596. 貴人の社交
「ご無沙汰しております、ローヴィレタリア卿。本日は我々ミディール学院生のためにこのような場をご用意いただき、誠にありがとうございます」
「ホッホ。友邦国の政治屋として当然の歓待を致したまでのこと。お気になさる必要はありませぬ」
闘技場サスクレイストの出入り口となる、巨大な鉄拵えの門の脇。
『喜面僧正』の異名で知られるバルクフォルトの重鎮ことトネド・ルグド・ローヴィレタリアは、その呼称に恥じぬ満面の笑顔でクレアリアを迎えた。
(昔からお変わりにならない、見本のような笑顔ですが……)
政治的な繋がりを持つ貴族の一人として、クレアリアは知っている。
この人物は決して、表情が示す通りの平和的な聖者などではない。
今しがた当人が口にしたように、為政者である。自国の発展のため邁進する、政の専門家だ。
ゆえに、無償での献身などありえない。その行動の全てには、必ず利害得失が絡んでいる。
今宵の招待――ひいては前例なき両学院の交流学習を快諾したこと自体についても、裡に秘めた思惑があるのだ。
では、その思惑とは何か。
姉ほど傑出した洞察力を持たぬクレアリアであっても、昨今の世情を鑑みれば推測は難しくない。
(魂心力結晶についての情報入手……さらには一歩踏み込んで、商品開発などに一枚噛みたい、といったところでしょう)
少なくとも前者は、この修学旅行を成立させるにおいて決め手となった要素であるはず。
「ところでクレアリアお嬢様。先日、こちらではやや規模の大きい地揺れが発生しましたが……道中、問題はあられませんでしたか」
「ええ。先日、立ち寄った宿でそうした話を小耳に挟みはしましたが……我々のほうでは全く。こちらはいかがでしたか?」
「ホッホ。北の山の方でその影響によると思しき洞穴らしきものが見つかり申したが、その程度ですな。お気遣い感謝致します」
お決まりのような世間話を挟みつつ。
「しかしクレアリアお嬢様。しばらくお会いせぬうちに、また一段とお美しくご立派になられましたな。ホッホ」
見本のようなおべっかに対し、クレアリアも至極丁寧に頭を垂れる。
「いえ、私もまだまだ至らぬ身でございます。リリアーヌ王女に相応しい騎士となるべく、懸命に励む日々を過ごしております」
「ホッホ。そのお心掛けこそがご立派なのですよ。それに失礼ながら……以前と比べると、やや物腰が柔らかくなられたようにも見受けられる」
さすがは老練の聖職者にして為政者、というべきか。笑みの形に細められた眼のその奥で、相手の微細な変化を感じ取っている。クレアリア自身ですら曖昧な、その違いを。
「……そう、でしょうか。……けれど、ええ。今は……己の認めがたかった未熟な部分と向き合い、成長してゆけるようにと心がけております」
あの遊撃兵の少年に痛い部分を見透かされ、正面からぶつかって……結果、父との関係も改善した。
また、兄の仇だった怨魔を姉が討ち果たしたことで、何か大きな区切りがついたような気もしている。
そうした状況や心境の変化からか。最近は確かに、周囲からも声をかけやすくなったと言われることが増えていた。
「ホッホ、我が国の若人らにも見習わせたい向上心で。しかしよもや、このような形で久方ぶりにお会いすることになるとは思いませんでしたな。修学旅行……と仰いましたか。実にナスタディオ学院長らしい、型破りのご方策とも言えましょうが。ところでお話は変わりますが、ベルグレッテお嬢様はご一緒ではないのですかな? この場にいらしてはおるのでしょう?」
「あ、ええ。無論、姉様も来場しております……が、申し訳ございません。一緒にご挨拶へ参るつもりだったのですが……姉様は今、級友たちの案内を務めておりまして」
