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おっさんの冒険録  作者: おっさん
記録者:桜葉一郎 「一日目」
9/58

「おぜうさん」と出逢いました。



 ……初めて人族を「自分の手で殺っちまった」ワケだが、こうなる事は「この世界に」

来た以上は、あらかじめ覚悟済みだ。やっちまった以上は、んなもん後から「クヨクヨ」

してたって仕方ねぇ。俺は気を取り直してから、目の前にいるお嬢ちゃんに声を掛けた。


「……よっ、お嬢ちゃん。待たせちまったな。ケガとかは……してねぇか?」


「……め……なさぃ……」


 俺からの呼び掛けに、お嬢ちゃんは下を俯いたまま「ぼそっ」と何かを呟いた。

 彼女は今現在、俯いている状態だし前髪が顔を隠しているのも手伝って、その表情を

伺い知る事は出来なかった。その呟きにしても小さすぎて、何を言ってるのか分からない

くれぇに聞き取り難い呟きだったよ。……そんな彼女を目の前にして、どう対処すべきか

困り顔になって、俺は次の言葉を考えていたんだが。丁度……その時だった。


[とんっ……] [……ぽすんっ]


「……えっ? お、おい……?」


 っと、地面を蹴って。お嬢ちゃんは俺に抱き着いて来たんだ。

 ……いきなりの事に俺も少々驚いたモンだが、とりあえず受け止めてやる事にしたさ。


「ご、ごめんなさい……! わ、わたしのせいで、こんな事に……! 

 わ、私っ……! うっ……えぐっ……な、なんて言ったら良いのか……! うっ……」


 ……怖かったんだろうな可哀想に、泣いてやがる。……まぁ無理もねぇか。

 女にとっちゃ好きでもねぇ男に力ずくで「手篭め」にされちまいそうになるなんざ、

たまらなく嫌な事だろうし、怖い出来事だろうさ。……ホント、間に合って良かったぜ。


「……気にすんなって、この件の責任は全て俺が取る。

 だからお嬢ちゃんは安心しろ。お嬢ちゃんは、何一つも悪くねぇよ……。」


 俺は、そう……お嬢ちゃんに言葉を掛けてやると。


[ぐいっ……]


「えっ……? あうっ……」


 左腕でお嬢ちゃんの身体を更に引き寄せ、彼女の身体を包み込む様に抱いて

「そっと」頭を右手の掌で、撫でてやったんだ。……そしたら、お嬢ちゃんがな。


[ぎゅっ……]


 っと、自分からも俺に「しがみついて」来たんだ。……小さな身体を小刻みに

震わせてな。……うん、仕方ねぇよな。嫌なモンも見ちまったし、辛い思いも沢山した

だろうからな。……俺としちゃあ、この状況。ちぃっとばかし照れ臭くもあるんだが。

 

 ……今は、んなコト言ってられねぇ空気でもあるしよ。だもんで、とりあえず空気を

読む事にして、お嬢ちゃんが落ち着きを取り戻す迄の間、彼女の身体を支える様に

しっかりと抱く事にしたよ。しかしまぁ、ソレは良いんだが。なんか「良い匂い」が、

さっきからやたらとするんだよなぁ……。なんだろうなぁ、何かの花の匂いみてぇだ。

 この匂い、お嬢ちゃんから……かな。


 此処で、俺は「はっ」と、我に返る。……やべっ、俺! いま汗かいてるし!?

