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終天の異世界と拳撃の騎士  作者: ふるろうた
2. デュアリティ
39/667

39. デターミネーション

「お。奇遇だねえ、英雄殿」


 そんな言葉をかけてきたロック博士に、流護はうんざりとした視線を向けた。


「それやめてくださいよ……」


 夕方の中庭。

 ベンチに深々と身を預けていた流護は、大きなあくびを漏らした。目尻に浮かんだ涙を拭う。


 あれから三日。

 大ケガをしたクレアリアは、王都の病院に入院することとなった。肩口のあたりから、大きく斜めにざっくりと裂けた傷を負っていたのだ。傷は焼けただれ、目を背けたくなるほどのひどい有様だった。


 妹の世話と騎士としての任務のため、ベルグレッテは学院へ戻っていない。つまり流護はもう三日、彼女と会っていない。この世界へ来て以来、毎日顔を合わせていたので何とも妙な気持ちだった。


 デトレフは死なずに、拘束された。

 放っておけば間違いなく死んだだろうが、駆けつけた騎士たちに手早く処置を施されて、連行されていった。

 今回の件については『銀黎部隊シルヴァリオス』の隊長であるラティアスもさすがに動揺を隠せなかったようで、隊長を辞するという決意をしたようだったが、それはアルディア王によって却下された。

 自分の管理不行き届きだと主張するラティアスに対して王の放った言葉は、こうだ。


「おめえは『銀黎部隊シルヴァリオス』全員のイチモツの長さやら乳のデカさやら、全部いちいち把握してんのか? おお?」


 下ネタ好きなおっさんかよ、と言いたくなる流護だったが、ようは『デトレフが密かに暗殺組織のリーダーだったことを誰が把握できたのか、ラティアスより優秀な人間がリーダーだったなら今回の件を防げたのか』と言いたいらしい。

 ……実は、アルディア王が新しい隊長を選出するためのゴタゴタを面倒くさがっているだけという噂もないでもない。


 流護は今回の活躍で、さらに百五十万エスクを褒賞金としてもらってしまった。合わせて五百万エスクもの大金が、袋に入ったまま無造作に部屋の片隅へと放置されている。


 学院を守った功績に続き、暗殺組織のリーダーを……『銀黎部隊シルヴァリオス』のメンバーを一撃で倒したという話は、すでに王都でも噂となっていた。

 それを受けてだろう、先ほどの博士のセリフである。


「……そういえば。今回の黒幕、デトレフの処置が決まったよ」


 隣に腰掛けた博士が、タバコに火を点けながら言う。


「一週間後に断首刑。こういう世界は決断が早いよねえ。ま、今回は特に異例の早さなんだけどね。これが日本だったら、裁判に何年かかることやら」


 ふー、と口元を歪めて博士は煙を吐き出した。


「なんかね? デトレフは子供時代にちょっとした窃盗をやらかして、女性騎士に捕まって怒られたことがあったらしくて。彼はそのときに『怒り』と『性的興奮』を同時に覚えてしまったみたいなんだ。今回、ベルちゃんたちの暗殺依頼があったことで、デトレフにしてみれば彼女たちと闘う理由ができたワケなんだね。子供の頃から知ってるベルちゃんたちが、立派な騎士として自分に立ち向かってくる……そんな様にかつての女性騎士の姿を重ねて、歪んだ興奮を覚えていたんじゃないかな」


 倒錯……とでもいうのだろうか。

 少年には、理解できそうになかった。


「へえ。何か身近に、似たような人がいた気がしますね。確か……リーフィアちゃんとかいう女生徒に、娘の姿を重ねてるとかいう……」

「キミはあああぁ! 一緒にしないでくれるかね!」


 はは、と流護は笑い、何となく空を仰いだ。

 博士は気を取り直すようにメガネを押さえて、真面目なトーンに切り替える。


「まあ、実を言うと……デトレフはどっちにしろ、もう助からないんだよ」

「え?」


 流護は驚いて博士のほうを見た。


「肋骨の骨折、計十一本。八本が粉々に砕け、三本が肺に突き刺さっていた。肝臓と腎臓は破裂。打撃の衝撃は、脊椎……背骨にまで達していたそうだよ。……つまり、処置なし。実のところ、放っておいても死ぬから、その前に国として犯罪者を裁いてしまおうって訳なんだ。今は、処刑の日まで神詠術オラクルで無理矢理に生き永らえさせてるだけ。デトレフにしてみれば、地獄だろうねえ」


