2. 異世界へようこそ
「…………あ?」
半開きになった流護の口から、ひどく間の抜けた声が漏れていた。無理もない。
俺は住宅街のT字路にいたはずだ、と。
それが、見渡す限りの草原。青白い月明かりに照らされ、地平線まで延々と続いている。
ぽつぽつと申し訳程度に細い木々も見えはするが、あるのは基本的にただひたすらの草の波。膝丈のそれらが大地を埋め尽くし、風に洗われるままにそよいでいる。
「……いや、……、……え?」
地平線から上は、青みがかった黒。時間が夜であることは間違いない。
では、場所はどこだ。住宅街の近くに、こんな場所はあったか。あの近辺のことはよく知っている。考えるまでもない。
――左右、百八十度を見渡す限り、あるのは青白い草の海。
手にしたままの携帯電話を確認する。買い物袋がなくなっていたが、そんなことは今どうでもいい。
液晶画面に表示された日付、時間ともに異常はない。しかし電波だけが圏外となっている。
それにしても月明かりがやけに眩しい。やたら青白い光が液晶に反射して、見づら――
青い……、月明かり?
学校の帰り、月が出ていなくて住宅街が寂しく感じたのを思い出す。今になって月が出てきたのかと考えて、流護は夜空を見上げた。
「――――――――」
絶句した。
月。とてつもなく巨大な月が、空を覆っている。
いや。ただ巨大……などという規模ではない。夜空の闇と覇権でも争っているのかと思う大きさ。すぐにでも地表へ激突してしまうのではないかと危惧する大きさ。夜空の四割近くを埋め尽くしている。
完全に思考が停止してしまったところへ、
「あの、なにしてるんですか?」
小さく声が聞こえた。女の子の声。
呼ばれたというより、ただ声に反応して、流護は振り返る。
さざめく草原に、一人の少女が立っていた。
あまりに青く明るい月光のため正確な色は分からないが、おそらく栗色だろう長い髪。年の頃は、流護と同じぐらいに見える。控えめな雰囲気で、地味系少女とでもいうべきか。これもワンピースというのか、上衣とスカートがひと続きとなった、飾り気のない質素なデザインの服を着ている。おそらく普段着だろう。
おそらく、だろう、という表現が連続するのは、あまりに少女が現実離れした格好をしているからだ。
歴史や美術の教科書に載っている、中世の農民のような服装だった。
「……あの……?」
黙ったまま見つめてくる相手を不審に思ったのだろう、少女の声音に警戒の色が混ざる。
焦った流護は、何も考えず咄嗟に喋り出した。
「なっ、何コレ」
「えっ?」
――落ち着け。落ち着いて、状況を分析しろ。空手で培った平常心を保つ胆力は、この局面において無駄ではないはずだ。
理解できない状況に陥ったとき、無理に脱しようとするよりも、まず何ができるのかを考えよ。幼少の頃から通っている道場で習ったことだった。
「いや、えーと、道に迷っちゃったみたいで……ここは、どこなんすかね?」
「……こんな時間に、ですか? ここはサンドリア平原ですよ。すぐそこに街道があります。というより、街道に出ましょう。このへんはコブリアもいますし、危ないです」
あっさり平常心が瓦解しかかった。
何かよく分からない横文字が混ざりまくっていなかったか。
少女の格好。横文字。
以前、テレビのオカルト番組で見た覚えがある。気がついたら、ありえない長距離を移動していたとかそういう話を。霧に包まれ、七千キロも離れた場所に一瞬で移動したなどという内容だった。
流護は霊や超常現象の類を全く信じていないほうでもない。ロマンがあると思う。しかし、自分で経験したことはさすがになかった。
「……えと、とにかく。危ないですし、そこの街道まで出まし――」
そこで、少女の声を遮る異音が混ざった。
ガサガサと、何かが蠢く音。キーキーと、何かが発する声。
「……あ――」
少女の顔色が蒼白に変わる。草むらをかき分けて姿を現す、『ソレ』。
「――――」
少女だけではない。ぞくり、と。流護は、自分の体温が下がったのを自覚した。
