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おっさんの冒険録  作者: おっさん
記録者:桜葉一郎 「一日目」
4/58

ミルフィール教会。



「ふぇー! きしょいっ! ぶっ……! しょいっ! ……っしゃあー!!

 な、なんだぁ、誰か俺の噂でもしてやがんのかぁ……ったくよぉ……」


 ……おっと、失敬失敬。なんかいきなりクシャミが出てきてな。まぁアレだ。

 出物腫れ物処構わずっていうだろ、そのアレさ。ま、そりゃいいとしてだ。


 さっきの話を簡単に言うとだな、魔族ってのは俺達生物の欲から出来てるらしい、

謂わば俺達の分身みたいな存在って訳さ。まぁ精霊族ってのも俺達みてぇな

生物じゃねぇから、分類的には魔族と同じ存在みてぇなモン……なんだけどよ。


 ソッチは俺達が日々の生活を送る上で何かと役に立ってくれてるって話だし、

そんな良い奴等を魔族みてぇな生物に害を為す存在と一緒にしちゃ悪いってな

モンだからよ、さっきは精霊族も含めた六種族って言ったワケさね。


 ってコトで、話を続けるが。魔族ってのは、そんな存在だから元々は俺達自身

そのものだけあって、グリーン語こと日本語だって話せる奴も居るそうなんだわ。

 あぁ、此処で話せる奴って言ったのには、これまたちょっとした理由があってな。


 澱みの量……つまりは俺達生物が作り出している、欲から発せられる邪な感情の量の、

濃縮具合が多い状態で現世に具現化してる奴は「高位魔族」と呼ばれる存在らしくてな、

で、その逆に、澱みの濃縮具合が少ねぇ状態で現世に具現化する奴は「低位魔族」と

呼ばれる存在みてぇなんだわ。高位魔族だったら日本語を完璧に話せるらしい。


 だが、低位魔族だとよ、理解力もやっぱし下がるのかねぇ。マックに聞いた話じゃ、

その低位魔族って存在の魔族の場合、日本語を完璧には話せないらしくてな、カタコト

だけでしか喋れねぇのも居れば、うめき声を発することしか出来ねぇ奴も居るってよ。


 まぁ……この事から、これは俺の推測になるんだが。


「シャチョサーン、ナニノムカ?」


 って、喋り方のも居るかもしれんぞ。……いや、多分居るハズだ。間違いねぇ。


 コレからも分かる様に魔族の会話能力ってのは、そのまま魔族の強さを知る際の、

良い判断材料になるってこったな。……だって日本語ペラペラなのはよぉ、ちっとも

「おさわり」なんかさせてくれずに「はぐらかす」のが上手いからな。演歌も上手い。


「クダモノクウカ? サケノムカ? ウタ、ウタウナラ、ママサンヘ、センエンネ」


 ……もしかしたら「あの娘」は、魔族だったのかもしれんなぁ。


 こりゃちっと余談になるんだが、後輩を一緒に連れて「あの娘」に会いに行く度に、

俺の財布の中に居た「漱石さん」やら「稲造さん」やら「諭吉さん」がよ――


「此処はワシ等が引き受けたっ!! イチロー殿は先に行けぃ! さぁ早くっ!

 ふっ……なぁに……イチロー殿、心配なさるな。ワシ等も後から追いつくわぃ……」


 って、言ってよぉ……結局、帰って来なかったしな……。

 くっ、諭吉の旦那、無茶しやがって……。あ、あぁ、いやいや……こっちの話なんだ。

 でもまぁ……気立ての良いカワイイ娘だったぜ。その「魔族っ娘」はなっ。


 おっと、話が脱線しちまったから元に戻すけどよ、魔族と俺達の違うトコは。

 魔族だけは、ミルフィールに祈りは捧げないってトコだ。とは、言っても――



 ミルフィールも創造神としての自らの責任を感じ、なんとか魔族を救済しようとして

魔族相手に干渉を試みたそうなんだがよ、当の魔族は、そんなミルフィールの言葉に対し

全く聞く耳を持たなかったそうな。つぅワケで、魔族とミルフィールの間柄についちゃあ

世話好きの母親に対して反抗期になってる様な、子供だとでも考えてくれりゃあ良いさ。

 

