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おっさんの冒険録  作者: おっさん
記録者:桜葉一郎 「一日目」
1/58

髪様からの贈り物。


【ザスッ!】【ガスッ!】【ドスッ!】


【ザッ、ザッ、ザッ……】【……スッ】


「……チッ、レア物は混ざってねぇか。勿体付けてんじゃねぇ……よっと!!」


【ザスッ!!】


 ……はぁ、ツイてねぇよなぁ、ったく。


 こちとら朝っぱらから陽が暮れる迄の間、一生懸命になって工事現場の

作業員よろしく、ツルハシを何度も頭上へ振り上げちゃあ、足元の山肌へと

打ち下ろすっつぅ、過酷なガテン系動作の繰り返しで、微妙にダルくなってきた

腰の疲れを我慢して頑張ってるってのによぉ、今日はあんまりレア物の鉱石が

出ねぇんだわ。


 いま俺がやってたのを見たろ、山肌をツルハシの尖ってる方で崩しまして、

ある程度、その崩れた土砂が溜まってきたら、崩したソイツをツルハシの

平べったい方を使って、大雑把に足元へ広げる具合に選り分けて、そして、

その中に目当ての鉱物が含まれて無いか、手にとっては拾い上げ、目視にて

現物を確認して……っていう、地味なヤツ。


 コレを一日中やってるんだよ、ハッキリ言って飽きるっ。

 レア物の鉱物さえ出てくれりゃ、そんときゃテンションが一気に上がって

ハイな気分にもなるんだが、こうハズレ続きだと……もういい加減飽きたわっ。


 あぁ、どんなトコへ向かってツルハシを振り下ろしてんのかと言いますと。


 粘土質な赤土と川原でよく見掛けられるような玉石がよ、交じり合って

形成されて出来ている風な山肌へ向けてツルハシを振り下ろしてんのよ、

まぁ早い話が、いま俺が居る此処はな、所謂「鉱山」って奴なのさ。


 しかしまぁ鉱山っつっても色々と種類がありまして、鉱脈のある山の中を

鉱物求めて掘り進んで行くタイプの鉱山もありゃ、いま俺が居るトコみてぇに

山を登って行って、ソコの山肌をこうして掘って鉱山の体表から鉱物を得る

タイプの鉱山もあるのさ。


 しっかし「レア物」って言われるだけはあるわ、ほんっとに出ません。

 意地なんか張らずにボロボロと出て来ても良いのに。そう、コレは……

飲み会とかで大酒を食らった翌日、トイレで踏ん張っても中々出てこない

「アレ」を出す状況に似てるかもな。クッソ固いよなぁ「アレ」は。


 いつかは出るんだろうけど、出る迄にゃ時間が掛かるんだよな~、うんうん。


 ……まぁ、俺の話はつまらねぇと自分でも分かっているんで、此処は一つ。

 再び土やら石やらが詰まっている方の、鉱山の話へ戻すことに致しますが。


 山に登って山肌を採掘してるってのは、さっき言ったよなぁ。だもんで、

ソコから見える周囲の風景について話すとしますがよ。まずは今現在、

俺が立っている場所についてなんだが、辺り一面をざっと見回してみても、

此処は何の変哲もねぇ土と石と草くれぇしか、視界にゃ入らねぇ場所だな。


 だけど、もっと視野を広げてソコから遠くを眺めてみるとだ、

此処は海抜○メートル、だとかの専門用語的な知識なんざ知らねぇけど、

結構高い場所に居るモンで、その眼下には緑豊かな森が広がってんだ。


 その森ってのはよ、まぁ後で詳しく話すとするが、俺が住んでいる村から

隣村へ出掛ける際にゃソコを必ず通らなきゃならねぇっつぅ街道の役目も

果たしている森なんだわ、何故かっつーと、地形的な事情でその森を抜ける

以外にゃ、他には人やらなんやらが通れる安全な道がねぇからさ。


 つーワケでして、お次はその地形的な事情ってのを説明させて貰うが。


 さっき話したその森の北側は、いま俺が居る此処の鉱山ってワケなんだわ。

 んで、その森の南側は地盤が緩くて危ない、広い湿地帯が広がってんだ。

 北は鉱山、南は底なし沼、ソイツに挟まれてちゃ森を通るしかねぇってこった。


 あぁそうだな、そういや丁度「森」の事について話した良い機会なんで、

ソコの君にだ、ちっとばっかし雑学的なコトをお尋ねしようと思うが。

 ソコの君は「森」と「林」の違いが分かるか? 人の名前じゃねーぞ。