その体長は四十センチほど。体毛は黒に近い茶色で、小動物といえるだろう。
しかし、異様なのはそこからだ。不器用ながらも二足歩行し、キーキーと喚わめきながら、しかし人間とは似ても似つかぬ大きく裂けた口で笑みのような表情を見せ、顔の上半分を占めるほど大きなギョロリとした目が二つ。
ただ一言、『薄気味悪い』。そうとしか表現できない生き物だった。
「やっぱり……コブリアがっ……」
消え入りそうな、少女の怯えた声。
コブリアなんて名前の生き物は聞いたこともない。
最近は珍しいペットを飼ったものの、世話をしきれずに捨てる人も多いと聞く。流護は少なくとも、こんな気味の悪い生き物を飼ってみたいとは思わなかった。
この生き物は何なのか。それはよく分からないが、しかし今、確実に分かることがあった。コブリアと呼ばれたその存在が、何をしようとしているのか。大きすぎる裂けた口が見せる、背筋の寒くなるような笑み。そこから覗く、びっしりと生え揃った鋭い牙。
コブリアは、少女のほうへと顔を向ける。
「い、や――」
それが合図だった。
喜々とした邪悪な笑みを浮かべながら、コブリアが少女に飛びかかった。まるで放物線を描くボールのように。
刹那、地面が爆裂した。
流護の蹴った大地が、草の波を散らす。その一足の踏み込みで、流護はおよそ四メートル近く離れていたはずのコブリアとの距離をゼロにした。
続く、パァンという快音。素早く、しかし丁寧に繰り出した右中段突きは、コブリアを竹トンボさながらに弾き飛ばす。軽く四、五メートル以上を滑空したコブリアは、放り投げたゴミのように大地へ打ちつけられた。
「……っ、ふっ……」
額には、珠のような汗が浮かんでいる。突き出したままの右腕は、かすかに震えている。どっしり構えたはずの両足は、膝が笑っている。
咄嗟。ただ咄嗟の行動だった。このままでは少女が危ないと思った。次の瞬間、突き動かされるように身体が動いていた。
ギィ、と濁った声が上がる。見れば、起き上がるコブリア。しかしこちらに向かってくることはなく、小走りで遠ざかっていった。
「っはあっ……」
大きく息を吐く。目測を誤ったのか、思った以上に踏み込んでしまい、手打ち気味の腰が入らない拳になってしまったが……追い払えただけで上出来とすべきだろう。
「す、すごい! なんですか今の!」
軽く飛び跳ねる勢いで、少女が感嘆の声を上げる。
「……だ、大丈夫か……?」
対する流護は何とか声を絞り出す。
「は、はい! これもイシュ・マーニのお導きですね。あっ、もちろんあなたにも感謝を!」
「そ、そりゃ……よかった」
安堵の溜息と共に一歩、少女のほうへ踏み出す。
(……?)
違和感。
あまりに必死で気付かなかったが……何だろう。身体が、軽い。立ちくらみだろうか。
こんな状況だ。眩暈の一つ起こしたっておかしくはない。
流護は自分にそう言い聞かせることにした。
最初は三百六十度どこまでも草原が続いているのかと思ったが、流護が立ち尽くしていた場所の後ろには、なだらかな丘や小さな池、小規模の森が遠く見えていた。
少女に連れられ、開けた街道へと出る。街道とはいうが、草のない土の大地に、ただ踏みならしただけの跡が前後に延々と続いているだけのものだった。
現代の日本に、ここまで整備されていない道があるのだろうか……。となると、やはり――
「……えーと、訊きたいことがあるんだけども。それも結構たくさん」
「あ、は、はい。でもここだと危ないですし、落ち着ける場所に……、小屋まで戻ろうかな。こっちです、ついてきてください!」
四、五分ほど歩いただろうか。林というほどの規模でもなく木々が乱立する街道の外れに、強すぎる月明かりに照らされてなお見落としてしまいそうな、こぢんまりとした小屋が建っていた。小屋の脇には小さな畑があるようだ。
「狭いですけど……どうぞー」
薦められるまま、小屋に入る。
壁に立てかけられた鍬。部屋の隅に積み重ねられた藁の束。部屋の中央に置かれた木製のテーブル。その上に置かれたカンテラ。テーブルとセットになって置かれた椅子。……カンテラ?