 ……んっ? アイツって、そう考えたら……実は結構良い奴じゃねぇか。

 よし、今度アイツが出てきたら名前で呼んでやるとすっか。まぁ、これがマックから

聞いた、この世界「アースグリーン」に古くから伝わる、この世界を構成してる種族に

まつわる「伝承」って言ったトコさね。何処の世界にも、何時の時代にも、テメェの

母親を蔑ろにするバカは居るんだな。しかし、母親ねぇ。母親かぁ……あぁ丁度良いな。


 なぁ、ソコのキミ。ソコのキミが「女だった場合」で話すが。


 自分が生んだ子供から、蔑ろな扱いをされたらどう思う。多分、とっても嫌な気持ちに

なるハズだ。母親を大事にしてるってのと母親の言いなりになってるマザコンってのは、

その本質は全くの別モンなんだからな、だからキミが付き合っている彼氏くんがな、

母親を大事にしてる様な男だった場合は……その「本質」を見誤るんじゃあねぇぞ。


 ……そういうのをキミの同性の友人なり職場の同性の女上司に相談してもだ、

キミから相談を受けたソレ等の者達は、キミの、その彼氏くんの事も、その母親の事も

何も知らない癖に、大抵の奴は好き勝手な事ばかりを口にして、キミに好かれ様とする

「同意や同調の意見」しか、言わねぇモンに話が纏まるのは目に見えてんだわ、コレは。


 大抵、そうなる風に相場が決まってます。俺自身も、そーゆー目に遭ったしな。


 だから「そういう件」で、彼氏くんと揉めた時は、他人を頼らず自己責任にて、

自分の責任に於いて、自分独りで「その問題」を解決する事を薦めるぞ。

 雑誌や四角い箱、そしてインターネット内の情報もアテにしちゃ駄目だ。

 その彼氏くんと付き合ってるのは、キミの友達でもないしキミの上司でもないし、

ましてや雑誌や四角い箱やインターネットの中の人なんかじゃなくて、他の誰でもない

キミ自身だろ、だったら「自分で判断」しなくちゃだぜ。それが「大人の交際」だ。


 と、まぁ……またもや話が横道に逸れましたが、只今、戻りますので御安心を。

 でだ、さっき話した「祈り」についてなんだが、それをやるとな。


 俺が貰ったみてぇな「加護」を「十年に一度だけ」どの種族かは決まってもいねぇし、

ミルフィールの気分次第みてぇなモンだしで分からねぇんだけどさ、その「祈り」を

やり続ける事によって、ある日突然、ミルフィールから加護を授かる事が出来るんだと。

 とは言ったモノの、俺はミルフィールに「祈り」なんざ捧げた事はなかったんだがね。

 まぁ……貰えるモンは、借金と病気とゴミと理不尽な人間関係以外は貰う主義の

イチローさんですし、貰ったからには有難く使わせて頂きますよぉ。ってトコだわな。

 

