第86話~恋姫達の想い、終幕の開幕~
月「・・・。」
ここは洛陽城内。董卓こと月は両手を組み、祈りを捧げている。
璃「月お姉ちゃん、何してるの?」
月「お祈りしているの。皆が無事に帰ってきますようにって。」
璃「そうなんだ。璃々もお祈りするね!」
璃々も同じように両手を組み、祈りを捧げた。するとそこへ・・。
天「あっ、月ちゃんここにいたんだ。」
月「天和ちゃん。それに地和ちゃんに人和ちゃんも。」
地「またお祈りしてたんだ。」
月「はい。私に出来るのはこれくらいだから・・。」
人「月さん・・。」
健気に祈りを捧げる月を見つめる張三姉妹。
天「♪~♪」
地「天和姉さん、どうしたの突然?」
天「私も出来る事をしようかなって。私に出来るのは歌うことだから。」
人「天和姉さん・・。」
地「うん!ちぃ達に出来るのは歌う事だよね!だったらちぃ達の歌を皆に届けよう!」
人「そうね。私達も月さんを見習って、出来る事をしましょう。」
天・地・人「♪~♪」
張三姉妹は戦場で戦っている者達に祈りを込めた歌声を捧げた。
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※※※※
戦は終局へと向かい、三国連合及び五胡穏健派は殲滅戦を始めており、戦場は敵味方入り乱れていた。
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※※※※
真「おりゃぁぁーっ!どんどん行くでー!」
真桜が螺旋槍で突撃し・・。
沙「邪魔なの~!」
沙和が双剣で敵兵を斬り裂いていく。
真「今魏でまともに戦える将はウチらだけや!」
沙「分かってるの。春蘭様や秋蘭様。それに霞様。そして凪ちゃん分まで沙和達が頑張るの!」
真「その意気や!さぁ、ガンガン行くでー!」
沙「応ーっ、なの!」
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※※※※
季「でえええええぃっ!」
ドゴォォーーン!!!
季衣の鉄球が地面ごと敵兵を吹き飛ばす。
流「てやあああーーっ!」
同じく、流琉の円盤が敵兵を薙ぎ倒していく。
季「流石流琉だね!」
流「季衣もね!」
季衣は敵兵に振り返り・・。
季「さあ来い!ボクがまとめて吹き飛ばしてやる!」
流琉も振り返り・・。
流「我こそは悪来典韋!ここを罷り通る事は許しません!命を捨てたい者はかかってきなさい!」
季衣の鉄球と流琉の円盤が戦場に轟いた。
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※※※※
春「はぁ!」
ザシュ!
秋「ふっ!」
ヒュン、ヒュン・・。
春蘭が剣を振るい、秋蘭が矢で敵を射ち抜いていく。
春「ここが正念場だ!立ちはだかる者は残らず斬り捨てる!」
春蘭が敵兵に向かって叫ぶ。
秋「姉者、あまり無理はするな。姉者の傷は決して軽くはないのだぞ?」
春「ふん!この程度、かすり傷だ!」
そう意気込む春蘭。だが春蘭の傷は決して軽くはない。体は一部骨折しており、擦過傷も至るところについている。
春「秋蘭こそ下がっていろ。お前とて重症だろ?」
秋「心配はいらん。かすり傷だ。」
同様に秋蘭も春蘭より軽いものの、同じく重症である。
春「皆が戦っている時に寝てなどいられん!」
秋「無論だ。」
春「行くぞ秋蘭!援護は任せたぞ!」
秋「ああ!姉者の背中は任せてもらおう!」
春蘭秋蘭姉妹が敵へと向かっていった。
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※※※※
華「ふっ!」
ブシュ!
華琳が敵兵を絶で斬り裂く。両軍入り乱れているため、魏本陣にも時折敵が紛れ込んできている。
華「桂花、茉里、風、稟、ここは危険よ。あなた達は下がりなさい。」
桂「そんな!華琳様を残して下がることなど出来ません!」
稟「私達はここで部隊の指揮を取ります。」
風「風も稟ちゃんに賛成なのですよ~。」
茉「私も・・。」
華「あなた達・・っ!?」
華琳は、茉里に忍び寄る五胡の兵に気付いた。
華「茉里、後ろよ!」
茉「!?」
茉里は華琳の声で敵兵に気付いた。
華「茉里!くっ、邪魔よ!」
茉里を助けようと向かおうとするが五胡の兵が立ちはだかり、行けない。茉里も突然の事で身動きが取れないでいた。華琳は間に合わず、非情にも五胡の兵は茉里に剣を振り下ろした。
ガキン!!!
