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終天の異世界と拳撃の騎士  作者: ふるろうた
12. アザー・オース
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407. 静かなる不穏

「ひゃあ、さすがはオームゾルフ祀神長が薦めるだけのことはあるわ~」

「ふむ……こりゃあ確かに大したもんだ」


 バダルノイス王立美術館。


 外から見てもちょっとした城のような巨大さと荘厳さを誇る建物だったが、その内部もまた豪奢。

 入ってすぐの広間は奥行きも天井の高さも桁違いで、その造りは氷輝宮殿パレーシェルオンと比べてもまるで見劣りしない。

 空間や装飾自体が、極めて高い美術的価値を持っているようにすら思える。そんな推定三十マイレ四方の広間の脇からは細い通路が一本延びており、そこが閲覧順路の出発点となっているらしい。すぐ近くに、関係者用の出入り口と思われる小さな扉が見える。


「いやァ、とても今日一日じゃ回り切れんだろうな」


 壁に掲示された案内図に目を向けてみるが、まるで迷路である。真面目な話、これまで探索してきたどの遺跡よりも広く複雑かもしれない。


「ううむ、こいつは俄然楽しみになってきたぜ」


 これだけの広さに展示品が並べられているとなれば、その数や種類も推して知るべし。サベルやジュリーとしては、お宝や歴史の遺物は見ているだけでも楽しいのだ。トレジャーハンターの血が騒ぐというものである。


 ちなみに客の姿は少ない――どころではなく、サベルたち以外には誰もいない。それこそ無人の廃墟にでも入り込んでしまったかのような静けさが満ちている。


「いくら平常日でも、これは……。さすがに貸し切り……じゃ、ないわよね~?」

「ああ、分かったぞジュリー。そろそろ時間なんだ」


 懐中時計を確認したサベルの言に、ジュリーも思い出してか頷いた。


「あっ、なるほど~。オームゾルフ祀神長が言ってたものね。聖礼式パレッツァ、だったかしら」


 この国で月に二度設けられている、氷神キュアレネーへの祈りを捧げる時間である。

 特定の神への祈祷そのものはごく当たり前の行いであり、人々が生活の一部として日々こなしていることだ。サベルとジュリーも、旅先で火神クル・アトや風神ウェインリプス、富を司る神ヴァッシュラヴァーナの神殿もしくは教会を見つければ必ず立ち寄り、礼拝と布施を欠かさないようにしている。