 それは、つまり――


「俺が……殺した、ようなもんか……」


 殺す気で拳を放っておきながら、今更そんな言葉が口を突いて出た。


「変わらないよ」


 ロック博士は、被せるように言う。


「変わらない……?」

「例えキミが、デトレフを傷つけずに捕縛していたとしても……デトレフに下される処断は、何も変わらない。結局は死刑となるだろう。流護クンに殴られて死ぬのも、無傷で捕らえられて処刑されるのも、結果だけ見れば、何も変わらない」


 ふーっと、博士は吐き出した煙で輪っかを作る。

 流護が直接殺すか、流護が捕らえて国が殺すか。その違いでしかない。そんな話だった。


「無論、人の心情ってのはそんな簡単なものじゃない。例えば、自分が通報したことによって逮捕された指名手配犯が知らないところで死刑になるのと、自らの手で絞首刑のボタンを押すのとでは、結果は同じでもやっぱり違うもんねえ。……って、ちょっと的外れな例えだったかな」


 博士は立ち上がり、くるりと背を向ける。


「とりあえず、今回はお疲れさま。キミも思うところはあるだろう。だけど、岩波輝ではなく……王都の研究者の一人、ロックウェーブ・テル・ザ・グレートとして礼を言うよ。優秀な騎士の卵であるベルちゃんたちを守ってくれて、ありがとうね」

「……ああ、いえ……」


 デトレフが自分のせいで死んでも、そこに感慨はない。感情としては、ドラウトローのときに近い。

 しかしそれも、直接デトレフの死を目撃していないから言えることのだろうか。この手で人を殺すことに対し、躊躇したのは間違いない。


 難しい問題だった。けれどこの世界で生きていくならば、避けて通れない問題でもある……。

 いずれ、きっと訪れる。戦っていくつもりなら。

 誰かをこの手で直接、殺める日が。殺めなければならない日が。


 流護は、夕闇の空を見上げてそんなことを思うのだった。






 夜。

 流護が自室で寝る前のストレッチをしていたところで、コンコンと部屋のドアがノックされた。時刻は十時を過ぎている。こんな時間に誰だろう、と思いつつ「入ってまーす」と返してみた。


「……あの、私。ベルグレッテです」

「はっ?」


 流護は思わず動きを止めてドアのほうを見る。

 直後、自分でも気持ち悪いほどシャカシャカした素早い動きでドアへ向かい、開け放つ。


「わっ、早っ」


 びっくりした顔の少女騎士が、そこに立っていた。


「お、おう。ベル子。なんか久しぶりだよな」

「ふふ。そうかも。こんばんは」


 たかが三日ぶりだというのに、本当に随分と久しぶりに会ったような気になってしまった。

 胸が締め付けられるような感覚すらある。

 ……ふと。この少女を、抱きしめたいなどと思ってしまった。


「ええっと、入る? か?」

「あ、うん……じゃあ、ちょっとだけ」


 少しだけ躊躇する様子を見せたベルグレッテだったが、薦められるまま部屋へと入ってきた。


「そんで……どうしたんだ? てっきり、王都にいるもんだとばかり」

「うん。ほんの今、学院にきたとこ。実は……」

「実は?」

「ええと……私が、ロイヤルガードの任務をクレアと交代する話があったでしょ? あれなんだけど……クレアが今、入院しちゃってるから。本当はもう少し先の予定だったんだけど、私……このまま、しばらく王都にいることになるから、と思って」

「お、おう……そう、なのか」


 そうなるのは何となく予測していたことではあったが、実際に言われてしまうとやはり寂しかった。


「あと、左腕はどう?」

「ん? ああ。まだ動かないけど……もうちょい時間経てば大丈夫だってさ」

「そっか。よかった」

「ああ」


 ベルグレッテはほっとしたように笑顔を見せた。


「…………」

「…………」


 妙な間が生まれた。


「あれ、いや……それだけ、か?」

「え? うん……直接、言っておきたくて」


 いや。まさか。ただこの会話のためだけに、往復で八時間もかかる道のりを……?