華「茉里!」
茉里は身を震わせ、両目を瞑る。
茉「・・・・!?」
茉里がおそるおそる目を開けると・・。
華「あなた・・。」
茉「・・凪・・さん・・。」
そこには、全身の至るところに包帯を巻いた凪が、両腕を頭の上で交差させ、閻王で剣を止めていた。
凪「はぁ!」
「がはぁ!」
凪は剣を弾き、拳を敵兵に撃ち込む。
凪「くっ!」
凪は顔を歪ませ、その場で膝を付いた。
華「凪、あなた何をやっているの!?あなたの身体は重症なのよ!」
凪「心配、いりません。私は大丈夫です。」
華「駄目よ。凪、下がりなさい。これは命令よ。」
凪「・・出来ません。」
華「凪?」
凪「我が拳、我が身命は我が主、曹孟徳様を守る為に、あります。私が私自身に命令致しました。これは如何なる者であっても、それが華琳様であっても覆す事は出来ません。」
凪は膝に力を込め、立ち上がると、ゆっくりと前に出た。
凪「この楽文謙!我が主、曹孟徳様の最後の砦だ!超えられるものなら超えてみろ!」
凪が華琳の前で立ちはだかった。
華「凪、あなた・・。」
華琳が凪に歩み寄ろうとする。そこへ・・。
?「心配いらんで、孟ちゃん。」
華琳が振り返ると、凪と同じく包帯を巻いた霞の姿があった。
華「霞、あなたまで・・。」
霞「凪にだけええ格好はさせへんで。」
霞は笑いながら前に出る。だが見る者が見れば満身創痍なのは明白だった。
霞「桂花も茉里も、稟も風も下がらへんのやろ?せやったらウチらが孟ちゃんもろとも守ったるわ。」
霞が凪の横に並び・・。
霞「ウチの名は張文遠!神速の二つ名は伊達やない!抜けるものなら抜いてみぃっ!」
霞も同じく敵兵に立ちはだかった。
霞「凪、死ぬんやないで。」
凪「勿論です。師匠の・・盟主である御剣昴様の命を違えるつもりはありません。」
霞「ははっ、聞くだけ野暮やったな。ほな、行くで!」
凪「はい!」
華「全く、困ったものね。」
華琳はやれやれと言った面持ちで呟く。
華「分かったわ。私と私の軍師の護衛は任せたわ。頼りにさせてもらうわ。・・魏の勇者達よ!今が雌雄を決する時!この地から五胡の軍勢を追い払う!全軍、雄叫びと共に突撃せよ!」
「「「「応ーーーーっ!!!!」」」」
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※※※※
明「邪魔です!」
ザシュ!
亜「どいて下さい!」
シュッ!シュッ!
明命が魂切で敵兵を斬り裂き、亜莎が暗器を飛ばし、時に打撃を駆使して敵兵を撃ち抜いていく。
明「亜莎。今のあなたは軍師なのですよ?前に出過ぎです。」
亜「分かっています。ですが、今が大局はこちらにあります。1人でも多く、戦える者が必要です。ですから私は戦いながら指揮を取ります。」
明「もう、前線で武を振るう軍師なんて聞いた事ありませんよ?」
亜「後方には冥琳様と穏様がいらっしゃいます。後方にしか見えない事があれば、前線にしか見えない事があります。私は前線で軍師として指揮を取ります。心配はいりません。これでも私は元親衛隊ですから。」
明「前線の軍師。ふふっ、分かりました!なら私は亜莎を守りますから存分に采を振るって下さい!」
亜「頼みます!・・私達は敵の隙間を広げます。皆、続いて下さい!」
「「「「応っ!!」」」」
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※※※※
楓「おらぁ!」
バキッ!!!
思「ふっ!」
ザシュ!
楓が虎狼双で敵兵を弾き飛ばし、思春が鈴音で敵兵を刈り、背中合わせになる。
楓「だぁー!次から次へとキリがねぇ!」
思「どうした楓。泣き言か?」
楓「ちょっと愚痴っただけだよ!」
思「案ずるな。このような有象無象、いくら来ようと我らの敵ではない。」
楓「へっ!別に心配なんざしてねぇよ。何せ、背中には1番頼りになる友が居るんだからな。」
思「ふっ、お互い様だ。」
楓と思春が視線をそれぞれの前方に移し・・。
楓「勝って、共に生きるぞ。」
思「問われるまでもない。」
楓と思春が同時に飛び出した。
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※※※※
祭「ふっ!」
ヒュン、ヒュン、ヒュン・・。
祭は矢を3本つがえ、敵兵を射ち抜く。その後ろからさらに敵兵が現れる。
祭「甘いわ。」
祭はすかさず矢を2本つがえ、額を射ち抜く。
祭「むっ?」
その後ろからさらに敵兵が現れた。今度は矢をつがえる時間がない。
「死ね!」
敵兵3人が祭に剣を振るった。
ブォン!ブォン!ブォン!
