のレヴィン・レイフィールド。
バルクフォルト帝国の象徴。おそらくこの大陸で最も知られる騎士の一人。結論からいうなれば、紛うことなき本物だ。彼の人生がそのまま、子供たちに語り聞かせるべき英雄譚となる。間違いなく、後世まで語り継がれる至高の人物。
「……学院長は、どちらだと思われますか……?」
瞬時に導き出せなかった答えを、ベルグレッテはそのまま傍らの強者に求める。
学院の責任者にして強力な『ペンタ』はというと、紅の塗られた唇をにやりと吊り上げて。
「そうね~。リューゴくんのこれまでの実績とレヴィン殿の活躍ぶりを比較して考えたなら、かなり拮抗するんじゃないか……なんて思っちゃうけど。でもアレよね~。アタシの知る限りであれば、」
断言した。ただならぬこの人物が、迷いなく。
「――実はかなり差があると思うわよ。この二人」