臭くないだろうか!? ……胸板に顔を埋めている、お嬢ちゃんにバレない様に

「こそっ」と、俺は「スンスン」と自分の右脇を嗅いでみた。


 うーん、マ○ダァム……って、バカ野郎! そうじゃねぇ、ボケは後だ。よし、左脇も

「スンスン」うむっ、大丈夫っぽい。昨日は風呂に入っておいて正解だったな、こりゃ。

 ……今は、お嬢ちゃんがよ。俺にくっついているので、自らの胸を撫で下ろす事は

出来ないんだが、臭っていないみてぇなのでちっとばっかし安心したぜ。


 ……あぁ、そうそう。リュック村の俺が住んでる家には「五右衛門風呂」があるんだ。

 ソコの君は「五右衛門風呂」って知ってっか? あ、いけねぇいけねぇ。いつもなら、

此処で「長い説明」をしちまうトコだが、俺って語り出したら止まらなくなっちまうから

風呂についてはリュック村に戻った時な。……まぁ、なんつーか。その、アレだ。

 この世界に来る前によ、仕事仲間の年下の子に。


「イチローさんは仕事を詳しく教えてくれるけど、その説明が長くて理解し辛いッス!」


 って、言われた事を思い出してなぁ……。んで、俺もそう思ったんだぁ。だから、

その子の意見を「これからは」聞く事にしたぜっ。へへっ……俺は、その子よりも人生を

長く生きた「おっさん」だが……そうして、年下に教えられる事もあるって話だ。


 年上だから、絶対に偉い! って、んなこたぁ一切ねぇんだからよ。年上が相手でも、

何か自分の意見があるときゃぁ、遠慮したり引いたりするんじゃねぇぞ。「その意見」を、

こうして待ってる「おっさん」も、中には……ちゃんといるモンだからなっ。


 ……んでだ、まぁそりゃ置いといて……だ。今から俺が「対処しなくちゃならん問題」

ってのはよ。ソレ以上に深刻且つ、火急を要する問題なんだ。いんぽーたんとな問題だ。


「何かが二つ」「柔らかい何かが二つ」


 そう……人間ならば、男も女も等しく平等に関係ねぇ。この世に生を受けた際に、

本能的に吸い付いてしまう「アレ」だ。「ソレ」がよ……。俺の、お腹の辺りに……

あ、あたってる……んだ。……じゃすと・ふぃっとッスよ。……密着状態とも言う。


 ……おぜうさんおぜうさん。ちょっと「ソレ」は、おっさんには刺激が強すぎる。

 もうちょっと……離れてくれねぇかなー。なんて……さ。じゃねぇとマヂで「マズい」

からっ……! 男に生まれちまった以上は仕方ねぇ「生理現象」が俺の身体に。

 今、まさに起ころうとしているんだわっ! ……あい・にぃ・どゅー・へるぷぅう!?


[ツゥ……]


 顔面に「冷や汗」が、一筋ひとすじ生まれた。


 くっ……!? し、鎮まれっ……! 俺の「ピー」! 俺の意識は「右腕」じゃなく、

どうしても「他の場所」に向いちまう。お、落ち着け! イチロー! 彼女の顔立ちは!

俺が見た所まだっ!「十六歳」位のハズっ! な、なのにっ! これはぁあぁっ!?


 俺の「ピー」は自分との年齢差、下は10歳から上は3歳迄にしか反応しないハズっ! 

な、何故だっ……!? 思春期の中学生じゃあるまいしっ!? い、いやいや今は……!

そんなこたぁ後回しだ! と、とにかく「この状況」を早くなんとかしねぇとっ……!!


 ……俺は胸板に顔を埋めているお嬢ちゃんには悟られぬ様に、俺は挙動不審者丸出しな

表情を浮かべながらも「そっと」優しく、お嬢ちゃんの両肩に手を置いて、彼女を優しく

引き離そうとしたんだが……よ。……この後、信じられない出来事がっ!?


「……っ!? も、もう少しだけっ。もう少しだけ……このままで居させて下さい……」


[ぎゅうぅう……]


 ……あれあれあれっ? どうして? なぜ? whyホワィ? ど、どうしてそうなるのかなー。

 お、おぜうさん……まさかキミ、おっさん好きなの……? わ、悪い事は言わないから

直ちに私から離れなさい。……じゃないと加齢臭がキミに移っちゃうよ? 


 ……俺から引き離される事を察したお嬢ちゃんは、俺から離れるどころか更に、逆に。

俺に「もにゅ」っと、引っ付いて来やがったんだわ。……しかもこの娘な。

「とっても良い匂い」がするんですよ。……それに加えてですね? まるで……

「当ててんのよ」とでも自己主張しているかの様な、この二つの柔らかい山……。


 ……あったけぇ……あったけぇなぁ……「コレ」はよぉ……。って! 

 おぃい!? ばっ!? バカ! バカ! バカ! バカ! 俺のっ! バカぁっ!?


 あ、やばひ。このままだとマヂで。多分、人類が其の全ては使えていない脳の部分に

眠ってる、生まれたばかりの時の「本能」が……いま、此処で呼び起こされそうだ……。


 しかも、精神的にそんな極限状態な瀬戸際でソレと同時によ……。

「やばいよやばいよ」って、どっかの芸人みたいなネタと「ソイツの顔」が、俺の脳裏を

「ふっ」と過ぎりやがったんだわ。だもんで、そんな俺には「この場」には絶対に居ない

ハズの「ソイツ」がっ! お嬢ちゃんから、ちょっと離れた向こうの木陰の方に見える! 

