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終天の異世界と拳撃の騎士  作者: ふるろうた
8. プログレッシヴ・イーラ
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284. 日常と未来

 ぎしと軋むベッドの音が、これから始まる禁忌を予感させる。衣擦れの音。甘い香り。そんな要素の一つ一つが、経験皆無な流護の官能を逐一刺激する。


「ふふーん。どう? あたしのカラダは」


 シーツの上に座ったミョール・フェルストレムが、艶かしい肢体を蟲惑的にくねらせた。相も変わらず露出高めなその装いは、少年にとってやはり刺激が強い。


「知ってるんだぞー。初めて会ったあの夜……あたしの魅力に辛抱たまらなくなったリューゴくんは、ついつい一人でスッキリしちゃったんだよねー」


 な、なんでそれを。

 思わずゴクリと唾を飲み込んだ瞬間、


「そうなの?」


 声に振り向けば、ベルグレッテが同じベッド上にぺたんと座り込んでいた。

 もう秋だというのに、やたらと薄手な夏用のドレスを身につけている。というより、ほとんど肌着なのではというレベルの薄さだった。大きな胸もほっそりとした身体のラインも、全て浮き彫りとなってしまっている。

 目のやり場に困っていると、


「リューゴ……私のこと思って……したんじゃないんだ」


 拗ねたように口を尖らせて。


「昨日、告白までしてきたのに……」


 そんな彼女の恥ずかしそうな顔と言葉は、頭がくらくらするほど魅力的で。

 いや、ベル子のことも思ってしてるから! かなりの頻度で! ってそういう話じゃねぇよ!

 慌てて何か言い繕おうとする流護だったが、後ろから何かが飛びついてきた。温かくやわらかな何者かが、ぴったりと背中に張りついている。


「ミアちゃんだよ!」


 その刺客が名乗りを上げた。

 ええい貴様か、何をしている離れなさい、と身をよじろうとして、


「――リューゴくんはさ」


 ゾッとするような、冷ややかな――別人としか思えないミアの声。


「あたしのこと変な目で見ないように、無理してるんだよね。父親がわりだー、なんて言って。そう思い込むことで、自分を抑えてるんだよね。でも……我慢しなくていいんだよ? あたし、リューゴくんの『奴隷』なんだから――」


 背中に感じるミアの温もりが、声に違わず本物の氷のように冷たくなっていく。


「最低ですね」


 ようやく振り向けば、まさしく氷めいた視線が待ち構えていた。

 ゴミを見るような目つきのクレアリアが、ベッド脇で腕組みをしながら淡々と言い放つ。


「姉様に気があるようなことを言って、結局は女性なら誰でも構わないんでしょう? ――それこそ、私でも」


 違う、と言う暇もなく、別の声が割り込んでくる。


「そ、そうなんですか……?」


 おどおどとした、気弱そうな声。

 振り返れば、そこにいるのは風を操る『ペンタ』の少女、リーフィア。


「……こ、こないだ、わたしのことを妹だなんて言っていましたけど……わ、わたしのことも、そういう目で……?」


 いや違う違う違う、と慌てて声を張り上げようとすれば、


「えーっ、そうなんだー、流護くん」


 やや久しぶりに聞く声だった。

 反対側へ首を巡らせれば、巫女衣装のよく似合う日本人の少女――雪崎桜枝里の姿があった。


「そういえば流護くんって、黒髪ロングのちょっと年上のお姉さんタイプが好みなんだよね。……それじゃあ、もしかして……私のことも、そういう目で見ちゃったりしてたのかな……? あっ。私のことお姉ちゃんにしたがってたのも、そういうことなの……?」


 ち、違う。そこにやましい気持ちはないし、変な目で見てなんかいないし、つかなんで俺の好みのタイプとか知ってんだ教えた覚えないぞ、と必死で桜枝里の黒髪や胸元や太ももから目を逸らし――


「そうなんだ」


 新たに飛び込んできた声を聞いて、流護は完全に凍りついた。


「ん、そうなんだ……」


 すぐ後ろにいる。誰かが、先ほどのミアのようにぴったりと密着している。子供の頃ふざけてそうしてきたのとは違い、背中に当たる膨らみの感触。耳元で聞こえる、吐息混じりの艶かしい囁き。

 ふわりとした『黒髪』がなびき、少年の頬を、首元をくすぐっていく。刺激するように。誘うように。


「じゃあ私も、その条件に当てはまっちゃうね」


 ねえよ。ふざけんな。てか何言ってんだお前……!

