表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんの冒険録  作者: おっさん
記録者:桜葉一郎 「一日目」
6/58

ちょい悪オヤジ参戦っ!



 目の前には、明らかに私へ危害を加えようと画策している男性が三人。その行為を

防ぐ為に、誰か助けを呼ぼうにも……此処は人気の無い森の中。そしてそれ以前の話に、

先程、小柄な男が私の目の前で取った行動を目にしたせいか、身体が恐怖を感じて

萎縮してしまっているらしく、先程迄は自由に動かせていた手足も、今現在は――



[ググッ……]


(うっ……。ダメだ……動かせない……)


 ……囚人用の、重い鉄製の枷を括り付けられたかのようだ。手足がとても重い……。


 実際には、そんなモノなんて付けられてはいないというのに、手足の自由が利かない。

 そして同じく声も、どんなに身体へ力を込めてみても、いつの間にか声にならない

擦れたような声しか出せなくなっている。この状態を何かに例えるのならば、そう……

就寝中に金縛りに遭ったような状態だ。そんな状態の私に出来る事と言えば、今はただ、

瞼を固く閉じてこの状況から一刻も早く解放される事を、ひたすらに強く願うのみ―― 


 ……と、その時だった。


[ボヒュッ……!]


「えっ……?」


[フッ……]


(あっ……?)


 ……風を頬に感じた。私の耳元を「何か」が、物凄い勢いで通り抜けて行く様な、

そんな風切り音も聞こえて来た。その風を感じると同時に、思わず声も出た。

 声が出ると同時に身体の緊張も自然に解けた。先程までは重かった身体が自由に動く。


 こ、これは……? い、いったい……な、何が起こったのだろう……?


「へっ……? う、うわぁあぁあぁっ!?」


[……ドッボォッ!!]


「……がはっ!? うげっ……!! げふっ!! ごふっごふっ……!!」


 小柄な男の叫び声が聞こえた。なので、それに合わせて恐る恐る瞼を開けると、

その叫び声の主……ズボンを下ろしていた小柄な男が、いつの間にか大きな麻袋の下敷きに

なっている形で呻いていた。とても重そうな麻袋だ。恐らく、この麻袋が小柄な男の胸部へ

激突した事によって肺を強く圧迫し、肺の中の空気を強制的に排出させたのだろう。


「……はぁ。ったく、この『公然わいせつ罪』野郎が。今時ストリートキングなんて

 流行らねぇぞ。うん……? 森の中だからフォレストキングか……? まぁ良い、

 晩飯前に小汚ねぇモン見せるんじゃねぇよ、アホ。……謝罪と賠償を要求すっぞ?」


「……えっ?」


[クルっ……] 


 ……不意に後ろから声がした。振り返ると、とても逞しい筋肉質な男性がいた。


 その男性から窺える他の特徴は、頭には白いタオルを頭巾代わりの様にして巻いていて、

上着は薄緑色の半袖シャツ一枚だけで、同じく薄緑色のコットン製らしき質素なズボンを

身に着けているのが確認出来る。そんな彼の顔作りはと言うと……。


[……チラッ]


 ……あぁ彼は、この大陸出身の人族じゃない。多分、この大陸の東方の島国地域に

住んでいる「ワノクニー」地域出身の人族か、そのワノクニーと同じく、この大陸から

海を隔てた所にある、東方の島国地域に住んでいる「シンギ」地域出身の人族だろう。


「……よぉ、お嬢ちゃん。安心しな、俺はソイツ等の仲間なんかじゃねぇからよっ?」


[にぃ……]


 その逞しい男性は、そう口にすると「にぃ」っと、口髭の生えた口角を歪めた。

 私には東方の島国地域に住む人族の知人は居ないのだけど、この人は――


「あっ……」


 な、何故だろう……この人とは此処で初めて会ったばかりなのに……。


 う、上手く言えないんだけど。この人が私へ向けてくれた笑顔は、とても

大きな安心感と安らぎを私に与えてくれる様な、そんな不思議な「笑顔」だ……。


[スタスタ……] [……スッ]


