綺麗なお姉さんは好きですか?
「はぁ……。ダリぃけど……起きないとなぁ……」
……今の時刻は、午前五時ってトコかな。こっちの世界には、時刻を知る為の時計
なんて高級品は「商工人の家」「ミルフィール教会」そして「ギルド」みてぇな各種
施設関係やら位にしか、置いてないからよ。……その他の一般人が時刻を知ろうと
する際は、皆「腹時計」か、各種施設の時計を見て時刻を確認するしかねぇんだわ。
あぁ、でも……金持ちやら、見栄っ張りやら、遺産の相続とかで受け継いで
「懐中時計」を持ってる奴は、居る事はいるんだぜ。しかし電池なんて便利なモンは
ねぇから、この世界の時計は全て「ゼンマイ」を動力にした「機械式時計」なんだ。
……手巻き式もあれば、自動巻き式もある。味があって、中々に良いモンだ。
このリュック村にはねぇが大きな町に行けばよ、錬金術師ギルドから派遣された
時計職人が町の一画に小さな工房を構えてるらしいから、ソコに時計を持っていけば
メンテナンスをしてくれるらしいぜ。……確か、マックは懐中時計を持ってたな。
今は「港町フィックス」に、ライターの件で出掛けて行ってるから村にはいねぇが、
アイツが持ってるのは見栄とかじゃなくて、錬金術師だった祖父から受け継いだモノ
なんだそうな。まぁ、簡単に話を纏めるとよ。この世界では、エミリーの眼鏡とかの
工業系製品の扱いも、懐中時計の扱いと同じに考えてくれりゃあ話は早いってモンよ。
……んで、モノはついでだから話すが。眼鏡も懐中時計と同じにその小さな工房で
メンテナンスをして貰えるらしい。エミリーから聞いた話によると、その眼鏡の
メンテナンス料金は、一回辺り十リーフ「千円」なんだってよ。俺は眼鏡を掛けた
コトなんてねぇから、その料金が高いのか安いのかなんてのは分からねぇけどなっ。
月に一度、毎月決まった使用料を錬金術師ギルドに納めなきゃならないのは、
魔道鑑定機みてぇな「大物」の部類さ。ソイツとは異なり、個人所有の懐中時計や
エミリーの眼鏡みてぇな「小物」は、購入する際のコストは高いが……その後は、
調子が悪くなった際にだけメンテナンス料金を払えば、ソレで新品同様な状態にまで
キチンと整備して貰えるって仕組みなんだそうだぜ。……あっ、そうだった。
つい、いつもの悪い癖で時計やら眼鏡の方へ話が脱線しちまったが、それよりもだ。
昨日、話すと言った「この家」の事について話さないとな。まぁ……その、アレだ。
この話は、俺がこの世界に来た十日後辺りにまで遡るんだが、ちょっと聞いてくれや。
……この家によ、一人暮らしをしていた「サイモン」爺様って言う爺様が居たんだが、
その爺様と、その日の晩に「満腹亭」で一緒に飲む機会があってさ。んで、その爺様と
意気投合しあって楽しく会話しながら飲んでたら、その話の中で突然よぉ――
「……ワシは、もうそろそろ逝くじゃろうなぁ、歳も歳じゃて。……おぉ、そうじゃ。
イチロー? もし良かったら、そんときゃ……ワシが住んでる家を貰ってやっては
くれんかの。ワシには身寄りもおらんし、今日の飯代を持ってくれたらそれでええぞ」
「お、おいおい……。なーに、不景気な事を言ってやがんだぁ爺さんっ。……よしっ!