「!?」
「消えた?」
「何処に・・。」
祭「儂はここじゃ。」
祭は敵兵の左側5メートル程の所で弓を構えていた。
祭「修行が足らぬわ。」
ヒュン、ヒュン、ヒュン・・。
「がはっ!」
「ぐふっ!」
「ぎゃは!」
祭は的確に額を射ち抜いた。
祭「ふむ・・。」
祭は手を握ったり開いたりする。
祭「また氣が上手く扱えるようになったようじゃ。」
祭は自身の変化に少々驚いていた。
祭「老いてもなお成長するとは、ふむ、儂もまだまだ現役という訳か・・くくっ、今なら何千何万と相手が出来そうじゃ。」
祭は自身の成長に驚き、体からどんどん力が沸いてくる気分になった。
恋「無理は良くない。」
祭「おおっ、呂布か!」
そこに恋が現れた。
恋「昴が言ってた。氣は長期戦、大勢を相手には向かないって。それに祭は弓。」
祭「ハッハッハッ!分かっておるわ!呂布よ、背中は儂に任せてお主は存分に敵を討ち取るが良い!」
恋「ん・・恋で良い。」
祭「?」
恋「真名。預ける。」
祭「そうか。ならば儂も預ける。儂の真名は祭じゃ。」
恋「分かった、祭。・・なら行く。」
恋が敵兵に向かい、祭が恋の援護に回った。
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※※※※
冥「どうやら連合軍が圧倒的に優勢だな。」
穏「優勢ですね~。」
冥「やはり昴には驚かせる。まさか五胡の敵対派閥を味方に引き入れ、援軍として参戦させるとはな。」
穏「英雄と呼ばれる方のその胸中を読むことは出来ませんよ。」
冥「確かにな。」
冥琳は頭に雪蓮の顔を浮かべた。
冥「雪蓮はどうやら前線に出てしまったようだな。」
穏「・・実は申し上げにくいのですが・・。蓮華様と小蓮様も雪蓮様を追いかけていってしまいました。」
冥「やれやれ・・ならば我らは我らが王達を援護するしかないな。」
穏「分かりました~♪では早速本隊に準備させますね~。」
穏が本隊に指示を飛ばす。
冥「王が前に出るなど、あまり誉められた事ではないが、雪蓮の勘と勝負所を見極める嗅覚は神がかり的だ。蓮華様と小蓮様が居れば大丈夫だろう。」
冥琳は眼鏡を人差し指で押し上げ、穏と同じく指示を飛ばしに向かった。
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※※※※
雪「はぁっ!」
ザシュ!
蓮「ふっ!」
ズシュッ!
小「えーい!」
ザシュ!
雪「蓮華、シャオ、腕を上げたわね。」
蓮「姉様!姉様は孫呉の王なのですからご自重下さい!」
雪「心配いらないわ。それにね、今が勝負所よ。ここで王である私が前に出て兵達を鼓舞しながら戦う。後ろに居るばかりが王じゃないわよ。」
蓮「ですが・・。」
小「もう、お姉ちゃんは心配性だなー。大丈夫よ。」
蓮「何を根拠に言っている。」
小「ん~、勘?」
蓮「はぁ~、全く・・。」
蓮華は大きく溜め息を付く。
雪「おしゃべりはここまでよ。このまま行くわよ。2人供、用意は良い?」
小「もっちろん!」
蓮「無論です。」
3人は正面に向き直り・・。
雪「我が名は孫伯符!孫文台の娘にして孫呉の王だ!」
蓮「我が名は孫仲謀!同じく孫文台の娘が1人だ!」
小「シャオは孫尚香!!同じく孫文台の娘よ!」
雪・蓮・小「我ら三姉妹!孫一族の名は伊達ではない!恐れぬ者はかかって来なさい!」
3人は同時に向かっていった。
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※※※※
麗「はぁ!」
ザシュ!
美「やぁ!」
ズシュッ!
