295. 獰猛な星々
「おう、舐めるなよ! 雑魚どもが――ッ!」
先頭の馬車から飛び出した勇猛な兵士たちが、我先にと敵の集団へ殺到する。
そこはこの任務のために選出された精鋭。個々の能力は高く、ドボービークを優に上回っている。が、
「おい、後ろだ!」
「う、ぉわあっ!?」
若い兵士の後ろから飛びかかった一匹を、間一髪のところで壮年の兵が叩き斬った。
「一匹一匹は大したことねぇが、とにかく数が多い! 後ろから襲われたら終わりだぞ! 出過ぎるな! 隊長の指示通り数人で固まって、互いの背中を守る形で立ち回れ!」
深追いはせず、襲ってきた相手を迎え撃つ。兵士たちは互いの背後を守るように展開した。
そんな中、前方へ出ようとした流護目がけて、脇から三匹が飛びかかってくる。
「ふっ!」
左の刻み打ち。牽制や間合いの制御ではない、力を込めた三連打にて、迎撃されたドボービークらが球のように弾け飛ぶ。
背後を取られないよう警戒しつつ傍らの馬車――三号車を見上げると、大きな乗車室に無数の怨魔たちが群がっていた。天板や側面にしがみつき、がんがんと爪や拳を振り下ろしている。
「うわあ……」
まさしく明かりに寄ってきた虫の群れといった様相を呈しているが、これは後回しで問題ない。こういうときのための武装馬車だ。カテゴリーDレベルでは、この頑丈な乗車室をどうにかすることはできないだろう。
「うああぁすごい音! 馬車揺れてる! せっ、先生! わ、私たち死ぬんですか!? ここで終わりなんですかぁ!? 死ぬ前に、最後に見るのが先生の顔だなんてあんまりです!」
「わ、分からないけど、どっちにしろ二度とできない経験になりそうだねえぇ! あと死ぬかもしれないからって正直すぎやしないかい!?」
……伝声管から誰かさんたちの声が流れてくる。二人を始め馬車内の研究員たちは生きた心地がしないかもしれないが、しばらく我慢してもらうしかない。
(今、優先するのは――)
凄まじい嘶きと同時、巨大な蹄がドボービークの一匹を蹴り飛ばした。三台の武装馬車をここまで引っ張ってきた、逞しく大きな黒馬が全六頭。まさしく今しがたのように、小さな怨魔程度ならば蹴散らしてしまう荒馬揃いだが、如何せん敵の数が多すぎる。背中や尻に張りついたドボービークらが、容赦なく爪や牙を突き刺していた。痛々しい傷口から血が滴り、喧騒の最中に悲痛な嘶きが木霊する。
馬をやられれば、当然ながら馬車が使えなくなってしまう。様々な物資を満載したこれらが動かせない鉄の箱と化してしまえば、もはや任務は失敗したも同然だ。
流護は強引に突っ込み、馬に張りついている怨魔を引き剥がしにかかった。
「夜の自販機にたかる虫かっつの! 離れろってんだコラッ」
幸いにして、というべきか。コブリアもそうだったが、このドボービークも非常に両眼が大きい。つまり弱点を突きやすい、ということに他ならない。
馬にしがみついている怨魔の頭を後ろから掴み、そのまま指先を眼窩へとねじ込む。ギッ、と悲鳴を上げて離れたドボービークを、文字通りの千切っては投げで駆逐していく。
「よっし、馬、お願いします!」
「わっ、分かった!」
全ての敵を剥がし、近場の兵士たちへ馬を任せる。流護の実力であれば、複数人で固まる必要がない。受け身ではなく、単騎でも打って出るべきだ。兵たちも分かっているのだろう、即断で頷く。
周囲の怨魔たちを次々と蹴散らしながら移動する最中、ある光景が流護の目に留まった。
「!」
迸る銀の剣閃。
四方から踊りかかった怨魔たちが、近づくことすら叶わず瞬く間に斬り伏せられていく。それはまるで、剣の結界だった。
流護より四、五歳は上だろうか。身長はグリムクロウズの人間にしては低めで、百八十センチに満たないだろう。銀色の鎧を身につけた、正規兵の青年の一人だった。