「森」ってのはよ、スギやらヒノキやらと多種多様な種類の木が集まって

形成されてるトコを指し「林」ってのはスギならスギだけ、ヒノキなら

ヒノキだけって具合によ、一種類しか木が生えてねぇトコを指す言葉なんだ。


「竹林」っていう言葉はあっても「竹森」って言葉はねぇだろ。

「名は体を現す」コレ、使い方は間違っているんだろうが、そういうことだ。


 そんでまぁ、ちょっくら話が横道に反れたので、さっき話してた

俺が立っている場所の雰囲気についての話へ戻すとするが。


 そんな場所に聞こえてくる音と言えば、名前も知らねぇ鳥が何処かで

鳴いている声と、たまに吹く風がその辺に生えてる草の葉っぱを揺らす音

くれぇなモンかね、まぁもっと気の利いた表現でソイツ等を言い表すと

すりゃあだ、趣と風情のある自然豊かな身体に良い場所ってトコか。 


 ってなモンで今現在、俺はそんな大自然の雰囲気を肌で感じられる場所のだな、

とある区画で肉体労働に精を出してんのさ。どんな肉体労働をしていたのかは、

説明しなくてもさっき見て貰ったよな、平たく言えば土木作業、ドカタともいう。


 で、この業務内容の目的についてなんだが、そりゃまぁ……その、アレだ。


 えーとだな……あー、ちょっと待てっ。俺の方から一方的に話を振っといて

わりぃんだが、雑談しながら仕事してっと作業に集中出来なくなっから、

後で詳しく説明してやんよっ。俺の頭脳に搭載されている旧型のCPUだと、

一つずつの作業しか出来ねぇんで、もう少し時間をくれや。


 もうちょいでいま掘ってる作業分ってか、今日の仕事の区切りが着くんだわ。

 

【……ガラガラッ】【ザッ、ザッ、ザッ……】


「……ふう。ん、こんぐれぇの量がありゃ十分かね……っと」


【ガスッ!】


 両手で握り締めていたツルハシを右手だけに持ち替えた俺は、ソコで一旦、

その場で屈み込むとツルハシの平べったい方を使って採掘物を選り分けた。

 選り分けたらソイツ等をざっと見渡して、その中に目当ての鉱物がありゃ

ソイツを拾い上げ、目視で再確認して「当たり」だったら傍に置いてある

運搬用の麻袋に拾った「当たり」を詰め込むって寸法だ。


 どんなモノが掘れたのかってぇと、ただの瓦礫って感じの見た目の奴もありゃ、

赤土と黒土が混ざり合った感じの、少し変わった赤黒い粘土みてぇな軟らかい

粘土の塊もあるんだぞ。要はその粘土が「当たり」ってなワケさ。


 まぁ大雑把にしか、これまでの採掘物は把握はしてねぇんだが、麻袋の中を

パッと見ただけでも結果は上々ってなモンだった。満足の行く結果を得れたので、俺はソコで仕事区切りの溜息を一つ吐くと、ソレを自分に言い聞かせる様な

具合の独り言を口にした後、持っていたツルハシを仕上げとばかりに山肌の

柔らかそうなトコヘ向けて突き刺す事にしたよ。


 俺が先程迄ツルハシを振っていたのは、その赤黒い粘土を集める為なんだ。


 その粘土の正体は「鉄鉱粘土」って言ってな、文字から受ける印象そのまま、

鉄に精錬する事の出来る粘土で、この粘土を鍛冶師ギルド指定の二十キロ

くらい入る麻袋に入れて鍛冶師ギルドへ持って行くと、一袋二千円辺りの

金額で即金で買い取って貰えるんだわ。あぁ、辺りと言ったワケについちゃあ、

この赤黒い粘土に含まれる、鉄の成分次第で買取金額が変わるからなんだよ。


 で、どうやって鉄の純度を調べているのかってぇとだ、まぁその辺の事情も

これから詳しく説明するけど、鍛冶師ギルドの受付にゃ「魔導鑑定器」とかいう

採掘物の成分分析を瞬時にやってくれるとても便利な魔導器ってのがあって、

俺みてぇな労働者から持ち込まれた採掘物は、ソイツに無料で掛けて貰える事になってっから、ソイツであっちゅーまに鉄の純度を調べて貰えるのさ。


 ……とは言ったモノのだ、世知辛いのが世の中だからねぇ。


 やろうと思えば鍛冶師ギルドの連中が、その魔導器に手を加えて成分分析で

「ズル」をするという可能性もあるワケだ。その理由についちゃあ、材料の

仕入れ値を抑える為ってトコだろう。だが、もし、んな事やって万が一にも

その不正が俺みてぇな労働者達へバレた日にゃ、そういったズル賢い店の

「末路」ってのはよ、いったいどうなると思う? 


