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おっさんの冒険録  作者: おっさん
記録者:桜葉一郎 「二日目」
21/58

そうだ、ギルドへ行こう



 ……以前にも話したが、ミルフィール教会は九時から十七時迄が営業時間なんだけど。

 ギルド関係施設はな、七時から二十時迄やってんだわ。だもんで、今現在の時刻は

既に冒険者ギルドの営業時間内だからよ。その冒険者ギルドの、ウィスキー・バーの

入り口みてぇな重厚な木製造りのドアを開けてギルドの中に入ってみたんだが。


 ……いつもなら誰か必ず受付にいるんだけど、今日は誰もいねぇんだよなぁ。

 受付フロア内を見渡しても誰も居なかったからさ。なので俺は、その中で目に

留まった「柱時計」に目をやったんだ。……その柱時計はな、鍵穴が付いててソコに

鍵を挿し込んで「ゼンマイ」を巻いてやる方式の「機械式時計」なのさ。


 その時計の特徴は、数字は全てローマ数字の至ってシンプルなデザインの文字盤で、

文字盤の下にはガラス製の戸棚みてぇなケースがあって、その中で振り子が左右に

行ったり来たりしてる様な、そんな具合の時計なんだ。んで、確か……十二時、三時、

六時、九時に「ボーン、ボーン」って音が鳴ったハズだ。結構、デケェ音なんだぜ――



「……やぁ、イチローじゃないか? おはよう。此処最近の、採掘の調子はどうだい?」


 と、その時計を眺めていた時だった。不意に背後から男に声を掛けられたんだわ。


「……おっ!? おはようっ! 今日の受付はジャックさんか!

 こりゃ朝から『ウン』に当たった甲斐があったってモンだぜっ!」


「え? ウンに当たった? なんだいそりゃ?」


「あ、いやいや、こっちの話さ。あぁ、でよ。ちょっと、報告してぇ事があるんだが……」


 ……背後に現れた顔見知りの知人へ対し、俺は軽く朝の挨拶を済ませるコトにした。

 あぁ、この男性は。冒険者ギルド職員の「ジャック・ニーグラス」さんって言うんだ。

 この人の見た目は……まぁ、後で分かるからよ。それまでの楽しみにしててくれ。

 あ、でもなぁ……平成生まれの人にゃ、分からんかもしれん……。ううむ。

 

