343. 眠り姫
はぁ……と吐いた息が白く染まって、鈍色の寒空へと吸い込まれるように消えていく。
「うぅ、今日も寒いなー……」
見上げてもそこに昼神インベレヌスの姿はなく、こんもりとした雲の幕が垂れ下がっているのみ。そろそろ、今年初めての雪が降るかもしれない。
かじかんだ手をこすり合わながら学生棟前までやってきたミアは、思い出したようにちらりと視線を横向けた。
そこは建物と外壁の隙間に生まれている、奥まった空間。誰もいないその芝生の片隅には、木の枝から吊り下げられた砂袋や黒牢石製の鍛練道具などが、ひっそりと佇んでいた。
放課後となるこの時間帯。毎日のようにそこで訓練に明け暮れていた少年の姿は、今そこにない。
「…………」
学生棟の扉を引き開けたミアは、寒さから逃げるように中へと駆け込んでいく。外よりは暖かい空気や、どこからか聞こえてくる生徒たちの喧騒が、なぜだか少女の心をホッとさせた。
「んむむ……」
少しの眠気に、目をこする。
……昨晩、おかしな夢を見た。内容は思い出せないのだが、おかげであまり眠れなかったのだ。
「おおっ」
自室までの道すがら、級友の少女二人を発見した。廊下で立ち話に花を咲かせている。
「なんの話してんのー、エメリンさんにマデリーナさんやー」
「おっ、ミア。日直の仕事は終わったのん?」
勝ち気そうな顔立ちのマデリーナが、ひらひらと手を振って尋ねてきた。小さな少女はげんなりしつつ答える。
「うんー、結局グマニヨ先生に色々と雑用押しつけられちゃって……やっと終わったとこ……」
「がんばったねー。おつかれー」
ハネた銀の短髪が特徴的なエメリンも、彼女特有の間延びした口調で労ってくれた。窓の外の曇り空を眺めながら、マデリーナが気だるそうに喋る。
「いやね、別にたいしたハナシしてたわけじゃないんだけどさ。なんだかんだ、今年もあと一ヶ月足らずで終わっちゃうけど。なんだか今年って、春ぐらいからずっと変わったことばっかり起こってたよねーって」
「変わったこと?」
「いやいや、何を『そんなことあったっけ?』みたいな顔してますのミアさんや。むしろ、変わったことばっかだったじゃん。ほら……まず春の終わり頃に、誰かさんの大好きな強くて優しい『リューゴくん』がいきなりこの学院にやってきてー?」
意味ありげなマデリーナの流し目を受けて、ミアは反射的に言い返した。
「べ、べつにリューゴくんはそんなんじゃないもん! 奴隷になっちゃったあたしを助けてくれたってだけだし、と、ととりあえずお父さんがわりってだけだし!」
「ミアー、語るに落ちてるよー。マデリーナは、『誰かさん』の大好きなー、としか言ってないよー。ミアの名前出してないよー」
微笑ましげなエメリンに言われてハッてしたミアは、赤面してむぐぐと言葉を詰まらせた。
一方でマデリーナの表情は、罠にかかった哀れな獲物を見下ろす狩人のそれだ。実に満足そうな笑顔で続ける。
「まあまあどうどう、きひひひ。でもそれからミアがほら……いきなりディノに捕まって、あんなことになってさ。……あの時はもう、会えなくなるかと思ったんだからね……」
つん、とマデリーナがミアの額を優しくつついた。
「う、うん……」
ある日突然、実の父親に売られてしまったという事実。
さすがにあれから時間も経ち、今は現実を受け入れることができていた。ふと衝動的に、家族に会いたくなることもある。けれど今の自分の周りには、支えてくれる仲間がいる。だから、頑張っていける。ちなみにあの件では、まさにここにいるエメリンが、得意の通信術を駆使して自分を捜してくれたのだ――とミアは聞いていた。
そのエメリンが、顎の下に指を添えて話題を引き継ぐ。