 しかしこのバダルノイスにおけるキュアレネー信仰というものは絶対的で、特定の日の午後一時から三時の二時間、国民は教会や神殿などへ赴いて深い祈りを捧げるのだ。

 多くの者がこうして聖礼式パレッツァに参加するため、この間、街は実に閑散とするという。

 もちろん一人残らず全員が参加しては都市機能が停止してしまうため、月に二度行われるうちの片方にだけ出席すれば問題ないという決まりになっている。

 もっとも、特に信心深い者は自ら率先して毎回顔を出すようだ。


 必然的にこの時間帯、ふらふらしているのは旅人、それも氷属性以外の者が多くなる。まさにサベルたちのように。

 というより今回、せっかくなのでこの聖礼式パレッツァの時間帯を利用して空いている美術館を楽しんではどうか、というオームゾルフの計らいもあったのだ。


「大変お待たせいたしました」


 耳が痛くなるような静寂を破り、通路脇の扉から係員と思しき一人の女性が出てきた。シックな色合いの制服に身を包み、胸元には名札らしきものをつけている。

 もう新年となって一ヶ月、白曜の月も残りわずか。つまり今こうして働いている彼女は、前回の聖礼式パレッツァに参加しているはずだ。


「本日は当美術館へお越しいたただき、誠にありがとうございます。二名様でしょうか?」

「おっと、あと三人来る予定なんだが」


 サベルが優待券を提示しながら答えると、


「あっ、お話は伺っております。ええと、失礼ながら念のためにお名前をお聞きしてもよろしかったでしょうか」

「ん、ああ。俺はサベル・アルハーノで」

「あたしはジュリー・ミケウスよ」

「サベル様に……ジュリー様、ですね。承知しました。……となりますと、」


 一行の来訪は事前に聞かされていたようで、係員は小脇に抱えていた板書へと目を落とす。


「リューゴ・アリウミ様、ベルグレッテ・フィズ・ガーティルード様、そしてエドヴィン・ガウル様……の三名様が、これよりお越しになる、ということですね」

「ああ。現地集合の予定でね、その三人が来るまでまだ少し時間があるんだ。しばらくここで待たせてもらってもいいかい」

「……左様でしたか。お待ちいただく分には問題ございませんが……お時間のほうはいかほどでございましょう?」

「あー……あと三十分ちょっとぐらいか?」


 サベルが答えると、係員は少し思案する素振りを見せた。


「……でしたら、差し出がましいようではございますが……お連れ様がいらっしゃるまで、お先に展示をご覧になりながらお待ちになってはいかがでしょう。ちょうど三十分ほどで回れる順路がございますよ。当美術館におきましては、近隣諸国と比しても随一の質と規模を誇るものと自負しております。とても一日で回りきれるものではございませんので、是非とも……少しでも多く我が国の歴史や文化に触れていただければと思いまして……!」

「お? お、おう」


 唐突な係員の剣幕に、サベルは思わずのけ反った。


「あっ、し、失礼いたしました」

「はっは。いや、気にしないでくれ。熱意があって結構なことだ」


 係員の勢い込んだ語りぶりは、出発前にオームゾルフが垣間見せた一面とよく似ていた。

 実際のところ、きっと同じなのだ。このバダルノイスという国を、心から愛している。そんな自国の素晴らしさを知ってほしくて、つい熱が入ってしまう。

 すでに故郷と呼べる場所が失われてしまっているサベルとしては、微笑ましくも羨ましい気持ちになった。


「それじゃあ、お言葉に甘えてちょいと回らせてもらうとするかね。いいか、ジュリー?」

「あなたがいいならもちろんよ、サベル」

「ってことで頼むぜ、係員さん」

「承知しました。では、こちらよりどうぞ」


 案内され、二人はバダルノイスの由緒ある武具が展示されているという順路へと入っていった。






「ふーむ……興味深いぜ、こいつは」

「へぇ~、変わった武器や防具があるものね~」


 ガラス越しに見る展示物は、どれも文句なしの逸品ばかりだった。剣や斧、鎧兜、果ては攻城戦に用いたとされる大砲や弩まで。

 古いものは英雄ガイセリウスが生きていた時代まで遡るようで、それも驚くほど保存状態がいい。


 二人でのんびりと見て回る。

 部屋が広く、じっくり鑑賞していたら時間がいくらあっても足りなそうだ。


 順路の途中、茶色い髪を肩口でパッツリと切り揃えた女性職員が、隅にある展示ガラスを淡々と磨いていた。鼻の横にあるホクロが印象的な、ジュリーと同年代に見える人物だった。こうした細かい手入れが、美術品をよりよく見せるための気遣いでもあるのだろう。


 美術館二階、入り口に『東棟第三展示室』との看板が設置されたその部屋にて。


「ちょっとちょっと、これすごいわよサベル……!」

「うーむ……こいつは……曲剣か? 刃の紋様が波打ってて珍しいな。柄の意匠も見たことがない」


 妖しい美しさすら感じさせるその銀剣にサベルが見入っていると、傍らのジュリーが案内板から抜粋して読み上げる。


「遥か東からやってきた旅人が携えていた、『カタナ』と呼ばれる剣……だって。二刀流の『トウ』、その語源である……。へー、そうなんだ! 世の中、まだまだ知らない武器があるのね~」