 まっ、そりゃ置いといてだ。……とりあえず俺は、時計のネジを巻きに来た

ジャックさんのネジ巻きが済むのを見届けてから、受付の椅子に腰掛ける事にした。

 俺に遅れてジャックさんも、木製の机を挟んで俺の対面に腰掛けて来たので、

俺はソコで昨日遭遇した「奴等」との一件を全て話すコトにしたよ。


 ジャックさんは俺の話を真剣な顔付きで聞き入りながら、その話を全て聞き終えると。

 おもむろに木製の机の上に置かれている魔導器「通話箱」に手を伸ばして受話器を取り、

その箱にくっついてる丸い円形に「零から九迄の番号」が書かれたダイヤルを数回、

回した後。……更に、その箱にくっついてる自転車の警鈴みたいな金属製のカップ部分を

二、三回「びしっ、びしっ」ってな具合に人差し指で弾き、その後に受話器を耳に当てて

誰かと話をし始めたよ。……ん? コレか? コレはその……アレだ。「魔導器」だ。

 この魔導器の原理はな、おりゃあ詳しい事は分からねぇから、かいつまんで話すけどよ。

 まぁ、要は……今じゃ、あまり見掛けなくなった「黒電話」みてぇなモンなんだわ。


 この世界には「共鳴石」っていう、不思議鉱物があってな。この「通話箱」ってのは、

ソイツを用いた魔導器なのさ。んで、その不思議鉱物は面白い性質を持っててなぁ。

 その石を割って、特殊な形状に整えてやると……あら不思議。


 どんなに距離が離れていても「元が同じ石同士」に限り「空気の振動」を「音声」へと

変換する性質を持ってるから、相手方の手元に「元が同じ共鳴石」を使った通話箱さえ

ありゃ……電線なんか無くても電話みたいにして使えるらしいんだ。


 しかし……今、話した説明だけだと、幾ら「元が同じ石同士」の通話箱を沢山用意したと

しても、それでは「元が同じ石同士」だったら、一斉に他の電話とも通話状態になっちまう

ってなモンだよな。……だが、まぁ落ち着け。おっさんの話は、最後迄聞くモンだ。

 ……だからコイツにはよ、その問題を解消する為に「錬金術士の技術」が盛り込まれて

いるらしく、ソッチの世界に存在してる「電話」と同じ様に使える具合になっているんだ。


 ……こりゃ、俺の推測だけどよ。多分、機械式時計みたいな感じの精巧で精密な部品の

組み合わせによって「共鳴石」から出てる音声を黒電話みたいにさ、話したい相手とだけ、

話せる様に制御しているんだろうな。……さっきの警鈴部分にゃ「振動石」っていう鉱物が

使われてる。その鉱物も「共鳴石」と同じ様な性質を持っててな。だもんでソイツに振動を

与えると「共鳴石」と同じ様に、どんなに距離が離れていても互いに振動しあうんだ。


 つぅワケでして、その「振動石」を真鍮製のカップか何かの金属で囲ってやって、

ソイツをさっきジャックさんがやってたみてぇに指で弾くなり、なんなりしてやりゃあ、

自転車の警鈴みたいにさ、相手の通話箱にくっついてる警鈴が鳴る仕組みって訳さ。

 その「振動石」で造られた軸棒は、通話箱の中から出てるみてぇだから……多分、

さっきの「共鳴石」と同じ様に、ソイツにも錬金術師の技術が盛り込まれてて、

特定の相手方の警鈴しか鳴らない様な、そんな仕組みなんだろうぜ。


 ……ちなみに。この「黒電話」が設置されてるのは、こういったギルド関係施設や

ミルフィール教会、そして他種族の里の族長の屋敷、衛兵詰所等の役所関係のみなんだ。

 ……え、何故かって? まぁ、そのワケについちゃあ今から話す「こういう」こった。


 この「通話箱」に用いられた「共鳴石」と「振動石」は共に、人族の国有地である、

とある鉱山から発見された「とてつもなくデケェ一枚岩」を元にして作られた代物

なんだってよ。だから個人での所持は国法で許可されていないらしいんだわ。


 ……確かに小さな「共鳴石」や「振動石」だってあるにはあるし、採掘してたら偶に

採れるんだけどよ。もし、ソレを使って似た様なモノを作って……その所持がバレたら、

国法違反と錬金術士法違反で、ソイツは容赦無く消毒されるコトになってるんだわ。


 そういった鉱石は滅多にゃ採れない代物なんだが、採掘で採れた奴は鍛冶師ギルドに

持って行けば良い金で買い取って貰えるんだぞ。電話としては使っちゃダメみてぇだが、

何かの材料にはなるから買取してくれるんだろうよ。……確か、今。俺の背負子にも

何個か入ってたハズだ。……流石、俺様。トレジャーハンター。ふっふっふ。


 しかしまぁ……折角の電話だ、その便利さは捨て難い。ってなモンで、どうしても

何かの急用でコイツを使いたかったら、そんときゃ……さっき言った施設に駆け込んでよ、

使用料金の「銅貨10枚」を支払った後に使わせて貰うと良いさ。そういう施設経由で、

相手が住んでるトコの施設関係者が、話したい相手を呼んで来てくれる手筈になってる。

 ……あぁ、しかし。勿論コレも、税金を納めてないヤツは使わせて貰えないからな。

 なんせ国の管理物だし。……脱税者には、それなりのペナルティがあるってワケさ。


 んで、更に余談だが。この「通話箱」にはコレを作った錬金術士の名前である「ベル」

って名前が別名として付けられてるぞ。なので呼び名は「ベル」でも良いってこった――



「……そうか、わかった。では、その手筈で頼む。あぁ、それではまた……」


 おっ、話が終わったみてぇだ。えっ? 俺じゃねぇよ、ジャックさんの通話の方な。

 ……そりゃ確かに、俺の話はいっつも長いけどぉおぉ!? そんなに気が短い奴は!!

「ウナギ」を食う資格もないぞっ!? まぁ、その時の為の訓練だと思えぃ!!