 労働者だってバカじゃねぇからな、俺だったら二度とソコへ物を売らねぇよ。


 他の皆だって同じ意見だろうさ、物を売るに限らず買うにしたって、

そんな不正をヤル様な店が扱ってる品物なんざ、その品物自体に信用も

クソもねぇから誰も欲しがらねぇんじゃねぇのかな。


 っとまぁ、そーゆーコトで小金を惜しんで信用を無くし、店が潰れても

良いってんのなら、好きなだけズルをやって貰ってもコッチは一向に

構わんのだわ。しかしだ、そうは強がってみたモノの、そういう不正の

証拠を掴む者が居なきゃその図式は成り立たねぇワケだ。


 さて、いったい誰がその不正を監視しているのか――



 たまに居るんだよ、物好きな「錬金術師れんきんじゅつし」様ってのがね。

 その錬金術士ってのを何かに例えるとすりゃ、そう……アレだな。


 飲食店のサービスを調査しておこずかいを稼いでいる、やりくり上手な主婦の

お姉様方の様な具合によ、覆面捜査員みたいな感じでフラッと魔導器を使ってる

ギルドへ採集依頼を受けに来て、さっき言った不正が無いか確かめている様な

者達ってトコかねぇ。錬金術師が魔導器を一目見れば、採集物の鑑定の際に不正を

しているのか不正をしていないのか、ソレは直ぐ様、一発でバレるらしいんだわ。


 今からする話、この話はよ、その物好きな錬金術師様こと、俺の数少ない友人の

一人である「その男」から聞いた話なんだがよ、魔導器ってのはこういう採集物の

依頼に関する事には、まず間違いなく使われているんだそうな。理由はそのまま

簡単明瞭さ、便利だからだよ、なんせ一瞬で成分分析が出来てしまうのだからな。


 モノはついでだ、この魔導器が出来る一昔前迄についての話もしようか。

 魔導器がある今と、無い昔じゃ、色々と大変だったみたいなんだぜ。


 コイツはまぁ、魔導器ってモノに対する知識を深める為の話でもあるから、

面倒クセェだろうと思うが聞いてやってくれや。例として、鍛冶師ギルドから

採掘の依頼を受けた場合で話すが――

 

 

 魔導器が出来る一昔前、採掘依頼を受けた奴は、まず手始めに依頼された

採掘物を集めてからソイツを鍛冶師ギルドに持って行ってたんだ。此処までは

今と同じなんだが、問題はその取引内容にある。今ならソコで即金即決で報酬が

手に入るんだが、魔導器が出来る以前は、その時にはまだ代金を貰えねぇんだ。

 その時に貰えるモンってのは「採掘物を確かに預かりました」っていう事が

記されている、預り証っていう羊皮紙一枚だけさ。


 あぁ「羊皮紙」ってのは獣とかの皮をなめして作ったノートみてぇなモンでな、

墨汁やらなんやらで、その羊皮紙に文字を書く際、文字を間違えた時は刃物やらで

表皮を薄く削って、ソコを柑橘系の果物か何かの果汁でゴシゴシしてやりゃ、

皮が擦り切れない限りは繰り返し使えるというエコな天然素材のノート。


 まぁ現代風にソイツの用途を分かり易く例えりゃ、

鉛筆で書いてミスったトコをツバ付けて消す感じだな。


 で、話を戻すが。


 その預り証には代金支払いの日付が書かれていてな、その日付が来る迄の間は、採集者へ代金の支払いはお預けになるんだよ。なんでかっつーと、その仕組みには理由があって、その理由ってのは鍛冶師ギルドが集めた採掘物をギルド所属の鍛冶職人へ分配し、それから精錬する為の作業時間が掛かるからなんだわ。


 まぁソレも致し方ないっつぅ話だわな、買い手の鍛冶師ギルドの方にしたって

慈善事業してるワケじゃねぇんだからよ、採掘物を買い取ったって精錬してみる

迄はソコに幾ら鉄が含まれてるか分かんねぇんだからさ、もし買い取った採掘物が

不純物まみれだった場合、んなもん赤字になるだけってな話だ。


 だもんで、こうした訳から、さっき話した精錬作業の時間が必要になるワケさ。

 