「他にはほらー……アリウミくんが来た直後、学院に入り込んできたっていうファーヴナールとかドラウトローの件もそうだしー、夏頃には王都の美術館が占拠とかされてるしー」
「あー……うん、言われてみれば、すごいことばっかり起きてるね……」
今更ながら実感する。そうして列挙されれば、確かに今年は事件続きだ。異常なほどといっていい。
「それでほら。この秋にはさ……例の遠征があったじゃない」
ぼかしてはいるが、マデリーナが何を言いたいのかは明白だ。
薄墨の月を間近に控えた、ある秋晴れの朝。アルディア王によって選抜された総勢七十五名からなる遠征部隊が、遥か南西――ルビルトリ山岳地帯を目指して出発した。
その目的は、『原初の溟渤の内部調査を実施するため』と公表されている。
原初の溟渤とは、悪魔が気まぐれに作り出すとの曰くもある、謎に包まれた禁断の地だ。常に青い霧が立ち込めており、怨魔が跋扈しているという。大陸各地で、現れたり消えたりを繰り返しているとの報告もある。
そんな危険な場所へ、流護とベルグレッテは調査隊の人員として旅立っていった。彼らの後ろ姿を見送ったそのとき、ミアは二人がとんでもなく遠くへ行ってしまうのでは――そしてそのまま戻ってこなくなってしまうのではと、強い不安を覚えたのだ。
結果として、二人は無事に帰ってきてくれた。
ミアは大喜びで、彼らを迎るため校門へ駆け寄った。
……しかし。
『アマンダさん、待ってくれ。その、アイツ……あの娘は……ここに置いていってくれ』
『落ち着きなさい、リューゴ君。現れた経緯も特異極まりないもので、正体や身元はおろか、何もかも不明……彼女が何者であるか分からない以上、陛下に報告して判断を仰ぐ必要があるわ』
『いや、でも……!』
『とりあえず落ち着いて、リューゴ……!』
『アマンダさんやベルちゃんの言う通りだよ、流護クン。ひとまずは冷静になるんだ』
校門前で、流護はベルグレッテやロック博士、他の兵士たちに取り押さえられていた。
(あんなに必死なリューゴくん……初めてだった……)
「そんでミアはこれから、『大好きな』リューゴくんのとこに行くのん?」
そんなマデリーナの問いが、少女の思考を現在へと引き戻す。
「う……、ん? んぬぬンオオィーイ! ふざけんな! さらっと罠をしかけるな貴様ー! しばくぞー!」
がーっと両腕を振り上げたミアの頭を押さえつけ、マデリーナは「きひひひ、ごめんってばきひひひ」と実に愉快げに笑う。
そのまま彼女は、窓の外にあるその建物へ目を向けた。その視線の先。灰色の空の下に佇んでいるのは、ロック博士の研究棟。生徒たちにしてみればあまり縁のない施設であるが、今はそこに――
「まぁ彼はいつも通り、『眠り姫』のところでしょうね。ほれ、さっさと行きなよー。あんな誰だかも分からない、自分で身動きもできないような女に、大事なリューゴくん取られちゃだめだかんね~?」
「だ、だからそんなんじゃないってばー! もう!」
プンプンしつつも足を急がせるミアを、級友の二人はニマニマしながら見送っているのだった。
ミディール学院は研究棟、その一階。
元から手狭な石造りの一室は、取り急ぎ中央に置かれたベッドによって、より窮屈な空間と化していた。
そんな部屋にいるのは、現在三人。そのベッドに横たわって眠る少女と、脇に座る白衣を着た大人の女性、そして少年。入って、あともう一人が限界だろう。
今は白衣姿の女性が、目を閉じた少女の身体にあちこち触れて、診察をしている最中だった。少年は、その様子を静かに見守っている。
「よろしいですか。ちょっと服をはだけさせます」
「あ、は、はい」
「よろしいですか。それはもう色っぽく、半裸にしますよ」
「いや、それ言う必要ないんじゃないですかね……。つか、そいつなんか色っぽくもなんともねーし」