 ……ジャックさんは受話器を通話箱に仕舞うと、先程迄の真剣で神妙な表情とは

違う明るい表情で、俺へ対して気さくに話し掛けて来てくれたぜ。


「……さて、イチロー。君が遭遇したのは、君から聞いた特徴からすると此処最近、

 この辺りに出没し始めた『イエローシーフ』という名の、盗賊団の一味らしい」


「そうか……やっぱりな。あれで地元の青年団とかいうんだったら、

 親の顔が見てみたいモンだぜ。なぁ、ジャックさんもそう思うだろ?」


 ……俺はジャックさんの言葉に対し、軽いジョークを交えて返した。

 相手が盗賊だって身バレしてんなら、この世界の場合は「こんなノリ」でも良いのさ。

 ジャックさんもソレに合わせてくれて……同じ様に、俺へ返事をしてくれたよ。


「ハハハ……まぁ、確かにね。……あぁ、彼等については。少し前迄は君の出身地である

 ワノクニーと同じ東方の、島国地域のシンギにいたらしいんだが……まぁ、とにかく。

 君が殺めた者達については、相手は盗賊なので特に何も問題は無いそうだ。で、彼等は

 非常に残忍で非道な手口で盗み等を行っているらしくてね。まだ確認をしていないから

 断言は出来ないが、場合によっては懸賞金を掛けられている者が居るかも知れないぞ」


「へぇ……? 懸賞金ねぇ? そりゃまぁ、ありがてぇこって」


 ジャックさんの話によると、どうやら……俺が「ヤッた」奴等は、評判の悪い盗賊団の

一味らしく、もしかしたら懸賞金も貰えるかも知れない様な、そんな奴等だってよ。

 ジャックさんが明るい表情だったのは「この為」かな。……まぁ俺としちゃあ、

無実を証明して貰えさえすりゃ、ソレで良い話なんだが。


 ……確か「賞金首討伐後の手続きや報告を行ったギルド」には、その賞金の三割が

入る事になってて……それに加えて、国王様からも表彰されたハズだ。


 んで、賞金首を討ち取った者には、その賞金の七割と……後で説明すっけど、ギルドに

所属している者ならランクアップに必要な「ポイント」を沢山加算して貰えるんだ。

 だから賞金の三割をギルドに持っていかれても十分、損得的にゃワリには合うんだわ。

 ……ソレに加え、冒険者なら冒険者としての名もギルド経由で各地に広まる事になる。


 俺の場合なら……そうさな、俺はリュック村で冒険者ギルドに登録してっから

「リュック村の冒険者『盗賊殺し』のイチロー」とかってな風になるんじゃねぇの。

 ……面倒クセェ話だが、ギルドに登録して何かしらの功績を挙げると、そんな感じの

「通り名」が付いて来るんだわ。俺が知ってる限りじゃ……他にも「竜殺し」とか、

「剣聖」とか、そういった具合の様々な「通り名」みてぇなモンがあったと思う。


 ……こういうのを知りたければ各ギルドの受付近くに置いてある資料を見ると良い。

 誰でも確認はさせて貰えるから、ソイツで確認してみると良いぞ。……俺も初めて

冒険者ギルドへ登録した時によ、その資料を閲覧させて貰ったんだわ。ってなモンで。


 名が売れれば、仕事も向こうから舞い込んでくっから悪い話でもねえな。

 しかし……でもまっ、ソレの「側面」で。


 俺の場合は、盗賊関係の奴等から目の仇にされるかも知れねぇが……そんなのはよ。

「冒険者として生きる」と、決めた以上。既に「その覚悟」は完了済みなんだわ。

 ……殴ったら、殴り返される。そりゃ当たり前のこった。……暴力をチラつかせて

来る奴にゃ話し合いなんざ意味がねぇんだよ。ソイツ以上の力でソイツを黙らすしか、

自分の身の安全を図る方法はねぇのさ。トコトン突き抜けて力を持てば……

そんときゃ、誰からも喧嘩は売られねぇと俺は考えてんだ。

 