「ホッホ。そういえばベルグレッテお嬢様は、学級のまとめ役というお話でしたかな。ふむ……実は宜しければこの催しの後、我が家の者どもと近くの店でご一緒にいかがかと思いまして。積もる話もございますし、お二人がご同席なされば妻やリムめも喜びましょう。ホッホ」
見本のような貴族の誘いである。もっとも、これも双方の関係を維持していくうえで必要なことだ。バルクフォルトへやってくるたびにこなしている恒例の集いでもある。
「あら。よろしいのですか? ふふ。確かに早二年ぶりとなりますし、婦人やリム殿のお顔も拝見したいところですね」
暗に肯定を示した無難な返しのはずだが、ローヴィレタリア卿はその幅広な顔に見合った太い首をかすかに傾げた。
「おや。昼間に交流会があったとお聞きしましたが……その席で、娘とお会いにはなられませんでしたかな」
そのことか、とクレアリアもすぐに察する。
「ええ、それにつきまして実は……結局、昼間の場ではリム殿とお会いできぬまま終わってしまいまして」
なんと、と驚いた風のローヴィレタリア卿だが、その表情は笑顔のまま。
「それは我が娘がとんだ失礼を。ご挨拶もしておらんとは」
かすかな憤りを滲ませるが、器用なことにその『喜面』は崩れない。
「いえ、リム殿の落ち度ではございません。あの場には二百名近くもの人数が集って混雑しておりましたし、私も他の方と話し込んでいるうちに時間となってしまいましたから。出会わずとも不思議はない状況でした」
「しかしですな……」
「私の立ち回りにも至らぬ部分がございましたので。どうか、リム殿をお叱りになることのないようお願いいたします」
「むう。クレアリアお嬢様にそう仰られては……致し方ありますまい」
互い、へりくだって相手方を立てる。
これも貴族同士のやり取りに不可欠な、ある種の儀式。
しかし、そのために話の種として……『下げ役』として利用されるリムが不憫だったことも確かだ。
(それにあの子の場合……姉様や私を見つけたとしても、尻込みして自分からは話しかけられなかったでしょうし)
大貴族の娘たる彼女だが、その性格はやや過ぎるほどの引っ込み思案。昼間の席でのシロミエールという背の高い女生徒も相当な弱気加減だったが、とにかくミアの活発さを分けてやりたいぐらいには大人しい少女だ。
二年ぶりで互いの容姿も少なからず当時とは変わっているだろうし、そうなると尚更あの少女が自発的に話しかけてくるとは思えない。
「やれやれ。リムめも、少しはクレアリアお嬢様を見習って堂々とした立ち振る舞いを身に付けてもらいたいものですが……」
父親がこう評するあたり、彼女の内向的な性格は今も変わっていないのだろう。
「いえ、そのように奥ゆかしいところもリム殿の魅力かと存じます」
クレアリアが微笑むと同時、闘技場の内部からゴーン、ゴーンと鐘を打ち鳴らす音が響いてきた。
重厚で豪快なその響きは、催しの開始が迫ったことを告げる合図だ。
「おっと、そろそろ時間のようですな。ホッホ」
「申し訳ございません、ローヴィレタリア卿。姉様は間に合わなかったようで……どうされたのやら」
「いやいや、お気になさらずとも宜しい。ベルグレッテお嬢様のことですから、何か理由がおありなのでしょう。もしかすると、中でばったりレヴィンと出くわしておられるのやもしれませぬな」
可能性は十二分にあるだろう。
もしそうであれば、やはり二年ぶりの再会。それこそ自分たちのように、話し込んでしまっている目は否定できない。
「そうですね……。ではローヴィレタリア卿。お誘いの件につきましては、私から姉様に伝えておきます。二人でお邪魔させていただくことになるかと思いますが」
「ホッホ、承知しました。楽しみにしておりますぞ。では、中でごゆるりとレヴィンの演目をお楽しみくだされ」
――時を同じくして。
硬い石造りの広い廊下に、コツコツと一人分の足音が響く。
(ああ、随分と遅れちゃったわね……!)