 でだ、その作業が終わった後日、やっとこお待ちかねの時間到来ってワケだ。

 預り証に記載されている日付になったら、鍛冶師ギルドへ出向くんだわ。

 そうすりゃ精錬して出来た素材の量に応じて、材料受け取り時に採掘者へ

渡した預り証と交換で、採掘者には採集物の代金が支払われていたそうな。


 だが、この方法ではよ、その都度、お互いに二度手間が発生する事になっから、

どうしてもめんどい話になっちまうってモンだし、更に採掘者の方には、相手方が

不誠実な鍛冶師ギルドだった場合、その採掘者は足元を見られちまう事にもなる。


 そこで登場したのが、これら魔導器って訳さ。コイツが出来てからは即金即決が

可能になったんだ。売り手にも買い手にも時間短縮の恩恵や公平性をもたらす事に

なり、それによって材料の売り手も増え、買い手の手間隙も減り、各ギルドの

生産性も格段に上昇したそうな。と、まぁコレが魔導器誕生秘話ってトコか。


 で、そういう役割を担う様になった魔導器の不正を暴けば、俺達みたいな

労働者、要は民衆からソイツは支持される事に繋がるから、その錬金術師は

噂が噂を呼んで名が売れるってな訳さ。そんな感じで世間に名が売れれば、

大金を持っている資産家……パトロンと呼ばれる錬金術士のスポンサーに

自分を売り込む際に楽になるそうだぞ。だから錬金術師は、さっき話した

みてぇな感じで自分の為にも俺達の為にもなるような行動をやってくれてんだわ。


 そんでな、いま話したスポンサーってのに関わる話なんだが、聞いた所に

よると魔導器を産み出すには設備や材料等を揃えなきゃならんから、莫大な資金が必要になるそうなので、財産に恵まれている貴族の家柄以上の身分出身の錬金術師を除けば、一般的な平民出身の錬金術師達は資金力に乏しいモンで、そういった

パトロンを探す事に躍起になっているらしいぞ。魔導器っていうのは錬金術師の

専売特許商品、魔導器を作ってソレが当たれば、その錬金術師の元にゃ大金が

転がり込んでくるやら、その名もずっと自分が作った魔導器と共に後世に

語り継がれて行くとやらで、そりゃあまぁ凄ぇ事になるんだと。


 その大金って言うくだりについちゃ作り出した魔導器が売れれば売れるほど、

まぁ売れて無くてもその魔導器を使っている奴が居れば、ソイツは魔導機の

特許使用料を毎月末日に錬金術師ギルドへ納めなくちゃならん法律だから、

その使用料によって魔導器の管理を代行している元締めの錬金術師ギルドにも、

その魔導器を作った錬金術師本人にも、黙ってても金が舞い込んでくるっていう

仕組みなんだとよ。


 あぁ断っておくが、この特許使用料ってのは魔導器の定期メンテナンス代も

含まれているらしいからよ、一方的な搾取って訳でもないぞ。それにだ、修理が

出来ない位に魔導器が壊れた時は、その魔導器を錬金術師ギルドに持って行く事により、新品の半額で同じ新しい魔導器との交換もやってくれるらしいんだ。


 まぁ平たく言えば浄水器サービスのカートリッジ交換みたいなモン、

と考えてくれりゃ良い。売りっぱなしが無いってのは、良いサービスだな。


 金の為、名誉の為、それらの為、錬金術師達は自らの持てるコネクション等を

最大限に利用したりして、新しい魔導器を作る事に必死になってるみてぇだ。

 そんなこんなで、錬金術師と俺達みたいな庶民の間には全く繋がりがねぇ

みてぇに見えるが、こうして少なからず利害関係の一致があるってこった。

 

 なので、いま話したような流れで監視の目が行き届いてるんだわ。


 ギルド側の不正がバレた時は、さっき俺が少し話した様な感じでギルド側に

関連する商店も死活問題になっちまうからよ、商売人にとっちゃ信用ってのは

命と同じくれぇに大事なモンなのさ。なので、小銭を惜しんで自ら信用を無くす

ような真似は絶対にしねぇだろうから、ギルド側のボッタクリ、その辺のこたぁ

今の話をキチンと聞いてりゃ、心配する必要なんざねぇってこった。


 さて、此処までは買い手のリスクについて話をしたが、売り手の方にも

買い手と同じく信用に関わる評価ってモンがあるんだぞ。そりゃそうだろう、

質の悪い材料を持ってくる奴より、質の良い材料を持ってくる奴の方が重用されるのは当たり前、期日迄にキチンと依頼を果たすとか、質の良い材料を見つけてくるとか、そういった日々の少しずつの積み重ねが信用へと変わって行くんだ。信用があれば、此方からワザワザ探さなくても仕事の方からコッチへ来てくれるモンさ。 俺が所属してるのは「冒険者ギルド」っていう、通称「なんでも屋ギルド」