 あいつが身体を預けてくる気配が。もう懐かしく感じる香りが。声が。


「ね、そうだよね――」


 背後からゆっくりと伸ばされた手が、限界を超えそうな下腹部へと――






「あがああぁあぁ――ん!?」


 文字通りの跳ね起き。

 シーツを吹き飛ばし、枕を転がしながら辺りを確認する。

 ディアレーの街にある宿の一室。当然のことながら、自分以外には誰もいない。


「………………、」


 備え付けの柱時計を確認すれば、時刻は午前五時半。秋も中頃に差しかかったためか、窓の外はまだ薄暗い。こういった日の長さの移り変わりも地球と同じ。つまるところこのグリムクロウズも、太陽インベレヌスの周りを公転している惑星ということなのだろう。


 ……そんなことよりも。

 汗ばんだ額を拭い、着衣の乱れを正した流護は、あることに気がついた。


「……、マジか…………」


 その事実を認識し、自分でも信じられないとばかりに愕然とする。

 昨日。ほんの昨夜、ベルグレッテに想いを伝えたばかりだというのに。

 何で、こんな。


「…………俺、ガチで……女好きの、ゲスヤローなん……?」


 あるのはただ、ひたすらの脱力感と自己嫌悪だった。






 じゃぶじゃぶ。

 空も少しずつ明るくなり始めた午前六時前。

 宿の庭で、流護は洗濯に励んでいた。

 洗濯機などという文明の利器は存在しないので、当然ながらたらいを使っての手洗いである。グリムクロウズ歴五ヶ月ともなれば、こうした作業も慣れたものだった。

 ……とはいえ。下着を丁寧に泡立てて洗いながら、流護は納得のいかない気持ちを胸奥に渦巻かせる。


 ――俺は、ベル子のことが好きだ。


 昨日率直に告白したあの想いに、嘘偽りはない。……にもかかわらず、あの夢は何だ。


(そりゃあ……ミアは嫁に出したくないし、ミョールはエロいし、クレアはデレると破壊力やばいし、リーフィアは絵に描いたような妹系だし、桜枝里は巫女のコスプレが妙に色っぽいし……)


 よくよく考えてみれば、色々と多様なヒロインたちが完備されている。

 有海流護も年頃の少年だ。揃いも揃って可愛かったり美人だったりするし、そういった目で見るなというほうが無理だろう。


(……それでも)


 それでも……最後の『あいつ』だけは、絶対にない。

 そう、思っていたはずなのに……。


(つか、何だよあの妙にリアリティっつうか……実感のある夢は……)


 夢とは思えないほど鮮明に、匂いや感触が伝わってきた。まるで、現実にあったことのように。


「はぁ……」


 憂鬱になりながら泡と格闘していると、


「お、アリウミか?」


 庭の入り口のほうから声がした。

 まだ薄暗い黎明の中庭を駆けてやってきたのは、


「……エドヴィン」


『狂犬』と渾名されるパンチパーマの不良学生、エドヴィン・ガウルだった。そんなヤンキー詠術士メイジは、肩で息を弾ませている。


「もしかして……朝の走り込みに行ってたのか?」

「……ふー、オウよ」


 額を拭う青年の頷きに、空手家は内心で感嘆した。

 この涼しい時期にもかかわらず流れる汗は、しっかりと走り込んできた証拠だ。流護に刺激を受けて鍛錬を始めたと耳にしたのは随分前のことだったが、三日坊主で終わることなく今もしっかりと続けているようだ。こんな祭りの翌日、外出先であっても欠かさずに。思春期少年がどうしようもない夢を見ている間も、真剣に走っていたのだろう。