「……任せとけ」


「は、はぃ……」


 ……その逞しい男性は、そのまま私の方へ歩み寄り、私の横を通り過ぎる際に小さく

「任せとけ」って囁くと、私を庇う様に私の前に立ってくれた。凄く大きな人だ……

身長百六十センチの私と比べるのが間違いなのかも知れないけれど、近くで見ると

改めてそう思う。力強そうな太い腕、厚い胸板。背中には背負子を背負っていて、

つい先程、小柄な男へ向かって飛んでいった大きな麻袋が四つも括り付けられている。


 そんな彼の腰には木製の鞘に収められた質素な作りのナイフが一本だけ。

 右手には何も持っていなかったけど、左手にはツルハシがしっかりと握られていた――






 ……騒がしい気配を感じたからと、行ってみりゃ「当たり」か――。



 日暮れに差し掛かっていて、森の外はオレンジ色した陽光の明るさだけというのにも

加えて、頭上に生い茂っている木々の枝から生えている葉っぱのせいで、この森の中の、

他の場所の視界は薄暗くてわりぃんだが……この場だけは、頭上に陽光を遮る木々の枝

とか葉っぱだとかがねぇから、今、この場に居る全員の顔はハッキリと見て取れる。


[ジィ……]


(……ふん、なるほどねぇ)


 若干数名、一目みただけで悪人丸出しな堅気じゃねぇツラした奴等も居るけどな。

 さて、大雑把な説明はこんくれぇにしといてだ、どんな奴等がいるのかと言いますと。


 ゴロツキ風な野郎が三人に、ちっこいお嬢ちゃんが一人いるんだわ。この場の空気から

察するに大方、この嬢ちゃんを寄って集って手篭めにして慰み者にしようとしてた……

ってトコかな。あぁ、ゴロツキ共の身体的特徴は森の景観的に考えて、その美観を損ねる

から後回しにする事にして、まずは……さっきのお嬢ちゃんの特徴から話す事にすっけど。


 今、俺の後ろには欧州系白人の顔立ちした、ちっこいお嬢ちゃんが居るんだよ。

 遠くから見ると金髪のショートカットっぽい髪型だったんだが、さっきすれ違った時に

見たらよ、後ろ髪を蒼い紐を使って馬の尻尾みてぇに巻き上げてて、やけにモミアゲだけ

長く垂らしている様な、そんな髪型の娘だったぞ。髪を下ろしたら多分、背中の中央辺り

くれぇ迄はあるんじゃねぇの。年の頃は十六歳くれぇ……かな。


 俺と同じ日本人顔だったら、この世界に来る前にやってた商売柄、相手が幾つくれぇか

聞かねぇでも分かるんだが、異国の人が相手の場合だとやっぱし分かりづれぇよなぁ。

 うーむ、どうすっか。はぅ、おーるど、あー、ゆーって、聞いてみっか? 


 ……あぁ、この世界の外国人さんは日本語で大丈夫だったか。良かった良かった。


 そんでまぁ、髪型以外に気になるその娘の身体的特徴はよ、バランスを崩さない程度に

限界ギリギリ迄、出るトコは出てて引っ込むトコは引っ込んでる様な、そんな女性らしい

体型だ。胸だけやったらめったらデカイ様な、そこら辺のエロゲに出てくる様な、

ああいう変な体型じゃねぇから安心しろ。おっさんは、ちっとああいうの苦手なんだわ。


 大事な事だから二回言ったかんな。何事にもバランスって、大事だと思わねぇか? 


 ソレでだ、その娘の服装は……っと。青色のスカートを穿いてたんだが、その固定は

ベルトで固定しているワケじゃなく、どうやら袴と同じ紐留め形式みてぇだったぞ。

 後腰の辺りでスカートと同じ青色の紐を蝶々結びにしてるわな。上着は白いブラウスを

身に着けていた。履いてた靴は革製の茶色いブーツだな。その姿をイメージし難かったら、

ほれ……アレだ。何処とは言わんが、ヨーロッパの小洒落たカフェテラスに行った際、

オーダーした軽食を運んでくれる女性のウェイターさんを思い浮かべてくれりゃ良い。


 この娘の服装って、まさしくそんな感じなんだ。清潔感のあるスッキリとした服装だよ。


 最後に顔だが、どんな顔してるのか、つーと。髪と眉毛はパツキンで、エメラルドの様な

澄んだ碧眼の上にフレーム無しの楕円形を横にしたっぽいレンズの眼鏡を着用していてな、

目鼻立ちの整ったカワイ子ちゃんだったわな。図書館とか、なにやら難しそうな参考書

とかを持ってるのが似合いそうな、真面目な眼鏡っ娘って言ったトコかね。


 まぁ、この嬢ちゃんの紹介はコレくれぇにしといてだ。


(……さて、どうすっかねぇ?)