 ……倫理的な話をするなら、その「力」を、どう扱うかが「大事」なんじゃねぇかな。

 弱者を搾取する為に使うのか、あるいは……己の身を護る為に使うのか。

 前者は只の暴力に過ぎないが、後者であれば誰からも非難される謂れなんてねぇだろ。


 ……俺の言ってる事は間違っているのかもしれん。でもな「言葉の通用しねぇ」

獰猛な肉食獣相手に「話せば分かる!」なんて言っても、そりゃ通用しねぇ話なんだわ。

 それでも、そういう相手と「話し合いで解決したい!」ってんなら俺は止めねぇよ。

 だけど、そんときゃ……「ソレ」を他人に押し付けねぇこった。「独りでやってろ」

って俺は思うわ。そうすりゃ食われるのは「ソイツだけ」で済む話になっからな。


 と、まぁ……おっさんの独り言も済んだトコでだ。さっきの懸賞金の話に戻すが。

 いまんトコは「取らぬ狸の皮算用」したって仕方ねぇからよ。ってなモンで俺は、

別段浮かれたりはせずに落ち着いて、ジャックさんの話の続きを聞く事にしたよ。


「……あぁ、イチロー? 先程、君も見ていた通りベルを使って衛兵詰所に連絡をして、

 その盗賊の遺体確認に人を向かわせた所だから、また明日此処へ来てくれないか。

 それまでには此方も、衛兵詰所の方と連携を取って各ギルドへ配られている賞金首の

人相書き手配書を元に、君が倒した盗賊が賞金首か否かの確認をしておくよ」


「……そうか、分かった。いつも仕事が早くて助かるよ。あ、ジャックさん。

 コレをついでに頼むよ、前回持ってくるのを忘れてて更新出来なかったんだ」


[すっ……]


