譲れない意志「後編」
……満天の星空の下、生い茂る木々の隙間から洩れた月明かりが、清流で知られる
このエルフの里の中央を往く川の水面に映え、その光を湛えた水面の川辺には……
沢山の蛍達が夜空に煌く星達には負けまいと、地上にも星空を演出するかの如く
煌びやかに飛んでいる。辺りに聴こえる音と言えば、夜風に吹かれて靡く草木の
ざわめきと静かに流れる川のせせらぐ音。そして……この鳴き声は「鈴虫」だろうか。
……心地好い音色だ。観客は私だけの演奏会、と、言ったところかな……。
……仲間達と共に酒を愉しみ、苦難に立ち向かった事を称え合う、先程まで私も居た
酒宴の席の場の雰囲気も、決して悪いモノでは無かったのだが……どうやら今の私には、
此方の空気の方が気分に合っている様だ。……心も身体も、とても休まる。
このまま時間を忘れて、ずっと……独り静かに、この川辺を散策したいモノだ……。
何処かにアテがあると云うワケでもなく、ただフラフラと気の向くまま。
私は鈴虫達の演奏に聞き入りながら、穏やかにそよぐ夜風に身を任せ、
ゆっくりとした歩調で……川辺の散策を続けていたんだ。すると、そんな時だった――
「……エーリーカーちゃんっ!!」
[もにょもにょ……]
「こ、この声はっ……!? えっ……? ん……? んななっ……!?」
……聞き覚えのある女性の声がした。と、同時に。なにやら胸の辺りに違和感を
感じたので「チラリ」と胸元に目をやると……私の胸の上に「女性の手」が現れていた。
次いで何処からとも無く鼻腔を擽る、この花の様な甘い香り。
……間違いない「彼女」だ。私が逢いたかった「あの人」だ。
だ、だけど、なんだろ。……な、なんか頭痛がしてきた。
「ぐっど、いーぶにんぐっ! エリカちんっ! うへへ……ええもん持ってまんなぁ?」
[もにょもにょ……]
「くっ……!? は、離せぇっ!!」
[ばっ!]
私は「彼女」こと「ミルフィール」の手を掴み、振りほどいた!
そして振り向き様っ! 抗議の声を彼女に上げた!!
「い、いきなりナニをするっ!? と、いうかっ! 折角の雰囲気が台無しだっ!!」
「えー? ナニって……いつもの、すきんしっぷじゃんかぁ……。
うん? ふんいき? はて? ミルちゃんにもぉ……わかるよーに教えてっ?」
「くっ……!? こ、このっ! て、天然めっ……! だ、大体なっ……」
私からの抗議の声に対して、ミルフィールは何故か……ニコニコと微笑んでいた。
すると彼女は、その笑顔のまま……私の抗議を遮るような具合に語り掛けて来たよ。
「……よぉしっ! ソレで良いのだっ! だってさ……さっき迄のエリカちゃん。
とっても苦しそうで悲しそうで、何かを思い詰めた様な暗そうな顔、してたよ……?」
「あっ……」
ミルフィールの言葉を聞き、私は足元に視線を落とした。確かに言われてみれば、
私は……ずっと暗い顔をしていたのかも知れない。仲間の死に対し、加勢に来てくれた
ドワーフ族の皆さんに対し……エルフ族の族長としての「責任」に対しても……だ。
トールさんも、そんな私の表情から察してくれて「ソレ」に気付いていたから、
私を、いつも……励ましてくれていたのだろう。
……そうか、ミルフィールは「この事」を私に伝える為にワザと戯れを……。
足元にやっていた視線をミルフィールの顔にやると、彼女は変わらず微笑んでいた。
「ふぅ……。ありがとう、ミルフィール」
私は一つだけ大きな溜息をつくと、彼女に感謝の意を述べた。
そして気持ちの切り替えを終えた後……今現在の、自分を見つめ直す事にした――
……上に立つ者が、苛立っていてはダメだ。上に立つ者が苛立っていると「ソレ」は、
部下に対して必ず悪影響を及ぼす。そうなると部下は私に話し掛けづらくなるだろうし、
私自身も責任責任と考え込んでしまっているだろうから、部下の些細なミスにも自然と
