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終天の異世界と拳撃の騎士  作者: ふるろうた
15. 皓然のフロウ・ライン
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586. 未知なる地

 ――ミディール学院を発って、早九日が経過した。


 三年生一行を乗せた馬車は、今日も今日とて西を目指して進んでいく。

 最新鋭の高速馬車によって旅路は順調、トラブルらしいトラブルもなし。怨魔との遭遇も、先日のムシュバ以降は皆無。当初の予定以上のハイペースで旅路を走破することができていた。


「出立前に宿で小耳に挟んだのですが、バルクフォルト方面で地揺れがあったそうですね」

「……そう。……私たちの旅に影響は……」

「ええ、その点は問題ないかと。どうやら、西の山間部で発生したようですが……それほど大きな騒ぎになるものではなかったそうで」


 何気ない日常会話を交わすクレアリアとレノーレ。


「ふんふーん」


 その横で窓に張りついてご機嫌そうに外を眺めるミア、そんな彼女を斜め後ろの席からじっと眺める存在が一人。


「……ミアちゃんって、後頭部がかわいいよね……」

「あ? 何だって?」


 神詠術オラクル結晶関連の商品開発資料に目を通していた流護は、意味が分からず隣の発言主を訝しげに見やった。


「こう、後ろ頭がまるまるーっとしてて。ネコちゃんみたいで、かわいいじゃん」


 などといった主張を繰り返す蓮城彩花容疑者だが、その発言は当人に聞こえていたらしい。ミアはちらっとこちらを振り返り、居心地悪そうに自分の後頭部をさする。


「おう。よかったなミア、可愛いってよ。……後頭部が」

「うう……褒められてるの、それ……?」

「褒めてるよ!」


 食い気味な彩花だが、今の言葉には全てに濁点が付随しており、「ほ゛め゛て゛る゛よ゛!」になっていた。どう考えたって気持ちが悪い。


「うーん……、べ、ベルちゃん! なに読んでるのー!」


 反応に困ったようなミアは、向かいで読書をしているベルグレッテの膝にがばっと取りついていく。


「こーらっ。なによ、もうっ」

「ミア。命が惜しければ離れなさい」


 ガーティルード姉妹それぞれの対応を受けるハムスター少女を眺めつつ。


「照れちゃったミアちゃんもかわいいねぇ」

「ポジティブが過ぎる。引かれてんだろどう考えても……」


 幼なじみとして、流護は苦い顔で忠言せざるを得ないのだった。

 ところでと、気を取り直して少年は問いかける。


「今更だけどさ。お前、それ何編んでんの?」


 彩花はこの馬車での移動中、熱心に編み物に興じていることがあった。暇潰しのために持ち込んだらしく、今も真っ最中。茶色と黄色のストライプが特徴的な上着のようだ。後付けで何かを縫いつけようとしているらしい。