今日は、んな事関係ナシに俺が奢ってやる。女将っ、この爺様に良い酒を頼むぜ!」
「ふふふ……気持ちの良い男じゃな……。それでは、有難く冥土の土産とさせて
貰おうかの。おぉ、そうじゃ……その前に。……女将、ダンナを呼んでくれるか?」
ってな、やりとりがあってよぉ。……その日、俺はサイモン爺様に腹一杯、旨い酒を
飲ませてやったんだが……その翌朝の事だ。その爺様「ぽっくり」逝きやがってな。
……あぁ、酒のせいじゃねぇよ。その前日は、満腹亭のダンナさんが爺様を家まで
送って行ったし、ダンナさんもそんときゃ爺様は「気分良さそうにしっかりしてた」
って、証言もしてくれたからな。爺様本人が言ってた様に、寿命だったんだと思う。
……で、サイモン爺様の遺体を発見したのは爺様と幼馴染だったマリーの祖母である
メアリーさんだった。なんでも毎朝、他に身寄りの無い爺様のトコへ挨拶に行ってた
らしいぜ。その縁で、俺とメアリーさんは知り合ったんだ。……爺様、満面の笑みで
大往生してたそうな。享年65歳だったらしい。……最後に爺様と親しくさせて貰った
俺が、そんときゃキチンと爺様の埋葬手続きをさせて貰ったよ。……良い笑顔だった。
満腹亭で酒を飲んでる時も爺様、あんな良い顔してたなぁ。
……んで、その葬儀が終わった後にさ。
俺、メアリーさんから「この家」の権利書を手渡されてなぁ――
「サイモンの遺言は、満腹亭の御主人から聞きました。イチローさん?
貴方さえ宜しければ、サイモンの意思を尊重してやっては戴けませんか?」
ってな具合に話があってよ。それで……トントン拍子で「この家」が俺の名義に
なっちまったってワケさ。……あぁ、そうだなぁ。「アレ」もついでに話しておこう。
……そのサイモン爺様との繋がりついでで、丁度良い機会だから話す事にするがよ。
マリーと俺の関係ってのは、その葬儀の二日後に始まったんだ。……えーと、確か。
マリーとの出逢い方は……爺様の葬儀も一段落したコトだしってんで、そんときに
仕事を探しに冒険者ギルドへ行ってみたらよ。丁度、ミルフィール教会の雨漏りを
修理する依頼が出ててさ。マリーとは、そんときに出逢ったワケなんだわ。
まぁ、そんときの話は機会がありゃ話して聞かせるよ。面白い出逢い方だったから、
印象深くて記憶に残ってるしな。んでアイツ、偶に俺の家へ泊まりに来るんだぜ――
……むっ!? ちょ、ちょっと待て!? へ、ヘンな誤解はすんじゃねぇぞ!?
あ、アイツはアイツなりに! サイモン爺さんや、その奥さんの事を懐かしがって、
泊りに来てるだけなのっ!! ほ、ほらっ!? そこっ! お、俺の寝台の近くに、
もう一つ寝台があるだろっ!? ……その寝台は、サイモン爺様の奥さんが使ってた
寝台でよ、その奥さんは63歳で逝去したそうな。……優しい人だったってよ。
んで、そんなマリーはというと。この老夫婦と、とても仲が良かったらしくてなぁ。
泊りに行った時は、いつも奥さんと一緒に寝てるくれぇに親しい仲だったみてぇで。
んで、その奥さんが亡くなってからは、その寝台はマリーが使って寝てたらしいぞ。
……メアリーさんも立場上は、ホントはダメなんだけど。子供が出来なかった
サイモン爺さんやその奥さん夫婦とは、昔からの知り合いだったらしくてよ。
マリーが老夫婦の家へ泊まりに行くのは、シスターとしての奉仕活動の一環として、
特別に許可してたんだってさ。っと、まぁ……話は、コレくらいにしてっと――
……ソレは寝台から起きて家から出て、家の外にある井戸の水を汲み取り、
一日の始まりに臨む為、朝の身支度を整えようと顔を洗おうとしていた時だった――
「……はぁいっ! ぐっもーにんっ! イ・チ・ロー! はぅ、あーゆー?」
「……あー? はいはい……ふぁいんせんきゅー、はぅ、あーゆー? だっけか?
こんな朝っぱらから、ったく……。オメェは、ウィッ○ーさんかっての……はぁ」
聞き覚えのある「女の声」が頭に響いて来た。それと同時に俺から少し離れた所に
「ぴかぴか」光ってる女性の身体の「シルエット」も現れた。……誰だか分かるか?