腹を立ててしまう様にもなる。「ソレ」を受けた部下からしてみれば……私は、常に
些細な事で腹を立ててしまう様な、そんな度量の狭い上司に見えてしまう事だろう。
そうなってしまえば私へ対する皆からの人心を、私自身が自ら撒いた「自業自得」の
「種」で、無くす様なモノだ。しかし……「ソレ」を回避したいが為に「ソレ」を
回避するには! と、それまでとは真逆に無責任になれば良い! という安直な結論に
至るのは間違っている。責任は責任で大切なことで、忘れてはならない重要な事だが……
他者の上に立つ者ならば、その気持ちの持ちようや切り替え方、そして部下への配慮も。
今現在、自分が抱えている責任と「ソレ」は……等しく、大切な事になるのだ――
……私からの感謝の意に、ミルフィールも大きく目を見開いて笑顔で応えてくれた。
「どういたしまして! どんと、わぁーりーだぞっ!? エリカちんっ! ふふふっ」
「ふっ……。ありがとう……」
……この明るさ、やはり彼女と話が出来て良かった。
他の者では私に気を遣って遠慮して、口にはしてくれない事でも……彼女ならば、
こうして遠慮無く私へ言ってくれる。心にずっと独りで背負い込んでいた重荷だったが、
そんな彼女に支えて貰ったお陰で、今此処で、ようやく「ソレ」を降ろす事が出来た。
……もう、迷いはなくなった。なので私は、彼女へ「魔法」の事を話す事にしたんだ。
「……ミルフィール、相談したい事があるんだ」
「んっと……? エリカちゃんが考案した『魔法』ってヤツのコトかな?」
「……なっ!? な、何故ソレをっ……!? い、いや、神ならば当然の事か。
まぁ、それならば話が早いと言うモノだ。ミルフィール、だったら……!」
私が話を切り出すよりも早く彼女は、さも当然の如く私の心中を察していた。
この話は彼女へ包み隠さず話すつもりだったので、別に隠し事をしていたと云うワケ
ではないのだが……突然、心の中を見透かされたりすれば、誰しも驚くというモノだ。
……いともアッサリと私の胸中を見抜いた彼女の慧眼に、私は一瞬、驚かされは
したモノの、すぐさま「ソレ」は当然の事だと思い直し、気持ちを切り替えて話を
続ける事にした。……何も詮索する必要は無い、何故なら相手は「神」なのだから。
[すっ……]
「……その前に、ひとつだけ。聞かせてくれるかな……?」
「えっ……?」
……話を続けようとした私へ対し、ミルフィールは私の目の前に右手を「すっ」と、
突き出すと、私の言葉に静止を掛けるような所作を見せた。そしてソレと同時に……
先程迄とは打って変わり、何時の間にか彼女の表情は真面目な顔付きになっていた。
そんな彼女が、私へ聞きたい事があると言う。……いったい、なんなのだろう。
私の言いたい事を既に分かっているのならば、この様な問答は無用のハズだが……。
……そんな彼女の口から、私へ対しての「質問」が行われたんだ。
「……その『魔法』とやらはエルフ族の中でだけの、秘術にする考えなのですか?
それとも……いま、貴女が敵対しているドラゴン族も含めた他種族全てが平等に
扱えるモノにする考えなのですか? ……エリカ、この『問い』に答えて下さい」
「そ、それはっ……!」
私はミルフィールからの「その問い」に、即答出来なかった。
ハッキリ言うと、仲間達を殺したドラゴン族に「魔法」は使わせたくない。
だが、それでは……全ての種族の頂点に位置し、存在する神である彼女からすれば。
それは「公平さ」を欠く事になるから、承服する事が出来ないのだろう。
私は彼女からの「質問」に戸惑い、そして迷った。
頭では彼女の立場を理解していてもやはり、どうしても感情が出てきてしまう。
「くっ……」
その感情を押し殺すために、私は強く唇を噛み締めた。……心の中で葛藤が続く。
だがっ……! もう迷わないと! さっき自分で決めた事を私は思い出した!