麗羽が剣を振るい、美羽が細剣を突き、敵兵を討ち取っていく。
麗「はぁ、はぁ・・美羽さん・・息が上がって・・いますわよ。やはりお子様・・ですわね。もう、限界なのかしら?」
美「麗羽・・姉様こそ、息が上がって・・おるぞ。もう歳かのう?」
麗「何か言いまして?」
美「麗羽姉様こそ!」
2人が睨み合う。
「死ねぇ!」
そんな2人に敵兵が襲いかかる。
七「えい♪」
ザシュ!
七乃がその兵を剣で斬り裂く。
七「美羽様。ここは戦場なんですから余所見してはいけませんよ?」
美「むぅ、七乃・・。」
斗「麗羽様も余所見したら駄目ですよ?」
猪「そうだぜ、集中してなきゃあっという間にあの世行きだぜ?」
麗「わ、分かっていますわ。」
斗詩と猪々子も同じくやってきた。
麗「コホン!・・では改めまして、斗詩さん、猪々子さん。美羽さん、七乃さん。行きますわよ。盟主様のご命令は覚えていますわね?」
猪「死ぬな、だろ?当然覚えてるぜ!」
斗「勿論です。」
美「妾も必ず生きるのじゃ!」
七「当然です♪」
麗「なら宜しいですわ。では、行きますわ!」
5人は敵兵に向かっていった。
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※※※※
詠「今よ!矢を放ちなさい!」
ね「こんがり狐色に焼けるのです!」
詠とねねの号令で火矢が放たれる。
詠「道が空いたわ!華雄隊、公孫賛隊!突撃して敵陣を斬り裂きなさい!」
白「応っ!」
想「任せろ!」
白蓮と想華を先頭に、騎馬隊が突撃を敢行する。
白「元白馬長史の名は伊達ではないぞ!」
想「我が金剛爆斧の錆になりたくない者は道を開けよ!」
2人が騎馬を率いて敵陣を斬り裂いていく。
ね「むぅ、恋殿は何処に・・。」
詠「あーもう、恋恋うるさいわね!黙って指揮出来ないの!?」
ね「黙るのです!第一黙ったら指揮は取れないのです!」
詠「あんた、後で覚えてなさい。」
ね「精々吠えるのです!この癇癪玉!」
詠「あんた、絶対泣かす!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
蒲「そこ!」
ザシュ!
焔「邪魔だ!」
ドカッ!!!
蒲「後ろから来てるわよ!」
ザシュ!
焔「貴様もだ!」
バキッ!
たんぽぽと焔耶が連携しながら敵兵を討ち取っていく。
蒲「ちょっと!あんた金棒がたんぽぽに触れたわよ!危ないじゃない!」
ヒュン、ヒュン・・。
焔「貴様の槍も掠めたぞ!気を付けろ!」
ドゴォォォン!!!
2人は喧嘩しながらも互いが互いの隙を補いながら敵兵を討ち取っていった。
桔「あやつらは仲が良いのか悪いのかどっちなんじゃ?」
紫「きっと仲良しよ。だって息がピッタリですもの♪」
桔「やれやれ。あれでは見ていられん。紫苑よ。儂らはヒヨコ共の援護をするか。」
紫「いえ、ここは2人に任せて、私達は他に行きましょう。」
桔「しかしのう・・。」
紫「子供の成長を見守るのも母親の努めよ。」
桔「母か・・。ふっ、馬鹿娘共じゃが、暫し見守るとするかのう。」
紫「ええ。私達は左翼の星ちゃん達の援護に行きましょう。」
桔「心得た!お主ら行くぞ!ついて参れ!」
「「「「応っ!!!」」」」
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
ゴゴゴゴゴゴゴ!!!
「何だ?地震か?」
「お、おい!あれを見ろ!」
五胡の兵の1人が指差したその方向には・・。
以「者共続くにゃ。五胡の兵を踏み潰すにゃ!」
ミ・ト・シ「にゃー!」
美以率いる南蛮賊が、巨大な象を引き連れ、やってきた。
以「皆ぺしゃんこなのにゃー!」
ミ「ぺしゃんこにゃー!」
ト「ぺたんこにゃー!」
シ「ぺしゃんこにゃ。」
「うわー!逃げろー!」
「化け物だー!」
五胡の兵は巨大な象の迫力に圧倒され、次々と逃げ出していった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
鈴「うりゃりゃりゃりゃー!」
ザシュ!プシュ!