そう「アレ」だよ、いつもの姉ちゃんだよ。……ちゃんと返事をしてやらねぇと、
この「謎の思念体」は、後からグズり出すからなぁ……。はぁ……。
「……で、なんか用か? 俺、今から顔を洗うトコなんだけどよぉ?」
仕方なしに俺は「謎の思念体」こと「ミルフィール」に返事をしてやる事にした。
ったく、朝っぱらからテンションたけぇんだよ……。この、ねーちゃんは……。
「……ふぇ、イチローが冷たいよぉ……。元気良く、朝の挨拶しただけなのにぃ……」
「……だー!? わ、分かった!! 悪かったってのっ!!」
さ、早速、コレだもんな……。それに、いい歳こいて「ふぇ」ってなんだよ……。
……ってか!? こ、心を読むんじゃねぇえ!! し、仕方ねぇなぁ……。
此処は素直に、彼女へ謝る事にしたわ。……髪ナシ、喧嘩せずって奴だ。
「うふふ、分かればよろしいっ。朝の挨拶は、とぉっても大切なコトなんだぞっ!?」
どうやらミルフィールの機嫌は直ったみてぇだ。で、続けてなんか言ってきたよ……
「でも……酷いや、いちろぉー。ボクという婚約者がありながら、他の子と仲良く
しちゃうなんて……そ、ソレは浮気ってモンなんだからねっ。 ぷんぷんっ」
……ったく、今度はマリーの物真似かよ。……エミリーの事を言ってんのかなぁ。
だが、まぁ……丁度良いわ。そっちがそう来るのなら、俺だって言わせて貰うぜっ。
「……だって、仕方ねぇだろ。オメェは、いつもそんな具合に「ぴかぴか」光ってる
だけで、いったいどんな容姿してんのかすらも、俺には全く分からねぇんだしよ。
オメェがそんな状態じゃなきゃ……オメェと仲良くする事だって出来るんだがなぁ。
あーぁ、残念だなぁ。うん、非常に残念だなぁー。すっごく残念なコトだよなぁー」
「……。」
ふふん、無言で固まってやがる。……さて、どうするかね。
ミルフィールくん……? ふっふっふっ。……ん、あぁ「コレ」か。「コレ」はな。
……ミルフィールの奴が、浮気がどうとか言うモンだからソコを上手く利用させて
貰った「返し」ってな訳さ。……俺の問い掛けに乗ってこなけりゃ、そんときゃソレで
今後、彼女は俺に対して浮気がどうとかなんて冷やかしを言う事は出来なくなるし、
乗ってきたら乗ってきたで……そんときゃ俺に「姿を晒す」コトになるってワケだ。
……幾らなんでも、神様が「ほいほい」と人前に姿を晒すなんてこたぁしねぇだろ。
つぅワケでして、どちらに転んでも俺の腹は何一つ痛むこたぁねぇんだわ。うん。
クックック、見事な墓穴を掘りやがって。この勝負、俺の勝ちだな――
……我ながらの見事な「返し」の余韻に、俺は浸っていた。だが、それは……
束の間の余韻となるコトになった。……そんな俺からの「返し」に対して、
暫くの間ミルフィールは無言で固まっていたんだが、ワリとアッサリと。
俺からの問い掛けに、彼女は返事をして来たよ。
「あらぁ……? みたいのぉ? 私の姿を……? それならそうと、
もっと早く言ってくれたら良かったのにぃ……。それじゃあ……えいっ」
[パアァ……]
「……えっ? いいの? ってか……うおっ!? まぶしっ!?」
……彼女の掛け声と共に突然、井戸の周りが目を開けていられない位に光り眩く
輝いたんだ。んで、暫くすると光が次第に薄れてきたので、俺は「謎の思念体」が
居た辺りを、ゆっくりと目を開けて確認したんだが……するとソコには。