何故なら仲間を殺したドラゴン族の事は許せないが、それ以上に……!
仲間を護ってやれなかった、自分自身の事が許せないからだ!
「魔法」さえあれば、今日の闘いで命を落とした者達の何人かは死なずに済んだ筈!
そして今もっ……! その者達は、仲間達と一緒に笑顔で居れた筈っ……!
……ドラゴン族へ対しての思いは、私個人の私情に過ぎないと割り切るべきなのだ。
……上に立つ者としては、上に立つ者だからこそ、そんな……個人の私情のせいで、
此れから救える可能性のある命を無駄にさせてしまう訳にはいかないんだ。
「魔法」を実用化する事、それは私の悲願であり、「譲れない意志」なのだ。
なので私は、自分の決意を彼女に表明する事にした――
「……精霊魔術と神聖魔術の合成理論は、既に出来上がっている。後は……神である、
貴女の裁量次第となる話だ。勿論、貴女が望む様に全ての種族が扱える形にする。
『魔法』が完成した暁には……全種族の族長をエルフの里に集めて『魔法』を、
その時にでも皆へ伝えたいと思う。不心得者には扱わせぬ様な措置もキチンとする」
「……。」
「……そうだな、この体系を確固たるモノにする為には、キチンとした組織も必要だ。
魔法を導く者……要は、魔法を扱う道を往く者達が集まる『魔道士ギルド』という名の
組織を立ち上げ、種族の差別なく犯罪歴の無い人材を登用し、ソコへ所属する者達に
魔法の管理を一任させるのが良いだろう。……エルフ族だけでの独占を防ぐ為にな」
「……。」
「……なぁ、ミルフィール? それでは駄目か……?」
「……。」
……私の心には、嘘偽りなどはない。あったとしても神である彼女からすれば、
そんなモノはアッサリと看破出来てしまう事だろう。だからいま、私が口にした事は
全て私の紛れも無い本心なのだ。……やれる事は全てやった。後は、彼女の返答次第。
私の話に聞き入りながら、ミルフィールは黙って私の瞳を「じっ」と見ていた。
なので私も、ミルフィールの蒼く澄んだ瞳を真剣な想いと顔付きで見つめ返した。
すると……それまで暫くの間、ずっと無言だった彼女が突然、口を開いたんだ。
「……その言葉が聞きたかった。なーんてね? うふふ……。
貴女の決意、分かりました。それでは精霊達との交渉は私が引き受けましょう。
ではエリカ。私から、その『魔法』について貴女の助けとなる知識を授けます。
これから『伝承術』を行いますので、少しの間、目を閉じていて下さい」
「ほ、本当かっ!? あ、あぁ!! わ、わかった!!」
……よしっ、これで「魔法」が現実のモノとなる! 彼女の協力さえ得られるならば、
後はっ……! 今現在、精霊魔術を行使する際に必須となっている契約方法である事柄。
「エルフの里に在る霊木に触れる」という手間を、もっと手軽に簡素化するだけだ!
私は逸る気持ちを抑え、ミルフィールから言われるままに目を閉じる事にした――
……と、丁度その頃。エリカとミルフィールが居る、別の場所では――
……うーん。エリカ様、ドコに行っちゃったんだろう。何処にも居ないや……。
確か、コッチの方へ散策してるハズだって、サージュ様から聞いたんだけどなぁ。
……あっ、今ね? わたしはサージュ様から頼まれて、エリカ様を探してるんだよ~。
だけど……ドコにも居ないんだぁ……。うーん……。あっ……? アレは……?
……居たっ!! あそこに居るのはエリカ様だっ!! ま、間違いないっ!!
「エリカさ……! あ、あれぇ……?」
……川辺を暫く歩き進むと、わたしが今居るトコから少し離れた所にエリカ様の
姿を見つけたの。だけどその時、わたしはエリカ様へ声を掛けるのを躊躇ったんだぁ。
だって……エリカ様の他に、とっても綺麗な人族の女性がソコに居たからなんだよぉ。
……あ、そうそう。あのねっ、此処で一つだけ……自慢しちゃいますっ。
わたしって他のエルフ族の皆と比べてみても、生まれ付き、飛び抜けて目が良いので、
少しくらい離れていても誰がソコへ居るのかが分かるんだよ~。……凄いでしょっ?