 ち、ちくしょうっ!? アイツっ!? なんだかとっても「良い顔」してやがるぞ!?


 ……そ、それだけじゃねぇ!? しかもなんだ!? その「親指」はよ!? 

 お、おいぃ! ま、待てって!? ち、違うから!! この「お嬢ちゃんと、俺」は!

「そんなん」じゃねぇからぁあぁあっ!? 


 ……ソイツは俺の制止を無視した上に、ヘラヘラしながら右手の親指を人差し指と

中指の間に捩じ込んだ形の握りこぶしを作ると、ソレを俺の方へ「ぐっ」と、

突き出しながら何処か満足そうな顔で頷きやがると。そのまま「すっ」と、それまで

立っていた向こうの木陰辺りから、静かに消えて行きやがったよ……。


 くっそぉ……!? あ、あの野郎っ!?「そんな真似」をされたらっ! 

 必要以上に、このお嬢ちゃんのコトを「意識しちまう」だろうがっ!? 


「ソイツ」の姿が見えなくなると同時に、俺の心臓は早鐘を、打ち始めた。


 そのせいか、頭も「ぼぉー」っと、してきたぜ……。あ、ホントに不味い……。

「弟者」も、見えてきた……。どうした……「弟者」よ……。そんなに嬉しそうな顔を

俺の方に向けて……。なに?「早くこっち側に『兄者』も来なよ?」だって……?

 ふっ……「弟者」め……。ワシに早く「こちら側」へ来いと、急かしおるわ……。

 

 俺の傍らには、天才軍師も息子達も居なかったが……俺はそう思った。

 この世に生を受け三十余年……長き闘いの日々であったわ……。


 なぁ……そこの君……。「弟者」も、俺を呼んでる事だし……よ。

「独身貴族」から「嫁」という……年貢率70%を搾取して行く「暴君」にさ……。

「一生、仕える奴隷」として……お、俺……。もう「ゴール」しても良いかな……。


 俺は、意を決すると、お嬢ちゃんに声を掛ける事にした。


 ……よっしゃ俺も男だっ! こ、こうなりゃ……相手が未成年だろうが構わねぇえ!

 おらっ!? 来いよ!?「ピー」!? その手に持ってる携帯で何処に連絡しようと

してんのか知らねぇがっ! 俺はッ! 一向に構わんッ! 


「おい、お嬢ちゃん……? 顔をあげな? いつまでも、こうしてたって仕方ねぇぞ?」


「……。」


[こくん……]


 俺の呼び掛けにお嬢ちゃんは応えてくれて、俺から半歩だけ離れて一つ小さく

「こくん」と頷くと、その顔をあげて俺に見せてくれたんだ。だがよ……。


「なんっ……だとっ……?」


 俺は、口には出さなかったが「そう思った」


 ……真近で見る彼女の顔の特徴は、眉毛も睫毛も長くて、パッチリとした二重瞼で、

瞳は透き通る様なエメラルドグリーン色の碧眼、そして……しっとりとした質感の、

瑞々しい可愛らしい唇でな。目鼻立ちの全てが整った、愛らしくて可愛い「顔立ち」

なんだが……。いかんせん、いまは「メガネ」が、ズレてて「鼻水」が、出てて……よ。

 ん……? 何処かでコケたのかな。顔に付着していたらしき土と涙が混ざってて、

この眼鏡っ娘なおぜうさんは、とっても「ぐしゃぐしゃな顔」をしてたんだわ。


 ……ふぅ、やれやれ。悪いな「弟者」よ。俺は、まだ「そちら側」へは行けそうに

ねぇみてぇだぜ……! すまぬっ……! すまぬっ……! 


 その「お陰」か、俺の丸太……じゃねぇや「ピー」も、鎮まってくれた。

 多分「さっき」のは「誤作動」に違いない。よし、後でこっそりと「初期化」しよう。


 ……そこの君なら分かるだろ? たまにはモデムから「抜いて」やらないと、

正常に機能しなくなるからなぁ。うんうん、そうしようっと。


 ……え?「なんの話?」だって? お前は、何を言っているんだ……?

「パソコン」の話に決まっているでしょーが!? まだ子供が食べてるでしょーが!?

 ……このネタ、知ってる人は「おっさん」認定してやんよ!