なんだが、ソコにも顧客からの指名制ってのが導入されているので、信用ってのはホントに大事なんだ。


 あぁそうそう、魔導器に関わる錬金術師が悪徳ギルドと組むって線も、

あるにゃあるんだがよ、んな事をやりゃあ、その錬金術師は不正がバレた

際には免許剥奪どころか奴隷の身分に落とされる事になってる、問答無用でな。

 奴隷の身分に一度落ちると、そこから平民の身分に戻るのはスッゲェ難しい

らしいぜ。しかもその身分制度、ソイツぁその罪を犯した本人だけじゃなく、

奴隷の身分になってる時に出来た子供にも及んで行くそうだ。だけどソレ、

一応の救済措置はあってさ、奴隷の身分になる前に居た子供についてはな。


 他の家へ養子に出すとか、教会へ預けるとかの方法で親と絶縁させて、

奴隷の身分へ転落させるコトの難を避けさせるこたぁ出来るらしい、

ソレがせめてもの罪人へ対する国からの温情ってトコか。まぁ俺だって

ソコらへんのこたぁ詳しくは知らねぇんだが、奴隷の基本的な権利や

人権についてはよ。


 買い主のさじ加減次第で、どうとでも左右される様な、買い主の所有物

みてぇな扱いをされるらしいぞ。それくらい罪人に対する人権ってのは軽薄な

扱いになるんだと。衣食住をキチンと与えてくれて、人として、住み込みの

使用人みてぇに優しく接してくれる買い主に当たれば御の字だが、その真逆

だってあるワケだ。


 悪い事なんてするモンじゃねぇな、ったく。しかしまぁソレはソイツが

そうなる事を知った上でやった事なんだからよ、自業自得の結果なんだから

同情なんてしちゃダメだわな、じゃねぇと真っ当に生きてる奴がバカを見る。


 一見、非情に見えるが公平な制度とも言える。数億円の横領をコイといて、

その刑期は十年あるかないかとかいう、どっかの国の犯罪者にもそうやって

欲しいよ。サラリーマンの年収に換算してみても軽すぎだろ、そういう刑罰は。


 さてさてと、丁度此処で金関係の話と、さっき採掘物の買取について話を

したから此処で「この世界」で流通している貨幣の事についても話すとしようか。


 その名称は「リーフ」っていうんだが……リーフと言うのは、この世界で

流通している通貨の事だよ。一リーフ=百円ってトコだな。うーん、しかし、

とは言ったモノの、コレだけじゃまだまだ分かり難いだろうから更に詳しく、

この世界の貨幣制度やその貨幣の材質について、詳しく話すコトにするが……


「一リーフ銅貨」=「十円玉と同じ大きさの銅製コイン」

「百リーフ銀貨」=「五百円玉と同じ大きさの純銀製コイン」

「千リーフ金貨」=「百円玉と同じ大きさの純金製コイン」


 もっと、分かり易く言えば……


「銅貨一枚」=「百円」

「銀貨一枚」=「一万円」

「金貨一枚」=「十万円」って、具合さ。


 それぞれの硬貨には材質は異なれど、皆一様に表面には「トウモロコシ」が

彫刻されていて、裏面には「小麦の穂」が彫刻されてんだ。なんでソイツ等が

デザインに使われているのかと言うとだな、トウモロコシは「スープ」を象徴し、

小麦は「パン」を象徴していて、生きていく為に必要な糧と、経済活動に必要な

貨幣を表現しているんだそうな。この「コーンスープ」と「パン」、日本人の

感覚に併せるのなら、銀シャリと味噌汁にでもなんのかねぇ。


 んで、ソイツを理解して貰えたトコで一般的な買い物で使われるのは

銅貨や銀貨がメインで、金貨の方は大きな買い物をする際に使われるってのが

「この世界」での買物の仕方だよ。うめぇ棒を一万円札で買う奴は嫌われるぞ。  

 あぁ、物はついでに更に分かり易く「平均的な物価の相場」まで説明すると。


 一リーフあれば、コンビニで売っている様な肉まんサイズのフランスパンが

二個だけ買えるってトコだな。三リーフあれば冷気の魔法を掛けられて

キンキンに冷えた木製ジョッキの中に注がれた、六百ミリリットル位の分量が

あるビールを一杯だけ飲める感じか。そんでもって五リーフもありゃ……

身長百八十三センチ、体重百キロの俺がよ、腹八分目位にはなる量がある定食を

何処の飯屋でも食うコトが出来る。んで、宿屋の料金事情にも話を突っ込むと。


 五十リーフで晩飯と朝食付きの宿に一泊出来るぜ。

 三十リーフで食事無しの素泊まり出来るだけの安宿なら泊まれるわ。