その、わたしが見る限りは……エリカ様の前にいる女性は、私達とは耳の造りが
異なっているから、多分……人族だとおもう。
……多分って言ったのは、その女性。人族にしては、とっても美しい女性だったの。
だから少し自身が無くて……さ。エルフの里にも美しい人は沢山いるし、エリカ様も
美貌に優れた美しい女性なんだけど……そのエリカ様よりも、美しい女性だったの。
「よぉし……」
その女性に興味を持った、わたしは。
二人に気付かれない様に、こっそりと二人に近付いてみる事にしたんだぁ――
「……はい、コレで……よしっと。どうかな、エリカちゃん?」
「なるほど……こういう理論もあるのか。ありがとう、ミルフィール。
コレで間違いなく『魔法』は形になりそうだ。……後で、魔術書に書き加えておこう」
……エリカ様と、何か大事なお話でもしてるのかな? あっ、いま……
わたしは二人から少し離れたトコに生えてた大木の陰にコッソリ隠れてるんだけどね?
うーん、でも此処からじゃ少し遠くて……何を話してるのか迄は、良く聞こえないや。
なので、わたしはっ! 人族の女性を観察する事にしたよぉ~。
……その女性は、艶やかな金髪の後ろ髪を馬の尻尾のように纏め上げてて、
その瞳は宝石のサファイヤの様に、蒼く澄んだ瞳をしていたんだぁ。
ホントに綺麗な女性……。で、でも誰なんだろう……?
その人族の女性に、見とれていた時でした。
[……パキッ!!]
「あっ……!?」
……足元に目をやると、一本の朽木があったの。此処最近は、晴れの日が
続いていて雨が全く降っていなかったから……わたしが踏んづけてしまった朽木は、
水気を殆ど含んでいなくて、よく乾いてて……とってもとっても大きな音がしたの……。
「むっ……!? 誰だっ!? ソコに居るのはっ!?」
「あうぅ……。ご、ごめんなさぃ……」
わたしは、隠れていた木の陰から出る事にしました……。
エリカ様から怒鳴られた……。きっと、怒られちゃうんだろうな……。
「……なんだ、ミーファではないか。どうした、こんな所で?」
「あっ、あのっ……。さ、サージュ様からの、お使いで……」
「……おぉ、そうか。すまない、直ぐに戻ろう。
と、いうワケなんだが……良いか? ミル……あっ……」
よ、よかったぁ……。エリカ様、怒ってないみたいだぁ。でも、どうしたんだろう。
エリカ様、なんだか……「とっても気まずそうな表情」で、口ごもっちゃった。
そんな時でした。
「かっ……!? か、か、か、かわいいっ……!!」
「えっ……?」
ど、どうしちゃったんだろう……。人族の女性が、わたしの方を見ながら
「ぷるぷる」と、ふるえてるよ。お、おトイレにでも行きたいのかな……。
[……ババッ!!]
「え……? えっ……? ふええぇっ……!?」
[ばふっ……!!]
その人族の女性は、いきなり。わ、わたしに駆け寄り、抱き着いてきたんだぁ……。
「……きゃー!? かわいいっ!! かわいいっ!! ナニ、この子ぉおっ!?
エリカちゃん!? この子、私にっ! 私に、ちょーだいっ!? ねぇねぇねぇ!?」
「あぁ……やっぱりか……。諦めろ、ミーファ。
その人は『かわいいモノ』を見ると、いつも絶対にそうなるんだ……」
「……もがっ!? むぐぐ……!?」
「あぁんっ!! かあいいよぉっ!! ミルちゃん、し・あ・わ・せっ!!」
く、くるしい……。この女性の胸に挟まれて、鼻と口を塞がれちゃってるから……
い、息が出来ないよぉ……。で、でも、なんだろ。この匂い……この女性からかな?
