381. 不器用なりに
「あった! あの、これを……」
目的のものを見つけたらしい少女が、一枚の紙を差し出してくる。
それは――
「ッ!? な……っ、何だこりゃあ!?」
手配書だった。
逃亡中の罪人、その似顔絵や名前が記載されている用紙である。
兵舎や酒場に貼られていたり、こうして家庭に配られたりすることも少なくない。
娯楽に乏しい子供時代、賞金首たちの顔に落書きして遊んだ悪ガキは多いはずだ。そうしたいたずらができたのは、そこに描かれているのが見ず知らずの他人だったから、という理由もきっと大きい。
「…………、ッ」
今。目の前の一枚に載っている似顔絵は。その顔は。名前は。
「レノーレ……!?」
見間違いようもなく。
エドヴィンのよく知る、たった今しがた話題に出していた級友だった。
「な、何だよこりゃ!? どーなってやがる……!」
発行元はバダルノイス。額は驚愕の千五百万エスク。つまり彼女は今、超がつくほどの大罪人として祖国に追われている――。
(オイオイオイ、意味が分かんねーぞ、学院にいるんじゃねーのかよアイツ……!? イヤ、待てよ)
『白兎の静寂』が終わっておよそ十日。つまり新たな学期が始まって十日。
エドヴィンが教室に顔を出したのは最初の数日のみだが、この時点でレノーレはまだ学院へ戻ってきていなかった。実家との距離を考えれば、別に珍しいことでもない。
しかし今回の場合、
(もしかしてアイツ、休み明けから今も……ずっと、学院に戻ってねーのか……? ……そうだ)
ふと思い立って、少女へ尋ねてみる。
「おい、この手配書が出たのはいつだ?」
「えっ……と、年が変わってすぐです。二日か三日だったと思います。夕方ぐらいに、巡回の兵士さんがこれを配って回ってて……。渡されたときに見て驚いたから、はっきりと覚えてます。なにしろ私と同じぐらいの歳の女の子で、その……懸賞金額もものすごかったので」
「ってこたぁ、だいたい二週間ぐれー前か……」
長期休暇でハルシュヴァルト……あるいはバダルノイスまで戻り、そこで何かあったのか。
学院のほうでは、そろそろレノーレが戻らないことについて皆が疑念を抱いている頃だろう。懸賞金から想定される罪の規模を考えるなら、バダルノイスの人間が直接学院を訪れることもありうるかもしれない。
色々な人間に馬鹿だの何だのと言われがちなエドヴィンだが、そんな不良でもここまでは予想がつく。
(ったくよ、ベルとかミア公が知ったらどーなるんだか……)
頭をボリボリと掻きつつ、無駄とは思ったが尋ねてみる。
「コイツが……何をやらかしたのかは、知ってるか?」
「いえ……。ただ、これを配っていた兵士さんも、その……『とにかく重要な罪人だから、何か心当たりがあればすぐに知らせるように』と……」
「重要な罪人、だとォ……?」
千五百万エスクという金額を見れば、確かにそうなのだろう。
ミア誘拐やレインディール王都テロの裏で暗躍していたという怪老人、キンゾル・グランシュアすら上回る額である。
「ですから今、バダルノイス本国への出入りは厳しく監視されるみたいです」
対処方法の『不問』が丸で囲われている辺りにも、バダルノイスの必死さが窺える。
眉唾物の話だが、この『不問』にしておくと賞金稼ぎたちの食いつきがよくなるらしい。捕まえても殺してもいい、つまり暗に「制約はないから好きにしろ」という意味合いが含まれているのことで、狙う側としては気楽なのだという。
(あのオトボケメガネ女……何やらかしやがったんだ……? チッ……!)