「では、見ますか。ぎらぎらした視線で、舐め回すように」
「いいえ、見ません。つか、さっさとお願いします」
女性の断りを受けて、少年は後ろを向く。小さな暖炉の中でパチパチと爆ぜる薪の音……そして背後から聞こえるかすかな衣擦れの音だけが、狭苦しい部屋の中に響いていた。
「こんなところでしょうか。もう、こっちを向いても大丈夫ですよ」
ふうと一息つく女性の許可を得て前を向けば、彼女は眠る少女に毛布をかけ直しているところだった。
「……どう、ですか。シャロムさん」
見守っていた少年――有海流護の問いかけに対し、
「ええ。やはり私の見識では、極めて正常な状態であると……異常なし、としか言えませんね」
メガネをかけた理知的な研究員の女性こと王都第一研究室所属のシャロムは、首を横へ振りながらそう答えた。
「……そうですか……」
ホッとしたようなガッカリしたような複雑な気持ちで、流護はベッドに横たわっているその少女を見つめる。
腰まで伸びる艶やかな黒髪。小さく整った目鼻立ち。どちらかといえば薄顔の童顔だろうか。
そこで眠る少女の名前は、蓮城彩花。
流護の、幼なじみだった。
「…………」
これまでの十六年の人生の中で、あそこまで取り乱したことはなかったな……と流護は自分を振り返る。
原初の溟渤へ赴いて、奥地で結晶化した魂心力を発見して。
そこまではよかった。
謎の廃城の地下で、緑色の気流に包まれて――
そして、気付けば舞い戻っていた現代日本。それも自分の故郷。
そのまま残りたい気持ちと、グリムクロウズに戻りたい思い。そんな狭間で板挟みになりながらも苦渋の決断を下し、謎の人物の導きで再びこの異世界への転移に成功。……したかと思いきや、この幼なじみの少女が――彩花が、あろうことかこの世界へとやってきてしまっていた。
(巻き込まれた……んだろうな……)
あの笹鶴公園で転移する直前、自分たちのいるほうに駆け寄ってこようとしていた彩花……。
お前、何であんなとこにいたんだ。こんな世界に来ちまって、これからどうすんだ。そう色々と彼女に問いただしたい流護だったが、それはできなかった。
流護たちがグリムクロウズへ戻って……即ち彩花がこの世界へやってきて一ヶ月。彼女は、ただの一度として目を覚ますことなく、ずっと眠り続けているのだ。
その瞬間を目撃したロック博士の話では、彩花は『神々の噴嚏』の凄まじい瞬きと同時に現れ、そのまま倒れ込んだという。
(こいつ……自分がこんな異世界にトリップしちまったことも知らねーまま、ぐーすか眠りこけてんだろうな……)
目覚めない原因は不明。様々な医師に診てもらったが、皆目見当がつかないとのことだった。
今しがた、医学の心得もあるというシャロムにも定期検診をしてもらったところだったが、やはりおかしな点は見当たらないとのこと。
昏睡状態、と呼ぶべきものなのか。傍目には、ただ安らかに眠っているようにしか見えなかった。
『クライン・レビン症候群……を彷彿とさせるけど、さて』
おもむろに、岩波輝ことロック博士がそう呟いたのは数日前。
『……クラ……、なんすか、それ?』
『ん、ああ。反復性過眠症、とも呼ばれている睡眠障害の一種でね――』
岩波輝元教授による説明は以下の通り。
世界的にも発病者自体が非常に少なく、未だ原因が特定されていない疾患。長期間に渡って眠り続けるのが特徴で、二ヶ月や三ヶ月もの間眠りっぱなしになった事例も存在する。また、二十四時間ずっと寝ている訳ではなく、トイレや食事といった必要不可欠な行動はきちんと取るケースもあるらしい。ただしこれらの行動中は夢遊病に近しい状態で、まず当人には自覚がないのだとか。
女性がこれに罹った場合、『眠り姫』と呼称されることもあるという。