ケツ辺り迄、届きそうなくらいに長く伸びた艶やかな金髪のロングヘアーに、
純度の高いサファイヤを思わせるかの様な蒼く澄んだ瞳。……その瞳と併せて
スラッと高い鼻、艶やかな唇。ソレ等を簡単に纏めて表現するならば――そう、アレだ。
目鼻立ちの整った、如何にも「女神」とでも表現出来る様な「美人」がソコに居た。
そしてっ……! ソレに加えてっ……! ……エロいな、うん。コレは反則だ。
なんつぅ「けしからん」ワガママボデーをしてやがるっ!? す、スゲェなこりゃ。
……目を凝らすと、いや。目を凝らさなくても、一目みりゃ誰でも分かっけど――
彼女の服装は、身体の線がハッキリと見てとれる純白の薄い絹のドレスらしき服装で、
その服装の下にあるのは「シミ」一つ無さそうな美しい白い肌で、更には……その
ドレスの胸元からは、はちきれんばかりにハミ出しそうな「二つの山」が確認出来た。
あ、キチンと身長とのバランスはとれてる体型であり、そしてソレに付随する
「二つの山」だからな。……前にも言ったかも知れんが、何事にもバランスは大事だ。
でも、コイツの顔……どっかで見た事ある様な気がするなぁ……どこでだっけ……。
初めて見た彼女の顔は、さっきも言ったように凄い美人な顔立ちをしてるんだが、
そんな彼女の顔はよ。俺にとっては、何処かで見た事がある様な顔立ちをしていたんだ。
……そんな感じの、身長は百七十五センチ位ありそうな二十代後半くれぇに見える、
北欧系の美人が井戸の傍に立ってたぜ。……絶世の美女っていう言葉は、こんな女性に
使うモンなのかな。……そんな事を考えながら、俺はミルフィールの顔を食い入る様に
見つめた。……見るのはタダだろ? 触ったら金取られるかもしれんけど。すると――
「もうっ……。そんなに見つめちゃダメなんだぞっ? イチローの、えっちぃ……」
……ってよ。俺からの視線に気付いたミルフィールは、そう口にすると。
ボクシングのガードみてぇな感じに両腕を自身の身体の中央に寄せて、その両手を
教会で祈る人がやってるみてぇな感じに組み合わせ、その両手で口元と鼻先を隠す様な
感じで小首を傾げながら流し目で俺を窘めて来た。……コイツ、狙ってやってねーか?
……まぁ、そりゃ良いとしてだ。ふっ、しかしそれは愚問だな。ミルフィールくん。
そんな彼女へ対して、俺は彼女の目をしっかりと見据えて「持論」を言い返したよ。
「……俺の目玉だ。だから俺が何処を見ようが、それは俺の勝手だ。見られるのが
嫌ならば、普通の格好をしなさい。……ワンクリック詐欺の、サムネみてぇな格好
してるキミからは言われたくないな。見事に引っ掛かった俺が言うのもなんだけど」
「……えー? 女の子を、えっちぃ目で見る方が悪いんでしょお?
えっちなのはいけないと思います! イチローのえっちっ、変態っ、絶倫○ゲっ!!」
「なーにが『女の子』だっ!? 歳を考えろ! 歳をっ! オメェは軽く見積もっても
既に『ウン千歳』だろうがっ!? つーかいまっ! ハ○って、言ったよなぁあ!?」
[……ぷちっ]
……はい、頭の回線が一本どっかへ飛びました。毛髪はソレ以上に飛んでますけどね。
よぉーし上等だ!! この喧嘩、買った! 此処は薄毛で悩む男達の代表としてっ!
意地でも目を逸らしてやんねぇ!! 穴は既に開いてるだろうが……穴が開くまで
見てやんよ!! ……しかしよ、俺が「言ってる事」コレは……正論だろ?