今この瞬間も刻一刻と、レノーレの命は確実に脅かされている。今この瞬間に消えようとしている可能性だって否定はできない。
賞金首としては生死問わずだが、仮に生きたまま捕らわれたところで、この懸賞額の罪状なら最終的には死刑となるに違いない。
待ち受ける末路は、いずれにせよ『死』だ。
「なぁ、何か他に聞いてねーか? コイツについてよ」
ダメ元でそう尋ねると、
「そう、ですね……。ええと、バダルノイスの精鋭騎士団については、ご存じですか?」
「あぁ? イヤ、知らねーが……」
「じゃあ、スヴォールン様のことも……?」
「スヴォ……? 誰だ? 知らねーな」
元々、レフェやバルクフォルトと違い交流の希薄な遠い国。
北方の英雄と謳われるメルティナ・スノウぐらいになれば名前程度は聞き及んでいるが、逆にいえばその程度しか知らない。
「ええと……バダルノイスには、『雪嵐白騎士隊』と呼ばれる、総勢十一名からなる精鋭騎士団が存在します。レインディールの『銀黎部隊』に相当する組織と考えてもらうと、分かりやすいかと思います。実際には、色々と違うみたいなんですけど」
初耳だが、そういった部隊はあって当然だろう。
レフェの『十三武家』や、バルクフォルトの『サーヴァイス』も同じ。どこの国もそのような精鋭戦力は備えているはずだ。
ただ、総勢十一名となるとやや少なく感じられる。エドヴィンでも、バダルノイスという国の今の規模がそれとなく推し量れるような気がした。
「その『雪嵐白騎士隊』の隊長さんが、スヴォールン様になるんですけど……レノーレさんと同じ、グロースヴィッツ姓なんです。スヴォールン・シィア・グロースヴィッツ様。レノーレさんとどういった間柄になられるのかまでは、私も知りませんが……」
「…………」
初耳だった。
物静かで理知的。どことなく品格漂う、無表情な風雪の少女。騎士団長の血筋であれば、遠縁でもそれなりの地位を授かっているはずだ。
「今回の手配についても、スヴォールン様が率先して行ったそうです……」
身内の恥をそそぐため、ということなのか。
よほどエドヴィンが驚いた顔をしていたらしく、少女は申し訳なさげな口調で尋ねてくる。
「ご存じなかった、ですか……?」
「……ああ」
頷く。
「何も知らなかったぜ。レノーレのヤツがグラ何ちゃらの血筋だとか、何かめんどくせーことになってやがるとかよ」
「で、でも。お友達なんですよね?」
「まーな」
「その……こんなこと言ったら失礼かもしれませんけど……お友達のことなのに、そんなに知らないなんて、その、ええと」
そう言われたエドヴィンは、
「クッ、ぶははは! お前、ホントに正直だなァ。フツー、思っても言わねーぞ?」
笑った。皮肉ではなく、掛け値なしにおかしくて。
「あっ、す、すみません」
「イヤ、お前の言う通りだよ。いっつもツルんでるヤツのことだってのに、俺ぁ何も知らなかった。……俺だけじゃねーか。多分、他の連中もな」
入学直後。
最初から、明らかに異彩を放っていた。教室の片隅、一人静かに座っていたあの少女は。
誰かに話しかけられても、気のない相槌を打つだけ。
そのため、入学したばかりで仲間(あるいは同調者、あるいは派閥、ともエドヴィンは考える)を作ることに必死な女子たちの輪から、彼女は瞬く間に孤立した。バダルノイスからやってきたことが明らかとなって、一層その空気は強くなる――かに思われた。
そんな雰囲気などまるで関係ない、とばかりに接し続けたのが、おなじみベルグレッテである。
それから紆余曲折を経て、学級で最も無口なレノーレと最も賑やかなミアが無二の親友となっているのだから、世の中は分からない。
しかし、そんなベルグレッテやミアですら知らないはずだ。
レノーレの秘めている事情については。
同じ異国人でも、ダイゴスとは違う。あの巨漢の出身国であるレフェは、友好関係を結んだ隣国。
一方、バダルノイスは交流も少ない北国。わざわざ国境を越えて遥か南のミディール学院へやってきたという点だけでも、レノーレが何か妙な事情を抱えていそうなことは察せる。
「けどよ、さっき言ったろ? 関係ねーんだよ。そいつの生まれだとか過去だとか……んなモン、俺はどーだっていい」
エドヴィン自身、学院で明らかに浮いていたクチだ。
それを関係ないとばかりに仲間の輪へ引き込んだのは、やはりベルグレッテで。いつしか彼女を中心に、学級はまとまるようになった。
(やれやれ……こんなとこまで来ちまったのも何かの縁、ってか? たまにゃベル任せにしねーで、やれるだけやってみっか……!)