『じゃあ……彩花が、そんな病気に……? でも、いきなりなんでそんな』
『いや、その可能性も万に一つあるかもしれない、ということさ。そもそも、「あっち」でも報告例が極端に少ないような症状だからね。その希少さは、「ペンタ」が比較にならないほどだ。それよりは、彼女がこの世界へ転移してきてしまったこと……「神々の噴嚏」と同時に現れたことだとか、こっちの世界特有の何かが作用したと考える方が自然かもね』
とりあえず博士としては、神詠術方面やこちら側の世界の知識から少し調べてみるとのことだった。
『眠り続けている』といえば、隣国のレフェ巫術神国で今も臥せっているドゥエン・アケローンのことが思い起こされる。彼の場合は心停止をしているため、彩花とはまた前提が異なるだろう。
学院に戻ってからの三週間。女性医師や研究員が、彩花の身の回りの世話をしてくれていた。流護としては自分が全て受け持ちたいところだったが、そこはやはり異性間の事情がある。家族のような存在とはいえ、デリケートな部分があるのは当然だ。
横たえられている彩花の服装も、この世界に来たときに着ていた制服ではなく、異世界産の簡素な寝間着姿となっていた。
一息ついたところで、コンコンと扉が控えめに叩かれる。
「あっ、はい」
「ミアだよー」
「おう、なんだミアか。入れ入れ」
軋む木製の戸を引いて小さな少女が入ってくると同時、冷えた外気も一緒になって滑り込んできた。
シャロムとミアが互いに目礼を交わす。
ハムスターみたいにせかせか入り込んできた少女を招き入れて、部屋も一段と狭くなった。やはり、詰め込める人数はこれが限界だろう。
「ミア、彩花にデコピンしていいぞ」
「え、えぇ!? そんな、急になに言い出すのリューゴくん」
「こいつ昔はさ、こんなネボスケじゃなかったんだぞ。むしろ俺を起こしに来てガバーっと布団引っぺがすよーなヤツでさ。流護起きなさーい、いつまで寝てんの! なんつってさ」
オーバーにそうまくし立てると、ミアが悲しげな湿っぽい目を向けてきていることに気付く。
「な、なんだよ」
「アヤカさん……はやく目を覚ますといいね」
「う、うるせー」
何だか恥ずかしくなった流護は、ミアのおでこを無意味につついて連打してやった。
「うう、なにすんのー」
「大体な……目ぇ覚めたら絶対大騒ぎするぞ、こいつ……」
何せ気がつけば石で囲まれた中世欧州風の一室。自らも日本ではありえないような服を着せられている状態だ。受け入れられるはずもないし、パニックに陥ってもおかしくはない。
「それにな……もしコイツが目を覚まして、現状にも納得したとしてだ……」
思案するように顎の下へ指を添えた流護は、ミアの顔、そして頭の先から足元までをまじまじと見つめる。
「な、なにリューゴくんっ」
「おや。舐め回すような目つきでミアさんを蹂躙しましたね、遊撃兵さん」
「シャロムさん人聞き悪ィよ! 何だよ蹂躙て!?」
慌てて反論しつつ、少年はちょっと及び腰になっている小さな少女へと問う。
「ミアって……確か……身長、百五十センタルあるかないか、だったよな……?」
「な!? なにさー! いきなりなんなの! ちびだって言いたいの! これからもっと伸びるんだから! そう遠くないうちに、百五十の大台に乗るもん! 育ちざかりだもん!」
両手を上げてプンスコする様はまさしくチビッコの見本のようであるが、
「いや、この彩花ってヤツはな……無類の小さいもの好きなんだよ。ミアは多分、彩花センサーに引っ掛かる」
「むー! 失礼しちゃう! あたしそんなに小さくないもん!」
「ノォ……ミアよ、それを判断するのはお前ではないのだ。彩花がどう感じるかだ。つか、コイツは絶対ミアをちびっ子判定する」