 確かに流護は通信の神詠術オラクルなど使えない。会話をするならば、直接顔を合わせる必要がある。だが、それだけの報告をするために、こんな――


「ええっと。じゃあ、私は帰ろうかな……。よーし、今日は徹夜だぞー」


 ぐーっと伸びをして、ベルグレッテは部屋を出ようと回れ右をした。

 そこで。


「――――」


 反射的に。

 流護は、後ろからベルグレッテを抱きしめていた。


「…………、え?」


 彼女が呆けた声を零す。


「……ちょ、リューゴ……、?」


 細い。やわらかい。

 ベルグレッテの身体はこんなにも細かったのかと、女の子の身体はこんなにもやわらかいのかと、流護は驚愕する。ほんの少し力を加えたら折れてしまいそうだった。

 身長はそんなに変わらない。ベルグレッテが数センチばかり低いだけだ。頬に触れる、さらさらの髪の感触。甘い匂い。


「えっと……あの、りっ、りゅー……ご?」


 少しだけ身じろぎをするベルグレッテだったが、本気で振りほどこうとはしなかった。もっとも彼女の力では、流護を振りほどくことなどできないのだが。

 少女騎士は身じろぎするのをやめ、大人しくなった。


 流護は、ここへ至ってようやく気付いた。

 暗殺者のドタバタでうやむやになっていたが、先日感じていたホームシックの正体。価値観の違う異世界に一人で放り出され、寂しいと感じていた……と思っていた。しかし、そうではない。


 ただ。この少女と、離れたくなかっただけなのだ。


 ベルグレッテが側にいないから、いなくなると聞かされたから、寂しかっただけなのだ。

 今。彼女がそばにいるだけで、自分でも驚くほど安心している。


「……あ、あの、リューゴってば……どう、したの?」


 流護がずっと無言でいるため、不安になってきたのかもしれない。


「……あ、ああその。ご、ごめん」


 アホみたいにどもる。

 しかし、離さない。しかし、言った。


「ベ……ベル子と、離れたくないと思って」

「…………っ」


 はっきりと。彼女の息をのむ声が、聞こえた。


「……い、いやええと。そ、そうですか、ど、どどうも」


 ベルグレッテの返事も、何だかおかしかった。


「……大体、今回だってな……心配したんだ。あのデトレフのとき、どうして何も言わないで行ったんだよ。気付いたら二人ともいなくなっててだな……あれ、苦労したんだぞ。通信使える人に頼んで馬車の業者に連絡取ってもらって、十番街割り出して、あそこまで走って」


 デトレフとの闘い。十番街まで行って、そこで途方に暮れた。派手な炎によるものと思われる光のおかげで、何とかたどり着けた。

 駆けつけるのがあと少し遅かったら、どうなっていたか。未だにぞっとする。


「あ、うん……つい、とっさに……」

「何かあったら遠慮なく言ってくれ。俺が何だってやってやる」

「……まだ、有効なんだ。『なんでも言ってくれ。なんでもする』ってやつ」

「あ、ああ。そう、だな」

「……でも。今回の件もそうだったけど、本来なら騎士である私たちの仕事だった。でも、私の力が足りないばっかりに……」


 流護の腕の中で、ベルグレッテが身を縮めるような素振りを見せた。


「ミネット……ロムアルド、シリル。みんなどんどんいなくなっていく。デトレフさんだって……どうして、あんな」


 少女はうつむいて、か弱い声を絞り出す。


「こないだはリューゴやミアだって危なかったし、今回はクレアが……。私、誰も守れてない。騎士なのに」

「俺はさ、思うんだけど」

「え?」

「誰かを守るって、すげえ難しいことだと思うんだ。あ、ちなみにな。俺の流護って名前、『ゴ』に『護る』って意味があって、そういう『誰かを護れ』的な意味を含めたんだ……って昔、親父が言ってたんだけど。……まあそれはいいや」