訝しく思いつつ、釣られるように天井へと目を向ける。照明器具の類が見当たらなかった。
まさか電気が通っていないのだろうか。今の時代に。
「どうぞ座ってください。それで……ききたいことがあるんでしたよね。道に迷ったんですよね? このあたりの人じゃないですよね、見かけない服ですし。長い旅ですか? あ、行き先はレインディールのお城じゃないですか? 姫さまお美しいですからね! いやでも個人的にはベルグレッテさまもおすすめ! 美人だしカッコイイですし!」
……薄々、思ってはいたが……それでも、訊かねばならない。
「ここは……日本じゃないのか」
「ニホン? ってなんですか?」
一瞬で何千キロも移動してしまうというオカルト。見知らぬ場所へ放り出されるという怪異。実際に自分の身に起こったとして、外国なんて――がい、こく?
「いやいやいや! 日本語喋ってるじゃん!」
「ニホンゴ? ってなんですか?」
そうくるかよおっ! 椅子からズリ落ちそうになるのを必死で堪える流護だったが、続いて放たれたのはトドメを超えたオーバーキルの一撃。
「今夜のイシュ・マーニはいつも以上にお美しいですけど……やっぱり、部屋の中だと暗いですね。よっ……と」
少女は何も持たない手から生み出した炎で、カンテラの蝋燭に火を点した。
「………………」
「え? な、なんですか?」
流護は無言で少女の手をまじまじと見つめる。やはり、その手には何も持っていない。マッチやライターはおろか、何も持っていない。
「ど、どうしたんですか?」
彼女は恥ずかしそうな表情を浮かべ、両手を後ろ手に隠してしまった。
「……あ! ヘタクソだなーとか思ったんでしょ。どうせ私は初級の神詠術しか使えないですよーだ!」
うん。何か拗ねてるっぽいのは可愛らしいんだけど、何を言ってるか全然分からないんだ。
流護は涙しそうになった。
外国ならまだマシだったのだろうか。言葉が通じる分、こちらのほうがマシなのだろうか。
とにかくもういい。異世界召喚モノのファンタジーでよく見る手法を、まさか自分が実践することになるとは思わなかった。さあ、始めよう。
「ええとだな。俺、実は記憶がないんだ」
「ええっ!」
少女も相当驚いたようだが、今の自分ほど驚きと混乱真っ最中の人間はいない、と少年は自負する。それでもこんな状況の中、落ち着いているほうだろう。褒めてもらいたいぐらいだ。
「それじゃあ、名前とかも……?」
「名前は有海流護だ。よろしくな!」
都合のいい情報は出していく。逆になんかもうテンション上がってきた。
「アリウミリューゴさん?」
「流護でいいぞ」
「わかりました、リューゴさん。あっ。私は、ミネットです。ミネット・バゼーヌ」
「ミネットか。ステキな名前だな! ハハハ!」
「はっ、はぁ……」
ちょっと引かれた。それはともかく、当然のように外国人ライクな名前だった。
「……で、だ。記憶がないからさ。当たり前のことを聞きまくってしまうかもしれない。そこは了承してほしい」
「はっ、はい」
ピン、と背筋を伸ばすミネット。
「ええと。ここはどこなんだ?」
「はい! レインディール王国領、サンドリア平原です!」
うむ。元気があってよろしい。あと全然分からん。
「ええとだな……なんつうかな。領土? とかじゃなくて、もっとデカい規模でここどこっていうか……世界っていうか……」
「き、記憶がないんですものね。わかりました。えーとですね」
緊張した面持ちで、ミネットは息を吸い込んだ。
「私たちが住んでるこの世界は、『グリムクロウズ』と呼ばれてます。創造神ジェド・メティーウのご加護のもと、私たちは日々を暮らすことが許されているんです」