「お前こそ、こんな朝っぱらから何やってんだよ? 洗濯か? 宿に泊まってまで自分でやるこたァねーだろーに。精が出るなァ」

「出してねぇッッ」

「オワッ」


 被せ気味の絶叫だった。


「精なんて出してねえっ、いや出たけど……、だ、出したくて出した訳じゃねぇッ」

「オ、オウ……何の話だよ? 悪かったよ……」


 明らかに引いているエドヴィンにハッとして、流護も気まずく視線を逸らした。


「い、いや……ちょっと嫌な夢を見て早起きしたんだ……悪かった」

「オ、オウ」


 じゃぶじゃぶ。

 妙な居心地の悪さと洗濯の音のみが場を支配する中、エドヴィンがその場で拳の素振りを始める。

 完全に流護の真似事なのだろう。シッシッと呼気を吐きながら次々と拳を繰り出すが、驚くほど隙だらけで形になっていない。が、ケンカ慣れしている『らしさ』は感じられる。

 そんな姿を見て、流護は自然と問いかけていた。


「エドヴィンは……何で強くなりたいんだ?」

「あァ? ……何で、か」


 彼は拳を止め、考え込むように押し黙り、


「……さてな。お前みてーな英雄になれるとは思っちゃねーし……ベルみてーな騎士だとか、ダイゴスみてーな戦士になれるワケでもねー」


 拳を二、三と不格好に突き出して。


「ただ、強くなりてぇ。それだけじゃダメか?」

「……いや」


 最近は弄られ役みたいな扱いとなっているが、端的に言ってエドヴィンは強い。

 その好戦的な気性も相俟って、後先考えず勢いのまま撒き散らされる炎の乱射は、並の人間の手に負えるものではないだろう。その辺のごろつきやギャングではまず相手にならない。

 かつてレドラックファミリーを相手取った大乱戦でも、レノーレとの共闘で敵幹部の一人を打ち倒すことに成功している。

 まだ学院の生徒であることを考えれば、その戦闘能力は傑出している部類といえるはずだ。

 だが、足りないのだろう。周囲に、流護やベルグレッテやダイゴスがいる。間近で『上』を見せつけられて、今のままでいいと納得することができないのだ。

 流護自身が彼の立場だったなら、やはり同じように思うだろうと考える。強さを渇望する男とは、そういうものだ。

 馬鹿なこと訊いちゃったな、と流護はかぶりを振った。じゃぶじゃぶしながら。


「エドヴィンに……リ、リューゴ?」


 そこで聞こえてきた控えめな声は、宿の母屋からだった。

 二人揃って顔を向ければ、扉を出てこちらへとやってくる――


「……ベ、ベル子」

「ベルか。おはよーさん」

「お、おはよう。……二人とも」


 ベルグレッテ。昨日よく分からない勢いのままついに告白してしまった、その相手。


(…………、っ)


 今。こうして向かい合い、改めて実感する。恥ずかしさが込み上げてくる。

 祭りの華やかな雰囲気に当てられるまま、思いのたけをぶち撒けてしまった……。まさに、若さゆえの過ちとしか言いようがないかもしれない。


「あ、あのリューゴ!」

「はいよぉ!?」


 その想い人にいきなり呼ばれ、威勢のいい八百屋みたいな返事をしてしまった。


「き、昨日は、色々とごめんなさい。えと……詳しいことについては、あとでまたじっくり話したいと思うから……」


 ベルグレッテは視線を逸らしつつ、指に長い髪の毛をくるくると巻きつけながらそう口にする。


「お、おう……分かった。……その、こっちこそ……いきなりで、申し訳なかったっていうか……」

「う、ううん。大丈夫だから……気にしないで」

「そ、そか」

「うっ、うん」

「何の話してんだ、おめーら?」


 やばい。エドヴィンが邪魔だ。


(はっ、いくら何でもエドヴィンに悪いよな……)