何かのお花みたいな、甘くて優しい……そんな感じの良い匂いがするの……。
「……おい、ミルフィール。その辺にしておかないと、ミーファが窒息死するぞ?」
「えっ……? あ、あらぁ……?」
「……。」
……死んじゃうかと思いました。えぇ、それはもう……間違いないです。
エリカ様が止めてくれなかったら、ホントにわたし逝っちゃってました。
エリカ様が声を掛けてくれて直ぐ、その女性は胸元に引き寄せていたわたしの顔を
解放してくれました。なのでわたしは、それからなんとか呼吸を整えて……
涙目になりながらも、その女性の顔を見上げたんです。するとその女性は、
とても申し訳なさそうな顔付きで、わたしのコトを見つめていました。
……あれれっ? だ、だけど……ちょ、ちょっとまって。
わ、わたしの聞き間違いなのかも知れないけど。確かいま、エリカ様がこの女性を
「ミルフィール」って、呼んでましたよね……? ま、まさか、そんなコトは……。
わたしは、エリカ様の方を見ました。するとエリカ様は、わたしの表情と視線から
わたしの知りたい事を全て察して下さったのか、彼女の名前を教えて下さいました。
「ミーファ、その女性は……実は、ミルフィールなんだ。
悪気があってやった事ではないだろうから、どうか彼女を許してやって欲しい」
「……そ、そうなのよぉ! ないす、ふぉろーよっ!? エリカちゃんっ!
ご、ごめんね? ミーファちゃん……? だ、だからっ! ミルちゃんのコト、
嫌いにならないでぇえっ! わ、悪気なんて無かったんだからぁあぁあぁあっ!!」
「えっ……? み、ミルフィールさま……? なんですか……?」
突然聞かされた、思いもしなかった事実を知らされるわたし。
だけどソレでもまだ半信半疑だったので、わたしはもう一度エリカ様をみたんだぁ。
そしたら、エリカ様は……真面目な顔付きで頷きながら、また教えてくれたの。
「……あぁ、そうだ。お前の言うとおり、間違いなく『創造神ミルフィール』その人だ」
「えっ!? えぇえぇえぇっ!?」
[ばっ!]
エリカ様の口から出た名前を耳にして、わたしは驚くと同時に慌てて
両目を閉じると、その両目を両手で覆って隠しました。だ、だって、たしか……
「あ、あらぁ……? ど、どうしたのぉ? ミーファちゃん……?」
そんなわたしを見て、ミルフィール様が声を掛けて下さいました。恐れ多い事です。
ですが……わたしは思い切って、ミルフィール様に御答えする事にしました。
「あ、あのぅ……エリカ様が言ってたのですが……。
た、たしかミルフィール様を直視すると、目が潰れるって……」
「んなっ!? なぁんですってぇ……!?
エーリーカーちゃぁん……? ちょっと……お話しよっか……?」
「……んっ? なんだ、その事か。私は、嘘なんて言っていないぞ。
普段ミルフィールは、いつもなら全身『ぴかぴか』に光り輝きながら現れるだろう。
……だから直視すると目が潰れる。ほれ、どうだ。私は嘘なんて全く言っていないぞ」
「うっ……。た、確かにそうだけどさぁ……。
で、でも! もっとこう! 他に言い方ってモノがっ!?」
「……だったら、いつも今のような姿で現れれば良いだけの話だ。違うか?」
「うっ、うぅ……。エリカちゃんのいぢわるぅ……」
……目を閉じているので状況が良く分からないのですが、こうして……お二人の話を
聞く限りでは、目を開けても大丈夫そうに思えるのですが……ど、どうなのでしょう?
わたしは思い切って、ミルフィール様に御伺いする事にしました。
「あ、あのぅ……? わたし、目を開けても平気なのでしょうか……?」
「もっ! もちろんよぉ! ミルちゃん、そんな邪悪な存在ぢゃないからっ!!」
「……ある意味、邪悪かもしれないが」
[ビキッ……!]