やはり……地球ですらないのだろうか。さすがに信じられるものではない。
「うーん。さっき外で襲ってきたアレは?」
「……コブリアですね。さっきは本当に、ありがとうございました……」
思い出したのか、ミネットの顔が少し青くなる。
「コブリアは、このサンドリア平原一帯で多く見かける『怨魔』です」
「おんま?」
やけに日本語チックな響きだった。
「怨魔は、他の動物と違って著しく人に危害を加える危険な生物のことです。学者さんたちも研究してて、補完書に記録されて細かくカテゴリー分けされてます。あまり、研究が進んでるわけではないそうです……。最高ランクのSから、最低ランクのEまで。コブリアはEですけど……それでも、私みたいな平民の手には負えません」
『怨魔』という日本語風の言い回しかと思えば、『ランク』や『E』なんて単語も平然と出てくる。
「いや……あれって、そんなにやばいヤツなのか? なんかゴミみたいに飛んでったけど」
「いやいやいや、リューゴさんがすごいんですってば!」
確かに見たことのない生き物だし、薄気味悪いし、あの牙で噛みつかれたら危なそうだが、落ち着いてきた今なら、また襲われてもおそらく余裕を持って撃退できる……と空手少年は考える。
「あとは……、そうだな。さっき、道具とか使わないでコレに火をつけたけど……」
流護は二人の間にあるテーブル上に置かれたカンテラを指差す。カンテラの内部にある蝋燭は、細々と火を揺らめかせていた。
「『神詠術』です。そこまで忘れちゃうものなんですね……。神詠術は、人が本来秘めてる属性をこの世に顕現してなんとか……だっけ? 私は学院の生徒じゃないのであまり詳しくないですけど、そんな感じに言われてます。神さまが与えてくださった力なんですよ。さっきみたいに軽く火をともす程度なら、火属性を持つ人であれば誰でもできますよー」
そう言って、人差し指に小さな火を点してみせるミネット。
「お、おおーすげえ!」
やはりライターやマッチを隠し持っている訳ではない。手……指先に、火が点っている。
「……わ、私はこれぐらいしかできないですけど……」
流護がまじまじと見つめていると、ミネットはすぐに火を消して、手をテーブルの下へと隠してしまった。
「強力な火の『詠術士』になると、すごい火柱とか出せちゃったりするみたいですね。ともかくリューゴさんも、忘れてるだけで、なんらかの神詠術は使えるはずです。人はみんな生まれつき一つだけ属性を持ってて、その属性の神詠術を使えますから。というか、さっきコブリアをやっつけたのがリューゴさんの術じゃないんですか?」
流護は当然、そんなものは使えない。
「いや、ただの素手だよ。さっきのは」
「ええっ! 素手だけで怨魔をやっつけるなんて……王宮の騎士でも無理だと思いますけど。だってもう、リューゴさんの動き全然見えませんでしたもん。リューゴさん消えた! コブリアふっとんだ! みたいな! てっきり風の神詠術を使ったのかなと」
……確かに、無我夢中で大地を蹴り、あのバケモノを殴った。身体が軽い感覚はあったが、そんな魔法めいたものではない。
「でも素手だけで怨魔をやっつけるなんて、まるで『竜滅書記』のガイセリウスさまみたい。やー、現代に転生したガイセリウスさまだったりして!」
何やら一人で盛り上がるミネットをよそに、流護は思考する。
怨魔と呼ばれる怪物がいる。神詠術という魔法めいた力がある。その神詠術が使える人間は詠術士と呼ばれている。メイジという単語には馴染みがあった。ゲームや漫画などでよく出てくる、魔法使いのことだ。