(とんでもねー剣さばき……。誰だか知らんけど……この人、すげえ腕前だな)
この任務のためにアルディア王が選抜しただけのことはあり、相当な手練といえる。その卓絶した剣技に思わず目を奪われていると、他の兵士から声が飛んだ。
「さすがだな、オズーロイ! また腕前上げたんじゃねぇのか!? すまねぇが、こっちも頼む!」
「分かった!」
オズーロイと呼ばれたその剣豪は仲間の要請に応え、すぐさま新たな敵へと向かっていく。
「おわっと!」
直後、流護の目の前の地面を凄まじい勢いで何かが転がっていった。確認するまでもなく、ドボービークの一体だった。
「う、お……」
視線を向けると、そこには舞踏のごとく身を翻すダーミー・チャーゾールベルトの姿があった。
常の無気力な姿からは想像もできないほど、素早く鋭い立ち回り。
彼はハンドポケットのまま、両の脚のみでドボービークの群れを捌いていく。まるで球遊びでもしているかのような光景。一体を蹴り飛ばし、別の一体へと叩きつける。一体を踏みつけて跳躍し、別の一体へ踵を叩き落す。
脚がスラリとして長いことも強みなのだろうが、何よりその可動域が恐ろしく広い。幼い頃から空手家として身体を作ってきた流護ですら驚くほどの柔軟さを持ち合わせている。
(……、この人……相当強ぇぞ)
見たこともない脚技――というより、それは神詠術との合わせ技だ。薙がれた脚に風が纏わりつき、アクロバティックな動きや並ならぬ威力を実現している。
旋風脚は比喩でなく本物の風を生み、よくよく見れば、何もない空中を足場とし、さらに高く跳ぶ――『二段ジャンプ』のような真似すらやってのけている。
(格ゲーのキャラクターか何かですかね……)
さすがは『銀黎部隊』の一員、といったところか。
その絶技に目を奪われていると、視界の隅から黒い影が迫る。
「うおっと! えーい、邪魔だっつの!」
いきなり飛びかかってきた一体を、流護は慌てて殴り飛ばす。その隙を埋めるように走り込んできたもう一体を、
「おーっとここで流護くんのアルティメットキャノンなんちゃらシューッ!」
全力で蹴り飛ばす。シュートされたその一体が、他の数体を巻き込みながら吹き飛んでいく。それでもお構いなしに怨魔たちは次々と押し寄せてくる。ゴール、試合終了とはいきそうになかった。
「ぐああぁ、いてぇなクソがぁっ」
「踏ん張れ! 押し切られるぞ!」
各所から兵士たちの悲鳴が上がり始める。
それに対し、周囲の闇から押し寄せる怨魔の勢いは、まるで衰える気配がない。物量に押されてきている。
「もーちょいギア上げていかねーと……!」
流護も改めて気合を入れ直す、そんな大混戦の最中。
離れた一角から、目に眩しいほどの炎が吹き上がった。黒々と広がる森が、瞬時に昼間さながらの瞬きによって照らされる。
「おお……!」
「へへ、もうそんな時間だったか……!」
傷だらけの兵士たちがすがるような視線を向けた、その先には。
「すまない、傷を負った者は下がってくれ! ここからは、私も加勢するッ……!」
思わず、流護は見とれていた。時はいつしか、夕方――『夜』と呼べる時間帯に変わり。
苛烈なまでの炎を纏わせたリサーリット・テールヴィッドの姿が、そこにあった。
その紅蓮の力は、これまで見たどの炎使いのものとも異なっていた。ディノのような荒れ狂う奔流でも、アルディア王のような力強い爆熱でもない。
例えるならそれは、意思を持つ浮遊迎撃兵器。
「行けっ、お前たち!」
リサーリットの勇ましい号令に応えるがごとく、十数個にも及ぶ火の玉が乱舞した。
空中に浮かぶ無数の炎球が凄まじい勢いで飛び回り、小さな火炎弾を連射する。その命中精度も凄まじく、瞬く間にドボービークたちが貫かれ、吹き飛んでいく。
(おいおい、なんかロボットアニメで見たことあるぞ、あーゆーの……!)
