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おっさんの冒険録  作者: おっさん
記録者:桜葉一郎 「一日目」
11/58

姿の見えない不思議な「魔族」



「……へぇ、港町フィックスってトコは「魚料理」が有名なのかぁ」


「……はいっ、とっても新鮮で活きの良いお魚が毎日食べられますよっ」


 ……先程までは、泣きじゃくっていたエミリーだったが。今は、心に抱え込んでいた

重荷を全て降ろしてスッキリしたのか、明るく元気な表情を俺に見せてくれている。

 やはり、この子には笑顔が似合う。この子が笑顔になると周りの者も笑顔になれる。

 本人は気付いてないかもだが、そんな不思議な「何か」を、彼女は持ってんだわ。


 ……今現在、俺はそんなエミリーと二人連れ立って、すっかり陽の暮れてしまった

森の中からリュック村へと向かう為、村へ向かう為の街道へ出る為に、一緒に森の中を

雑談しながら歩いているんだよ。んで、その道中で彼女から聞いた話によるとだな。

 彼女は、彼女が所属しているという「港町フィックス」の「魔道士ギルド」から

「届け物の依頼」を受けててな。それでリュック村へ向かっていたんだってさ。


 ……あぁ、ちなみに。俺はリュック村から出た事はねぇから、こりゃ又聞きになるが。

「港町フィックス」から「リュック村」までの距離は、歩いて「約一日」なんだそうな。

 この間に「カラビナ村」ってのが途中にあるらしいから、そのカラビナ村からなら……

「リュック村」迄の距離は歩いて「約半日」って感じか。……結構、キツイ距離だわな。


 んで、エミリーも前日はさ。港町フィックスとリュック村の中継地点となる、

そのカラビナ村に泊まったってよ。早朝五時位からカラビナ村を出発し、リュック村に

向かってたらしいんだが……その道中で「奴ら」と出くわしたそうな。俺が朝、採掘に

出掛けるときゃあ、あんな奴等なんて何処にも見なかったんだがね。……しかしまぁ、

エミリーにゃ悪いが、大きな被害が出る前に盗賊の存在を知れて良かった。この件は

後でギルドに報告しとこう。そうすりゃギルド経由で何かしらの対策するハズだ。


 ……あぁ、それでだ。俺がリュック村から出なかったのにはワケがあってな。

 丁度良い機会だから話すが、そのワケってのはよ。とりあえず金を貯めなきゃ何も

出来ねぇと俺は考えてたモンだから、この辺の村や町の名前を知ってはいたが。

「先立つモン」が全くねぇ事には他の村や町へ行ったって意味がねぇって話になる。

 だから、この一ヶ月は。ずっとリュック村だけに留まって金稼ぎしてたのさ。


 ……エミリーの出身地を聞いてマックの話を思い出し、当然「コメ」の事も彼女には

聞いてはみたんだが。……残念ながら「ワノクニー」か「シンギ」からの「貿易船」が、

稀に訪れた際にしか、フィックスには「コメ」が入荷しないそうなんだ。

 しかも、極少量なんだと。……エミリーも「コメ」の事は名前だけは知っていたが、

まだ食べた事は無いそうな。なんでも「雑貨屋」に入荷した途端に、いつのまにやら

売り切れちまう様な、そんな人気商品だって話だよ。


 ……おっと、そういえばだ。この世界の「雑貨屋」ってのはな。田舎とかで良くみる、

日用雑貨だけじゃなく食料品も扱ってるような「個人経営の店」の事なんだわ。

 まぁ……平たく言うと「スーパー」って奴だな。二十四時間営業ではないが便利だよ。


 でだ、「コメ」についちゃあ……エミリーからの話を聞く限りじゃ雑貨屋で買う以外は

港湾関係者と知り合いで、尚且つ、貿易船の入港予定を先取りで聞ける様な奴じゃねぇと

入手は困難みてぇらしい。公平性を保つ為に雑貨屋では、入荷した「コメ」の予約とかは

出来ねぇらしいしな。……運良く、貿易船と雑貨屋の兼ね合いをクリア出来た奴だけが、

買えるような代物なんだろう。っていうか、コレ。ヒデェ話だと思わねぇか……? 

