405. 禍き誘い
迷い込んだ人間もたどり着かないほど深い森の奥。天然の洞穴を利用して作られた、薄暗い岩の間。そんなアジトにやってきたのは、見るからに奇妙な三人組みだった。
「どうも~。あっし、オルケスターのモノトラと申しやす~」
まず一歩進み出て頭を垂れたのは、背筋の曲がった痩せぎすの男。
身体を丸め、下から相手を見上げるような仕草。ボサボサの赤い頭髪、落ち窪んだ瞳と大きな鷲鼻、右側のみが歪んだ形で吊り上がる唇。顔の輪郭や目鼻の形がどこか左右非対称で、出来の悪い茄子を彷彿とさせる男だった。
卑屈そうでありながら、どことなく慇懃無礼な態度が透けて見える。
(はん……典型的な闇の売人って感じだぁな)
これまでの経験からそう予想するラルッツだが、さして外れてもいまい。
「それで、こちらはミュッティさん」
そのモノトラと名乗った男が、後ろに控える一人を指し示す。
ぼさついた金色の髪を複雑に編み込んで胸元へ垂らしている、外見から十六、七歳ほどの少女。
一見してどこにでもいそうな街娘らしき風体だが、特筆すべきは彼女が全身至るところに施した装飾品の数々だろう。
まずマフィアが愛用するような黒メガネをかけており、瞳や目元は窺えない。そして派手な赤の耳装飾や蝶を模した髪留め、銀の首飾り、金の腕輪に足輪。
ここまでならただの派手好きな少女だが、奇妙なのはそれら装飾品の全てに、極めて小さな鈴がいくつも括りつけられていることだ。総計で二十個ほどもありそうだった。
当然ながら少女がかすかに身じろぎするだけでも、チリンチリンと賑やかな合奏が始まってしまう。
「なんだぁ、あの小娘……。あんなに鈴ばっかりくっつけてやがって」
隣のガドガドのぼやきに、
「ド派手な姉ちゃんだぁね」
ラルッツも同意する。
あれだけの数を身につけて一挙一動、四六時中鳴られたなら、さぞかしうんざりしそうなものだ。まさか街で流行っている着こなしでもないだろう。そんな彼女は山賊団の拠点にいながら萎縮した様子もなく、不遜なほど堂々と構えていた。
(……? いやしかしあの姉ちゃん、どっかで見たことあるような……?)
そんなラルッツの引っ掛かりを置き去りにするように、モノトラの紹介が進む。
「そして、こちらがアラレアさんでやす。一見しただけでは分からないやもですが、女性でやす」
そして紹介された三人目が、鈴まみれの娘に輪をかけて異質だった。
「あ、兄貴ィ。何なんでしょうかね、あいつぁ……」
ガドガドがヒソヒソと尋ねてくるのも無理はない。
「さてな……。俺に訊くんじゃねぇよ」
ラルッツ自身、平静を装ってはいたものの内心で唖然としていた。
ほとんどボロ切れとしか思えない鼠色の服を纏っており、その背丈の低さもあってまるで貧民外の子供。モノトラが補足を入れなければ、女とは分からなかったかもしれない。短く雑に切り揃えられた髪は傷んでいることが明らかで、肌の色も著しく悪い。年齢の見当すらつかない。
そして何より異様なのは――頭部に幾重にも巻かれた布によって、明らかに視界が塞がっていることだ。完全な目隠し状態。
しかしながらこの人物は、何の迷いもない足取りでここへやってきている。しっかり見えているとしか思えない。
その佇まいは幽鬼さながらの不気味さで、不意に真夜中にでも遭遇しようものなら悲鳴を上げてしまうかもしれない。同胞たちも遠巻きに囲みながら、気味悪そうな目を向けていた。
「で? 話ってのは何だい。いくら相談があるったって、一見さんがたかだか三人でウチらのアジトにやってくるたぁ、大した度胸だが」
穴蔵の奥、積んだ木箱を椅子代わりにして客をジロリと睨むは、一味をまとめ上げているお頭のドランだ。
額から鼻先にかけて刻まれた一本の傷跡が目立つ、ごつい強面の男。髪も口ひげも伸び放題に任せており、いかにも荒々しい悪党といった雰囲気が漂っている。
しかしその仕事ぶりは、そんな厳つい外見に似合わず堅実で理知的。無用な荒事は極力避け、お宝のみを颯爽と頂戴することに長けた技巧派だった。『疾風のドラン』といえば、その界隈では知れた名なのだ。
「ええ。では早速、本題に入らせていただきやすがね」
卑屈な商人のように手のひらをすり合わせたモノトラが、媚びた薄ら笑いとともに切り出した。
「貴方がたは先日、ゲルツォーネの屋敷から金品を盗み出しやしたよね」
「!」
その言葉が起爆剤となったように。
ドランを筆頭に、ラルッツやガドガドを含めた二十余名の仲間たち、その全員が素早く身構えた。
団は原則として殺しを禁じているものの、もちろん聖人君子の集まりではない。無為な殺生こそ好まないが、障害の排除が必要であれば躊躇などしない。
(ちっ、あのヤマかよ! もう足がついちまったのか……!?)