……ミニスカやら薄着やら、人目に付く格好してる女性には、コレは分かって欲しい。
見られんのが嫌ならば……肌を露出しない、普通の格好をすりゃ良いだけの話だ。
……電車の椅子に座ってるとよ、対面の座席に座ってる娘が短いスカートだったら、
その……アレだ。んで、俺が椅子に座ってなくても……その、アレだ。俺は背が比較的
たけぇ方だから、座ってる娘が薄着だと……なぁ。……頼むから、コッチにいらん気を
使わせねぇで欲しいモンだぜ……目のやり場に困る。コッチは酒を飲みに出てるから、
ただの移動手段として電車を使いたいだけだってのによ……。
んで、そんな女性達を観察して思ったままの感想を一つ。まぁ、聞いてくれや。
……寒い季節に、上半身はガッチガチに着込んでいるのに、下半身は生足を露出させた
ミニスカだけの娘ってのを、よく駅前やらで見掛けるんだが。あの娘達って……アレ、
寒くないのだろうか……。そんな「ナリ」してて、またもや同じ格好してる女友達とかと
待ち合わせしてるらしくて、んで……合流時によ。「今日は寒いね」「寒いよね」とか、
二人して言い合ってるんだぜ。……寒そうな所作をしてるから、懐具合の話ではないと
思うんだけど……更に深読みしてみても、その娘等。ネタの打ち合わせとかをやってる
女芸人にも見えないんだが……と、まぁ、ソレ等の状況から判断してみて。
その娘等が言ってる「寒い」ってのは、体感的な寒さのコトなんだろうと俺は思った。
だがよ、もしそうなら、その娘等が言ってる事は、小学生が見ても分かる位に理由は
簡単明白であり、その娘等の会話内容は「半クラッチ」な事だと俺は思ったね。
あぁ「半クラッチ」ってのは、俺が考えた造語の一つでな。
「微妙に歯車が噛み合ってない状態」を示す際の言葉だ。
そういう娘達を見かける度に、俺はよぉ――
「……そりゃ、そんなカッコしてたら寒いでしょうよ? おぜうさん達」
ってよ。ツナギの中にジャージ着込んでても、それでも「寒い」と感じるような
「おっさん」からすれば、そんなツッコミの一つでも入れてやりたくなるんだが……。
まぁ、こんなのは彼女自身達が自分で気付かなきゃ意味がねぇ事だし、俺は敢えて
ナニも言わねぇさ。……あぁ、んで。ソレをその娘達に教えるかどうかってのならば、
その難易度は、取引先の事務の女性にさ。
「鼻毛が出てるのを、教えてやるか? やらんか?」
ソレを教えてやるくらいの難易度だ。……まぁ俺の場合は、自分の酒飲み女友達
相手にだったら「そんな状況」に遭遇したとしても、そんときゃ遠慮せずに言うかな。
ってか、その鼻毛を抜こうとします。んで、その鼻毛を「勿体無い、俺にくれ」って、
断ってから自分の頭に持っていく素振りを見せると……俺の場合は、許されます。
……フサメンには出来ねぇ芸当だろう? ふははははっ。
……あ、いけね。ミルフィールの存在を忘れてた。しっかし、コイツ……ホントに
「けしからん格好」してんなぁ。……こういう「けしからん格好」してる女のせいで
「システムの復旧」を知らない「おっさん」達が、家族バレするのを隠そうとして、
焦って、振込み詐欺にヤラレちまうんだろうなぁ。……うーむ、男ってバカだな。
あ、俺も男だった。……ちっくしょおぉおぉおっ! お金返してっ!?
ミルフィールの抗議を無視し、そんなコトを考えながら彼女の「けしからん」身体を
凝視し続けていた……その時だった。突然、ミルフィールの奴がな――
「んもぉ……仕方ないなぁ。それじゃ……ほれっ」
[ぴらっ]
「ぶっ!?」
[……しゅばばっ!!]
あ、あろう事か、ミルフィールは胸元を申し訳程度に覆っていた布を「ぴらっ」と!
いきなり「俺の目の前で」まくり下げやがった!! 突然、眼前に飛び込んで来た
「桜色したソレ」を直視してしまった俺は当然の事ながら混乱してしまい、条件反射で!
「まわれみぎっ!」を自衛隊員顔負けの速度で慌てて繰り出し、ソレから目を逸らした!
その動作は「1っ!」で、右足を後方へ「ざっ!」と引き下げ!「2っ!」で、
身体を後方へ「しゅっ!」と半回転させ!「3っ!」で、その右足を自分の左足の方へ
「ざっ! びたっ!」ってな具合に引き寄せ、戻すんだ。踵の使い方が「キモ」になる。
まわれみぎっ、の後は「直立不動」の姿勢な。……フラついたら腕立て20回だ。
……俺、一週間だけさ。19の時に自衛隊の体験入隊をした事があっから、
いまでもソレを覚えてんだよ。ベッドメイキングの方は忘れちまったけどな。
そんな俺の背後で、ミルフィールは「くすくす」と笑っていた……
「……どうしたのです、イチロー。ジックリと……見たいのでしょう……?
別に、見られても減るものでもないし……もっと、よくみたら如何ですか?
なんならぁ……触ってみますぅ? ねぇ? イチローさぁん……? うふふ……」
こ、コイツっ……!? 俺の性格を知ってやがるっ……! 見ないでぇ~!