「興味深いな。東かァ……。ワーガータブまで行ったことはあったが、あそこですらこんな剣を目にしたことはなかったな。もっと東か……どんな場所なんだろうな」


 解説が記された掲示案内によれば、バダルノイスはその厳しい環境ゆえ、流浪者の終着点となることも多かったようだ。そうした経緯で、珍品が集まりやすい傾向にあるらしい。


「ねえねえ、こっちもすごいわよ!」

「どれどれ」


 二人でじっくりと貴重な品を鑑賞しつつ、定められている順路を進んでいく。

 人っ子一人いない静まり返った通路をしばし行くと、枝分かれしたT字の道へ差し掛かった。

 行き先は二方向に分かれているが、その片方の中央に『展示場準備中ため立入禁止』と書かれた看板が置いてあった。


「……おっと。こっちは入っちゃダメみたいだな」


 これほど大きな美術館となると、常時全てを鑑賞可能な状態に保っておくことは難しいのかもしれない。


「準備中、か。本来なら何が見られるんだろうな?」


 目を向けても長い廊下が延びるばかりで、この場から窺い知ることはできそうにない。


「あっ、ここの案内板に何か書いてあるわよ。えーと、なになに……?」


『この先の西棟第一展示室では、希少な武具類に加え封術具を安置しております。神詠術オラクルと展示物の予期せぬ共鳴を防ぐため、ガラスや壁に封印術が施された一室となっております。ご了承ください』

 ――とのことだった。


「ううむ、厳重な管理態勢だな。是非ともお目にかかってみたかったが」


 あれこれ感想を漏らしつつ、ゆっくり鑑賞を続けて歩くことしばらく。


「……サベル。悪いんだけどあたし、ちょっとお花摘みに行ってくるわ」


 ジュリーが申し訳なさそうかつ恥ずかしそうに切り出した。


「ん? おう。そんじゃ、その辺で待ってるぜ」


 長い付き合いである。サベルも二つ返事で頷いた。






「んー……どこに行ったのかしら、サベルったら」


 どこまでも延びる静かな廊下。

 無人のその先を眺めながら、ジュリー・ミケウスは独りごちた。


 ――愛するサベルの姿がどこにもない。

 用足しを終えて戻ってみれば、待っていると言っていたはずの彼が忽然といなくなっていた。

 すぐ隣にある男性用の閑所トイレにも人の気配はなく、少なくとも近くにはいないようだった。


「! まさか……」


 そこでジュリーの脳裏に閃く、ひとつの懸念。


「サベルったら、よっぽどのお宝でも見つけたのかしら!?」


 二人の生業はトレジャーハンター。何と言っても、価値ある物品の数々に目がないのだ。自分たちで探し求めて入手することはもちろん、このような展示を見て回ることも大いに歓迎なのだ。


「もう~、サベルったら」


 待っている間にふらりと惹かれるものを見つけて、鑑賞に夢中になっているのかもしれない。


(まあ、仕方ないわよね)


 各地を転々としてきた二人ですら、ここまで大きな美術館は初めて。のめり込むのも頷ける。というよりジュリー自身、時間の許す限り様々なものを見て回りたいぐらいだった。

 何も急ぐものでもない。流護たちがやってくるまでまだ時間もある。


(サベルを探しながら、色々見て回りましょうか)


 そう判断したジュリーは、のんびりとその場から歩き出した。






(やっぱりおかしい……わよね~?)


 とジュリーが眉をひそめたのは、サベルを探し始めて五分ほどが経過した頃だった。

 ざっと近くの展示場を覗いてみるも、彼の姿はどこにもない。

 待っている、と言った恋人が何も告げずにいなくなっていることからして妙ではあるのだが、こうも見つからないのは不可解だった。


(あたしを置いて一人で先に行く、なんてことはありえないし~)


 何か事情があって来た道を引き返した、と考えたほうが自然だろう。


(たとえば実はうっかり財布落としちゃったりしてて、あたしを待ってる間に気付いて……トカ)