 なんか……幾ら電話しても、その予約の段取りに行く事すら出来ねぇ、どっかの

「芋焼酎」を買おうとしてる時みてぇな気分になってきやがったわ……。はぁ……。

 

 ……しかしまぁ無いモンを嘆いても仕方ねぇってな話だから、此処は気を取り直してだ。

 エミリーが魔道士で助かった。「渡りに船」たぁ「こういう事」を指すんだろうぜ?


 ……俺は頭上からちょっと離れた先の方の宙を「チラリ」と見上げた。

 そこには、野球のボール位の大きさの「光球」が「ふよふよ」と浮かんでおり、

俺達の周囲を照らすには十分な程の「光量」を、辺りに放っていた。ソレの正体は、

魔道士やら神職者が扱える魔法の一つ「光球術ライトボール」って、いう奴らしい。

 光量も持続時間も術者の意思一つでよ。いつでもどうにでも出来る代物なんだそうな。


 ええっと……コレの詠唱は、なんつってたっけなぁ……。さっきエミリーが、なにやら

ブツブツ言いながらコイツを出してたんだが……。うーん……すまん! 忘れちまった! 

 まぁ、また。いつか見れる機会もあらぁな。……ただ、魔法全般について言える事と

言えばよ。身振りやら手振り、そして呪文の丸暗記をしてもその魔法は扱えないそうな。


 ……魔道士である、エミリーの場合について話すが。こうした魔法ってのはな。

 魔道士ギルドに所属して、そこで「功績」を積んで行けば魔道士ギルドの地下室にある

「契約の間」ってトコで「功績」に応じた……所謂「魔道士ランク」って奴だな。

「そのランク」に応じた魔法と契約させて貰う事が出来るんだってよ。


 ちなみに俺の「冒険者ランク」は「ブロンズ」だ。エミリーも「魔道士ランク」は

「ブロンズ」だってさ。まぁ「この辺の事」も、いま話すと長くなっからまた後でな。


 ……俺は「ふよふよ」と浮かんでいるソレを見ながら、エミリーとの雑談の続きを

楽しむ事にした。……しっかし、魔法って便利なモンだぜ。俺はいつも日暮れ前には

リュック村へ戻る様にしていたからなぁ。手荷物になるカンテラやランタンの用意なんて

してなかったから「コイツ」は、ホントに有難い。まぁ、その「予想外の出来事」が

あったから。こうして俺とエミリーは、知り合いになれたんだけどな――


 ……あの後、俺は。大きな水溜りの堰を切ったかの様に泣きじゃくったエミリーが

落ち着きを取り戻した後に。エミリーを、その場で少し待たせてベネッツォとの格闘で、

木の根の隙間に落としていた自分のナイフと奴のナイフ、そして奴の剣と「つるはし」や

「背負子」等を回収し、奴のナイフとロングソードは、その遺体に戻してやったんだ。


 ……冒険者ギルドで習った「心得」としては。奴らが身に着けていたモノを回収して

売ったり、財布を持ってたらソレを「くすねたり」すれば、それなりの稼ぎには

なったんだろうが。俺はそんな小銭稼ぎの為だけに「追い剥ぎ」みたいな真似は絶対に

したくねぇ性分だからよ。……だからそうしてやったんだ。


 奴等との件については、冒険者ギルドに報告して遺体を回収して貰う様にも

するつもりだ。この世界では一般的には火葬は行われていなくてな。すべて埋葬なんだ。

 だから、後は……奴等の遺体の埋葬さえ、キチンとしてくれんなら。冒険者ギルドが、

奴等の遺品をどうこうしようがソレは丁度良い、奴等自身の葬式代にもなるってモンさ。


 ……モヤシは「仲間の仇だ!」なんて抜かしてたがよ。結局は「最後」まで、

俺と「ヤろう」とはせずに、その仲間達の遺体を見捨ててトンズラこきやがった。

 そんな「ヘタレ」だから、仲間の遺体を回収しようなんて気もアイツには無いだろう。


 奴が忘れていった木に刺さったままの「ダガーナイフ」には、エミリーの「鎮魂歌」が