意を決し、勢いよく椅子から立ち上がる。
「世話になった。俺ぁそろそろ行くぜ」
「レノーレさんを……探しに行くんですか……?」
「ま、とりあえず何がどーなってんのかぐれぇは知っておこうかと思ってよ」
「でも……もう、夜になっちゃいましたよ……?」
「むしろ好都合ってもんだ。夜の方が、酒場なんかで情報集めもしやすいからよ」
「で、でも、どこに泊まるんですか?」
「ハルシュヴァルトつったら、それなりにでけー街だろよ。宿ぐれぇいくらでもあんだろ? お前と会ったのも宿の前だったしな。それに最悪、俺ぁどこででも寝れる」
「で、ですけど……」
少女の様子からして、今にも「うちに泊まっていってください」などと言い出しそうだ。
彼女を救ったつもりのないエドヴィンとしては、これ以上の『恩返し』は気が引ける。女二人の家で一夜を明かすのもさすがに気まずい。
何より硬派エドヴィン・ガウル、麗しのベルグレッテに一途な想いを寄せる身である。他の女と寝所をともにする訳にはいかない。
「エドヴィンさん、その……うちに……」
ホラ来やがった、と身構える。
「……お泊めするのはちょっと無理なので、安い宿を紹介しましょうか?」
がく、と硬派エドヴィンは傾いた。
「ええと、本当はお泊めしたいところなんですけど、見ての通りうちはお金がなくて……」
たはは、と少女は恥ずかしそうに頬を掻く。客人用の毛布まで用意しておらず、また家も隙間風が容赦なく入り込むため、とても今の時期に客を泊めることはできないらしい。
「お、おう。そうかよ……」
俺に惚れたらヤケドするぜ子ネコちゃん、などと密かに考えていたのは内緒である。そんな話はありませんでした。
お勧めの宿の場所を聞き、家を出ようとすると、母子二人は玄関口まで見送りに来てくれた。
「えーと……晩メシ、ご馳走になりやした。お袋さん……」
ペコ、とエドヴィンはぎこちなさを自覚しつつ頭を下げる。面と向かって、しっかり人に礼を言うという行為に慣れていないのだ。
「いいえ、こちらこそ。娘を助けていただいて、本当に感謝しています」
一方の母親は、見本のように深々と腰を折った。
人に頭を下げる。エドヴィンとは逆で、その行為に慣れているのかもしれない。
「イヤ……頭、上げてくださいよ」
本当に少女を助けたつもりのないエドヴィンとしては、何とも居心地が悪い。
それでも、
(感謝、か……)
去年の秋。
レフェ遠征後の謹慎処分が解けてしばらく、やたらと任務に精を出す遊撃兵の少年が、こんなことを言っていた。
『俺も別に、正義の味方とかじゃないんだ。とにかく困ってる人を助けたい、みたいにいい奴ぶる気も全然なくてさ。ただ……遊撃兵の仕事で感謝されたりして、それが単純に気分いいんだよな。自己満足だよ、結局は。褒められるのが気持ちいいんだ。んで相手が感謝してくれて自分も気分いいんだから、やらない理由もないだろ?』
間違いない。
くすぐったいし、恥ずかしいし、柄でもない。
けれどその居心地の悪さは、決して嫌なものではない。
「あっ、そうだわ! エドヴィンさん、ちょっと待っていて」
ポンと手を打った母親が、何か言う間もなく奥へと引っ込んでいく。
「ちょっと、お母さーん?」
呼びかけながら、少女も後を追う。
「……オーイ」
エドヴィンは一人、ぽつんと玄関に取り残されてしまった。
どこの部屋へ入ったのか。廊下の奥からは、母子の声と、何やら戸棚を開け閉めするような音がかすかに聞こえてくる。
(何してやがんだ……?)