 流護は、すっとベルグレッテの身体から手を離した。


「俺は少なくとも、ベル子に守られてるよ。文化やら常識やら、何もかも違うこの世界で生きていけるのは、ベル子が色々と手を尽くしてくれてるおかげだし」

「……はは。守られてるのは、私のほうだよ。もう何度、命を助けられてるんだか。……嬉しい。嬉しいよ。でも、自分が……嫌になっちゃう」


 背を向けたまま言うベルグレッテに、流護はぽりぽりと頭を掻く。


「んじゃもう、お互いに守ってるでいいんじゃね」

「はは……。そう、なのかな。でも……私、怖い」

「怖い?」


 くるりと、彼女は流護のほうへ向き直る。

 泣きそうな顔をしていた。


「みんなが……リューゴが。いつか、突然いなくなっちゃうかもしれない。それが……怖い。そんなのはもう、嫌だよ……」

「俺はいなくならんぞ。行くとこもないし。あと死にもせん。強えからな!」

「……嘘。ファーヴナールのとき、ほんとに心配したんだから」


 う、と少年は言葉に詰まる。


「あんときは……膝の調子が悪かったんだ」


 珍しく、ジト目で見つめてくるベルグレッテ。そういう表情になるとクレアリアにそっくりだ。


「……いや、まあ……俺さ。もっと、強くなる。それこそ、ファーヴナールなんぞ百匹まとめて倒せるようになってやるよ。絶対に死にゃしねえから。それに」


 少女騎士の美しい瞳を見て、続ける。



「この世界中の誰がベル子の敵になっても……俺は、ベル子の味方だ。例えこの世界の全てを敵に回したって、俺はお前だけの味方でいる」



 ベルグレッテが茹で上がったみたいに赤くなった。

 流護も真顔で言った自分のセリフの意味をよくよく噛み締め、何だか死にたくなってきた。


「あ……はい……」


 返答に困ったのだろう。桃みたいな顔色になったベルグレッテは、下を向いて呟くような小声で答えた。


「…………」

「…………」


 死にたくなるような沈黙。


「ええ、えっと、それじゃ、私、もど、戻るね! もど!」

「あ、おう、おかまいもできませんで」


 もう色々おかしかった。






 外に出て、王都へと戻るベルグレッテの馬車を見送った。


 夜空を見上げる。

 ここのところ姿を消していた巨大な月――イシュ・マーニが、姿を現し始めていた。細く、巨大な三日月。

 その刹那。

 空が、青く瞬いた。


「……? 何だ……?」


 雷かと思ったが、違う。一瞬だけ空が青々と輝いた。

 何やら幻想的な光景だったが……地球上では見られないような、何らかの現象かもしれない。


 それで思ったが、流護はあまりにこの世界のことを知らない。

 元々が面倒くさがりであるため、必要最低限以外の知識を仕入れていないのだ。

 今が『水過すいかの月』と呼ばれる――地球でいえば六月に当たる月で、今日はその三日。もうすぐ日付が変わって四日になる、などという暦の話も、つい最近になって聞いたばかりだった。


 ベルグレッテともしばらく離れることだし、もう少しこのグリムクロウズについて学ぶべきなのかもしれない。

 この世界で彼女を守るためにも、その知識は無駄にはならないはずだ。


「――っし」


 色々とやる気の出てきた流護は、自室へと向かって歩き出す。

 歩いている途中で、少女を抱きしめた感触を思い出す。


「………………」


 寝れそうになかった。


 そんな少年を。

 遥か上空の巨大な月だけが、見つめていた。






 王都へと向かう馬車の中。

 ベルグレッテは、窓の外を見つめていた。

 先ほど、久しぶりに『神々の噴嚏ふんてい』を見た。前回はいつだったろうか。あれは確か……そう、彼に初めて会う前日の晩だ。リューゴ。


「……、~~っ」


 思い出す。

 いや、しかたないよね。リューゴの力であんなふうにされたら、私の力じゃ振りほどけないし、でも私はロイヤルガードだし、リリアーヌに身も心も捧げた身ではあるんだけど、あれはしょうがないよね。どうしようもなかったよね。