終わる迄の間、ラッツの首に掛けてやっていた俺の白いタオルを縛って来た。

 ああしとけば二人の遺体を捜す際の、良い目印になる事だろうよ。良かったなモヤシ。

 テメェ自身は仲間の役にナニも立ってねぇが……少なからずテメェの「獲物」は、

テメェの仲間を弔う為の、良い役には立ったと思うぜ。


 ……そんな事を考えていると、もう少しで森から街道へ出れる場所に

差し掛かろうとした時にさ。エミリーが、俺に声を掛けてきたんだよ。


「……あっ、イチロー? ちょっと良いですか?」


 エミリーは、俺に一言断りを入れると「何か」を探しているかの様な具合に急に辺りを

「きょろきょろ」と見渡し始めた。次いで、自分の身近に繁っている草むらをなにやら

「ごそごそ」とやっている。……いったい、どうしたってんだろうな。探し物かな……?

 ソレが気になった俺は、何を探しているのかエミリーに聞く事にした。


「……おい、エミリー? いったいどうした? 何か、探してんのか?」


「……あっ、はい。先程、彼等に追い駆けられた際に、身の回りの物や魔道士ギルド

 からの依頼品を入れた革鞄を此処ら辺りの草むらに投げ込んで隠したのですが……」


「うぅん……。何処に行っちゃったのかなぁ……」


 エミリーが探しているのは、どうやら鞄らしい。なるほど彼女は手ぶらだったしなぁ。

「手ブラ」じゃねぇぞ。「手ぶら」な。手に何も荷物を持ってない状態って意味だ。

 ……うーむ、いかん。最近、モデムの「初期化」を、やってねぇからなぁ。思い付く

発想全てが中学生並になってるから困る。ダメだ「コイツ」早くなんとかしないと……。


 まっ、そりゃ置いといて。そういう事なら手伝うとしますかねぇ。村や町とかの中で、

どれか一つの鞄を探すってのなら。その特徴をエミリーに詳しく聞かねばならないが。

 こんな森の中で鞄を探すってのなら、特徴もナニもへったくれもねえ話だぜ。


 俺はエミリーには鞄の特徴は聞かずに、手近な草むらを彼女と同じ様に「ごそごそ」と

やってみる事にした。暫く、無言で二人して「ごそごそ」と、やっていたんだが……

丁度「その時」だった。


[ぐぎゅるるる……]


 何処からともなく凄い音が聞こえて来た。その音を聞いた俺は「ある事」を思い出す。

 まさかっ……!? 話には、聞いていたが。この「唸り声」は「魔族」って奴かっ!?


[ばさっ!]


 俺は緊張感を抱きながらも草むらから飛び出し、辺りを警戒しようとしたんだが……


 それと同時に。


「きゅうぅううぅ……]


 また、何かの……獣の鳴き声みてぇな「唸り声」が、聞こえて来た。

 

 こりゃ、不味いな……。唸り声が、聞こえた気配がするトコから距離を割り出すと。

 かなり俺の近くだぜ。この唸り声から察するに、多分「低位魔族」だと思うんだが

「つるはし」と「ナイフ」だけで「ヤれる」のだろうか……!? 

 

 ……此処で俺は「はっ」とする。エミリーは先程の「唸り声」に気付いたのだろうか?

 

 確認する事にした。


「……おい、エミリー。魔族が近くに潜んでいるかも知れんから、十分に用心しろっ」


「……えっ!? えぇっ!? ま、ま、魔族ですかっ……!?」


「……あぁ、耳を澄ませて聞いてみろ。さっきからヒデェ声が聞こえる。

 この凶悪そうな「唸り声」だからな……。多分、間違いねぇだろう……」


 ……エミリーの返事の仕方から察するに、なるほどな。……コイツぁ、強敵の様だ。

 加護持ちである、俺にも気配を気付けねぇくれぇの相手であり、魔道士であるエミリー

にも、その気配を感じさせる事なく気付かせなかったくれぇの強さの魔族ってワケか……!!