それはラルッツも参加した、久々の大仕事だった。
目標は私服を肥やしていたと噂のとある貴族。贅の限りを尽くしたような豪邸に忍び込み、金目のものを根こそぎかっさらってやったのだ。
綿密な事前調査から侵入経路及び退路の確保、そして証拠隠滅。山賊よりは盗賊といった団にしてみれば珍しくもない仕事だったが、近年稀に見る成功を収めた任務だった。
……はずなのだが、もう第三者に漏れてしまったのか、と一味に緊張が走る。
「おっと、勘違いしないでいただきたい。その件についてどうこう、という話ではないんでやす。実は屋敷に保管されていたブツの中に、我々の組織への貢ぎ物が交ざっていたのでやすが――」
「ほう。それを直々に取り返しに来た、ってんじゃねぇのかい」
「話は最後までお聞きくださいや、お頭さん。我々はね、厳重に保管されていたあれを盗み出した貴方がたの手腕に興味が湧きやして、こうして取り引きに伺ったんでやす」
「……その言葉を信じろってか?」
「尤もでやすね。ただ、まず前提として理解しておいていただきたいのでやすが――」
モノトラは自分たちを囲む山賊団をざっと一瞥し、意味ありげにニヤリと笑う。
「今、この場における力関係につきやして……我々の方が上でやす」
たっぷり数秒の間を置いて、
「……何だって?」
お頭が鋭く睨めつける。
咄嗟には発言の意味を理解できなかったのだろう。ラルッツも同じだった。
「今ここにいる総勢二十名ほどの貴方がたより、我々三人……いえ、あっしはただの商人でやすから、正確には後ろの二人となりやすが――、彼女らのほうが強い、ということをまず念頭に置いていただきたいんでやす。率直に申しやして、彼女ら二人だけで貴方がたを殲滅してしまうことができやす。つまりブツを取り返しにきたなら、力づくでやってしまえる……ってことでやす」
「おいモノトラ、語弊のある言い方してんじゃねぇよ。アタイ一人で充分だろ? 釣りが来る」
鈴の少女ミュッティが、口元を歪めてせせら笑う。
団員たちの顔に怒が滲む。
どこへやってきて、誰に対し何を説いているのか。
まるで自分の立場が理解できていない、愚かな挑発。そう判じた団員らが今にも襲いかからんと殺気を滾らせる中、
「止せ、野郎ども」
制止したのはお頭のドランだった。
「この小娘共が俺達全員をどうにかできる――なんて与太話の真偽はともかく、こいつらが何か『備えてる』のは間違いねぇ」
「何言ってんだよ、お頭! たった三人でノコノコやってくるような奴らによぉ! まさかハッタリを真に受けちまってんじゃないだろうな!?」
感情的な部下の反論にも、頭領は揺らがない。
「ああ。たった三人でノコノコやってきたからこそ、だ。つまりこいつらは、俺達が一斉に襲い掛かったとしても対抗できるだけの切り札を隠してる。でなけりゃ、ただの死にたがりとしか思えん」
モノトラが「ほう」と感心したような相槌を打った。
「お頭さんのその観察眼こそ、数々の困難な盗みを成功させてきた要因でやすかねぇ」
「おべっかは止しな」
お頭が油断のない視線を送る。
「モノトラとかいったか。あんたさっき、取り引きに来たって言ったな」
「ええ。今ほど申しやしたように、我々としては貴方がたの盗みの技術を提供いただきたい。こちらからはその代償として、あるものを贈らせていただきやす」
「あるもの、だと?」
「実際に見ていただいた方が早いでやすね。すいやせんが、ちょいと運搬を手伝っていただけやすか。表の荷車に入ってやすので」
――そうして運び込まれたものを目の当たりにして、一人の例外もなく全員が困惑した。
(何だ、ありゃぁ……?)