とでも、言われて隠されりゃ見たくなるモンだが。その逆だったら……なぁ……。
ちくしょお、悔しいが俺の負けだ。仕方ないので、俺は話題を変える事にしたぜ。
「……あー! はいはいっ! 負けましたっ! 俺の負けです!
ごめんなさいっ! だ、だから早く……そ、『ソレ』を仕舞えってのっ!!」
俺は彼女に背を向けたまま、直立不動の姿勢を維持したままで語気を強めた。
「……うん?『ソレ』ってなぁにぃ? ……ねぇねぇ、イチローくんっ。
ミルちゃん、『ソレ』じゃあ……よくわかんなぁい。うふふ……」
ち、ちくしょう……! ちくしょうっ……!! し、しつこいっ……!!
こ、コイツっ……!? どっかの某乳酸菌飲料好きなっ……!
銀髪娘みたいにっ……!! しつこいっ……! しつこいっ……!!
「……すみませんでした、勘弁して下さい。ソレ以上やられると……自分の理性は、
消し飛んでしまいます。そうなると自分は責任をとらなきゃならなくなります。
自分は元オリンピックの強化選手ですから、この距離ならハズしません。
ってか、触るだけじゃ収まりません。……追加オプションも要求するかもです」
俺は、ミルフィールに最終通告を出した。
平身低頭、気持ちを込めて、潔く負けを認めて「自衛隊員の隊長風」に……な。
「うふふ……。そろそろ限界みたいね……? いいわぁ、許してあげましょ」
[すっ……すすっ……]
……衣擦れの音が聞こえて来た。ミルフィールは、そう言うと「ソレ」を仕舞って
くれたみてぇだ。ふぅ……俺の「my sun 値」は、なんとか持った様だ。
冷静になれた此処で、ふと俺は「ある事」を思い立つ。
まぁ、こうしてせっかくミルフィールが出てきたんだ。俺は何故だか分からないが、
魔法を編み出したと言われている、女エルフの「エリカ・リバーサイド」の事を、
ミルフィールに聞いてみたい衝動に駆られたので、彼女にソレを聞いてみる事にした。
……話題を変えようとして、無意識にそういう事を思い立ったのかも知れんがな。
「なぁ、ミルフィール? 魔法を編み出したエリカって名前の女エルフがいたんだろ?
ソイツの事を良かったら……教えちゃくれねぇか? オメェなら知ってんだろう?」
「あらあら……イチローってば。エリカちゃんの事も気に掛かるの?
もうっ……浮気者めっ。なんだったら、また……『さーびす』しちゃおっかな……」
そういうとミルフィールは、また……胸元に手を伸ばそうとしやがった。
[ビキッ……!]
なので、俺は……真剣な顔つきを作りソレを静止した。額に青筋が出るくれぇにな。
だってよ……そうしなきゃ、コイツ悪ノリすっから話が先に進まねぇんだよ……。
「……おい、俺は言ったよな……? 次、ソレやったら……俺は、例え神様が
相手だろうが容赦なく吸い付くぜ。そうなっちまったら……例え、オメェが泣いて
謝っても、俺は吸い付くのを止めねぇぞ……? 今から、オメェがやろうとしてる
『行動』は……それだけの『覚悟』があっての『行動』なんだろうな……?」
俺は彼女に対し、言葉と自らの思いを乗せた視線で確認を取る事にした。
……俺の覚悟は、既に完了済みだ。例え神が相手でも、一矢報いてやるぜ……!?
「あ、あはは……。い、イチローの目が……。
ほ、本気と書いて『マジ』と読むになってるわぁ……。ミルちゃん、こわいぃ……」
「……分かってんならキチンとしろ、エリカの事を聞かせて欲しい。
さぁ話せ? 直ぐ話せ? 今すぐ話せ? hurry!hurry!
hurry up! Let us do itっ!」
「わ、分かったわよぉ……。あ、あら? でも……? む、無駄に魔道語の発音は
良いのねぇ……? そ、それじゃ大雑把な魔法の成り立ちはイチローも知ってる
だろうから……エリカちゃんとのお話の内容を話すコトにするわね? えぇと……」
俺の「覚悟」をようやく理解したのか、ミルフィールはエリカの事を。
……ゆっくりと、落ち着いた語り口調で、話し始めてくれたのだった――