 とりあえず「自己完結した」俺は、気を取り直しお嬢ちゃんと会話する事にした。


「……ありゃりゃ、可愛い顔が台無しになってるぜ。よし、ちょっと待ってなよ……」


 俺は極力、彼女を怖がらせない様にと細心の注意を払いながら、自分に出来る限りの

優しそうに見える微笑の表情を作り、彼女のメガネに「そっと」手を伸ばし、

ソレを外した後は、そのメガネを彼女の頭にヘアバンドの様に戻した。


「あっ……」


 彼女が何か言いたそうにしてるが、無視だ無視。……そのまま流れるような無駄の無い

動作で彼女の表情は確かめずに、ズボンのポケットに入れていたハンカチを取り出して、

彼女の顔を綺麗にした。……よく「弟者」の「娘」の「眼鏡っ娘」が泣き喚いていた時に

「コレ」を、やってあげていたモンだからさ。コレは俺にとっちゃ手馴れたモンなのさ。


「んぅっ……!? あぅうっ……。うぶぅ……」


 ……お嬢ちゃんがなにやら呻いてるが、ソレも無視だ。お嬢ちゃんも本気で抵抗して

来ない事から察するに、自分の顔が汚れちまってるのを知ってるんだろうぜ。

 ……こういうのは、迷っちゃいけねぇ。一度「ヤル」と決めたら最後まで手を止めずに

「ヤル」のが「コツ」だ。中途半端な覚悟とソレに伴う辿々しい手付きなんかで

「ヤル」と、相手に警戒心を与える事になっちまうから、逆に相手から嫌われるぜ。


「……よしっ、コレで綺麗になった。どうだい、スッキリしたろ? お嬢ちゃ……」


 ……彼女の顔は見ずに、俺は彼女の顔を拭いていたハンカチを仕舞った。

 そして……俺は、一段落着いた所で落ち着いて彼女の顔を見てみたんだがよ……。


「な、なん……だとっ……!?」


 今度は、某戦闘民族の野菜の王子様みたいに思わず口から、そのまま出た。


「……?」


 お嬢ちゃんは、そんな驚いた表情の俺を不思議そうに見つめていた。

 ……つーか、こんなのアリか? これで驚かねぇ方が、おかしいっての……。


 ……凄い美人だ、ソレ以外に他には形容しようのない彼女の「顔」が其処にはあった。

 この娘アレだな……眼鏡を着けてると幼く可愛く見えて、眼鏡を外すとすっげぇ美人に

見えるそんな娘だ。だが多分、当人には「その自覚」は全くねぇなこりゃ……勿体ねぇ。


 ……ま、そりゃ置いといてだ。とりあえず「自己紹介」と、行きますかねぇ。

 いつまでも「お嬢ちゃん」じゃ、その「正体」を見ちまったからには「都合」が悪りぃ。

 ってなワケで、俺は名乗りをあげようとしたんだがよ。


 ソレよりも先に、彼女が口を開いたんだわ。


「あっ……。ありがとうございました。イチローさん……? ですよね……?」


 ……フッ、メガネを戻すのを忘れているぜ。おぜうさん。気付かなかったのか?

 って、いうか「その顔」で「その上目遣い」はっ……。ね、狙ってやってるのかな?

 そ、そんな眼で見られたら……ほ、惚れてまぅやろー!! まぅやろー!! 


 ……ま、待て。落ち着け、俺。う、狼狽えるなっ! ソーセージとビールで有名な国の

「ピー」軍人は! こ、こんな事じゃあ……狼狽えないっ! 狼狽えるんじゃあないっ!

 

 と、此処で疑問が一つ生じた。


 ……むっ? 何故、このおぜうさんは俺の名前を知っている? 暫し、考えてみる。

 この間、約10秒。……あぁ、そうか。そういやベネッツォと「ヤった」時に

俺が自分から名乗ったからか。……納得の行った俺は、彼女に返事をする事にした。


「……あ、あぁ。そうだぜ、俺の名前は『イチロー』だ。

 もし良ければ、君の名前も教えて貰えると助かるんだが……」


 俺は「困り顔」を作ると、右手の人差し指で右頬を掻く仕草をしながら彼女に名前を

訊ねる事にした。すると彼女は「にこっ」と微笑むと。俺に、こう名乗ってくれたんだ。


「初めましてイチローさん。私は「港町フィックス」で、見習い魔道士をやっております

 『エミリア・フィールズ』と申します。『エミリー』と、そう呼んで頂けると嬉しいですっ」



 ……これが、俺と「エミリー」との、初めての「出逢い」だったんだ。





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