 あぁそれでだ、さっき「ミルフィール教会」って場所について話したんだが、アレ、

今も覚えているか。確かにミルフィール教会ってトコは、ミルフィールに関わる上で

一番近い場所だ。でもよ、その祈りの為に教会へとか、そんな必要はねぇんだぞ。


 ……それについちゃあ、なんでもよ。


「この世界の、全てのそれぞれの子供達の心の中に、私はいつも居ます」


 ってのがミルフィールの想いらしいからだ。要は極端な話、朝、目が覚めて直ぐの、

ほんの一瞬だけでもミルフィールの事を想うだけでソレは祈りになるし、所変わって

便所に篭ってる時に、同じようにミルフィールへ対しての祈りを捧げたってソレは

別に構いやしねぇんだわ。まぁ後者の方の祈り方はよ、流石の俺でも常識的に考えて

「ないわー」だけどな……。せめてリビングとかで静かに祈ろうや、なっ、なっ。


 んでだ、便所の話題になったトコでだ。丁度良いから、ついでにコレも話すがっ。


 アースグリーンの「便所」は、皆「ポットン便所」なんだぞ。どんなに澄ました

綺麗な姉ちゃんだろうが、爽やかイケメンだろうが、皆、ポットン便所だかんな。

 綺麗な姉ちゃんや爽やかイケメンは絶対に便所へ行かないとか思ってるソコのキミ、

残念ながらコレが現実だ、現実を受け入れろ。食ったら出す、当然のこった。


 さて、そんじゃあ現実を受け入れて貰ったトコで、下水道の無い「この世界」で、

そういう汚物とかがどう処理されてるのかって話もしたいんだが、ソレについては

冒険者ギルドで「汲み取り」の依頼が受けられるんだよ、キチンと報酬も出る。

 その報酬は、一件辺り「二十リーフ」固定ってトコなんだ。人口の多い都市部程、

その依頼は引っ切り無しに募集されてるって話だから、まぁ仕事に困ったときゃあ

都市部に行けば、その仕事を請け負うだけで食いっぱぐれの心配はねぇだろうさ。


 あぁ、汲み取りに限らず、生ゴミとかの回収依頼やら廃品回収だってあんだぞ。


 んで、冒険者ギルドは派遣者にゲットして来させた「ソレ」をだな、いったい

何処へ持って行かせてるのかと申しますと。汲み取ったブツやら生ゴミの場合は、

回収作業を終えた後にギルドへ報告を入れるとさ、ギルドが城壁村の外にある、

ワラ束置き場へ向かう為の荷馬車を用意してくれるんで、ソレに積んで持ってって

ソコにぶちまけて一纏めにし、時間を掛けて醗酵させる流れになってるのさ。


 何故そんな手間隙を掛けるのかと言うと、城壁に囲まれた村やら町やらの中にさ、

そういった場所を作るとな、そうした不衛生な場所ってのはソコから疫病を媒介する

ネズミやら害虫と言ったモンを大量発生させる場所にもなっちまうし、その問題

以外にも、そうした場所にゃあ悪臭が付き物ってんで、近隣住民が健康的な生活を

送れなくなるとかの理由もあって、必ず城壁外へ持って行く決まりになってるから

でもあるんだわ。で、ソレと同列に語るのもなんとなくアレなんだが……残念ながら、

様々な理由で亡くなった者達の遺体についても、城壁内へ埋葬する事はソレと同じに

国法で許されていないから、城壁外に設けられている墓地へ埋葬する決まりなんだよ。


 まぁ学のねぇ俺にだって、ソレくれぇのこたぁなんとなく直ぐに理解出来たよ。


 こりゃ昔、俺が中坊んトキに読んだ本に書いてあったコトでもあるんだが、なんでも

中世ヨーロッパの時代とかじゃあ、そういう効果を期待して、汚物や疫病を罹って

死んだ兵士の遺体を投石器やらでバンバン敵対国の城壁都市ん中へ投げ込んだりも

してたそうだし、日本の戦国時代にも刀剣や槍とか矢の刃先に汚物を塗り付けて、

ソイツで敵を斬って傷口から破傷風効果を狙ったモンもあったしと……まぁ、

不衛生な環境ってのは、色々とヤバイもんを生み出す温床にもなっちまうってこった。


 ……ソッチの世界でも、ゴミ収集してくれてる人達が居るだろ。そういう人達は、

いま俺が言った様な不衛生な環境になるのを防ぐ為に、毎日汚れ仕事をしてくれてる

ワケなんだからよ、一部のズボラな勤務態度してる奴等だけは除いて、そういう人達を

見掛けたら、その仕事を馬鹿にしたりなんか絶対すんじゃねーぞ。逆に感謝しろよな。


 と、まぁそんなこんなで、話を先程の回収した「ブツ」の、その後へ戻すけどな。


 醗酵し終わる迄は、くせーのなんのって……そりゃあ、たまらん悪臭がすっけどよ、

醗酵が済んだブツは肥料に変わるんだわ、ゴミが宝の山に変わるって言ったトコか。

 ってなモンで、冒険者ギルドとしちゃあ作業者に支払う賃金と汲み取り依頼費の

差額だけじゃ赤字になっから、汲み取ったブツをこんな具合に肥料として活用し、

ソイツを管理して赤字にならねぇ様に、ソレを農家に売ったりもしてるってこった。