「見ての通りケープだけど。あ。べつに、あんたのために編んでるんじゃないからね」

「言ってねーだろ。てか、女子みたいなことしてんじゃん」

「あ、知らなかった? 女子なんです私」


 そんなこんなで馬車に揺られることしばらく。


「お、おい! あれは何だ!?」


 と、やにわに男子生徒の声が響き渡る。

 窓の外。彼が指差すその先に――


「ん……な!?」

「え!? な、なんなのあれ!?」

「水場か……?」

「それにしちゃデカすぎるぞ!」


 次々と、気付いた者たちが窓に張りつく。

 連鎖的に巻き起こる、かつてないざわめき。


「――、おお」


 数日ぶりに怨魔でも襲ってきたかと思い素早く皆の視線を追った流護は、その驚きの理由を察して肩の力を抜いた。

 同じく気付き、微笑んだベルグレッテが穏やかに呟く。


「ついに見えてきたわね。――海が」


 窓の外。平原の向こうに、きらきらと輝く大海原がその姿を現していた。

 見渡す限りの水平線。太陽こと昼神の恵みを照り返す深い群青が、どこまでも広がっている。


「う、海だって!? あれが!?」

「じっ、じゃあ、あれが全部水なの!? 向こう側、霞んでるんだけど!?」

「本当かよ!? 端がまるで見えねぇんだが!? なんてデカさだ……!」

「大きな湖みたいなもんだって聞いたけど……それどころじゃないじゃんか、あの規模は……平原並み……いや、もっとか……? どこまで続いてるんだ……!?」


 馬車内はもはや大騒ぎである。

 無理もない話か。レインディール人の大半は、実際にその目で海を見たことがないのだ。


「ウワ――! ウワワワワ――! すごー! 全部水ー!? どうなってるの!」


 当然というべきかミアも大興奮であり、


「あぁ……、テンション爆上げのミアちゃんかわいすぎぃ……」


 深い業を背負いし彩花はそんな小動物に見とれている。

 お祭り騒ぎとなった賑々しい空気の中、しかしいつもと変わらない顔ぶれも若干名存在していた。


「ベル子とクレアは来たことあるっていうから分かるけど……レノーレも落ち着いてんな」


 初バルクフォルトのはずの彼女だが、特に驚いた様子もなく普段のクールさで広大な海原を眺めている。


「……バダルノイスは、海に面してるから」

「あ。そういやそうなんだっけか。初見じゃないのな」


 流護としては自分の足で訪れた折に目にする機会もなかったが、かの雪国は大陸の北西端に位置しているという話だった。


「じゃあダイゴスは? レフェって海ないんだよな?」

「うむ。初めて目にするの。驚いとる」


 こちらはただ落ち着いているだけだった。


「はァ――……、あれが全部水かよ……。一生かかっても使い切れそうにねーな……」

「……エドヴィン。……海の水は塩水だから、普通の水と同じように使えるものじゃない」

「あ? そうなのか? 誰が塩なんて入れたんだよ?」


 エドヴィンとレノーレのやり取りも微笑ましい。


「アリウミ殿やアヤカ殿は、幾度となく海を訪れたことがあるという話でしたか」


 クレアリアに言われ、現代日本出身の二人は揃って頷く。


「まあ別に、見に行こうと思えば行けるって感じだったな」

「そだね。しばらくぶりだけど」


 さして珍しいものでもない。その気になればテレビや写真、インターネットを介して気軽に目にすることができる。海に対し、そこまで特別感を抱く現代人はいないのではないだろうか。


(……そう考えると……)


 窓の向こうの青い景色に釘づけとなっている、異世界の少年少女たち。

 彼らはこれまで、本当にごく限られた狭い枠組みの中だけで生活してきたのだ。怨魔や無法者の存在により、生活圏を著しく制限されて。

 ナスタディオ学院長が語った、修学旅行の目的のひとつ。新たな土地を訪れ、未知の体験をしてほしいという思い。

 早速ながらも今まさに、それが実現しているのではないだろうか。


「さあ、到着したわよ」


 ベルグレッテの目線を追うと、街道の先に大きく荘厳な石のアーチが見える。周囲には、兵士の駐在所らしき建物が散見された。

 どうやら国境のようだ。

 懐中時計を確認すれば、時刻は午前十時を少し回ったところ。

 皆を乗せた馬車は、長い旅路を経ていよいよバルクフォルト帝国へと到着した。






 バルクフォルト帝国は帝都、バーグリングヒル。最西端を海に面した国内最大都市で、人口およそ四万名。

 所狭しと並ぶがっちりとした石の建物、忙しなく人々が行き交う往来。

 街の外観はレインディールのそれとよく似ており、異国感は極めて薄い。やはりその都市の大きさもレインィデール王都に匹敵するそうで、この位置からでは海も見えはせず、ただただ都会の街並みが広がっている。そんな中でも、明確な違いとして目を引くものがいくつかあった。


「ありゃぁ……船か?」


 窓の外を見やるエドヴィンの視線の先。大通りの向かいに、造船所と見られる工場が居を構えている。開け放たれた扉から、造りかけの船体や錨、帆などが確認できた。


「うおぉ……でっかいな……」

「あれが船……? 鉄でできてないか? 水に浮くのか? あんなに大きくて……」


 呆けたように生徒たちが窓越しの視線を注ぐ。

 川や湖で運用される船しか見たことがないレインディール国民にしてみれば、さぞ異質に感じることだろう。


「ウワー! あれなに!?」


 と、今度はミアが目を白黒させる。

 路傍の店先に、とてつもなく大きな魚が横たえられていた。体長は四、五メートルほどもあるだろうか。ノコギリみたいに尖った背びれと、異常に大きな扇状の尾が特徴的だ。でっぷりとした厚みを持つ黒い躯体は、見るからに脂が乗ってギラギラと光っている。すでに腹部の一部が切り分けられており、霜降りの赤身が溢れんばかりに存在を主張していた。