 まっ……「アレ」で。奴等が一般人ってこたぁ天地がひっくり返っても

 ありえねぇコトだけど……な。……とりあえず身の潔白が証明された俺はよ、

「ギルドカード」をジャックさんの前に差し出す事にしたぜ。この「ギルドカード」

ってのはな、要は冒険者の身分証みたいなモンなんだ。んで「ギルド」ってのはよ、

他にも幾つかあってな。……此処でソイツを説明すっことにするが――


「冒険者ギルド」の他にも「魔道士ギルド」「鍛冶師ギルド」「薬師ギルド」

「商人ギルド」「神職者ギルド」「錬金術士ギルド」のさ、全部で「七種類のギルド」が

この世界「アースグリーン」の各地の村や町、そしてその他の拠点等にあるんだわ。


 それぞれのギルドで、いま俺が持ってんのと同じ様な身分証が発行されてる。

 んで、それぞれのギルドに所属する上で「ランク」ってのがあるんだが……それはよ、

そのギルドへ対する貢献値で決まる事になってんだ。……さっき、ちょこっとだけ話した

コトを覚えているか? 一見、報酬に見合わない様な仕事でもな。その仕事に対する

「ポイント」みてぇなモンが、受けた仕事それぞれについて加算されて行く仕組みでよ。


 そのポイントが「ある程度の規定値」に達すりゃ、晴れてランクアップになるのさ。

 ランクアップすりゃ受けれる依頼も増えて、冒険者としての幅が広がるってモンだ。

 まぁ、とは言ったモノの……何の仕事をやれば、何ポイント貰えるのかってのは、

ギルド間の取り決めらしく、俺達にゃ公表はされてねぇんだわ。


 ……恐らく、そうしとかねぇとポイントの高い依頼ばかりに皆が集中してしまい、

ポイントの少なそうな「依頼系」の仕事をやる者が居なくなるのが、主な理由だと思う。

 ……まぁ普通に考えてみても分かる話だ。この世界じゃ物流や雑務をこなしているのは、

各種ギルドに所属している者達がメインだからな。そういう者達がランクアップの為の、

ポイント重視で仕事を選ぶ様になっちまったら……物流の滞りが発生したり、庶民の生活の

中で必要とされる雑務をこなしてくれる奴が居なくなり、皆が困る事態になるってモンさ。

 ……あぁ、そういやまだ説明して無かったな。一口に「仕事」と言っても、様々なモンが

あるんだわ。丁度良いから此処で、少しソイツを話して聞かせるコトにしようか。


 エミリーがやってたのは、俗に言う「依頼系の配達」さ。

 俺がやってたのは、所謂「採集系の採掘」って奴だ。


 所属ギルド別の、主な仕事内容で分けるとすりゃ……マックやエミリーの場合は、

細かく仕事を分類すりゃランクが低い内は、依頼系が主な仕事になる。俺みたいな、

なんでも屋とか傭兵家業で生計を立ててる様な者は、基本的になんでもやるんだ。


 まぁ、どのギルドに所属していようが……基本的に、別に誰が何をやっても

良いんだけどな。極端な話、モヤシみてぇな魔道士が俺みたいに「つるはし」を

ガシガシ振れるんなら、別にソイツが採掘したって構やしねぇのさ。


 それで、この「ランク」だがよ。最初はブロンズ、次はシルバー。んで、ゴールド、

グリーンって風に、徐々にランクアップして行く仕組みなんだ。最低ランクはブロンズ、

最高位ランクはグリーンってこった。……このランク付けってさ「クレジットカード」

みてぇだろ。余談だが、大きさも「クレジットカード」と全く一緒なんだぞ、ふはは。


 でもコイツはクレジットカードじゃねぇから金は借りれねぇし、買い物も出来ねぇんだ。

 あくまでも、コイツは身分証の代わりな。……んで、コレのデザインについちゃあよ。

「ブロンズランク」なら「銅板」と「真っ白なカルマ板」の二枚を張り合わせた様な

感じのモンになるんだわ。そのカード表面……まっ、ブロンズランクの場合で言えば。

 表面にあたる、銅板の部分にゃ所有者の名前がフルネームでカードの右隅ッコに小さく

筆記体の魔導語……要は、英語で書かれてるんだ。裏面には、何も書かれてないぞ。


 シルバーランクなら「純銀板」と「カルマ板」

 ゴールドランクなら「純金板」と「カルマ板」

 グリーンランクなら「翡翠板」と「カルマ板」


 この組み合わせだ。


「カルマ板」ってのは採掘で採れる不思議鉱物の一つである「カルマ粘土」を特殊な方法で

加工したモンだ。コイツもさっきの「共鳴石」「振動石」と同じで滅多に採れたりはしねぇ

希少土類の一つなんだわ。でも、採れたら良い金になるぜぇ。……今回は、採れなかった。

 ちくしょおぉおぉっ!! ツイてねぇ!! ……まっ、そりゃ仕方ねぇとしてだ――


 「コイツの特性」は、他の物質と掛け合わせると本領を発揮するんだわ。

 ギルドカードに使う際は、カルマ粘土と磁石の粉末、それと所持者の血液を一滴だな。

 ソレをこねたモノを火の魔法で焼成すると、ギルドカード用カルマ板ってのが出来る。