「はぁっ!」
マシンガン顔負けの掃射を潜り抜けてきた敵に対しては、生み出した炎の細剣を突き刺す。オーソドックスな、騎士流の剣技。しかし昼間からは想像もできない、覚醒したような身のこなし。
そこで舞うのは――遠近共にまるで隙のない、炎熱の女騎士だった。
(二つ名は『夜炎舞踏』……だったけか。なるほど、こういうことか。こりゃすげーや)
夜は、怨魔たちが活性化する時間帯である。そんな怪物が闊歩する未知の森の中で、兵団は三週間分もの夜を明かさねばならない。無論、交代で不寝番を立てることにはなるが、怨魔が最も活気づく時間帯に、原則として兵団は全力で闘うことができないのだ。当然、こちらが休んでいることなどお構いなしに、連中が襲ってくることもありえる。そうなった場合、万全のコンディションで闘うことは難しいだろう。
おそらくは――そういった時間帯を無事乗り切るための、彼女。アルディア王の意味ありげな一言。「こういった野外遠征において、アイツの力は頼りになるぜ」とは、つまりこういうことなのだろう。
「火神の加護を今ここに! 舞え、熱炎の申し子たちよ!」
それはもはや炎のカーテンだ。翻される真紅は美しく、そして激しく。森の木々に燃え移ることなく、しなやかに敵だけを撃破していく。
(負けてらんねえな、こりゃ)
それぞれの勇姿に触発された流護も、次々と襲い来る怨魔の群れを撃破しつつ、戦場と化したこの地を駆け巡った。
「ふっ!」
鋭く奔る水刃の連撃によって、三匹のドボービークが蹴散らされた。
しかし怪物の軍勢は衰える気配もなく、延々と怒涛の荒波がごとく押し寄せてくる。
「この、キリがないっ……!」
珍しく悪態をつくベルグレッテの四方から、またもドボービークたちが躍りかかった。
「はあっ!」
漆黒の長剣が一閃する。
逆袈裟で正面の一匹を仕留めざま、身に纏う水流で残った敵の攻撃を弾く。体勢を崩した二匹を横薙ぎで斬り伏せ、背後の一匹を回し蹴りで迎撃し――
「っ!」
四方、ではなかった。前後左右、そして――上。
木々の枝を伝って移動していた一匹が、ベルグレッテの頭上から飛びかかって爪を閃かせる。
「よっと!」
まさに撃墜。
一直線に飛んだ小さな石つぶてが、空中の刺客を粉砕。その約四十センチの矮躯を派手に吹き飛ばした。
「大丈夫か、ベル子」
「ええ……、ありがとう、リューゴ」
そうして駆けつけた流護と体勢を整えたベルグレッテは、互いに背中合わせとなった。
じりじりと近づいてくる小さな怪物たち。周囲の闇にも、未だ無数の光点が――松明を照り返したドボービークの眼光がギラギラと輝いている。計算上では一人当たりが数匹倒せばいいだけにも思えるが、やはりそんな単純な話ではないのだ。
「ったく、いつ終わんだよこれ……」
「ほんとにね……」
さすがに二人揃ってうんざりした溜息が漏れた。
が、集中を切らす訳にはいかない。確実に撃破し続け、着実に数を減らしていく以外に道はない。
(……、)
密着した背中にベルグレッテの温もりを感じながら、流護はふと思い出していた。
『俺も神詠術とかは全然分からないし、だから……これからベル子と一緒に、お互いに足りない部分は補い合いながら、助け合いながら、闘っていけたらなー、とか思うんだけどさ』
そんな、かつての自分の言葉を。
『あ奴は、護られることを良しとする娘ではない。恐らくはお主の隣に立ち、肩を並べて戦うことを望むじゃろう』