おそらくは他の皆も、ラルッツと同じ心境だったことだろう。
身の丈ほどの長い箱に収納されていたそれは、一着の黒光りする全身鎧……と思しき何か。
「これは、セプティウスと呼ばれる装備でやす。率直に言うなれば、着て使う兵器……とでも呼ぶべき代物でやすかね」
「兵器……だと? こんな薄っぺらな鎧がか?」
「疑われるのも無理はありやせん。しかし実際に着てみれば、その凄さを実感いただけると思いやすよ。ささ、是非とも試してみてくださいや、お頭さん」
「……、」
ラルッツやガドガドはもちろん、これまで様々な財宝・珍品を目にしてきたお頭までもが、不審そうな眼差しを向けていた。
それは確かに全身鎧――にしか見えないのだが、その造形が何とも奇妙だった。まず鎧としてはあまりに薄く、人体の線をそのまま象ったようで頼りない。それでいて腕部のみが異様に太く、こんもりと不自然なほどに膨れている。
「……何だ、この材質は……?」
表面の板金は薄さに反して充分な硬さを有しているらしく、ドランが丸めた拳でコツコツと叩けば確かな質感を返してくるようだった。
「ここを押すと、背面が開くようになってやす。で、ここから内部にスッポリと自分の身体を収めるようにして着込みやす。個々の体格に合わせてピタッと馴染みやすのでご心配なく。まっ、実際にやってみれば感覚で理解できやすよ。騙されたと思って、ささ、どうぞ~」
「……いいだろう。……ふむ……、こうか」
足、胴体、手。着るというより、型の内側に五体を収めるといった印象だった。 お頭が滞りなく装着すると、ガシャンと金属音を響かせて背部が閉じる。最後に渡された兜らしきものを被れば、首元で鍵を閉めるような音がした。
「それで装着完了でやす。おぉ~、似合ってやすよ、お頭さん」
そんな賛辞を送るモノトラだったが、
「ケ、誰が着たって見た目は変わんねーだろ」
口を開いたのは、全身鈴だらけの少女ミュッティだった。長い金髪をさっとかき上げるだけで、チリンと鈴の音が伴う。耳障りのいい美声ながら、粗野な男じみた口調。
しかし彼女の言ももっともで、セプティウスを装着した姿には隙間や露出といったものが一切なく、兜に至っては前面全てが板金で覆われており、目元すらも覗いてはいない。金属の球体を丸ごと被っているに近しい。
同じものを着た人間が複数いれば、誰であるかなどとても判別できないだろう。
「そいつは言いっこなしでやすよ、ミュッティさん。それでどうでやすかお頭さん、着心地の方は」
「……、」
お頭は無言で身体を捻り、具合を確かめているようだった。
「いや、お頭よぉ。まず前見えてんのかい、それ」
「そもそも喋れるのか? そんな容器みてぇなもん被って。息苦しくないのか」
部下たちが口々にざわつくと、
「――見える」
発せられたお頭の声は全くくぐもっておらず、兜越しとは思えないほど明瞭だった。
「それに……何だこりゃぁ、思った以上に動きやすいぞ……」
手足を回すお頭だが、確かにその挙動は薄手の服を纏っているかのように自然で軽い。
「それだけではありやせんよ。腕の内側をご覧になっていただけやすか。溝の中に突起がありやすでしょう? どちらの腕でも構いやせん、その突起を押し込んでいただくと――」
「これか? こうか……? うおっ!」
お頭を始め、団員たちがまたも驚愕した。太く膨れた腕部が、パカリと花咲くように開いたのだ。
「ご覧の通り、腕の部分はちょっとした収納ができるになってやす」