 これこそ真のエコだよなぁ……無駄を省くどころか、新たな雇用とリサイクルを

生み出す流れを兼ねてやがる、古き良き日本の江戸時代に通じる良さがあるよ。

 この世界じゃあ俺達がパンや野菜を食えるのは、そういうブツを扱いながら

汚れ仕事をしてくれる、こうした作業者の者やら農家の皆さんやらが居てくれる、

お陰様でもあるんだ。こりゃあソッチの世界でも同じコトが言えんじゃねぇの。


 だから食事の際はよ、皆さんの労を有難く頂きますってな具合によ。

「いただきます」って言うのを忘れんなよ。まぁ、食事前に手洗いうがいもだけどな。


 俺はさ、食事の際は必ず「いただきます」を言ってんだ。ソッチの世界じゃコレ、

恥ずかしがってやらねぇ奴もいるが……何も恥ずかしい事なんてねぇよ、うん。

 食材になった命へ対して、作ってくれた人の労へ対して「いただきます」って、

良い考え方じゃあねぇか。コッチの世界じゃ、ソレをやらねぇ奴は逆にな。


「……うわ。なにあの人?」って感じで、冷ややかな視線で見られるぞ。

 だから、やっとけやっとけ。その行為、まさしく食材となった命へ対しての贖罪――



 ……真面目な話してる時に、こんなバカなコトなんて言うモンじゃねぇんだけどよ、 

重てぇ話ばっかしじゃ気疲れすんだろ。生物は、生きてるだけで他の命を食らって

生きてるワケだ。だからよ、そのコトを重く受け止め過ぎるのもアレなんで……

俺は、こういう冗談も交えて命の理を話す事にしたよ。コレでバチが当たるんなら、

その時のバチは俺が引き受けるさ。「いただきます」の意味を、此処でソコのキミに

知って貰える為なら、そんくれぇのバチなんざ幾らでも受けてやるってモンさね。


 あぁ、ちなみに。トイレットペーパーなんて便利なモンはねぇんだよ、髪は貴重だ。

 いや、間違った。紙は貴重品だからだ。まぁ雑貨屋に行けば買えない事もねぇんだが、

コッチの世界じゃ紙を作るよりも安価に羊皮紙ってのが手に入るモンだからよ、前にも

少し話したが、庶民のメモ紙的な役割を担っているのは、その羊皮紙の方になるのさ。


 つぅワケで、便所紙の代わりはなっ。「クーパー」っていう植物の葉っぱをさ、

茹でて天日干しにして、乾燥させたモノが普及してるんだわ。コレ、聞いた話によると

茹でて乾燥させるとさ、ティッシュみてぇな質感になる不思議植物なのよ。


 元は植物だから、先程のブツとそのまま一緒に醗酵させて使うのにも都合が良いんだ。

 雑貨屋に行きゃあ二リーフで、標準的なティッシュ箱サイズのが一個だけ買えらぁ。


 ……むっ?「どんな感じなの?」って、言われてもなぁ……まあ、その、アレだ。


 引用方法は異なるが「自分のケツは、自分で拭く」っていう「諺」があるだろ、

だから自分で拭いて確かめろ。そうした方が、俺の説明よりもずっとはええからな。

 俺はガキの頃に便所を探すのが面倒臭くて、よくその辺の野山で「ピー」してたから、

ソッチの世界でもどれが良い葉っぱなのかってのは直ぐに見分けが付くんだぜ。


 ありゃ間違いねぇ、良い葉っぱだ。なうで、やんぐな、べすとぺーぱーだぜ。

 さて、紙についての話を終えたトコで、お次は似た様な具合の神様の話へ戻すが。


 ミルフィール教会は、生物である五種族全てに無料開放されてんだ。

 九時から十七時迄の間なら、いつ行っても良いんだぞ。

 どっかの国の、お役所みたいだよな、この時間指定ってのは……ホント。


 あぁでも、ソレにも例外があるんだな……コレが。

 診療所で対応出来ない様な急患が出た時は、この限りじゃねぇんだぞ。


 そんときゃ教会の裏口を訪ねればさ、ミルフィールの力を借りた神聖魔術に長けた、

神官やシスター達から無料で魔術治療して貰えるから、どっかの国のお役所よりは

ずっと融通も利くし、庶民の味方だよ。その際の感謝の気持ちを寄付という形にして、

何かを教会に寄付しても良いし、寄付が出来なければソレはそれでも良いんだ。

 そんときゃ後日、自分の近くで誰かが困っていたら、自分に出来る限りの範囲内で

ソイツに何かを手助けしてやるとかすりゃソレで良いらしいぞ。


 まぁ言ってみりゃ、善行の「ぎぶ・あんど・ていく」って奴だな。


 ミルフィールは、そういう事をキチンと見てるらしく、ソレを教会の者に

「啓示」という形にして、伝えるそうな。流石、神様ってモンだわな。


 教会の人間は皆、ミルフィール大好きファンクラブ者の集まりみたいなモンだから、

さっきの俺みたいによ、ミルフィールから声を掛けて貰うだけで、大喜びする……

って言っちゃあ、ちょっと大袈裟なんだが、そんな気分になれるそうだ。


 ソレが彼等彼女等の生き甲斐であり、働き甲斐っていうコトにもなるんだろうぜ。