全ての用事を終えたベルグレッテは、若干の焦りに突き動かされる形で足を早めていた。
当初はミアや彩花たちを閑所へ案内するだけのはずだったのだが、そこから他の友人を売店へ案内したり、道に迷っていた級友を観客席まで導いたり……あれやこれやと頼まれるうちに、かなりの時間が経過してしまった。
急ぎつつも、屋内なので走らない。それでいて、人とぶつかる懸念から慎重に角を曲がった瞬間だった。
「ベルグレッテ殿!」
よく通る男性の呼びかけを受けて、聞こえてきた方向へと顔を向ける。
「おお、やはりベルグレッテ殿でしたか!」
十字路の横からやってくるのは、絶世と表現して文句ない美青年だった。
輝かしい銀色を基調とした簡素なブレストプレートを身につけ、腰に同色の長剣を携えた装い。
身長は百九十センタル前後。スラリとした細身ながらも、頼りない印象は皆無。ピンと伸ばした背筋、キビキビとした足運び。そんな歩き方だけでも、実直であろう人柄が想像できる。
短めに整えられたサラサラの髪は黄金色。瞳は吸い込まれるように深い蒼穹とも呼べる青で、意志の強さを窺わせる。それでいて威圧感や我の強さは感じられず、むしろ相対する者を安心させる雰囲気があった。
整い切った優しげな顔立ちや柔らかい物腰も、そう思わせる一因だろう。
その風貌や佇まいは、まさに劇の世界から飛び出してきた主役さながら。強面でもなく、軽薄そうでもなく。癖の強い特徴もない。誠実を絵に描いたような、見本さながらの眉目秀麗。大半の者が思い描く『美男子』。それをそのまま具現化すればこうなるのでは、と。
二年前より磨きがかかった壮麗極まる青年を前に、ベルグレッテも足を止めて応じた。
「レヴィン殿……! ご無沙汰しております……!」
頭を垂れると、眼前までやってきた美青年――レヴィンの顔に安堵したような気配が浮かぶ。
「おお、やはりベルグレッテ殿でしたか! ご無沙汰しています。また一段とお美しくなられましたね。お見かけするなり半ば反射的に呼びかけてしまいましたが、人違いであったらどうしようかと少しばかり肝を冷やしました」
そういった異性に対する物言いも、極めて爽やかで下心を思わせないのだから不思議なものだ。
「足取りを拝見する限り、ベルグレッテ殿に違いないとは思ったのですが」
して、この観察眼である。
――レヴィン・レイフィールド。
バルクフォルト帝国擁する、最強の騎士にして『ペンタ』。
現年齢は十九歳。二つ名は『白極星』。弱冠十六の時点で、精鋭騎士団『サーヴァイス』を率いる長の座に就任している。
属性は雷。その閃光は夜の闇すら吹き払うと噂され、『白夜の騎士』の異名を取る。民衆の間では、二つ名よりもこちらの名で知られているはずだ。
知る人ぞ知る強者こそ世に多いものの、ことレヴィンの有名ぶりは他の追随を許さない。
ミアが愛読する娯楽誌でも頻繁に取り上げられているし、レインディールの子供たちですらその名を認知している。ごっこ遊びでは、レヴィン役を巡ってケンカが起きることなど茶飯事だ。
Sランクの恐るべき怨魔マナンガライトの単騎討伐、『東の黒毒沼』における巨大亀ファスティカリクス掃討作戦、第八十五回・天轟闘宴優勝……挙げた功績を列挙したなら、ガイセリウスにも劣らぬ伝記が作れるだろうと評されるほど。
少なくとも、後世まで語り継がれる英傑となることは現時点で確定している。
「改めましてお久しぶりです、ベルグレッテ殿。我が国へお越しになる道中、問題はあられませんでしたか? つい先日、こちらではやや大きな地揺れもありましたので」
「ええ。そうした話も聞き及んではおりますが……我々の旅路に影響はありませんでした。お気遣い感謝いたします。バルクフォルトでは、地揺れによる被害などは?」
「幸い、目に見える被害などは発生しておりません。北のほうで、地崩れによって現れたとされる洞穴も発見されておりますが……生物の塒のようでもあったため、現地で調査を進めている程度でしょうか」