「……フッ、おもしれぇじゃねぇか……!!」


[ギリリッ!!]


 俺は「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべると同時に「つるはし」を握る右手に力を篭めた。

 イザとなりゃコイツで! 魔族だろうがなんだろうが思いっ切りブッ叩いてやるぜ!!


 と、意気込んだ……その時だった。


[きゅうぅうっ……]


「チッ……! 姿が、みえねぇな……! おい、エミリーっ!?

 オメェにも、この凶悪な唸り声は聞こえるだろう!? 用心しろよっ!」


「あ、あのぅ……。 そ、その。い、イチロー。

 ちょ、ちょっと……。そ、その件について、大事なお話が……」


 俺は舌打ちを一つ入れると、エミリーが居る方の草むらへ向かって注意を呼び掛けた。

 こんだけ近距離で「唸り声」が聞こえてんだから、もはや小声で話す必要はないだろう。

 なので俺は、声を張り上げてエミリーに注意を促したんだが……。

 そんなエミリーを見やると、彼女は草むらの中で無防備に突っ立っていた。

 で、顔を真っ赤にしながら俯き加減で俺に「ぼそぼそ」と、何かを言って来てる。


 だが今はっ! 暢気にチンタラと話を聞いてる暇なんかねぇんだ! 魔族に備えねぇと!


「……なんだ!? よく聞こえねぇよっ!?

 話なら後にしてくれねぇか!? 魔族が近くにいやがるんだよ! 魔族が!」


「た、たぶん……ソレは、ま、魔族なんかでは……な、ないかなー。な、なんて……」


 エミリーは、相変わらず俯いたまま何かを呟いてやがる。


 なんだ……? さっきから、エミリーの様子が変だぞ? 頭から、湯気が出そうな位に

顔を真っ赤にしてやがる。まさかっ!? 魔族に、なんらかの攻撃を受けたのかっ!?


「……チッ!」


[ダッ!!]


「……えっ? わ、わわっ……」


 エミリーの事が心配になった俺は彼女の元に駆け寄り、彼女の身体を黙視する。

 だがしかし、彼女の身体には特に異常は見当たらない。


 良かった、何処もケガとかはしてねぇみてぇだ。……安心した俺は、そのまま彼女を

庇う様に彼女の前に仁王立ちし、彼女に背を向け、引き続き辺りを警戒する事にした。


 だが、それと同時に……。


[くいくい……]


 ……何かが、俺のシャツを引っ張っている。エミリーか? 

 ったく……今は、じゃれあってる場合じゃねぇってのに……。


「……おい、エミ……」


[クルっ……]


「ソレ」は、エミリーを注意しようと思って、彼女の方を振り向いた……その時だった。


[ぐぎゅるるる……]


「え、えへへっ……」


 ……顔から火が出そうな位に顔を真っ赤にさせつつも、

エミリーは俺へ向けて、はにかんだ笑みを浮かべて見せていたんだ。


「はっ……?」


 ……状況をイマイチ把握出来ず、間抜けな声を発する俺。俺は暫くの間、エミリーの

顔を見据えたまま固まっちまってたんだが……俺と決して目を合わせようとはせずに、

その視線を泳がせていたエミリーの表情を見て、ようやく「唸り声」の正体を理解出来た。


「なるほどな……。確かに、こりゃ姿がみえねぇワケだ……」


「魔族」は、確かにいた。だが、それは……「いま」は、俺の胸の内にしまっておこう。


「……い、イチロー!? そ、そんなに「じっ」と! み、見ないで下さいよっ!?」


「……お、おぅ。す、すまん……」


 だがよ……。「見るな」と、言われても……。これは……なぁ……。


[きゅうぅうぅう……]


「やっ……!? み、みちゃダメぇっ……!!」


 ……脱力感に苛まれた俺は、呆れ顔で。その「お腹」を必死になって両手で隠そうと

している彼女の真っ赤な顔と、その「お腹」をさ……。彼女の制止を無視しつつ――



 交互に、見比べたのだった……。





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