「ふん、それでこんなに腕ばっかり分厚くなってやがったのか。奇抜な造りだな……、ん? 何だこりゃ……」
その収納部分に入っていたものを、ドランが訝しげに取り出した。
「へへ、お気付きになりやしたね。それこそセプティウスを最強たらしめる兵装の一つ。ハンドショット、でやす。どれ、少しばかり実演いたしやしょう」
――そこから先、ラルッツは確かに聞いた。
己の中に根差していた常識や前提というものが、ガラガラと呆気なく崩れ去っていく音を。
パン、パンと洞穴内に木霊するは、ひどく味気ない乾いた音。
しかしそれは、視認すら許さぬ砲火の猛りだった。
「こんなところ、でやすかねぇ」
モノトラが構えたハンドショットなる筒の先からは、かすかな白煙が漂っている。
距離にして十数マイレ前方、剣や弓の的として使っている訓練用の藁束人形の頭部と胸元には、小さくも深い穴が穿たれていた。これは人体と同じ硬さになるよう調整してある。ということはつまり――
「……とまあ、見ての通り比較的お手軽に強力な射撃を放つことができやす。必中を期すならそれなりの訓練は必要となりやすが、弓と違って懐に忍ばせることができる小ささは利点でやすよ」
次に目にしたのは、まるでぶれずに輝き続ける光の剣。
「これはレーザーブレードといいやしてね、一流の詠術士が創出する神詠術の得物にも引けを取らない代物でやす」
そう講じるモノトラが剣を振るえば、ヴンと耳慣れない風切り音。目に眩しいほどの光の尾が、藁人形の腕をすっぱりと切断していた。
モノトラの動きを見る限り、剣技に関しては素人。まるで腰の入っていない一撃だった。自分はただの商人だ、という言に偽りはないのだろう。しかしさほど力を込めていない風だったにもかかわらず、藁束の切り口は信じられないほど鮮やかだった。
「他には、辺り一面に麻痺毒の霧を散布するトキシック・グレネードという武器も内蔵されてやす。これについては今ここで使ったらえらいことになりやすので、実演は致しやせんが。それもボンベと呼ばれる機構が備わっているおかげで、セプティウスを着ている本人は安全でやす」
「……は、本当かい。……これまでのシロモンを見せられた以上、今さら疑う気もありゃしねぇが……。ってこたぁ、俺が今そいつを使ったら――」
「ええ。お頭さん以外の全員が、もちろんあっしらも含めて……皆ぶっ倒れてしやいやす」
言いながらも、モノトラは余裕綽々だった。
「……」
お頭は沈黙した。
これまで見たこともない兵装の数々を前に、仲間たちは興奮と困惑が半々といった風情でざわめいている。
(お頭……)
被っている奇妙な兜によりその表情は窺えなかったが、ラルッツはドランが今の自分と同じ心境にいると確信を抱くことができた。
(分かってんだろ、お頭……ヤバイぜ、こいつらは……)
――即ち、恐怖。
ラルッツは思うのだ。山賊など、自分も含めて所詮は世間からはみ出したろくでなしの集まりである。経緯はどうあれ、やむなく行き着いた先が……転落した袋小路が『ここ』なのだ。
そんな落ちこぼれだからこそ、身に染みて分かる。
あっさりと遠距離から撃ち殺す。光輝く剣で苦もなく両断する。自分以外の全てを地に這わせる。
それらは、才覚に恵まれた一流の詠術士でもなければ成し得ない所業。
しかしこの装備があれば、誰でも……自分たちみたいな力なき者でも、そのような真似が可能となる。
焦がれながらも諦めていた、『強者』になれるのだ。
となれば、
(何なんだ、こいつら……。オルケスターってのは、どんだけヤバイ連中なんだ……!?)