「うまそう」

「すっご……。まぐろ……っぽいけど、なんか違うよね。やっぱり、私たちの知らない魚なんだろうね……」


 彩花が呟くが、さぞかし旨いことは間違いあるまい。名残惜しく見送ると、その先の店でも様々な魚介が所狭しと並べられていた。


「うまそう」

「もー、あんたそれしか言わないじゃん」

「いやあ……だって思い返してみりゃ、新鮮な海の幸なんてこっち来てから食ってねーもの」


 食用魚は湖や川のものがほとんど。稀に旅の商人が海の魚を仕入れて売りに来ることもあるが、防腐処理のためガチガチに凍らされて久しい代物だ。とても刺身として食べることはできないうえ、正直、どう料理してもあまり美味しくならない。

 さすがに城や貴族の豪邸で振る舞われるような高級料理であれば魚も上質ではあるのだが、やはり海のものを新鮮なままで、とはさすがにいかない。


「うお、あれロブスターじゃね? でっか! 生きてるじゃん!」


 ガラスの水槽の底で蠢く、赤いエビのような生き物。


「おー! でっかい貝だな。うまそう。てか絶対うまい」


 氷の敷き詰められた台に並ぶ、帆立貝に似た大きな二枚貝。


「カニだ!」


 店頭に陳列する、何本もの長い脚と二対の大きな鋏を持つ真っ赤な甲殻類。


「いやーよりどりみどりじゃん。テンション上がるわ〜……って、ん?」


 流護はそこで気付く。先ほどから、盛り上がっているのは自分だけだということに。


「……あれ、みんな割と冷めてね? 新鮮な魚いっぱいっすよ」


 これまで見たこともないだろう海の品々に対し、もちろん物珍しげな視線こそ向ける一行だが、特にテンションは上がっていないように見える。


「あァ? 魚だろ? 上等な肉ならまだしもよー」


 と、さして興味もなさげなエドヴィン。


「うーん……お魚も嫌いじゃなけど……骨がいっぱいで、食べるのが大変なんだよね〜」


 ミアも今ひとつな反応だ。


「うむ。ワシも、新鮮な海の魚を食ったことがないからの」

「あ。なるほどな」


 ダイゴスの感想で、ようやく少年は察した。

 海を見たことがない、知らない。となればやはり、フレッシュな海の恵みを食べたことがない。つまり、その真の旨さを知らない。


「でも、ベル子とクレアなら分かるよな? 海の食べ物の素晴らしさが。何回か来てるみたいだし」


 経験者のはずのガーティルード姉妹を窺うと、


「そうね。川や湖で捕れるものとはまた違った味わいがあって、素敵よね」


 誰も傷つけない百点満点な姉の回答。


「レインディールでは食べられない品が多いことは確かですね」


 生活文化上の事実のみを淡々と告げる妹の言。


「あっ……、」


 そうだった。二人は上流貴族のお嬢様。あらゆる分野の最高級料理を食べ慣れている身分。活きのいい海鮮を前にしたとて、それだけで食欲に支配されたりはすまい。


「ちくしょう! どうせ俺は庶民ですよ!」

「何なんですか」


 冷ややかな妹さんの視線を浴びつつも、ハッとした流護は海を知るもう一人の存在に希望を見出す。


「レノーレ、海の食い物どう? ウマイよな。新鮮なのは、ガチで」

「……魚、あまり好きじゃない」


 味方はいなかった。


「……そういや、お前もそんなに魚好きじゃねえしな……」

「まあ、べつに。好きじゃないってほどじゃないよ。ふつう」


 子供時代からほぼ同じ環境で育ってきた幼なじみの少女はこれである。


「どっちかっていうと、私の場合は調理する側で考えちゃうんだよね。捌くの大変だし、寄生虫とかくっついてるとキモいし……」

「さいですか……」

「まあ、あんたみたいに『カニだ!』とかってテンション上がるほどじゃないかな、ふふふ」

「うるせえ真似すんな」


 何というか、このワクワク感を共有してくれる者はこの場にいないようだ。


「えーと……リューゴくんって、お魚好きなのー? 学食だと、お肉食べてることが多いけど……」


 気を遣ったようにミアが尋ねてくる。


「いや、特別魚好きって訳でもないんだけどさ。やっぱ捕れたての海鮮は、モノが違うんだよ。こういう市場みたいの見てるとワクワクするってかさ」

「そうなんだー」


 純真なその眼差しにはしかし、話を合わせているかのような同情が溢れている(気がする)。


「おのれ、気のない返事をしおってからに……。ミアよ、お前さんはこの地で海鮮の真の味を知ることになる。そして絶望するだろう。レインディールに帰ったら、もうそれらが食べられなくなってしまうという事実に……。むせび泣いても知らんからな」