 まぁ、この粘土については不思議鉱物の一つだと覚えておいてくれたら良いさ。


 んで、ギルドカードの特典といやぁ……ランクによって、入れるダンジョンの制限が

段階的に解除されていったり、貴重な資料を読む事の出来る図書館へ気楽に入れたり、

宿に宿泊する際に受付へコイツを提示すりゃ、宿泊時の面倒くさい記帳をせずに

宿泊出来たりと……ソレくらいのモンかな。


 ……あ、そうだった。グリーンカードでランクがカンストしちまっても、ポイントは

貯まり続けるからよ。そんときゃ、貯まったポイントをギルドで現金に交換できるぜ。

 交換比率は、確か……2000ポイント毎に、銀貨一枚だったと思う。


 でだ、シルバーランクから「討伐系」や「探索系」って感じの依頼を受ける事が

出来るんだ。まぁ「討伐系」ってのは、簡単に言えば。盗賊や害獣を討伐したり、

場合によっては此処最近……ちらほら魔族も各地に現れてて厄介な事になってるらしく、

その討伐を請け負ったり出来る様になるのさ。「探索系」ってのは、確か……。


「澱み」ってのは、人族の王都近くにある「セブンス=ダークネス」っていう、

厨二病的ネーミングセンスの塔に吸収されてるらしいんだが。しかし、その塔だけでは

全ての「澱み」を吸収し切れていないらしく、洩れてる「澱み」もあるんだそうな。


 つぅワケでして、そういう「澱み」ってのは人気の無い場所を好み、ソコに溜まる性質が

あるのでさ。そんな「澱み」が好みそうな洞窟内や、経年劣化で打ち捨てられてる廃城、

疫病等の理由で人が住めなくなった廃村、廃坑等に向かい、ソコに何か異常が無いか

確かめて来たりするのが、探索系の依頼なんだ。


 ……それは陸だけに限らず、海の何処かの島とかでも行う事があるらしい。

 たまに古代の遺跡みてぇなモンも、近隣住民や漁師の報告によって見付かる事だって

あるので、そうした事情からソコへ向かう依頼が発生する事もあるらしいんだわ。

 ……こりゃ又聞きになるが、そんときゃ一攫千金のチャンスにもなるって話だ。


「古代の遺物」とかをな、そういった遺跡で見付けたらよ。それは、見付けた奴のモンに

しても良いそうなんだ。売っても良いし、使えそうなら自分で使ったって構やしねぇ。

 まぁ、モノによっちゃ「変な呪詛が掛かってる」かも知れんが……そんときゃ、

自己責任って奴さ。……手に余りそうなら、使ったりはせずに売る方が無難だろうな。


 ちなみに、ランク「グリーン」のカードにだけ便利な特典がついてんだ。

 それはな、グリーンランクの者はグリーンのランクじゃないと入れない様な、

そんなダンジョン等の迷宮にも「同伴者を一名だけ」連れて入る事を許可されてんのさ。


 ……ランクがグリーンになって、初めて「一人前」って感じなのかねぇ。

 だから半人前の後進者の育成を兼ねて、そういう事が可能になるんだと。

 分かり易く言えば、その同伴者がブロンズのランクでもグリーンランクの奴さえ、

一緒に同伴してくれてるんなら、ソイツをソコへ連れて行けるってワケなのさ。


 なので、たまにだが……冒険者に成り立ての、若い娘の身体目当てで「よからぬ事」を

考えるバカも出るそうだ。……向かった先のダンジョンやらで「何かが」あろうがさ――



「魔族がいました、事故がありました」



 ……その「一言」で、片付けられちまうからよ。女は、誘われたからって言って。

 ソレで相手を信用し過ぎて、ホイホイ着いて行く様な事はしない方が良いと俺は思うぜ。

 ま、まぁ、ホントに稀にだが。その逆パターンで美少年を「そうする」女もいるらしい。

 ……更に稀にだが。中には「おっさん」が「おっさん」を狙うパターンもあるらしい。


 おぉ、怖い……。「アッー!!」って叫んでも、誰も助けちゃくれんだろうしなぁ……。

 ソレと同じ様に「女が女を狙う」パターンもあるらしい。な、なんだかなぁ……。

 なので、いま話した通り。グリーンカードを持ってるからって言っても、

ソイツが人間的に信用出来る奴とは限らねぇからよ。そういう奴に誘われた時は、

男も女も自己責任に於いて自分でどうするか決めろよなっ。


 しっかし……変態だらけだよなぁ……こうして事例を抽出してみっと……。

 俺は「ノーマル」だからよ、こういうのは、ホント勘弁して欲しいぜ……。


 っとまぁ、説明が長かったけどよ。「コレ」を我慢出来た君ならばっ。

 捌くトコから始めるウナギ屋さんに行っても我慢出来るってなモンさ!

 ……なに? 着ていく服が無い? んなもん、ジャージで構わんさ。

 俺は何時もジャージで飛行機だろうが新幹線のグリーン車だろうが飲み屋だろうが

何処だろうが所構わずジャージで行ってんだ。なーんも恥ずかしいコトなんかねぇわ。

 ってなワケでして、是非君も。本格的なウナギ屋さんに、一度は行ってみてくれ! 