それほどの力をこうも軽々しく提供しようとする者たち。その組織は、一体どれほど強大な存在なのか。
「ちなみにこのボンベの機能を用いれば、しばらくの間なら水の中で活動することも可能でやす。あ、あとでやすね~、そのセプティウスには付いてやせんが、センサーという機能が搭載された型もあるんでやすよ。おおよその人の位置を捕捉することができる優れものでやしてね――」
ラルッツの恐れもどこ吹く風、モノトラは当たり前のように未知の機能を紹介している。
「……とまあ、武器や補助機能も各種揃っておりやすが……もちろんこのセプティウス、防御面も優れてやすよ」
言うや否や、モノトラは懐から小さな珠のようなものを取り出した。数はふたつ。
ここまで一言も発せず不気味に佇んでいる目隠しの女ことアラレアも同じものを衣嚢から摘み出し、彼らはそれを自分の耳へと詰めて押し込んでいく。
(……耳栓?)
なぜ今この場面で、そんなものを使うのか。ラルッツが疑問に思った瞬間だった。
「皆さん、少々失礼しやすよ。ではお願いしやす、ミュッティさん」
ちりん――
洞穴内に木霊する小さな鈴の音。
涼やかなそれを認識した瞬間、
「ッ!?」
ガクンとラルッツの世界が傾いた。
いきなり膝がくずおれ、岩肌の地面が起き上がったように目前へと迫る。
「うぐぉっ……!」
咄嗟に腕を挟み、鼻から激突する事態をどうにか回避した。
「ぐ、っ……!?」
何が起きたのか分からなかった。
(こ、れは)
数秒の時間を置いて、ようやくに状況を理解する。
(俺は……倒れた、のか……?)
その自覚はまるでなかった。冷たい岩の地面に這いつくばりながらもどうにか首を巡らせると、
「な……!」
二十名にも及ぶ団の仲間たちが、同じように横倒しとなっていた。
「く、そ……何だよ、こりゃ……!」
頭の中をかき回されたような感覚。泥酔したみたいに五体の支えがきかない。
「あ、兄貴ィ、身体に……力が、入らねぇよ、ど、どうなってるんだよぉ」
「おっ、俺が、知るか……!」
呻きながらもがく仲間たちだが、誰一人として起き上がることのできる者はいなかった。
「!」
顔だけを辛うじて動かし、そこで気付く。
この惨状の中、平然と立っている影が四つ。
オルケスターの三名と、そしてセプティウスを纏ったドランだった。
「な、んだ? どうしてこいつらはいきなり倒れたんだ? お前ら、何かしやがったのか!?」
表情も分からない鉄の姿のままうろたえる頭領ドランに対し、モノトラが耳栓を外しながら答える。
「まぁ落ち着いてくださいや、お頭さん。今、ミュッティさんに神詠術を使っていただきやした。まともに音を聞くと、立っていられず倒れてしまう……そんな術でやす」
「なっ……」
「この特殊な耳栓をしなければ、あっしやアラレアさんもぶっ倒れてしまう恐ろしい術でやす。しかしこの通り、お頭さんは無事でやす。セプティウスの防御性能についても、これでご理解いただけたと思いやす」
そんな解説に続く形で、鈴の少女が愉快げに口を開いた。
「ケ、ついでに分かったろ。お前ら虫ケラなんぞ、アタイの手に掛かりゃこんなもんだ。もうちょいチカラを強めりゃ、耳から脳ミソをヒリ出してやることもできる」
口汚く笑う小娘に反論する者はいなかった。疑うべくもない。こうして、現に引き倒されているのだから。
「あと言っとくが、アタイはセプティウスを着ただけの野郎なんざ、その気になりゃ二秒で捻り殺せる。それ着てっからって妙な気起こすなよー? おっさん」
鈴の娘は、鉄姿のドランを見据えながら獰猛に笑った。
団員の中には、いたことだろう。
セプティウスがそれほど強力なら、このままモノトラたちを始末し奪ってしまうことも可能ではないかと。それを見越したかのようなミュッティの発言だった。
「……という訳でやす、お頭さん。この『取り引き』、受けていただけやすかね……?」
アジトへやってきた奇妙な三人組みによる提案。
それは当たり前のように、拒むことの許されぬ脅迫へと変わっていた。