そんな、いつかのダイゴスの言葉を。
「……よーし、ベル子」
「ん……どうかした?」
互いの顔も見えぬまま、互いに反対方向を向いたまま、遊撃兵は言う。
「ベル子の背中は俺が守る。だから……俺の背中、任せていいか?」
息をのんだような気配。わずかな間を置いて、
「……了解っ!」
気合に満ちた少女騎士の応答が返る。
そうして二人は振り返らぬまま、しかし背後に確かな信頼を感じたまま、眼前の敵のみを迎え撃つ。
期せず、少し離れた位置でアマンダとオルエッタがそうしているように。
多くの兵士たちがへたり込み、肩で荒い呼吸を繰り返していた。
彼らを包む銀の鎧は、返り血や泥で表現しがたい薄汚れた色へと変わり果て、周囲にも生々しい臓物の臭気が充満している。
六十名弱の兵士たちは、ドボービークの大群を打ち破ることに成功した。乱戦も後半になってようやく旗色の悪さを感じたのか、かなりの数が逃げ出したため、実際に倒したのは百半ば弱といったところか。
辺り一帯はまさしく死屍累々といった様相を呈しており、小さな怨魔たちの死体が足の踏み場もない状態で転がっている。兵士らの取り落とした松明がいくつも細々と燃えており、その明かりが現場をより凄惨に演出していた。
兵団は大の字となって寝転がっている者、まだまだ余力を残していそうな者と様々だ。馬は何とか無事なようで、戦闘やケガにいきり立つ黒馬を数名の兵らが一生懸命なだめ治療している。
流護は敵の多さもあって後半から動きが雑になってしまい、腕や足に多少のかすり傷を負っていた。避けるより無理矢理突っ込んだほうが早い、といった場面が少なからずあったのだ。いわゆるゴリ押しである。
ベルグレッテも消耗は見られるものの、終始安定した立ち回りを見せていた。以前の彼女なら、ここまで集中力が続かなかった可能性が高い。この二ヶ月で飛躍的に腕を上げた成果といえるだろう。
乱戦の最中で見かけた凄腕の青年兵士オズーロイなどは、傷ひとつない顔で剣を手入れしている。
『銀黎部隊』の面々は言うまでもない。リサーリットは、兄であるテッドに「よくやった」と頭を撫でられ、恥ずかしそうに目を伏せていた。
彼らほどでなくとも、余裕げな表情を見せている者は少なくない。お前は何匹やったんだ、と互いに戦果を誇り合っている者もいる。
(にしても……)
戦果や消耗度合いも人それぞれだが、流護が個人的に凄まじさを感じたのは――
ちら、とその人物へ視線を送る。
『銀黎部隊』の副隊長、オルエッタ・ブラッディフィアー。
その身を包む純白のドレスには、一片の返り血さえ付着してはいない。腰から抜き放った黒剣で敵を斬り伏せた際、彼女は撒き散らされる血飛沫さえも躱していた。返り血を浴びない立ち回りや足運び、といったものが身についているのだ。
ちなみにオルエッタがそうして返り血などを躱すため、それらは背中合わせで闘っているアマンダに少なからず降りかかる形となっていた。幾度となく「ちょっと! こっちに飛ばさないでよ!」「あら~ごめんなさーい」といったやり取りが聞こえていたものである。
(……、あれ、そういやそのアマンダさんは……?)
姿が見えない。
派手に汚れきった戦場を歩いていると、やや離れた木陰にその姿を発見した。アマンダだけでなく、数名の兵士たちがそこに集まっている。
(? あそこで……何やってんだ?)