 すごい身体をしてるとは思ってたけど……すごく力強い、リューゴの腕。あんな太い腕で抱きしめられたら、逃げられるわけがない。しょうがない。


 必死で頭を振る。

 おかしい。最近、おかしい。


 先日、リューゴが「もう元の世界には戻れない」と、その理由を説明してくれたとき。


 嬉しいと、思ってしまった。


 思って、自分で自分を罵った。なんてことを思ってしまったのだろう。リューゴは元の世界へ帰りたいはずなのに。

 プリシラと仲がよさそうに話しているのを見て、少しモヤモヤした変な気持ちになったり……最近の私は、ちょっとおかしい。


 はぁー……、と特大の溜息をついた瞬間、ベルグレッテの横に通信の波紋が広がった。


「わっ」


 誰だろうか。個人指定で、しかも走行中の馬車に通信を飛ばしてくるなど、並大抵の腕ではない。心当たりが――、いや、ある。


「は、はい。リーヴァー。ベルグレッテです」

『私だ』

「あっ……お父さま。こんばんは。……なんだか、久しぶり」

『そうだな……。クレアリアの様子は、どうだ』

「うん。ひどいケガだったけど、なんとか……命に別状はありません」

『そうか……よかった。済まんな、連絡が遅れて』

「ううん。お父さまは忙しいんだし……」


 そこで、通信の向こうから何やら考え込むような気配が伝わってきた。


『ところで……例の。アリウミリューゴ君といったかな』

「えっ!? なっ、は、はい」


 父から流護の名前が出てきたので、ベルグレッテは口から心臓が飛び出そうなほど驚いてしまった。


『その彼だが……今度、家に連れて来なさい』

「ええええええええええぇぇえええぇえええええ!?」


 絶叫した。

 馬車がガクンと揺れる。外から馬の驚いたようないななきが聞こえた。ブヒヒーン。


『ぐわあっ』


 父も驚いていた。


「わっ、す、すみません、お父さま」

『し、淑女として感心できんな……何という声を出すんだ』

「ごっ、ごめんなさい! で、でも。どうして、リューゴを……」

『どうしてだと? 当然だろう。前回の学院の件に続き、今回の件だ。ベルグレッテも、クレアリアも、その命を救われた。ファーヴナールの件だけでもいずれ礼をせねばならんとは思っていたが、そうこうしているうちに今回だ。さすがに忙しいなぞ言っておれん。騎士として、親として……報いるのは当然だろう?』

「あ……」

『用件はそれだけだ。彼の予定もあるだろうから、そちらの都合で構わん。「蒼雷鳥の休息(ラプターズレスト)」の時でも良い。考えてみてくれ』

「はっ、はい。分かりました」

『それではな。おやすみ、ベルグレッテ』

「はい。おやすみなさい、お父さま」


 通信を終えた。


「……う、うーん」


 思わず唸った。

 おかしいことではない。むしろ父の言う通り、騎士として当然だ。けれど……父に流護を会わせる。そう考えると、どうしようもない気恥ずかしさを感じるのは、なぜだろう。

 それに……できるだけ目立たないようにしているはずの流護が、どんどん有名になっているような気もする。気の毒やら、申し訳ないやら。


 ベルグレッテは窓の外を眺めながら、複雑な思いで溜息をつく。


 そんな少女を。

 遥か上空のイシュ・マーニだけが、見つめていた。






「この世界中の誰がベル子の敵になっても……俺は、ベル子の味方だ。例えこの世界の全てを敵に回したって、俺はお前だけの味方でいる」


 ――少年が、不器用ながらも確かな決意と覚悟を抱いて発した言葉。


 しかし彼は、すぐに改めて知ることとなる。

 このグリムクロウズは、そんな思いをも容易に踏みにじる世界なのだということを。

第二部 完

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