翠「どっしゃおらぁぁーっ!」
ズシュッ!バシュッ!
鈴「翠もなかなかやるのだ!」
翠「鈴々もな!」
2人は目の前の敵兵を弾き飛ばしながらお互いを讃え合う。
鈴「でも鈴々の方がもっと凄いのだ!」
翠「何!?あたしの方が凄いに決まってんだろ!」
鈴「翠何かより鈴々の方が全然全然強いのだ!」
翠「何だと!?・・・・なら勝負だ。」
鈴「にゃ?」
翠「より多く敵を討ち取った方の勝ちだ。」
鈴「その勝負乗った、のだ!」
翠「おし!なら負けた方が飯奢りだからな!それじゃ・・始めだ!」
鈴々と翠が同時に飛び出した。
鈴「1、2、3、4・・・。」
翠「1、2、3、4・・・。」
2人の意地の張り合いからの勝負が始まった。
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※※※※
雫「ふっ!はぁ!」
バキッ!ドカッ!
姜「ふっ!」
ザシュ!
姜「同胞よ!五胡の誇りを見失うな!我らはいついかなる時も誇り高くあったはずだ!これ以上自身を貶めるな!誇りを取り戻した者は国に帰れ!」
姜維の言葉に一部動揺が走る。
「黙れ!この裏切り者が!」
姜「っ!?」
だが一部は聞く耳を持たず、姜維へと襲いかかる。
雫「姜維さん!」
バキッ!
雫が棍で敵兵を突き飛ばす。
姜「裏切り者、か・・。」
雫「・・後悔、なさっていますか?」
姜「否、後悔するくらいなら始めから選ばない。覚悟はしていた。」
雫「・・強いのですね。」
姜「強くはない。ただ己の道を信じたのみ。」
雫「分かりました。あなたの言葉に一部の心が揺れ動いています。あともう一押し、参りましょう。」
姜「肯定。」
2人は引き続き、説得しながら戦場を駆け回った。
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※※※※
朱「今です。魏延隊と馬岱隊に指示を、曹操さんの前曲部隊の援護に向かわせて下さい。」
雛「中央に斬り込んで来た敵部隊は華雄さんの隊で迎撃するようにお願いします。」
朱里と雛里がそれぞれ色違いの羽毛扇を振りながら指示を出していく。
朱「連合軍の圧倒的に優勢だね。」
雛「うん。圧倒的に優勢。」
朱「後はこの勢いそのままに一気呵成に攻め立てるだけ。」
雛「うん。時の流れは私達にある。後は流れに乗るだけ。」
朱里と雛里は互いに頷き合い・・。
朱・雛「全軍突撃!敵を一気に攻め立てて下さい!」
両軍師から指示が出された。
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※※※※
愛「うぉぉぉーっ!」
ザシュ!ブシュ!
星「はいはい、はいーっ!」
ズシュ!バシュ!
愛「星、あまり無理をするな。その傷では立っているのも辛かろう。」
星「案ずるな愛紗よ。この程度、かすり傷だ。」
愛「しかし・・。」
星「ふっ、一騎討ちが途中でお開きになってしまったせいでいささか、不完全燃焼でな。もう少々暴れなければ体の疼きが治まらん。」
愛「ふっ、そうか。ならば何も言わん。我ら2人で1人でも多くの敵兵を討ち取ってやろうぞ。」
星「ああ、勿論だ。愛紗よ、背中は任せたぞ。」
愛「ああ。星もな!」
2人が同時に敵兵に向かっていった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
昴side
戦況は連合軍の優勢・・いや、もはや勝利は確定だ。勢い、士気、どれを見ても勢いが違い過ぎる。皆は良く頑張ってくれた。後は・・・俺の仕事だ。
桃「行くの?」
覚悟を決めた俺に桃香が問い掛ける。
昴「ああ。皆は全力をもって俺の願いに応えてくれた。次は俺が応える番だ。」
勿論、俺だけの願いではないが。
桃「・・帰って、来るよね?」
昴「当然だ。俺には帰る場所と待ってくれている人が居るからな。」
そう告げて俺は歩き出す。
桃「ご主人様!」
桃香は俺の後ろから俺を抱きしめた。
桃「・・御武運を・・。」
昔の桃香なら『死なないで!』とか、言ってたんだろうな。本当に桃香は強くなったな。そして、その言葉。何より力が沸いてくる。
昴「ああ、行ってくる。」