 あぁそれで、営利目的じゃねぇのは本当に頭が下がる位に素晴らしい事なんだが、

教会に居るのは生物だ。となると、どうしても先立つモンが必要にもなるって話だ。

 仙人なら霞を食って生きていけるかも知れんけど、常人ならばそうは行かねぇ。

だもんで、その先立つモンについては……だ。ミルフィール教会の維持費については、

各ギルドからの寄付で、その運営は賄われているって話なんだぜ。


 んで、珍しい事にこの教会、神父様は居ないんだよ。ソレについちゃあ、この世界が

出来た時からの決まりらしく、シスター様だけで運営されてるんだ。あぁでも、

男だって神官にはなれるぞ。ただ、教会の経営には男は一切、関われないみてぇだぜ。


 此処だけ聞くと、嫁さんに財布を握られてる旦那さん……みてぇに肩身の狭い目に

遭っている男だがよ、ミルフィールの前じゃ身分の上下とか性別とかは関係ねぇんだ。

 無論、種族の違いもな。だから、男だろうが女だろうが教会で働きたいって者は、

後を絶たないみてぇだぞ。それでだ、女しか教会の経営を出来ない理由ってのは……

ミルフィールが女だから、何かしらの大事な啓示をする際にはシスター相手の方が、

何かと都合が良いってだけの話なんじゃねぇのかな。まぁ、俺は教会で働いてる

ってワケでもねぇ、ただのおっさんだから、その辺はぜーんぜん詳しくねぇけどな。


 まぁ俺から教会について話せるのは、今はコレくれぇのモンかな。

 ってなモンで、お次は。ちょっくら空気を変える感じで「コメ」について話そうか。


 俺がこの世界に来て、初めて迎えた最初の夜は……って、ちょっとエロい言い回しに

なるんだけど、ソレは置いといてだな、リュック村の北側の外れに独りで住んでる、

ぼっちで可哀そうなマックの家に泊まらせて貰ったんだけどよ。


 その晩飯の際に「コメ」の事を、マックに聞いてはみたものの……。


「……コメ? あぁ、ライスの事かい? 確かにあるにはあるよ。ずっと前にだけど、

 僕もこの村から離れたトコにある港町フィックスで実際に食べた事ならあるんだ。

 アレは独特な味がして美味しかったなぁ。だけど、この地域じゃ主食となるのは、

 ジャガイモか小麦だからねぇ、この村には無いかなぁ。コメを主食にしているのは、

 イチローの出身地であるワノクニーか、その近くにあるシンギ地方くらいなもんさ」


 ……この話を聞いて、疑問に思った事は無いか。


 そう、それは俺の「出身地」って言う部分さ。マックにはホントわりぃんだが……

俺は「記憶喪失」っていう事にしてんだわ。マックが言うには、瞳の色が茶色っぽい

俺の出身地は「ワノクニー」っていう、周りは海で囲まれた「島国地域」らしいんだが、

ミルフィールのせいで「ブーメランパンツ一丁」だった俺は、その「釈明」もマック

にはキチンとしなきゃならんモンだったから、つい……アイツにゃ、嘘をこいちまった。


 その嘘ってのはよ、海で泳ぎ疲れた俺は、浜辺に繋いであった小舟の中で寝ていた所、

気が付いたら大海の真っ只中に漂流していた。んで、その時。丁度、運悪くソコで嵐に

遭遇してしまい、気が付いたら。この地域の海沿いに漂着してた……って、感じだな。

 その影響で記憶も無く、宛ても無く、髪の毛もなく……ただ、フラフラと彷徨い

歩いていた時に、マックと出会った。って事に、なってるんだわ。


 俺の信念として、人に嘘はつきたかねぇんだが……ホントの事を、ミルフィールとの

出来事をマックに話したとしても……だ。あの時の格好が、格好……だったしなぁ……。

 筋肉モリモリのマッチョ体系のおっさんが、ブーメランパンツ一丁で発見されるって。


 俺を発見した時のマックの表情は、正に「変態」をみるかの様な表情だった。

 あの時、ホントの事を口にしてたら俺は正気を疑われて取り合ってすら貰えずに、

誰か人を呼ばれて大勢に取り囲まれ、ソイツ等から「魔女狩り」的な何かをされて、

社会的にも人間的にも抹殺されていたかも知れん、いや、ワリとマジな話的に。


 ……まぁ、この「嘘」については、いずれキチンとマックには事情を話し、

謝罪するつもりだ。言い訳になるが、俺としちゃあ……それまでの猶予期間に、

この世界の理でもある人助けでも、その嘘の埋め合わせ的にやりたいトコだ。


 まぁどんな言い訳を並べても、俺がマックに嘘をついた事には変わりはねぇ。

 ソレは分かっちゃいるんだが、なんともいえねぇ気分だぜ……。


 ……何処と無く、やりきれない思いを抱えていた……その時だった。


「……!!」


「むっ……!? あっちか!?」



 何かの騒がしい気配を感じた俺は、気配のする方へ行ってみる事にしたぜ!





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