 地域によって価格は変動するだろうが、まぁこんなモンだと思ってくれや。


 おぉ、そうだ。そういや、俺の自己紹介がまだだったよなっ。

 俺の名前は「桜葉一郎さくらばいちろう」ってんだ。

 年齢は、今年で三十四歳になる。


「この世界」の中では「イチロー」って、名乗ってるよ。日本のプロ野球界から

メジャーリーグに行ってる「某有名選手」を呼ぶ時の様な、そんなノリでよ、 

俺の事は気軽にそう呼んでくれりゃあ良い。で、容姿についちゃあ、そうだな。


 芸能人で言ったら誰に似てるのか、ってので答えるとするが。


「この世界」に来る前は、自動車の整備士をやってたモンだから仕事柄、

常に作業用の布帽を愛用してた為に、邪魔になる髪は剃ってあるんだわ。

 平たく言えばスキンヘッド、外国風に言うならボイルドヘッドってトコか。

 そんな感じなモンで、この顔の特徴は職場の皆やお客さんから揃って

同じ事を言われたんだが、俺の顔ってのはどうもよ。


 ファイナルサムライとかいう、明治初期の動乱に生きた、侍達の生き様を描いた

作品に登場する「渡部謙」という役者に似ているらしいんだわ。だもんでソレが

気になった俺自身も、そう言われたモンだからその作品を見てみたんだが、

まぁ雰囲気だけは似てるっちゃあ似てたわな。

 

 しかしまぁなんつーか、ぶっちゃけ、俺って変だよな。


 良い歳こいた「おっさん」の癖によぉ、鍛冶師ギルドがどうとか、錬金術師が

どうとか、銅貨がどうかしたとか……ホント、銅貨好きな「おっさん」だよな。 


 す、すまん、今の発言に「イラッ」と来た方、気を悪くしねぇでくれ。

 会話を円滑に進める為の「ウィット」に富んだジョークってヤツなんだわ。

 ま、まぁそりゃ置いといてだ。い、いえ、置かせて下さい。


 ……さてと、円満に自己紹介も済んだトコで今から俺が口にする事。

 コイツは常識的に考えて、し、信じられねぇ話になるんだろうがよ。

 俺自身、自らの身にいったい何が起こったのかを、未だに分からねぇんだが。

 あ、ありのままに自分の身に「起こった出来事」を今から話すぜ――






「この世界」に来る前、俺は一日の仕事を終えた後、独りで自宅近くの居酒屋で

飲んでたんだ。んで、勘定を済ませた後は、ほろ酔い気分で帰宅して風呂に入り、

寝間着兼普段着でもあるジャージに着替えて、毎日の娯楽として楽しんでいる

ネットサーフィンをやっていた。はい、そこ。エロじゃない、エロじゃない。


 で、その時に新しくサービスの開始を始めたらしい、とあるネトゲの広告が

目に留まったから、その広告に少しばかり興味を持った俺はよ、その広告の

サムネを何気なしにポチッたトコ迄は、うろ覚えながら覚えているんだが――






「……むっ、此処は……?」


 いつの間に気を失ったんだろうなぁ、うたた寝してた後に感じるみてぇな

重苦しい気だるさを身体全体へ覚えつつも、辺りを見回してみたらよ、

ついさっき迄、俺は自宅に居たハズなのに……い、いつの間にか、どっかの

OSメーカーのOSに仕込まれてるデスクトップの壁紙に使用される様な、

見渡す限りの青空と草原の中によ、一人ぽつんと大の字になって寝てたんだわ。


「……は? ま、マジかよ。な、なんじゃこりゃあ~!?」


 焦った、ってかドン引きした。ソレと同時に魂の叫びとも表現出来るくれぇの

感情が篭った、そんなセリフも自然と口から押し出てきた。


 そ、そんなこんなでよ、いったい自分の身に何が起こったのか、

状況を全く把握出来ずに焦っていたトコへだ、突然、俺の頭の中に

「女の声」が聞こえて来たんだ。どこか優しげな暖かくて落ち着くような、

そんな感じの女性の声でさ、俺を呼んでるみてぇな印象だったわ。


 次いで俺から少し離れたトコにはよ、なにやら女性のシルエットらしき

「ぴかぴか光ってる人型」も現れやがったんだわ。女性特有のシルエットって

ヤツさ。だから女性という事で話を進めるがよ、その彼女の表情や体型は、

彼女の身体から発せられていた後光のせいで、影が出来ててハッキリとは

見えなかったが声から察するに多分、育ちの良いトコの名門貴族出身とかの

お嬢様って言った感じの、そんな気品に満ち溢れた美人だと俺は思ったね。

 