桃香が俺から離れ、それを確認すると俺は歩き出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
剣撃の音、怒声、悲鳴、轟音が俺の耳に鳴り響く。戦はまだ終わってないから当然だ。俺はただただ歩いた。特に取り決めがあった訳ではない。俺はただ導かれるように歩き続けた。そして、戦の音が若干遠くなった所に、奴はいた。
刃「ごきげんよう。」
昴「・・・。」
刃「君には驚かされるよ。倍の戦力と屈強の将を率いて来たのに、まさか、こうも惨敗するとはね。君の知略策略には驚かされる。」
昴「知略だの策略だの、そんな小難しい事じゃない。」
刃「では何だと?」
昴「所詮、奪う者が護る者に勝てるはずがない。」
刃「くだらないね。その想いだの気持ちだので戦いに勝てると?」
昴「ああ。歴史を動かしてきた者の根底にあるものはいつだってその想いと気持ちだ。いつだって、いつの時代も歴史を動かすのはココだ。」
俺は親指で自分の胸を指した。
刃「理解出来ないね。そんな不確かでうつろいやすく、さらに脆いものを信じるなんて。」
昴「分からない事はないだろう?お前もかつて、俺と同じであったんだから。」
刃「・・忘れたよ。そんな事は。俺はそんなくだらないものより分かりやすい圧倒的な力の方がはるかに信用出来るよ。」
力の権化か・・。
昴「お前に問いたい事がいくつかある。」
刃「ふふっ、今の俺はとびきり機嫌が良いから答えてあげるよ。」
昴「お前をどうして乱世を望む。」
刃「・・ならば逆に問う。治世の何が良い?」
昴「皆が平和で笑って暮らせる世界の何が悪い?」
刃「ふっ!そうか君は乱世に産まれて、ずっと乱世にしか身を置かなかったんだっけ?」
昴「それが何だ?」
刃「じゃあ分からないよ。乱世が如何に美しく、治世が如何に醜いかをね。」
昴「人が人として生きられず、謂われなき死が横行する世の何処が美しいんだ!」
刃「美しいさ。人が今日明日生き延びる為に人を殺し、奪い、生き延びる様は。君はさ、治世では人は死なないと思っているのか?勿論事故や病気、寿命の事を言ってるんじゃないよ?乱世で人が死ぬなら、治世は人を殺すよ。」
何を言ってるんだ?
刃「理解出来ないって顔だね。なら俺の思い出話をしてあげる。俺の産まれた世界はそれはそれは平和だった。少なくとも、自分の周りに戦なんて欠片もない世界だった。理不尽に死ぬなんて事はごくごく稀。けど、それ故に醜く、薄汚い世界だったよ。政を携わる人間は無能でただただ民の税をむしり取り、無駄に使うか甘い汁を啜るかしかしない。それに輪をかけてその民は愚かだったよ。何せその世界に何の疑問を感じずにただ生きてるんだからな。文句は言っても変えようとは思わない。むしろ、変えようとする者を鼻で笑い小馬鹿にするような者ばかりだ。そして変えようと試みた者は現実を知り、やがて腐って行く。いいかい、これが治世だよ。その世界に住む者は決して生きてない。ただ死んでないだけだ。俺にはそんな連中がとても醜く、汚く、そして吐き気すらするよ。今日明日必死に生き延びる為に人を殺す。そんな奴の方が俺にはとても美しく見えるよ。君はそんな世界を望むのかい?そんな腐敗した世界を・・。」
昴「・・確かに、俺は治世を知らない。お前の言うことはある種、的を射ている所もあるのかもしれない。だが、それでも俺は治世を望む。人が当たり前のように死ぬ世界を否定する。生きる死ぬも、それは他人が決めて良いものじゃない。自分がどう生きるか、どう有るか、それを自分で決められ、そして、皆が笑って暮らせる世界を俺は望むよ。」
刃「・・どうやら君とこのまま話を続けても水掛け論になりそうだ。お話はここまでだ、それでは終わらせようか?全てを。ねぇ、漆黒の麗覇王、御剣昴王。」
昴「・・・。」
俺がかつて居た世界で皆が俺の事を憧憬と畏怖を込めてそう呼んだ。もう2度と呼ばれる事はないと思っていたんだがな。
昴「終わらせるのお前との因縁と乱世だけだ。そして新たに始める。平和と言う世界を・・。ここで決着を付ける、外史の破壊者、刃。・・・・いや、かつてこの外史と似て非なる外史で天の御遣いと呼ばれた男―――」
―――北郷一刀。
感想、アドバイス、お待ちしています。