 待ち時間は確かに長いが……それに見合うだけの価値はある。うめぇぞぉ――



「……お? イチロー? 君のランクだが……シルバーになっているぞ?」


 ジャックさんは真っ白いA4サイズの二つ折りになってる板を覗き込みながら、

何かに気付いた様な感じの表情で、俺に声を掛けて来た。あぁ、その「二つ折りの板」

ってのはよ。まぁ、詳しく語り出すとキリがねぇから簡単に言うけど。


 要はコッチの世界で言うところの「ノートパソコン」みたいな端末なんだわ。

 この二つ折りの板も、お察しの通り魔導器だよ。以前ジャックさんから聞いた話に

よると。水晶の粉末とカルマ粘土やら他の何種類かの希少土類を特殊な配合率で合わせて、

んで火の魔法でソイツを焼成させると画面部分の出来上がりって感じみてぇなんだわ。


 キーボード部分はカルマ粘土と石灰石の粉末と石炭の粉末、それと多種の希少土類、

ソレを海水でこねたモノを、さっきみてぇな火の魔法で焼成してやりゃ出来上がる。

 後は、それに錬金術師の技術をブレンドしたモンが「コレ」になるって寸法さ。

 その板のキーボード部分の一画には溝が切られててよ、ソコにギルドカードを通すと、

カードの「カルマ板」と反応してモニターに文字が浮かび上がる仕組みなのさ。


 カルマ板ってのは、所有者の「業」を記録する事が出来るそうなんだ。

 だからモニターに浮かび上がった文字は、俺の今までの冒険者としての「業」が

書かれているってワケなのさ。まっ、この現象は一言でいえば「精霊の悪戯」って

言葉で片付けられてらぁ。……俺の個人情報は、精霊さんに筒抜けってコトなのかねぇ。


「おっ? ランクアップって奴かい? ジャックさん?」


 何時の間にか、ランクアップに必要なポイントが貯まっていたらしい。

 まぁ確かに、この一ヶ月間は真面目に働いてたモンなぁ。……俺がガキの頃はよ、

週休二日制度なんて無かったからよ。なので「ソレ」が当たり前の事だと思ってる、

俺としちゃあよ。コッチの世界じゃ、日曜日だけ休んで後は毎日仕事してたんだ。


 ちなみに、この世界の暦はソッチの世界と同じで1月始まりの12月締めだ。

 ただ、ソッチと異なるのは一ヶ月間は三十日での締めになるよ。閏年とかねぇんだわ。

 なので……曜日の変更も無く、何年経とうがずっと同じ暦なんだぜ。


 逸る気持ちを抑えながら、俺はジャックさんにランクの事を確認してみた。

 すると……彼は、俺からの問い掛けに微笑みながら応じてくれたぜ。


「あぁ、そうだね。コレでイチローも、リュック鉱山の近くにある洞窟内に行けたり、

 この村の近隣にある森の奥の遺跡にも行けるし、他の地域へ冒険に出たとしても……

 簡易な討伐系や探索系の依頼を受ける事が出来る様になるよ。あ、そうだ……」


[カタカタ……]


 そういうとジャックさんは、モニター部分をみたままキーボードを叩き始めた。

 ……ブラインドタッチ出来る人って凄いよなぁ、俺も元の世界にいる時にパソコンは

持ってたが、流石にコレは……何年経っても出来ねぇんだわ。大したもんだ。


「コレでよしっ……と。あぁ、イチロー? 本日を以て、君のカードはブロンズから

 シルバーに変わるからさ? 今迄使ってたブロンズカード、コレは預からせて貰うよ。

 今日、何かの依頼を受ける時や……ソレ以外の用事で他のギルドを訪ねる際は、

 それらの受付に、この旨を伝えてくれ。この端末で、君の情報は共有化されてるから

 ソレで何も問題はないよ。で、ランクアップの手続きについてなんだが……

 君は初めてだったね。ちょっと時間を貰う事になるけど、良いかい?」


「ん? あぁ、そりゃ構わねぇよ。カードを作り変えたりとか、色々と手間が掛かるのは

 俺だって分かるからよ。……あ、そうだな。そういや、ランクアップの手続きってのは、

 いってぇどんな流れになるんだい? 良かったら教えてくれねぇか、ジャックさん?」


 ……どうせなら、ランクアップの流れも聞いておきたいよな?

 俺からの質問に、ジャックさんは面倒臭がらずに話してくれたよ。


「……よし、じゃあ説明しよう。冒険者がランクアップした際は、君の場合で言うとさ?

 使ってたカードのカルマ板は再利用するんだけど、表面の銅板を純銀板と交換して、

 その純銀板の右隅にね? ドワーフ王国のみで採掘が可能な「黒魔結晶」という鉱石を、

 ミルフィール教会で祝福を受けた聖水で溶いて、その溶液を用いた万年筆で君の名前を

 魔導語で書くだけだ。普通のインクだと直ぐに消えてしまうけれど、さっきの材料を

 用いた溶液で書くと消えないのさ。だから……その作業を今から行うので、明日。

 その新しくなったシルバーカードを渡すから、今日の所はコレで君の受付は終了だ。

 ……さて、説明も済んだところでだ。イチロー? ランクアップ、おめでとう」


[すっ……]


 ……キーボードを叩いてたってこたぁ、俺のカード情報を端末に登録してたのかねぇ。

 まっ、コレで晴れて俺もランクアップしたって事かぁ。……ジャックさんは、

一通りの説明を終えた後、にこやかな笑顔を浮かべながら俺へ手を差し出して来た。

 なので俺も、彼から差し出された手を、彼と同じく笑顔で握り返したぜ――



 ……おっと、忘れてた! ジャックさんが受付だからこそ! 彼が受付だからこそ!