「えー? そんなことにはならないと思うけど〜」

「くくく……そいつはどうかな……。その意志がいつまで続くか見届けてやろう……」


 謎の悪役みたいな捨て台詞を吐いているうちに、馬車は市場区画を抜けて華やかな商店街へと差しかかった。


「こうして見ると、王都とは似ているようでも違うなぁ」

「変わってるね〜」


 クラスメイトらもそれぞれ、過ぎ行く風景の中に見慣れぬものを見つけては盛り上がっている。


「見た感じ、治安もよさげっすね」


 街の様子を見下ろしながら、流護は兵士目線で呟いた。

 出店などに人も多く集まり活気づいているが、特にトラブルの類は見受けられない。

 レインディールも主要都市の安全性は高いほうだが、それでも賑わう区画ではスリだの引ったくりだの、それを追いかけた血気盛んな男たちが寄ってたかって犯人をボコボコにするだの、挙げ句は荒くれ連中が意味もなく道端で殴り合っているだの、そうした程度の出来事は毎日のように起こっている。


「この首都は王城おうきお膝元ですから。警備も厳重ですし、何より――っと、噂をすれば何とやら……ですね」


 そんなクレアリアの目線を追うと、雑踏を行く数人の兵士たちの姿があった。意匠や装飾こそ多少異なるものの、銀鎧に身を包んだその出で立ちは万国共通と呼べるだろう。きっと誰もが、一目で法の番人だと認識できる。ゆえに、彼らを率いている先頭の人物が殊更目を引いた。

 年齢は二十代半ばほどか。短く刈り込んだ銀髪が目立つ大柄な美丈夫で、頼りがいのありそうな兄貴肌の体育会系といった雰囲気の人物だった。堂々とした歩き方からは自信が満ち溢れている。

 何よりその武装が、引き連れた兵士たちとは一線を画していた。

 ハーネスに鉄板を組み込んだような、青みがかった銀色の胸当て。小手や具足も同じ色合いで、陽光を反射する表面は夏の海面を思わせる。背中には、槍に似た長柄の得物を留めていた。


「『サーヴァイス』のかたね」


 その姿を認めたベルグレッテが口にする。


「おー。あれがそうなんか」


 流護も一応は遊撃兵として、その知識を備えていた。


『サーヴァイス』。

 レインディールにおける『銀黎部隊シルヴァリオス』、レフェの『十三武家』、バダルノイスでいうところの『雪嵐白騎士隊グラッシェラ・デュエラ』に相当する、バルクフォルトお抱えの王宮騎士団。選りすぐりの精鋭、およそ四十名にて構成される。

 親交国という間柄もあってか、レインディール城内などでも時折その名を耳にすることがあったのだ。


(で、その『サーヴァイス』を統率してんのが――)


 国内外にその名を轟かせる最強騎士こと『ペンタ』レヴィン・レイフィールド。

 レインディールではラティアス、レフェではドゥエン、バダルノイスではスヴォールンがその立場に相当するだろう。

 実際、横並び三大国の代表的戦士であるラティアス・ドゥエン・レヴィンの三人を指して『迅雷の三騎士(ドライ・リッター)』と呼称する民も多いと聞く。

 弱冠十八歳でその立ち位置に収まるあたり、レヴィンという青年の桁を外れた非凡さが窺い知れる。


(そんで確か、十三歳ん時に天轟闘宴にも出て優勝してんだよな……)


 年齢的にはたかが中学生。しかもその若さで当時、あのグリーフットに勝っているというのだから驚きだ。

 加えてレヴィンは上流階級出身、眉目秀麗にして文武両道、『ペンタ』にありがちな高慢さも見られない人格者と聞く。


(ちょいデキ過ぎっていうか、盛り過ぎだろっていうか)