 とりあえず俺は、心を落ち着かせて彼女の言葉を黙って聞く事にしたんだわ――






「よく来ましたね、イチロー・サクラバ。私の名はミルフィール。

 この世界の名はアースグリーンと言います。早速ではありますが、

 イチロー、貴方がこの世界で何を為すか……ソレは貴方の自由です」


「貴方には『豪力の加護』を与えましょう。この世界で貴方が生きて行く為には、

 助けになる加護の筈です。えっ?『俺に選ぶ権利はないのか?』ですって?」


「だって貴方って……頭の良さそうな感じにはとても見えないんですもの。

 なので、魔法の知識を与えても貴方には使いこなせないでしょうし……ね?」


「……あら、貴方の記憶を少し覗かせて貰いましたが、コレは……うふふ。

 映画、というのですか。娯楽の一種のようですね。その中の宣伝文句に

 『かつて世界がうらやむような、まばゆい男たちが……』とありますが、

 コレって貴方のコトなのでしょうか? うふふっ。『かつて』と言わず、

 『ここにいるぞ!』なーんてねっ? うくっ……!? ぷっ、ぷぷっ……!」


 ……前言撤回。


【ピクピク……】【……ブチィ!!】


 キレたね、俺は……! 流石にっ……! 久しぶりにキレちまったよっ……!


 相手は女性? あ? ソレがどうした? 此方になんの落ち度も無いのに、

ソレで人様を見た目で馬鹿にする様な奴は、テメェも馬鹿にされる「覚悟」が

あってこその「行動」なんだと俺は受け取った、ソコには性別なんざ関係ねぇ。


 ソレが「人としての筋道」ってモンだろうがっ!? 道理だろうがっ!?


「こるぁ! ねーちゃん! 喧嘩、売ってんのかな!? 舐めた口、訊いてっと!

 裸に引ん剥いて『ピー』を『ピピー』にして……『ズキューン』しちまぞ!?」


「ま、まあっ!? 創造神である、わ、ワタクシに向かってなんて事をっ!?」


「うるせー! 創造神だか妄想シーンだか知らねぇが! 人が黙って訊いてりゃ、 不毛の大地だの海坊主だの、なんだのと! 好き放題に言いやがって……! 

 てめぇの『ピー』も俺の頭と同じ様にっ! ツルツルに剃ってやろうか!? 

 おらっ! 早く『ピー』を出しやがれ! 生まれたばっかの状態に

 してやんよ!」


「んなっ!? なんて破廉恥な!? てゆーか私! そんな事、

 一言も言ってないモンっ! あ、でもぉ……ちょっとソレ、

 ミルちゃん、興味あるかも……? いやんっ、えっちぃ~」


「ほう……乗り気じゃねぇか? よーし分かった。

 今、そっち行くからソコで待ってろ! ねーちゃんの希望通りに

『ピー』を! 綺麗に剃ってやるぜぇ! ヒャッハー!」


 そんときゃ「剃刀」なんて持ってなかったんだが、売り言葉に買い言葉って

いう奴でよぉ、俺は、その「ミルフィール」とか言う、ピカピカねーちゃんが

居る方へ向けて全力で駆け寄ろうとしたんだ。


 だけどよ――



「……ふふっ、ですが今はまだ、その時ではありませんね……。

 イチロー、私を『ピー』したかったら、そしてこの世界から元居た世界へ

 戻りたければ、この世界で名を上げなさいな。それでは、私は此処で。

 これからも貴方を見守らせて頂きます。また逢いましょうね、イチロー」


【ぺカァー】


「はぁ? この世界で名を上げる? そりゃいったいどういう……お、おい、

 ちょ、ちょっと待てって……! 戻り方を教え……うっ!? まぶしっ!?」


 ねーちゃんの身体が更に光量を強めて行って、眩しさを感じたと思ったら、

俺は気を失ってしまったらしく、また、倒れちまってたんだわ。


 そして、暫く経って目が覚めた訳なんだが……


 今度は、それまで着ていた「ジャージ」は何処にも見当たらず、その代わり

左手には封を切ったばかりの愛用のタバコを持っててよぉ、右手にも左手と

同じくいつも愛用してるオイルライターだけを握り締めてて……その他に、

何か身に着けているモノと言えば、ぶ、ブーメランパンツ一丁だけで……!


 さ、更にはっ……!! 

 筋肉モリモリのマッチョメンな身体に! さ、されちまってたんだよ――!?


 な、なにを言っているの分からねーだろうが、お、俺にも理解不能だっづの!

 な、ナニ、この身体!? あの姉ちゃんの趣味かっ!? こ、これから先は、

しゅ、主食は、湯通ししただけの、味の無いササミしかダメなの!? ねえ!?  