「記憶がないということは、『竜滅書記』のこともお忘れでしょう、ええそうでしょうとも! 書記に記される伝説の勇者さまことガイセリウスさまは、ときには手にした大剣グラム・リジルで、ときには素手で、怨魔たちをばったばったとなぎ倒したそうです。有名なのは邪竜ファーヴナールをグラム・リジルで退治なさったお話ですね!」
「ふーん。有名な話なのか?」
「知らない人はいません! みんな、子供の頃にはこのお話を聞かされて育ってるはずです。もちろん、リューゴさんも」
当然、流護は知らない。まあ、ミネットがその話をえらく好きなのは伝わってきた。
「……ん? ところでさ、みんな生まれつき神詠術だかが使えるってことは、つまり人はみんな詠術士ってことになるのか?」
「いいえ。公的機関で検査を受けて一定以上の『魂心力』が認められないと、詠術士にはなれないんです。魂心力っていうのは、人が生まれつき持ってる内側の力……? みたいなものだそうで。私は検査の結果で魂心力がやたら弱いのが分かってしまって、詠術士にはなりたくてもなれないんです。初級の術しか扱えないのも、そういうことです……」
説明しながら、ミネットはしゅんとしてしまう。
「なるほどな。んー……詠術士なら、俺をなんとかできたり……、しねえかなあ」
「う、うーん。どうでしょうね」
とりあえず、ミネットからは帰るためのヒントになるような話は聞けそうにない。
確かなのは、こんな実在するなんて夢にも思わないファンタジー世界に来てしまったことだけだ。いや、実はまだ夢を見ている可能性もまだ捨てきれないのではなかろうか。
流護は気分を変えようと伸びをして、何気なく窓の外を眺める。
「にしても。月、デカいねえ」
「つき?」
「ああ、月。デカすぎだろ……いくらなんでも」
「つ、き? って、なんですか?」
「え? いや、月は月だけど……やたらデカいあれ」
どこへ指を向けても照準が合わさるだろう、あまりに巨大な天体を指し示す。
「そっ、そんなふうにイシュ・マーニを指さしてはいけません!」
「な、なんだあっ」
予想外のミネットの剣幕に、思わず怯んでしまった。
「あの夜空に御座しますのは、イシュ・マーニです。私たちを見守ってくださる、夜の女神さま……」
ミネットは巨大な月に向かって目を閉じ、胸の前で両手を合わせた。
青白い月明かりに照らされて祈るミネットの姿はあまりに幻想的で、あまりに美しく――流護は思わず息をのむ。
少女から慌てて視線を逸らし、考える。西洋中世ファンタジーっぽい世界。神。月という概念はないようだ。となると、太陽も同等だろうか。
しかし、無理はないのかもしれない。現代日本で育った流護はともかく、本当に何の知識も持たない人間は、空に浮かぶ太陽や月を見てどう認識するのだろうか。神だと思っても何の不思議もない気がした。
「……んー? じゃあ、『月明かり』とか『月光』とか言っても通じないのか……」
「つき、明かり? 激昂?」
祈りを終えたらしいミネットが反応する。
「あ。つきって、『白曜の月』とか『浄芽の月』とか、そういうことですか?」
「いや何言ってんだか全然分からん」
「……あの、疑うわけじゃないんですけど。つき、とか……さっきもニホン? とか言ってましたよね。なにか覚えてることあるんじゃないんですか?」
「ん? そうだなあ」
周囲の漆黒を感じさせない光を放つ、巨大な月――イシュ・マーニとやらを眺めながら、流護は溜息を吐きつつ答える。
「元の居場所に戻るのは大変そうだなって思ってさ」
「答えになってないですよね、それ」