 絶対にやって貰わなければならない「お約束」があるんだった!「奴等」の報告も、

カードの更新手続きも済んだ事だし、後は……とりあえず鍛冶師ギルドに行って、

採掘物を売っ払うだけだがよ。「コレ」を忘れちゃならんのだ。


「なぁ、ジャックさん? いつもの「アレ」をっ! やってくれねぇかっ!?」


「えっ? あ、あぁ。『アレ』かい? 分かったよ。うっ……ごほんっ」


 俺からの頼みを受けて、ジャックさんは受付の机の上に置かれている見本の

「グリーンカード」を手に取り、そのカードを俺に見えやすい様に持ちながら笑顔で。


 俺に、こう……言ってくれた。


「出掛ける時は、忘れずに」


 ……コレだよっ! コレっ! 分かる人にはわかる、このセリフっ! このセリフは、

やっぱしジャックさんじゃねぇとダメだっ! 他の誰かが受付だと、なんか損した気分に

なる「ワケ」は「コレ」なんだよ。……各ギルド共通でな、受付が済んだ時はカードを

返して貰う際に、このセリフを毎回言われるんだが。お察しの通り「ジャックさんの容姿」

ってのは、まさしく「あの人」とソックリなんだ。


 俺がガキの頃は、子供心にも「あっ、カードの人だ」って覚えてしまう程、

印象的な宣伝だったモンなぁ……あのカードの宣伝は。実は俺さ、そっちの世界でな。

 一時期は「あのカード」を契約して持ってたんだが、解約しちまったんだ。


 解約理由についちゃあ、旅行好きだった俺はよ。空港のカードラウンジを

良く使っていたんだけど、最近はタバコ吸ってたら白い目で見られる様な御時世だし、

子供を叱れないバカ親が増えて、躾のなっていない子供をラウンジの中で好き勝手に

させてるわで……なんとなく居心地が悪くなったからさ。それで空港に行く際は、

カードラウンジを利用せずに手近な喫茶店と、手荷物受け取り場を出て直ぐ近くにある

「ガス室」を利用する様になったのが、主なカード解約理由かねぇ。


 ……しっかし、いま思い出すと……たまに居たなぁ。そのカードラウンジにさ、

朝早く行くと無料でクロワッサンを二個まで食べれるサービスがあったんだが。

 中にはそのルールを無視して、三個も四個もソレをガツガツ食ってる感じの、

ビジネスマンらしきセコイ野郎がいたんだ。……そういう奴に限ってよ、これ見よがしに

格好つけちゃってさぁ。英字新聞を傍に置いてノートパソコンでなんかやってやがんだ。


 なーにが「カタカタカタ……ターンッ!」だっ!? バカ野郎っ!!

「ふふんっ?」って感じのドヤ顔でコッチ見んなっ!! キモい! 後、メガネの位置を

中指だけで直そうとするのも止めろっ!! ここは日本だっ! 英字新聞を読みたきゃ

海外に住んで好きなだけ毎日読んでろ!! こっちはスポーツ新聞の「えっちぃ」記事に

集中してるっづの! 邪魔すんな!!


 ……なぁ!? ラウンジの受付してる、そこのおねぇちゃんもそう思わねぇか!?

 朝っぱらからラウンジで英字新聞なんか広げやがってキザくせぇ!!

 俺の方が、よっぽどまともな日本人だよなっ!? あのリーマン、ルール破って

ガツガツとパン食ってんだぞ!? そのせいで、パンを食べれなかった老夫婦が

残念そうにしてたんだぞっ!? ……あー! 思い出すだけでもイラつくわー!!


 その「……ターンッ!」に合わせて! てめぇの後ろ頭を「スパーンッ!」って!

「クロワッサンすぱいく」でっ!! しばいてやろうかっ!?


 ……クロワッサンすぱいく、ってのはな。利き手じゃない方の手に、焼きたての

クロワッサンを持って、んで利き手の方に前日の宿泊の際にホテルからガメてきた

室内用のスリッパを持って、そのスリッパでそういう不心得者の後ろ頭を消毒する技だ。

 え?「そのクロワッサンはナニ?」ってか? コイツは、そのラウンジで食べられる

三日月形をしたパンだ。……更に詳しく話せば、諸説あるが――



「パンが無いなら、お菓子を食べれば良いじゃないっ!」



 っていう、迷言を遺した某ツンデレ娘が出身地のウィーンからフランスに嫁いだ際、

一緒に連れて行ったパン職人に、三日月型のパンを作らせたのがキッカケで、

フランスには、その三日月型のパンの製法が伝わったらしい。


 ……むっ、なんだぁ?「なんか真面目に答えてる……」だって? 

 ……ぐあっ!? し、しまった!? お、俺とした事がっ……!!

 ボケを入れずに素で応えしまうなんて……こんなんじゃ「おっさん」失格だわ……。


「試合に勝ったが、勝負に負けた」


 そんな気持ちで俺は、採掘物を売る為に冒険者ギルドを後にして。

 鍛冶師ギルドへ、向かう事にしたぜ……。




 

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