そんな近況についてなどをざっと交わす。互い、騎士としての性分のようなものだ。
「ともあれ、此度はようこそおいでくださいましたベルグレッテ殿。不肖ながらこのレヴィン、今宵の催しを務めさせていただきますゆえ。ごゆるりとお楽しみください」
しかし生ける伝説たる男が、この腰の低さである。
『ペンタ』でありながら、誰とでも分け隔てなく接するその姿勢。知り合った当初から変わらない。
「ご丁寧にありがとうござ……」
同く誠意を込めて応じかけたベルグレッテだったが、
「!」
反射的にそちらへ顔を向ける。今、自分たちがいる十字路。その一本の奥側から、人の話し声が響いてきたのだ。
少しずつ接近している。その声色から、自分と変わらない年代の女子が数名。そして、今この闘技場はミディール学院生貸し切り。
「レ、レヴィン殿! こちらへ」
ベルグレッテは倉庫に繋がる一本道へと入り込み、素早く手招きをする。
「? いかがなさいましたか?」
怪訝そうにしながらも従うレヴィンを横目に、少女騎士は角から顔を覗かせて様子を窺った。
ほどなくして――ミディール学院の女子生徒が数名、こちらに気付くことなく談笑しながら通り過ぎていく。
ふう、と安堵の息をついたベルグレッテは、静かにレヴィンへと向き直った。
「……いえ。今宵の催しにつきましては、我が校の女生徒たちが殊更楽しみにしておりましたので。ここでレヴィン殿と鉢合わせてしまったなら、それはもう大変な騒ぎになるかと思いまして……」
「は、はは。左様でしたか。なるほど……それは、ご期待に添えねばなりませんね」
空笑いする青年騎士だが、ベルグレッテはふと思い立って尋ねる。
「そういえば……レヴィン殿はここへいらっしゃるまで、私以外の生徒には出会われませんでしたか?」
「ええ。ベルグレッテ殿にお会いするまで、どなたとも……、! そうですね、うっかりしておりました」
と、騎士はハッとしたように目を伏せる。
本番を控えた舞台裏でその主役とばったり遭遇していれば、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていたかもしない。
実際、彼ほどの者ならば過去にそうした経験もあるのではなかろうか。
何しろ、国内外問わず多数の女性から支持される天下のレヴィン・レイフィールドである。例に漏れず、ミディール学院生の中にも熱烈な追っかけは多いのだ。
「……レヴィン殿。申し訳ございませんが……あまりこちらの客席側には、お近づきになられないほうがよろしいやもしれません……」
心苦しくも進言すると、
「……ええと、はい。事前に厠へ寄っておこうと思い、何も考えずにこちら側へと参りまして……いえ、至らぬ次第でした」
完璧を体現したようなレヴィン・レイフィールドという美青年騎士だが、唯一の欠点を挙げるとするならば、この自己評価の低さだろう。己の人気ぶりにまるで無頓着なのだ。『ペンタ』にありがちな傲慢さとは縁遠い、謙虚すぎるほどの人柄。
「気を付けねばなりませんね……」
少し乾いた笑みを零したレヴィンは、気を取り直すように「ところで」と話題を転じた。
「そのお召し物はミディール学院生の制服なのですか? 先ほどの女生徒の皆さんも、同じ装いをしておられましたが」
よくよく考えてみれば、学院生としてレヴィンに会うのはこれが初だ。
「あ、はい。ナスタディオ学院長が考案なさったそうなのですが……少し奇抜、といいましょうか」
具体的には、スカートが短い。
もちろん、男性を前にあえて言うまいが。
「いえ、お似合いですよ。非常に可憐で華やかかと」
そう評しつつ腰から下へ視線を一切向けてこないあたり、さすがの紳士である。
「しかし、修学旅行……でしたか。よもや、このような形でお会いすることになるとは思っておりませんでした。これもナスタディオ学院長らしい、既存の枠に囚われぬ型破りなご方策ですね。道中、問題はありませんでしたか?」