 ん、んで、そういった経緯を経た後に、と、とりあえず落ち着く為にだな。


 大草原の中で「そのナリ」で、他にする事も特に何も無かったのでさ、

いつもの見慣れた愛用の赤い箱から一本タバコを取り出して、ソイツに

火ぃ着けて「一服」するコトにしたんだが――




「……ったく、な、なんだってんだ。い、いってぇ、こりゃあよぉ……。

 冗談じゃねぇっづの! はぁ、やれやれだぜ……と、とりあえず……」


【スッ……】【チィンッ!】【シュボッ!】【ジジジ……】


 手馴れた手付きで口にタバコを一本くわえ、ソイツにライターで火を着ける俺。


 あ、このライターはよ、ボタンを「ポチッ」と押せば火が着く奴じゃねぇんだ。

 このライターはな、いつも俺が愛用している銀色の四角い小さな箱。

 まぁ平たく言えば「火打ち石付きオイルライター」さ。

 

 コイツの使い方は、コイツの上蓋を右手の親指で跳ね上げると……って、

まぁ左手の親指でも良いんだが、ソコに火打石の原理で火花を飛ばす歯車が

現れっから、その歯車をさっきの親指で回してやりゃあ火花が飛んで、

その火花が可燃性の油を吸い込んだ芯から発する、可燃性の気体に触れて

発火する仕組みなのさ。


 まぁ詳しくは危険物取扱者の資格でも勉強すりゃ分かるぜ。


 あぁちなみに俺は、その資格の乙類ってのを全部持ってるよ。

 ガソスタで働く気がある奴は、取っといた方が良い資格だぞ。

 持ってるのと持ってねぇのじゃ、時給にだいぶ差が出るぜ。


「……ふぅー。さて、これからどうすっかねぇ。んっ? ありゃ……?」


「……。」


 一服してたら丁度ソコを通り掛った錬金術師の「マーク・マクドーウェル」

って言う名前の、にーちゃんと知り合いになってよ。そのお陰で――




 ソイツに助けられて、今に至るって訳さ。


「この世界」の常識とか、その他諸々の事はソイツに教わったんだ。

 こりゃ俺の勝手な推測だが、多分「この世界」は、どうやらありえんが。

「ネットゲームの世界の様なモン」っぽい。他に、言い現わしようがねぇんだ。


 まぁこうなっちまった以上は、郷に入りては郷に従えってノリで

順応するしか他に手段は何もねぇみたいなんだがな……はぁ……。


 まっ、なんとかならあ! こまけぇーこたぁいいんだよっ! あぁそうそう。


 さっきのにーちゃんは「マクド」って呼ばれるとキレるから、略式の愛称で

呼ぶんなら「マック」って呼んでやってくれ、マークだからマックなんだってさ。

 初めて会った時は、まるで汚物でもみるかの様な目で見られたモンだが、

今じゃアイツも、気の会う友人として俺と付き合ってくれてんだわ。


 アイツ、俺が持っていたオイルライターに興味があったらしくてな、

その縁で話が弾んで、俺とマックは仲良くなったのさ。んで今はその

オイルライターはマックに預けてるんだわ、なんでも複製して魔導器として

売り出すつもりらしい。あー、あと「タバコ」も数本、マックには渡してある。


 マックは顔が広く、製薬会社の研究員みたいな真似もやってる魔導士達に

顔が利くらしいので、タバコの複製もなんとかなりそうな感じなんだ。


 ホントに、これだけはこんな理不尽な場に置かれてもよ、心の底から有難いと

思ってる。ヘビースモーカーな俺としちゃ大好きなタバコをさ、この世界

「アースグリーン」でも吸えるなら、万々歳って訳だ。マックがオイルライターの魔導器転用を成功させて名声や金を得られるのならば、その代わりに俺は

マックからタバコとオイルライターとかを無償提供して貰うって話になってる。


 まっ、ギブアンドテイクって奴だな、頑張れよマック。 

 イチローさんは、お前さんの成功を陰ながら楽しみに待ってるぞっ。


「さて……腹も減ったし、村に戻るとすっか」


 仕事を終えた直後に、空腹感に見舞われた俺は、手早く足元に散らばっていた

鉄鉱粘土を麻袋に詰め込むと、傍に置いていた背負子にその五つ目の麻袋を載せ、

しっかりと紐でソイツを固定した後にその背負子を背負い、山肌に突き刺して

おいたツルハシを右手で引き抜いて右手に持ち、作業場に忘れ物が無い事を

確認すると。


 この鉱山から下りたトコに広がっている森を抜けた先にある、

今現在の活動拠点としている「リュック村」へと、戻る事にしたぜ。




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