[チラリ……]


 俺は、ゴロツキ達をチラリと見た。三人とも黄色い布切れを巻いてるトコから察するに、

こりゃあ……他にも仲間が居やがるんじゃねぇかな。まさか三兄弟だから、三人揃って

仲良く同じトレードマークで揃えてる……って、訳でもあるまい。


(むっ……?『兄弟』……か……)


 そのキーワードを思い付く度に、俺の脳裏には「ある事」が思い浮かぶ。


 ……余談だが、俺は昔、二十歳くれぇの時に勤め先からボーナスを一杯貰ったから、

俺の奢りで高校の時からのツレを誘って「風俗」に行った事があってな。んで、その店を

出た後で合流予定にしてた居酒屋の中でよ、ソイツと話した内容から判明したんだが。

 ど、どうやらソコの店で「同じ娘」に当たっちまったらしく、ソイツと「ピー」兄弟に

なっちまった事なら……ある……がよ……。ぬああぁ!? お、思い出しちまった!


 し、仕方ねぇから話すが。こ、コレは、その時の会話の内容だ――



「おぃおぃおぃいっ!? ちょっ!? マジかっ!?」


「マジだって!!」


「ってこたぁ、お前は……俺の後に……?」


「うん……一時間位は待たされたからね、間違いないよ……」


「あぁ、それで遅かったってワケなのか……。俺は、てっきりオメェが延長してるって

 思ってさ……。だもんで、俺はオメェのこと『サルだサルっ!』とか言って、

 オメェの絶倫ぶりに腹を抱えて笑ってたんだが……や、やっちまってたんか……」


「だね……やる事やっちまった上に、更にやっちまってるよ? 俺ら……」


「誰が上手い事、言えと……」


「……兄者と呼んでも、良いッスか……?」


「よせ、バカ野郎……。俺は頭がいてぇんだよ……」


 ……その日は、二人とも記憶無くす迄、呑んだっけなぁ。その日以来、

俺もソイツも「風俗」はピッタリと辞めた。俺は、独身貴族のままだが、

アイツはいまじゃ嫁さん一筋の女の子二人、男の子三人の立派な五児のパパだ。


 ったく、無茶しやがって……あのバカ野郎がっ……。まぁ、アレだ――



「生まれた日は異なれど、我等兄弟! 死ぬ時は! 同年同月同日を願わん!」


 って、言って誓い合った「居酒屋の誓い」を先に破って「兄者」である俺を遺して

先に逝ったんだ。「弟者」よ、少子化日本の為に「粉骨砕身」頑張れよぉ? イッヒッヒ。


 ……はい、またもや脱線しました。だって喋り出したら止まらない、それが「おっさん」

クオリティだもんよ。こんなんだから最近の二十代は俺のコトを嫌ってるのかねぇ。

 だが俺はっ! 退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 俺に着いて来る奴だけ限定で、

呑みに連れてってやるぜっ! って、この世界から戻れるかも分からんってのに。


 元気にしてっかな、あいつら……。下半身的な意味じゃなくて健康的な面でだけど。

 まぁ、脱線はコレくれぇにしといて。ってなワケで、話を戻すとするぜ―― 



 お嬢ちゃんだけ逃がしても、このゴロツキ達の仲間が近くにいりゃアウトだし。

 もうそろそろ陽も落ちきって、辺りは真っ暗になるだろうしなぁ……どうしたモンか。

 ゴロツキ達を見据えながら俺は、このお嬢ちゃんをどうやって無事に行かせてやるかの

算段をしていたんだわ。するとゴロツキ達の中の一人「モヤシ」みてぇな青瓢箪から

声を掛けられたよ。大抵のゴロツキってのは、こういうモヤシタイプだわな。


「おい、てめぇ……いったいナニモンだ? どっから涌いてきやがった?

 俺達を『イエローシーフ』だと、分かっててやったんだろうな……?」


 モヤシ男はニヤニヤしながら頭に巻いた黄色いバンダナを指先で「トントン」と、

軽く小突きながら俺に見せ付けて来た。知るかよそんなモン、ただの黄色いくっさい

バンダナだろうが。だもんで、ソレが何を意味するのか知らなかった俺は、モヤシ男の方へ

身体を向けて「お話」してみる事にしたんだわ。誠意を持ってキチンとお話すれば、

相手も必ず分かってくれるって。うんうん、お話しましょう、そうしましょう。


「……あぁ? イエローシーフぅ? なんだそりゃ?