「はい。思った以上に快調な旅路となり、誰一人欠けることもなく……予定よりも早く、バルクフォルトまで至ることができました」
「ふむ……百名近い、それも年若い学生の皆さんが斯様な道のりを歩めたという事実は、街道の安全性を考えるうえでの貴重な参考例となりそうですね」
生真面目な青年騎士は、顎下に丸めた拳を添えて呟く。
「ともかく、ご滞在は二週間ほどとお聞きしています。是非にその間、バルクフォルトでの日々をお楽しみください。リズインティ学院の生徒にとっても、皆さんとの交流はかつてない刺激となると思いますし……切磋琢磨できる相手がいる……というのは、ええ。幸せなことですからね」
「はい。前例のない試みとなりますが、貴重な学びの機会とできるよう有意義な時間を過ごしたいと考えております」
互いに言葉と笑顔を交わし合った後、わずかに左右へ視線を巡らせたレヴィンが怪訝そうに尋ねてくる。
「して……ベルグレッテ殿お一人のようですが、クレアリア殿はご一緒ではないのですか?」
「あ、はい。実は――」
もっともな疑問に、ベルグレッテは手早く経緯を説明した。
級友たちの案内を務めていたこと。クレアリアは一足先にローヴィレタリア卿の下へ挨拶に向かっていること――、
「っと、そうでした。私もローヴィレタリア卿の下へ伺おうと思っていたのですが、すっかり遅れてしまって……!」
ハッとしたベルグレッテに反し、レヴィンはにこやかに笑う。
「なるほど。しかし、ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。猊下は、それでお気を悪くされる方ではありませんから。ベルグレッテ殿が学級のまとめ役としてお忙しくされていることもご承知でしょうし」
確かに『喜面僧正』ならばそうなのだろう。しかしやはり、貴族の端くれとして礼節を欠かす訳にはいかない。そんなベルグレッテの焦りを察したか、青年騎士は話を締め括りにかかる。
「ではベルグレッテ殿、最後に。この催しが終わった後、近くのお店で僕と共にいかがですか。もちろん、クレアリア殿もご一緒に。ちょうど、予約していた食事処へ寄ってから帰るつもりでしたので。ルーバート卿やフォルティナリア殿こそご不在でしょうが、せっかくなので恒例のひと時をと思いまして」
昨年は来ることができなかったが、ほぼ毎年恒例となっている行事。レヴィンも多忙極まる身。クレアリアに挨拶もさせたいし、それが可能ならば早いに越したことはない。
「ええ、お誘いありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますね。妹には、私のほうから伝えておきま――」
ベルグレッテの言葉を上塗りする形で、ゴーンと重厚な鐘の音が鳴り響く。
催しの開始まで残り十五分を告げる合図。
「あ……!」
「おっと、時間になってしまいましたね」
腹の底に響くその余韻を感じながら、ベルグレッテは異国の騎士に向き直った。
「長々とお引き留めしてしまい申し訳ありません。では、観覧席のほうでレヴィン殿のご活躍を楽しませていただきますね」
「僕の方こそお時間を取らせてしまいました。お目汚しかと存じますが、精一杯務め上げさせていただきます」
頭を下げ合って、それぞれの行き先へ向かうべく別れる。
時間的に、ローヴィレタリア卿への挨拶はもう間に合わない。終わってから速やかに向かうべきだろう。
基本的にこの修学旅行、平時の行動は各人の意思に委ねられており細かい制限や規則は存在しない。とはいえ、夜半にレヴィンと会食となれば、学院長にも一言告げておくぐらいはしておかねばなるまい。
急遽として忙しい夜になってしまった。
ひとまず今は、これから始まるレヴィンの催しを観覧すべく客席へ足を急がせるベルグレッテだった。