「……エリカちゃん、いま……なぁんか言った? 私と、お話するぅ……?」
「別に……」
……な、なにかヘンな音が聞こえたのですが。ま、まぁ、ソレは置いておきまして。
ミルフィール様の御言葉を聞いたところでは、目を開けても大丈夫そうなので……
わたしは閉じていた目を開ける事にしました。……すると、わたしが目を開けると。
ソコには、先程の立ち位置のままのミルフィール様が先程迄とは打って変わった
真面目な顔付きで立っておられて……「じっ」と、私の瞳を見つめていたんです。
「ミーファちゃん……だったわね?」
「は、はいっ……」
……ミルフィール様、顔付きだけじゃなくて雰囲気もさっき迄とは違います。
凛々しいというか、なんというか……そんな印象を受けました。
そういった雰囲気に変わったミルフィール様は、わたしの名前を確認すると。
次いで、私とミルフィール様の傍にいた、エリカ様にもお声を掛けられたんです。
「エリカちゃん? この子の得意な魔術は……なぁに?」
「……んっ? あぁ、ミーファは確か……治療を目的とした神聖魔術が得意だった筈だ。
今回の迎撃戦でも治療班に所属していたと思う。どうだ、ミーファ? 間違いないか?」
「は、はい! エリカ様! わ、わたしは精霊魔術が苦手なので……みんなのケガを
癒せる神聖魔術の方を特に頑張っていますっ! ま、まだまだ未熟者ですが……」
……エリカ様、私の事を覚えていてくれたんだぁ。う、嬉しいなぁ……。
わたしが、そんな事を考えていた時でした――
[すっ……]
「えっ……?」
突然、ミルフィール様が無言で……わたしを抱き締めて下さいました。
今度は、さっきみたいに強引な感じではなくて「そっと」優しく――
[パアァ……]
「えっ……? この光は……?」
「……なっ!? ミルフィールっ!? ナニをっ……!?」
……なにか暖かい光を感じました。眩しいハズなのに眩しくない、そんな優しい光り。
その光景を見ておられたエリカ様は、なんだかとても驚かれていた様ですが……。
わたしは、その光が落ち着いた後にミルフィール様のお顔を見てみるコトにしました。
すると……ミルフィール様は、とても安らかな、そんなお顔をされていました。
暫く経つと、その光りは完全に消えちゃいました。光りが完全に消え切ると……
ミルフィール様は、わたしに優しい微笑を向けてくれて、言葉も掛けて下さいました。
「……ミーファちゃん、貴女には『天恵』の加護を授けました。
この加護があれば貴女の治療術の効果は格段に増します。どうか、この加護を以て
エリカちゃんを……そして、他の傷ついた者達を貴女の手で癒してあげて下さい」
「は、はわわわわっ……!? わ、わたしが加護者にっ!?」
「……良いのか、ミルフィール?」
「うふふ……。私は、気紛れな女なんですよ……。あ、そうだっ」
[すっ……]
……し、信じられません!! わ、わたしなんかが、加護者になるなんて……!!
ほ、ホントに良いのかな……。う、うぅ。こ、こんなコトって……。
まさかの「事実」に、戸惑うわたし。……と、その時でした。わたしに加護を授けて
下さった後、ミルフィール様はエリカ様へ近付いて行きました。そして――
[ファサッ……]
「えっ……? お、おい。み、ミルフィール? な、ナニを……?」
ミルフィール様は、今度は……エリカ様を、そっと優しく抱き締めました。
「……エリカちゃんも、ミーファちゃんくらいの頃に。
こうして良く……抱いてあげてたなぁ……。エリカちゃん、覚えていますか……?」
「こ、こら……よ、よせっ……。は、恥ずかしい……」
「……あら? あらあらあらっ……? イヤなんですか……?」
「べ、べつに……」
「うふふ……」
……ミルフィール様から抱き締められたエリカ様は、とっても照れ臭そうに
しておられましたが、ミルフィール様の胸元から覗いた……その表情には――
「あっ……。え、エリカ様……」
「……。」
わたしが今までに見た事が無いような、そんな穏やかで「嬉しそうな」表情が。
……エリカ様のお顔には、浮かんでおりました。