このまま出て行ってしまおうか迷い始めた頃、二人が一緒に戻ってきた。
「お待たせしました!」
そう微笑む少女の手には、一着の暖かげな上衣。色は茶色。雪国仕様だろう、もこもことして防寒性の高そうな代物だった。失礼な物言いになるが、貧しいこの家にはそぐわぬ逸品と見える。
それを、
「エドヴィンさん、その格好だと夜は寒いですよ。これを差し上げますので、よかったら使ってくれませんか?」
当たり前のように少女が差し出してくる。
「父のものなんですけど……もう、着る人もいませんし」
「な……ってこたぁ、親父さんの形見じゃねーか。いいのかよ?」
慌ててそう返せば、
「いいんですよ。娘の恩人に着ていただければ、あの人も喜ぶと思います」
母親が、娘そっくりの笑顔で答えた。
「そう……です、か」
明るいうちですら、外の寒さは尋常ではなかった。夜となれば尚更だろう。
防寒衣を譲ってもらえるなら、それに越したことはない。というより、今の服装で外をうろつくのは厳しいことは間違いない。
貧しい暮らしをしている母娘。
例えばこの上着を売ってしまえば、ある程度まとまった金になったろう。しかしそれをせず、大事に保管していた。そんな一家の柱の形見を、こうして譲ってくれるというその思い。
「……なら、ありがたく……頂戴しやす」
人生で初めてかもしれない。エドヴィンは恭しく頭を下げ、両手で丁寧に受け取った。
「着てみてください!」
娘の要望に答え、早速袖を通してみる。……と同時、普通の平服とは異なるその違和感に気付く。
「ム……」
「ど、どうかしましたか? どこか破れてたりしましたか?」
「イヤ、見た目以上にオモテが硬ぇっつーか……頑丈だなと思ってよ」
「あっ。そうなんですよ。その服、バダルノイスでも北の方にしか棲んでない熊の毛皮が使われてるそうで、ちょっとした鎧より頑丈なんだー、ってお父さんが言ってました」
「夫は仕事柄、遠出をすることも多かったですから……。防具としても扱える品を奮発して買ったんです」
「……ナルホド、な」
ぴったりと生地が密着して暖かい。表面はかなりの硬度を有していながら、動きづらさは全く感じない。「奮発して買った」との言葉通り、かなりの逸品であることは間違いなさそうだった。これなら、夜に外を歩き回っても大丈夫だろう。ちょっとした剣ですら通さないはずだ。カビ臭さもなく、大切に保管していただろうことが窺える。
二人に「似合ってますよ」と微笑まれ、『狂犬』はまたくすぐったい気持ちになった。俺らしくもねぇ、と思いながら。
「ったくよ……。じゃあ、俺はこれで」
「がんばってくださいね、エドヴィンさん!」
今度こそ見送られ、青年は小さな木造の平屋を後にした。
輝く昼神の姿が消えた夜の街は、やはり夕刻よりもさらに冷え込んでいる。
露出している耳や頬が痛くなるほどの、凍りつきそうな空気。
それでも譲ってもらった上着のおかげで、身体は暖かい。……その温もりは、上質な生地のおかげだけではないのかもしれない。
(ヘッ、ガラでもねぇ……)
照れくささを押し殺しつつ、娘から教えてもらった宿へと向かう。
懐中時計を確認すると、時刻は夜の七時半。寝床を確保してから、近隣の酒場でも当たってみるべきだろう。
(ったく、レノーレのヤツ……何やらかしやがったんだよ)