 邪魔者扱いしてしまったことを密かに反省していると、母屋から小さな影がにゅっと現れた。


「くんくん……こっちから、ベルちゃんのにおいがする~」


 おい。なんか妖怪がいるぞ。

 明るくなりつつある中庭をひたひたとやってきたその存在は、ぴょこんと元気いっぱいにベルグレッテへ飛びついた。何だか、雨の日の蛙みたいでもある。


「ベルちゃんおはよう! リューゴくんも! おはよう! ……あっ、エドヴィンもいたんだ……おはよ……」

「露骨だなミア公……」

「ベルちゃーん、おはようのちゅっちゅっ」

「もう、こらっ。くすぐったいから……やーめーなーさいっ。早いのね、ミア」

「んー……なんだろ、祭りの興奮さめやらぬー、っていう感じで、あんまり寝れなくて……」


 ぐいぐい押しつけられるミアの顔をがっちりと阻止しながら、ベルグレッテが優しげな笑みをたたえる。


「年に一度のディアレー降誕祭だったものね。……来年もまた、みんなで楽しみましょう。今度は、レノーレも一緒にね」


 それは、昨日の流護のセリフが反映された宣言だったのかもしれない。つい昨夜「来年も来られるといいな」と消極的に微笑んでいた少女騎士は、前向きな言葉と共に一同の顔を見渡した。


「おう」

「もちろんだよ!」


 頷く流護、元気溌剌としたミアの返事。


「…………そーだな」


 そしてやや間を置いて、エドヴィンが同意する。


(……?)


 そんな彼の反応が、流護は少しだけ引っ掛かった。


「んー、ベルちゃーん! ちゅっちゅっ」

「もうっ、どうしたのミアったらっ」

「お祭りのよいん? とにかく刺激的な雰囲気が、あたしをアツくさせるんだよ~」


 ……同じような勢いに呑まれるまま告白、などというやらかしをしてしまった流護には、ミアの気持ちも分からないでもないというか何というか。


「……、はは、はははは」


 じゃれ合う彼女たちを眺めていると、自然に笑いが零れてしまった。


「んむ? どしたの、リューゴくん?」


 皆が怪訝そうな顔で注目してくる。


「いや……なんかさ、ミアと初めて会った時のこと思い出しちまって」


 あのときは、学生棟の裏庭で。ここと同じような、開けた芝生の上で立ち話に興じていた。ミアが必死になってベルグレッテにくっついていたのも同じ。


「まだ五ヶ月前ぐらいのことなのに、もう随分と昔みたいに思えるな……って、なんか懐かしくなっちまって」

「あー、そうだったっけ。でもあのとき、エドヴィンはいなかったよねー。邪魔ものだー」


 いきり立ったネコみたいにミアがシャーと威嚇すれば、


「……そーだな」


 頭をポリポリ掻きがら呟いたエドヴィンは、そのまま母屋へ向かって歩き出してしまった。


「え、あれ、ちょ、エドヴィン……!?」


 いつもの不毛な言い合いを期待していたのだろう。ミアが勢いを削がれたように名前を呼ぶが、


「走ってきて汗かいたトコだったんでな。さっさと流しちまいてーんだよ」


 彼は振り返らずひらひらと手を上げて、建物の中へと消えていく。


「あ、あれ……どうしちゃったんだろ。あたしのせい……?」

「……いや……その前から、ちょっとおかしかったな」


 ベルグレッテが「来年もみんなで祭りを楽しもう」と言った際のエドヴィンの反応にも、流護はどこか釈然としないものを感じていた。何やら、場の雰囲気のために渋々頷いたような。

 ベルグレッテも同じ違和感を覚えたのだろう、無言で彼の消えていった扉を見つめている。


「うう、どうしちゃったんだろ……?」

「エドヴィンだって今を生きる若かりし青少年だからな。悩みの一つや二つぐらいあるだろうし……気にすんなって」


 もっともらしい言葉を並べつつ、流護はしゅんとなってしまった元気娘を慰めた。


「……そうね……、わ、っと」


 ベルグレッテが頷いた瞬間、その耳元の大気が緩やかに振動した。広がる波紋は、通信の神詠術オラクルの証。


「こんな時間に……誰かしら。……リーヴァー、ベルグレッテです」


 少女騎士が訝しげに応答する。

 確かにまだ、時刻は午前六時を過ぎたばかり。明るくなってきたとはいえ、誰かに通信を飛ばすには早過ぎる時間だが――


『リード・オーヴァー! 私だ! 元気にしてたか、少女ベルグレッテよ!』


 凛々しい女性の声が響き、三人はそれぞれビクッとしてしまった。しかしすぐさま、ベルグレッテが慌てて応答する。


「その声……、アマンダ! アマンダなのね!?」

『そうよー。久しいわね、ベル。うむうむ、変わりないようで何よりだわ』


 勇ましい、というのだろうか。何とも凄みのあるハスキーボイス。この声の主が――リリアーヌ姫の正規ロイヤルガードにしてレインディール三大騎士の一人、アマンダ・アイード。