 巨乳のねーちゃんが、一杯所属してる事務所の事かぁ?」


 まずは小粋なジョークを一発かましてみる。こういうのはな、相手をバカだと思って

対応すんのが良いんだ。警察官が凶悪犯に対して毅然とした態度取ってるだろ、要は

アレと一緒なの。別にガン付けられようが大声出されようが、ソレだけじゃコッチは

怪我したりはしねぇんだ。変にビビッて挙動不審になったり、相手の威圧に負けて

下手に回ろうとしたりすっから「ソコ」を付け込まれちまうのさ。いやマヂで。


 まぁ……ホントに「ヤバイ奴」は、ゴチャゴチャ言わずに無言で「来る」けどな。


「なんだ、知らねぇのか……。まぁこんな辺鄙な田舎じゃ知らねぇのも無理はねぇか。

 ならいい、質問を変えるぜ。てめぇはナニモンだ? ……田舎モンとか抜かすなよ」


「……っ!」


 俺は、モヤシから聞かれた事に対して、咄嗟に某ネコ型キャラの自己紹介を

真似しそうになったが、慌ててなんとかそれは堪えた。だって、知らねぇだろうし。

 ちっ、このモヤシ野郎、巨乳のねーちゃんの事は無視かよ。センスのねぇ野郎だ。

 ノリの悪い奴を相手にすんのは疲れるが……まぁしょうがねぇ。


 ってなワケで、仕方ねぇので俺は、ノリの悪いモヤシ野郎へ口撃を仕返す事にしたさ。


「……おいおい、俺の格好を見て分からねぇのか。アッタマわりぃなぁオメェ。

 悪いのは顔だけにしといて下さいよ、俺がピザの配達人にでも……みえっか?」


 さぁて、どうだ。どう出るモヤシよ。ふっふっふ。

 コイツにノッてくれりゃぁ、キツーい「デリバリー」を御馳走してやれんだが。


「……あぁ、俺にはピザの配達人に見えるなぁ。そういや……そうだな。

 ちょうど腹も減ってたトコだ、一枚くれねぇか。勿論、代金はテメェ持ちでな?」


「チッ……」


 ……チッ、なるほど。ここまで「おちょくれば」コイツは乗って来るだろうと

踏んでたんだが、どうやらコイツは「冷静」な奴みてぇだ。めんどくせぇなぁ――

 


[ニヤニヤ……]


(……む? ……ふん、余裕じゃねぇかよ)


 ノリの悪いモヤシの相手をしつつ、ふと、そのモヤシの背後へ目をやると、丸刈り野郎は

モヤシから少し離れたトコでさ、俺とモヤシの「お話」をニヤニヤしながら高みの見物と

ばかりに愉しんでやがったわ。ソイツの態度も気に入らねぇが、今は目の前のモヤシを

なんとかしなきゃだから、とりあえずは受け流しておく。んで、その丸刈り野郎から

視線を外して、今度は俺の足元に近くに転がってる変態の方へ目をやると……


「ぐぐっ……! はっ、はっ、はっ……! うぐぐ……!」


 その変態は、相変わらず麻袋を抱きしめて必死に呻いていたぞ。


(そんなに気に入ったのか、その麻袋。あ、でもソレ売りモンだからやんねーぞ)


 そんな事を思いながら、俺は変態からモヤシに視線を戻した。……あ、そーだ。

 いいこと思いついた。だったらそこのモヤシ、てめぇの「ノリ」に乗っかってやんよ。


「……ピザですかぁ? 分かりました、ただいまお持ちいたしまぁす。少々、お待ちを」


 そう言って俺は、おもむろに背負っていた「背負子」を背中から降ろし――

「ソレ」を「変態の上に向かって」無造作に放り投げた。「ていく・でぃす!」だな。


[……ドンッ!]


「……ッッッッッ!!」


[バタバタバタッ……!!]


「……あっ!? て、テメェ……!?」


 あっ、変態の表情が面白い具合に変わりやがった。……ナニ、コイツ。顔芸人? 