「ええー……ちびっこじゃないもん……」
頑として否定する少女だが、現実は非常なのだと流護はかぶりを振る。
「諦めたまえ。とにかくこの彩花って存在はな、人間、動物、その他問わずで小さいもの好きなんだ。で、なんつーか……それもちょっと、おかしいっていうか……歪んでるっていうか……やばいんだよ」
「ど、どういうこと?」
「言葉じゃ説明が難しいんだけど……まあ、小さいものを前にすると暴走すんだよ、コイツ」
「ぼ、ぼうそう?」
少し不安げな顔になったミアが、ごくりと喉を鳴らしつつ彩花の寝顔を窺う。
「そ、そんなふうには見えないけどなぁ。アヤカさんの雰囲気とか、ちょっとベルちゃんに似てて落ち着いてそうだけど……」
「は、はぁ~? コイツがベル子に似てる? ないない、ないないないない」
慌ててぶんぶんと片手を横へ振れば、シャロムがいかにも理知的にメガネを指で押し上げながら呟く。
「遊撃兵さん……若干の頬の紅潮と、声に上ずりが認められます。つまり……とても、照れている?」
「ね、ねぇっすから!」
コホンと喉を湿し、横たわる少女と長年の幼なじみである少年は語る。
「例えばな……ハムスターに対して『ヒマワリの種で手なずけて安心して寄ってくるようになったところにデコピンしてあげたい。そのあと全力でごめんねって謝りたい』とか言い出すんだぞ、コイツ」
「そうなの?」
「そうだよ。だからミアに対しても多分、歪んだ愛情を発揮するぞ。ヒマワリの種食わそうとしてくるぞ」
「ふぅーん……。あれでしょ、リューゴくん。照れてるんでしょ。無理してアヤカさんのこと悪く言っちゃって」
「はぁ? なっ、何だよ。お前、こいつの邪悪な本性を知らんからそんなこと言えるんだぞ。こいつは、二個入りの某大福アイスを『ひとつちょーだい!』とか言ってかっさらっていくような悪党だぞ。二個入りのうち一個取られたら半分になっちゃうだろうが! 失うモノがでかすぎる! 六個入りの某一口チョコアイスを一個やるのとはワケが違う」
「う~ん、よくわかんないけど……それはぁ~、アヤカさんがリューゴくんと半分こしたかったんじゃないの~?」
「何だそのいやらしいタレ目は! お前どっちの味方なんだよオラァ!」
おでこを高速でつんつんしてやると、ミアはひいと鳴いて首を竦めた。
「べ、べつにどっちの味方とかないよ! もう、リューゴくんったら素直じゃないんだから。照れちゃって」
「いや、だから照れてるとかねーから……」
シャロムが余計な茶々を入れたおかげで、ミアはすっかり強がりだと思ってしまったようだ。ふん、と流護は腕組みして鼻を鳴らす。
「でもほんと、すっごいきれいな顔してるよねアヤカさん。『眠り姫』って呼ばれるのも分かる気がするよ」
「そう、そうそう! それな! 初めて聞いたときは愕然としたぞ。彩花が姫ぇ~? またまたご冗談を。はっはっ、後ろに(笑)がつきますわ」
「遊撃兵さん……若干の頬の紅潮と、声に上ずりが認められます。つまり……とても、照れている?」
「シャロムさんやめてよさっきから! 何だってんだよ!」
もう逃げ出したくなってしまう少年だった。
「でもべつに、おかしくないよー。アヤカさん、男子の間でもちょっと噂になったりしてるぐらいだもん」
「へー……。ほー……。ふーん……。そのちょっと噂してる奴の名前とか、具体的に教えてもらってもいいか?」
「リ、リューゴくん、目が怖いよ……聞いてどうするつもりなの……。じゃ、じゃあエドヴィンで」
「とりあえず何かあったらエドヴィンのせいにしとけみたいな風潮」
狭い一室でしばし、談笑に花を咲かせる。
……やはり、と言うべきなのか。そんな騒がしい中でも、彩花が目を覚ますことはなかった。