懸賞金、仰天の千五百万エスク。尋常な額ではない。おそらく、酒場でも話題の種となっているはずだ。話を聞くことはそう難しくないはず。
まずはレノーレの情報を集め、このハルシュヴァルトのどこかにある彼女の屋敷を探し当てる。
相手の『ヤサ』を突き止めて云々、などという行為は、ディアレーや王都の仲間と散々経験して慣れたものだ。
(ケッ。いつどんな経験が役に立つか、分からねーもんだな……)
などと思いながら、大通りの角を曲がったときだった。
「いたぞ、あいつだ!」
夜の街に怒号が木霊する。
行き交う人々と同様、エドヴィンも声が聞こえてきたほうへ自然と目をやった。
距離にして二十マイレほども離れた、華やかな夜の通りの途上。
何やら数時間ほど前に見た覚えのある少年が、怒り心頭の面持ちでこちらを指差している。直後、脇の小道から同じような少年たち二人が姿を現した。これも知った顔だった。
言うまでもない。あの少女に絡んでいた、三人の悪童たちだ。
「ケッ、何だぁお前ら? ヤラレ足りなかったかよ、あァ~?」
人の多い街中だろうとお構いなし。ケンカを売られたなら即買い。雪辱戦も大歓迎。これが『狂犬』である。
「懲りるってコトを知らねーみてーだしよ、今度ぁ一週間ぐれー寝たきりにさせてやろーか? それとも歯でも全部なくしてみっか? あー?」
焦るでもなく喜々としたエドヴィンを前に怯んだか、一人が脇の路地へ向かって慌てて呼びかけた。
「あ、兄貴! 見つけたよ、あいつだ! 俺たちをやったのは!」
どうやら自分たちでは敵わないと見て、助っ人を連れてきたらしい。無論、それも大歓迎である。
「どいつだ? 俺の弟を可愛がってくれたのは?」
その言葉とともに小道から現れた相手を見て、
「……ッ!?」
エドヴィンは目を剥いた。
何の変哲もない男だった。年齢はエドヴィンや悪ガキ連中より少し上で、二十歳かそこらだろう。
やり合ったとて、別に負けるとは思わない。
問題は――その人物が、銀色の軽装鎧を身につけていること。つまり、
「へ、兵士だとォ……!?」
狼狽したエドヴィンを見て余裕が生まれたか、弟と呼ばれた一人がここぞとばかりにまくし立てる。
「あいつが、いきなり『何もしてない』俺たちをボコボコにしやがったんだ! 捕まえてくれよ、兄貴!」
「何ィ!? ふ、ふざけんじゃねぇ! てめーらが嫌がる女に付きまとってたんだろーがよ!」
慌ててエドヴィンも言い返す。
すると、聞いた話と食い違っていたのだろう。兵士が弟を見下ろした。
「そうなのか?」
「そ、そんな訳ないって! なぁ!?」
「そうですよ!」
「おれたち、そんなことしませんよ!」
三人の発言を受けて、兵士がエドヴィンへと顔を向ける。うさんくさいものを見る視線を。多勢に無勢。さらには、見るからに不良な自分の容貌。
どちらが正しく、どちらが悪なのか。
今までにも似たような場面は幾度も経験している。こんなとき、赤の他人がどう判断するかは例外なく決まっていた。
「おいお前、適当なこと言ってるんじゃ――あっ、おい待て!」
兵士の言葉を最後まで聞かず、エドヴィンは身を翻して逃げ出した。迷わず、背中を向けて。嘲笑と罵声を浴びながら。
これもまた『狂犬』である。
ここで慌てて駆け出したため衣嚢の中の生徒手帳を落としてしまった不手際に気付くのは、まだしばらく後のことだった。
それが元で手配されることになるなど、当然ながら知るよしもなかった。