 完璧なまでの輝かしいプロフィール……どころか、非の打ちどころがなさすぎて反感を抱きそうになるレベルだ。


(つか、実際どうなんだろ。例えばレノーレだって、最年少で宮廷詠術士(メイジ)になりはしたけど、周りの妬みとかやばかったみたいだし……)


 母の事情も重なったとはいえ、最終的にはその職を辞したのだ。

 そんな当人は今、いつも通りの落ち着いた無表情で読書に勤しんでいる。そういったいざこざから解放された、ミディール学院生の一人として。

 とはいえ結局のところ、元同僚たちとの関係性は今も変わっていないはずだ。そういった人間との関わりを絶っているというだけの話で、和解した訳でも根本的な問題が解決した訳でもない。きっと、この先も続く根深い課題だ。


(考えてみりゃ、ベル子とクレアだって……)


 リリアーヌ姫付きの次期ロイヤルガードという立場を妬まれ、同じ貴族の娘――シリルから殺し屋を差し向けられたことがあった。


 怨恨、嫉妬、憎悪。

 人間、負の感情というものはどうしたってついて回る。

 かつて、桐畑良三に負けて腐っていた自分も然り。


(……あの人とか、いかにも自信ありますってツラだし)


 窓の外。堂々とした足取りで街を行くそのサーヴァイスの青年からは、確かな自信が満ち溢れているように見えた。

 強者なんて、総じて負けず嫌いなものだと流護は考えている。

 自分より上の存在に対し、無関心ではいられないのだ。

 となれば――


「ふむ。噂には聞いておったが……成程の」


『十三武家』の一員であるダイゴスも、その異国の青い精鋭を目にして興味深げに唸っていた。実力のほどを察したのだろう。


(実際、タダモンじゃなさそうだ)


 その堂々とした足運びや、自信に満ちた面構えを見ただけでも察せる。かなりの使い手だ。


「強そう! 防具も青くてゴテゴテしてるし!」

「インパクトあるなぁ。ポセイドン、って感じ? よく分かんないけど」


 ミアと彩花が、それぞれ一見しての感想を残す。


「あれが『サーヴァイス』かよ。ケッ、ハデな鎧着てやがる」


 エドヴィンは苦々しく呟くが、翻せばそれだけ目立つということ。単純に、誰の目にも分かりやすい特別感というのは大事な要素だ。


「……でも、リューゴくんのほうが強いよね……!?」

「ん? そらそうよ。安心しろミア、俺より強い奴なんておらんでな」

「う、うん……そうだよね! でへへへ」

「おうよ。がははは」


 少し不安げな顔となった彼女を安心させるための大口ビッグマウスでもあったが、それを解さない彩花は隣で「デレデレしちゃって、きもっ」と目を平坦にしている。

 まあ、構わないのだ。

 少なくともミアの前では、自分こそが最強だと豪語する。その無垢な信頼に応え、わずかでも不安を払拭できるのなら。少しでも早く、その理想に至れるよう努力を重ねつつ。


「彼ら『サーヴァイス』の働きあってこそ、この帝都バークリングヒルの治安は高い水準で維持されています。その確かな実力や気高き精神性は、騎士の鑑と称するに相応しいものでしょう」

「おお。普段評価の厳しいクレアさんがそこまで言いますか」

「事実を述べているだけです。彼らに比べると、『銀黎部隊シルヴァリオス』は……、やや自由に過ぎる方が多いですね」


 総勢六十余名からなるレインディール精鋭集団『銀黎部隊シルヴァリオス』だが、国家に尽くす騎士団というよりは、アルディア王の私設軍隊といった向きが強い。


(しかも、変なキャラした人ばっかなんだよなこれが……)


 少なくとも現時点で流護が知っている者は全員、一癖も二癖もある人物ばかりだった。


 あれこれ考えているうちに、馬車が減速を始めた。

 石のアーチを潜って見通しのいい広場に入ったところで、車両が完全に停止する。

 同時、伝声管から御者の声が響いてきた。


『ようーし、到着だ。忘れ物のないように降りてくんな』

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― 新着の感想 ―
[一言] SUSHIだ彩花ちゃん!!!異世界食文化無双を使うんだ!!! 胃袋を!!!掴むんだ!!!
[一言] どう考えてもやべー「何か」にちょいちょい乗っ取られてるベルさん、まともそうに見えてミアさんを見る目と発言がヤベー彩花…ヒロインのくせがつえー()
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