 それもしっかり者のサベルらしくはないのだが、想像できるのはそれぐらいか。

 ひとまずそう仮定し、ジュリーはやや不作法と自覚しながらも順路を逆にたどり始めた。ここへ至るまでは、ほぼ一本道。彼が来た道を戻っているなら、どこかで出会うはずだ。


「っとと」


 何の気なしに分岐路へと差しかかり、慌てて足を止める。

 思わず『それ』にぶつかってしまい、危うく倒しかけた。


(ああ、ここね)


 見覚えある別れ道。廊下の中央に、やはり見覚えある看板が鎮座していた。


『展示場準備中のため立入禁止』


 立ち入りが禁じられている以上、サベルがこの先に進んだとは考えにくい。ぶつかってわずかに向きの変わってしまった看板を直しながら、


(……?)


 ジュリーは周囲を見渡した。


(今……揺れた、わよね?)


 それは、かすかな振動だった。

 気のせい……ではない証拠か、天井からわずかな埃がパラパラと舞い落ちる。


(……地鳴り?)


 と思いながら東棟第三展示室へ。

 そこは大砲や旧時代の武器類、そしてカタナなどが展示された部屋だ。

 だだっ広い空間には、サベルはおろか誰の姿もない。ジュリーを迎えたのは、耳が痛くなるほどの静寂。


(うーん……。もっと前まで戻ったのかしら……?)


 第三展示室という部屋の名称が示す通り、ここ以前に展示室はあと二部屋。これ以上戻るとなると、あとは一階に下りてしまい、ほとんど入り口付近まで遡ることになってしまう。

 後を追うか、少し待つか。わずか迷うジュリーが立ち尽くしていると、順路から部屋へ入ってくる女性職員の姿があった。


「あっと、ちょうどよかった~。そこのお姉さん、ちょっとお聞きしてもいいかしら?」


 慌てて呼び止める。


「……いかがなさいましたか、お客様」


 パッツリと首元で切り揃えた茶髪と、何より鼻の横にある大きなホクロが特徴的な女性だった。胸元には、『エルサー・メラー』と記された名札をつけている。照明の絞られた室内ではあったが、至近距離ではその文字が見て取れた。


(……あ、この人……さっき順路の途中にいたわよね)


 二人が鑑賞している最中、部屋の隅で展示ガラスを磨いていた職員だ。清掃などをしながら、自分たちに遅れる形で入ってきたのだろう。

 こうして接してみて気付いたが、入り口で案内してくれた職員に比べると、覇気も愛想もない。ともあれジュリーとしては、愛しの伴侶さえ見つけられればいいので相手の態度など気にしない。もし彼が道を引き返していれば、このエルサーが目撃しているはずだ。


「一緒に来た恋人とはぐれちゃったんだけど、見かけなかった? えーっと、髪は臙脂色で、瞳は薄い赤色で、キリッとした顔立ちの男前で、スラッとして茶色の皮衣レザーウェアが決まってて、渋くて明るくて優しくてすんごくカッコいい男の人なんだけど――、って」


 途中からただの彼氏自慢になっていると自覚したジュリーは、慌てて軌道修正を試みようとしたのだが、


「存じ上げません」


 その前に、エルサーなる女性職員がバッサリと切り捨てた。

 やや鼻白むジュリーだったものの、そこでムキになるほど短気でもない。


「そ、そう。あなたは道なりに向こうから来たみたいだけど……あたしが言ったみたいな人は来なかった、ってことでいいかしら」


 正規の順路を指差しながら尋ねる。


「はい」


 エルサーはジュリーの示す方角を一瞥すらせずに、短く肯定した。早く会話を終わらせたいのか、素っ気ないことこの上ない。


「そっか。お仕事中に手間を取らせてごめんなさい。ありがと」


 ジュリーとしても、無理に引き止め続ける必要はない。彼女の無言の要望に応え、早々と会話を打ち切る。が、


「? 何かしら」


 エルサーはすぐには立ち去らず、じっと無感情な視線を送ってきた。かと思うや否や、やや不満げに口を開く。


「……お客様。順路を逆に進むことはご遠慮ください」


 それだけ言い残して、足早にその場を去っていく。


「あらら……」


 なるほど確かに、とジュリーは納得した。自分でも不作法と思いながら逆行したのだ。

 彼女が妙に冷ややかだったのは、無粋な客に反感を抱いたからなのかもしれない。


(……うーん、参ったわね。埒が明きそうにないし、通信しちゃいましょ)