 モヤシの奴も、その光景を目の当たりにして俺へ向けて抗議の声を上げて来たわ。


 ……まぁ麻袋一つで大体二十キロだ。さっきまで変態が抱えてたのが、その一つな。

 ソコへ更に同じ位の重さの麻袋を、おもむろに四個乗っけてやったんだよ。

 そしたらその瞬間、変態は声にならない声をあげ、更に激しく両足をバタつかせ始めた。

 幾ら変態だからって、そんなに喜ばなくても良いのに。ってか、キモいなコレ。


「……おぉ、活きが良いな。釣り上げたばかりの魚みてぇだぞ、オメェ。はっはっは」


「こ、この……!」


[ニヤリっ]


 変態へ向かって、見たまんまの素直な感想を述べる俺。

 その途端にモヤシの顔色がみるみる紅潮していく。

 ソレに合わせてモヤシへ対し、渾身のドヤ顔を決め込んでみたお茶目な俺様。すると――


「……っ!!」


 そんな俺の態度を見て、モヤシの顔色はコレ以上ないって位に真っ赤になったわ。

 さてさて、此処でもう一押しと行きますか。これなら、コイツも納得すんだろうよ。


「……ピザの代わりに、お魚じゃ……ダメっすか? 新鮮ッス! コレ、新鮮ッスよ?」


「……テメェっ! ふ、ふざけやがって!!」


[シュッ!!]


 モヤシは腰の獲物を慣れた手つきで素早く引き抜くと、ソレを自分の耳元辺りにかざして

俺の方へ飛び掛る様にして斬り込んで来た。やっと火が着きやがったか、おせぇよバカ。


 とは言ったモノの、まぁコレで正当防衛成立ってなワケだ――



(……手と足のリーチ差くれぇ分かんだろ、この間抜け)


 そう頭を切り替えた俺は、モヤシを向かい討つ事にした。モヤシのダガーナイフが

俺の左胸に迫る寸前に、モヤシの鳩尾に狙いを定め「ツルハシキック」を問答無用で

モヤシの鳩尾みぞおちにブチ込む事にした。あぁツルハシキックってのはな、

手にツルハシを持っている状態で、敵対する奴に渾身の前蹴りを叩き込む技なのさ。


 えっ?「ツルハシの意味は?」ってか? ……言わせんな、恥ずかしい。


[ヒュッ!][……ドゴォ!!]


「げぶっ……!?」


 モヤシの鳩尾を靴底で捉えた瞬間、弾力性のある肉の質感とアバラ骨を叩く鈍い

感触が伝わってくる。こりゃまともにカウンターで決まったってトコだわな。

 

 俺が放ったツルハシキックをモロに鳩尾へ食らったモヤシは、その身体を

「くの字」に折り曲げつつ、口からは嘔吐物を撒き散らしながら盛大にぶっ飛び、

背後に居た丸刈り野郎の方へと愉快な体制で吹っ飛んでいったよ。


「チッ……」


[……ススッ]


 丸刈り野郎は一つ舌打ちすると、我が身に飛来するモヤシには目もくれず、

俺の目を見据えたままで右足を後ろに引き、上体の動きのみでモヤシをかわした。

 チッ……やるなぁこの丸刈り野郎、今のタイミングなら大抵の奴は巻き添えを

喰らって一緒にブっ飛ぶモンなんだけどなぁ……。敵ながら見事な体捌きだわ。


[ドカァっ!!]


「ぐぶっ……!」


 モヤシは丸刈り野郎の後ろに生えていた大木に激突し、それっきり動かなくなった。

 まぁ都合良くは行かなかったモノの……コレで動ける奴が、また一人減ったワケだ。

 つーワケでして、残るはあの丸刈り野郎だけなんだが、コイツぁ……ふむ。


「……おい、そこのお嬢ちゃん。ちいっとばかしよ、俺から離れて……下がってな?」


「は、はいっ……!」


[ササッ……]


 俺は丸刈り野郎から視線を逸らさずに、お嬢ちゃんに声を掛けた。

 お嬢ちゃんは素直に俺の指示に従ってくれた様だ。良いねぇ、素直な性格だ。

 後で頭でも撫でてやるか、おっさんは素直な性格の若者は好きだぞ。



 ……まぁボケはコレくれぇにしといてだ。俺の直感だが、多分この丸刈り野郎は

場数を踏んでるぜ。さっきのモヤシみたいな「コンビニ」の前に数人で集団になって

たむろってなきゃ、一人じゃナニも出来ない様な、そんなヘタレなんかじゃねぇと

俺は見た。だもんで……モヤシが大木に激突して行動不能になったのを確認した俺は、

今度は丸刈り野郎と「お話」する為に、奴に歩み寄って行く事にしたぜ――





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