何の気なしに顔を覗かせた流護は、
「……!」
腹に冷たい感覚がジワリとのしかかるのを自覚した。
アマンダたちの足元には。
血まみれとなった兵士が三人、力なく横たわっていた。うち二人は、すでにピクリとも動かず。残る一人は荒い息を吐いているが、首筋が朱に染まり、顔色ももはや蒼白となっている。彼が身につける銀色の鎧には、生々しいまでの赤がべったりと筋を作っていた。
木に寄りかかっていた巨体の中年兵が流護に気付き、振り返った。
「おう、遊撃兵さんか……。まだまだ余裕そうだな。さすがだ」
「……、いえ」
そう言う彼の頬には派手な切り傷が刻まれており、また疲れが滲んでいた。
「あいつらよ……後ろからブスッとやられちまったみてぇでなあ。まっ、あの混戦じゃ、誰がああなってもおかしくなかったと思うぜ……」
横たわる三人のそばに屈み込んでいた衛生兵が、アマンダに向かって弱々しく首を振る。
頷いたアマンダは、虫の息となっている一人の脇に屈み込んだ。彼の手を握り、小さく優しい声音で問う。
「……何か、言い遺すことはあるか」
(……!)
流護の口の中に、苦いものが広がっていく。
辛うじて息のあるその一人は、身体を震わせながら無理矢理な笑みを浮かべた。
「……、へへ、独り身な、もんで、何も……。……任務の、成功を……お祈り、して、おり……ま……」
「必ず。お前の死は、絶対に無駄にはしない」
その言葉に安堵したように……彼は、ゆっくりと目を閉じた。
アマンダがその手をぐっと一度強く握り、離す。
そんな光景を見届けた巨体の中年兵士が、
「……っと。遊撃兵さん、すまねえが手伝ってくれ」
流護の肩をポンと叩いて馬車の一台へと向かっていく。
「…………、」
その意図を察し、流護は後に続いた。
無人となっている一号車に乗り込み、二人はそれを手に取る。即ち――壁面に備え付けられている、薄汚れたシャベルを。
ざくざくと、横たわる三人の脇に穴を掘っていく。
兵団専用の馬車に設置されているこのシャベルは、志半ばで斃れた仲間の死体を埋めるためのものだった。
かつて流護が経験した、ディアレーでの初任務とは状況が違う。
必要な物資を満載し、定員もいっぱいの馬車。仲間の遺体を運んで帰る余裕はないのだ。一ヶ月という長い遠征期間も、遺体の状態保持を極めて難しくする要因だった。よってこういった遠征任務の途中で死亡した者は、基本的にはその場で埋葬されることとなる。
街やその周辺であれば、殉職者の教義や信仰次第で火葬の選択肢も取ることができるが、このような場所でそれはありえない。燃え広がってしまう懸念や、火に引き寄せられて怨魔がやってくる可能性があるからだ。
その者の身の証となる遺品を回収し、肉体はどことも知れない山中で土へと還る。
それが、敗北した兵の末路だった。
「こんなとこで……死んじまったら……あの世に導かれるまでの間……寂しそうだよな、っと」
「…………」
明るい口調で精力的に穴を掘る中年兵士だが、流護は何も返せなかった。
自分は今、人の死体を埋めるための穴を一生懸命掘っている……。
そんな現実を前に軽口を叩く余裕は、未だ現代日本の少年の中に芽生えてはいなかった。
気付いた他の兵士たちの協力もあり、思いのほか早く穴を掘り終えた。
三人の亡骸を窪地の底へ丁寧に横たえ、土をかけていく。流護以外の皆は、やたらと手際がよかった。初めての作業ではない、ということか。
やがて全員が集まり、先頭に立ったアマンダが土くれの前で手を合わせて告げる。
「創造神ジェド・メティーウよ。勇敢に戦い散っていったナゴレ、リクセト、ハシンの三名に、どうかご慈悲を。彼らの魂が、天上にて正しく救われんことを。そして、来世での恒久な幸あらんことを――」
粛々と、静かな祈りが捧げられた。