 溜息とともに詠唱を開始する。

 エルサーの証言を信じるならば、戻った先にもサベルはいない。あの態度では本当のことを言っているかどうかも怪しいところではあるが、やはりそもそもサベルが来た道を引き返している可能性は低そうだ。


 かといって、恋人を置いて先に進んでしまうこともありえない。

 ほぼ一本道とはいえ、この館内の広さを考えたなら、どこかで行き違ったセンもあり得るところだ。


 であれば、無駄に動き回るよりは神の恩恵にあずかるのが最善だろう。

 そうして早速、通信の術を紡ぐジュリーだったが――


「…………?」


 しばらく待ってみるも、応答はなし。

 幾度か繰り返してみたが、サベルの声が聞こえてくる気配はなかった。


「……」


 呼び出しを続けながら辺りを見渡したジュリーの視界に、ふとその通路が収まる。準備中の看板が立てかけられたその先を眺め、ふと思い出す。


『この先の西棟第一展示室では、希少な武具類に加え封術具を安置しております。神詠術オラクルと展示物の予期せぬ共鳴を防ぐため、ガラスや壁に封印術が施された一室となっております。ご了承ください』


 そんな案内書きを。


(もし封印術のかかった部屋にいれば、通信は届かない……)


 もちろん、サベルが通信に気付いていないだけの可能性もある。しかし――

 考えがまとまるより先に、ジュリーはその場所へと歩み寄った。つい先ほども立ち止まった、その場所。


「…………」


 やってきたのは例の分岐路。

 道の片方に立ち入り禁止の看板が立てられた、狭く暗い廊下。

 準備中の西棟第一展示室。通信術が通じないだろうその区画。仮にサベルがそこへ向かったとして、その理由は――?


「っ!?」


 瞬間、ジュリーの足下をかすかに揺らす振動。廊下の向こうから響いてくる重い鈍音。


(さっきもここで……、これ、地鳴りなんかじゃないわね……)


 この先に、ここまで伝わる衝撃を起こす何かがある。


(ん~、工事でもしてるのかしら……?)


 しかしそれなら、入り口で説明がありそうなものだ。もう一度戻って誰か職員にでも訊いてみようか、とジュリーは踵を返す。


(さっきの子に見つかったら、また文句言われちゃいそうね……)


 と、無愛想な女性職員エルサーの顔を思い起こし、


『……お客様。順路を逆に進むことはご遠慮ください』


 彼女のその言葉が、脳裏に甦る。


(……あれ? ちょっと待って……順路を、逆に……?)


 ジュリーの中で何かが引っ掛かったのと、


「急げ、こっちだ!」

「分かってる!」


 二人の男性職員が第三展示室方面から現れたのは、全くの同時だった。

 何事かと思いつつも咄嗟に隅へ寄ったジュリーに目を向けることすらなく、二人は血相を変えた面持ちで一目散に走ってくる。


「一体何が起きてるんだ!? どうしてあんな!? 燃えてる……んだよなあれは!?」

「分からん、だが――」


 立ち入り禁止の看板をわずらわしげに避けながら駆け抜けた彼らの言葉が――続く言葉が、聞き間違えようもなくジュリーの耳に飛び込んだ。


「とにかくあの『紫の炎』を消し止めるんだ! 最悪、美術館が焼け落ちるぞ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろい作品は、ついつい感想欄までチェックしてしまいますね。 続きを楽しみにしています!
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