「本当に久しぶり……。そっちこそ、変わりないようでなにより。それでアマンダ、通信を入れてきた……ってことは……?」


 流護がこの世界へ迷い込む以前から遠征に出ており、近々帰還予定だという人物だが、つまり通信の術が届くほど近い距離までやってきたということになる。

 が、そんなアマンダの答えは予想外にすぎるものだった。


『いやー実は、もう城に帰ってきちゃったのよね』

「っ、え!? じゃあ今、もう王城にいるの!? 帰還は十三日のはずじゃ……?」

『いやそれがねー。色々前倒しになったから、いきなり帰って皆を驚かそう、って話になって。でもいざ戻ってきたら、陛下も姫もあんたたち姉妹もいないじゃない。オルエッタ叩き起こして訊いたら、そういえば昨日はディアレー降誕祭だったなって。いやー、驚かすつもりが逆に驚いちゃった。まー聖妃もあたしもポミエも隊員も、揃いも揃って祭りのこと失念してたあたり、偉大なるディアレーには本当に申し訳ないといいましょうか』


 あっはっはっ、と彼女は快活に笑う。


「も、もう……驚かそうだなんて、どうしてそんなことを」

『あっはっは。やっと帰れるーってんで、皆して変な盛り上がりになってたワケよね。ともかくそれで、ベルならこの時間でも起きてるだろうなと思って、通信を入れさせていただいた次第なわけ』

「もう……それで、いつ頃戻ってきたの?」

『一時間ほど前よ。今は久しぶりの自室で寛がせてもらってる。やっぱり、自分の部屋は落ち着くわ~。あ、それで――』


 長くなりそうなためか、ベルグレッテは目配せして庭の隅へと移動していく。が、アマンダの堂々とした低めの声は、結局のところ流護たちの下まで届いていた。

 それから聖妃の安否確認や旅についてなどの会話を交わし、十分ほどで通信を終えた。

 そこでぴょんぴょんと飛び跳ねたのはミアである。


「うわわー、アマンダ様の声こんなにはっきり聞いたの、初めてかも……!」


 レインディール国民の一人たるミアとしては、憧れの存在でもあるようだ。

 ラティアス・オルエッタ・アマンダの三名は、レインディール最強騎士として広く民たちにも知られている。


「やっぱりかっこいいね! 男勝りなお姉さんってかんじ!」

「あはは……」


 そんな無辜むこの民憧れの女騎士、そのざっくばらんな一面が通信からだだ漏れとなったためか、ベルグレッテは何とも居心地悪そうに苦笑う。


「確かになんか、豪快っぽい人だったな」


 貴族らしくないというか大雑把というか豪放というか。会話を聞く限りでは、そんな印象の人物だった。流護としては、気取って貴族然としているより好感が持てる。

 ともかく聖妃エリーザヴェッタとロイヤルガードのアマンダがついに帰還したため、ベルグレッテら姉妹は今日中に城へ顔を出しに行くことになりそう、とのこと。遠からず流護も顔合わせのために呼ばれると思う、と少女騎士は補足した。


「あ、ところでリューゴ」

「おう、何だベル子」

「その……どうして、こんな朝早くから洗濯してるの?」

「…………」

「そうそう、あたしも気になってたんだよね。自分でやらなくても、宿の人に頼めば洗ってくれるよー? なに洗ってるのー?」

「…………」


 じゃぶじゃぶ。派手に泡立てて隠す。

 そんなこんなで、また新しい一日が始まった。

 今日は平常日だが、降誕祭の振り替えのようなもので学院は休みとなる。ベルグレッテとクレアリアは城へ行ってしまうことになるが、たまにはまったりと羽でも伸ばそう――

 と、そう思う流護だったが。


 酒もすっかり抜けたアルディア王の要請により、学院に戻ることなくそのまま城へ同行することとなった。

 聖妃らの旅の目的。王が抱き続ける理想。

 それらが事態を思わぬ方向へ導いていくことになるなど、知るよしもなく。

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