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Crescent Quest 〜陽光ノ道標〜  作者: Soji
第一章 朱陽ノ出立
5/6

④ 草原に差す光


 眩しい朝の日差しで、陽南は目を覚ました。


「んー……朝かぁ」


 入口から差し込む光に目を細め、大きく欠伸をする。

 周囲を見回すと、天幕の中に三明の姿はなかった。


「あれ?」


 もぞもぞと毛布から這い出し、外に出る。


 そこには、雲一つない爽やかな五月晴れが広がっていた。

 草原に寝転んで空を見上げる、金髪の頭がひとつ。


「おはよ、三明」


「あぁ」


 隣に腰を下ろすと、三明は目だけを動かして応じた。


「朝飯できてるけど、いる?」


「あ、うん。いただくわ」


 彼に続いて立ち上がり、陽南はふと空を見上げる。


 太陽以外は何もない、どこまでも広がる空。

 正直、ずっと眺めるほどの面白味はなかった。



「……美味しい! ちょ、あんた天才?」


 三明の作った朝食は、野営とは思えない出来だった。


「こんなちゃんとしたご飯、久しぶり……!」


「大袈裟だな。ただの握り飯と味噌汁だろ」


 三明は肩を竦め、自分の椀に汁を掬う。


 その手元を眺めながら、陽南は出発時の光景を思い出していた。


『三明くん、陽南ちゃんをよろしくね』


『了〜解です』


『いや普通、逆よね!?』


 母・瑞希に突っ込んだ直後、寝巻き姿のレオナルドが騒々しく飛び出してきた。


『待ってくれマイ・サン! せめて別れのハグを──へぶぅっ!?』


『……親父が色々メ〜ワクかけて、スミマセン』


 突撃してきた父を音もなく避け、淡々と歩き出す三明。

 柱に激突したレオナルドを一瞥し、瑞希はくすりと笑っていた。


『……しっかりしてるわよね。誰かさんとは大違い』


「本当、できた子だわ……」


「?」


「何でもない。──ごちそうさま! ねぇ、また作ってくれる?」


「別にい〜けど」


「やった!!」


 はしゃぐ陽南を、眠たげな金眼が静かに映していた。



 のどかな平原を歩きながら、陽南は地図を確認する。

 予定通り進めば、日が傾く頃には目的地に着くはずだ。


「……姉御」


 ふと、三明の声のトーンが下がった。


「なんかいる」


「え?」


 目を凝らすが、見えるのは微風に揺れている草原だけ。


「距離八百。狐っぽいのが三体」


「はっ!? 八百ぅぅ!?」


 普通は二、三百メートル見えれば十分だ。


 半信半疑のまま進んだ、その時――。


 赤い毛並みの妖獣、《赤衣狐アカイキツネ》が三体、草むらから躍り出た。


「本当に合ってる! なんで見えたの!?」


「別に、目がい〜だけだ」


 そんなレベルじゃない。

 だが敵は待ってくれない。陽南は双刀を抜き放った。


「はぁっ!」


 炎を纏った刃が一体を切り裂く。


 だが残る二体が、左右から同時に迫ってきた。


「左は任せる」


 迷う間もなく声が飛ぶ。

 咄嗟に左の攻撃を受け止め、背後に三明の気配を感じた。


「振り返んなよ」


「え?」


 直後――

 背後から、網膜を焼くような閃光が炸裂した。


「グゥォォォ!」


 光を浴びた妖獣たちが悲鳴を上げ、のたうち回る。


「ちょ、三明、今のは――」


「ただの目潰し。さっさと止め刺さね〜と、すぐ復活するぞ」


 陽南は頷き、双刀を十字に構えた。


「『火斬十字カザンクロス!』」


 力を込めて一閃。

 妖獣はそのまま沈んだ。


「……すげ〜な、一撃か」


 三明も残りの一匹を仕留めたらしく、小太刀を鞘に収めて歩み寄ってくる。


「……ねぇ。さっきの光、何よ?」


「術だな」


「はぁ!? あんた戦士適性じゃないの!?」


 小太刀を差しているから、完全にそう思っていた。


「あぁ。一応おれ、術剣士」


 人は通常、「戦士」か「術士」に分かれる。

 両方の素質を持つ者は極めて稀だ。


「使えるのは目潰しと、術を跳ね返す程度だけどな」


「へぇ……確かに、サポート向きかも」


 だから援護に回ると言ったのか、と合点がいく。


「それにしても、随分戦い慣れてるのね」


「……まぁ」


 三明がちらりと視線を投げる。


「親父と、似てたし」


「……え」


「正面から突っ込むトコとか。なんも考えず、力で押し切る感じとか」


 レオナルドと同列扱いはショックだが、否定できない。

 陽南はどんよりと項垂れた。


 その視界に、彼の靴先が映る。


「──ただ、」


 反射的に見上げると。


 青空を背に、陽光を受けた淡い金髪が煌めいていた。


「おれは、キライじゃね〜けど。何事にも全力で、真っ直ぐな人」


 眠たげな無表情。

 けれど声は、どこか温かい。


「……それはどうも。お褒めにあずかり光栄です、ってね!」


 照れ隠しに肩を竦め、陽南は双刀を収めた。


 風が草原を渡り、焦げた獣の匂いを攫っていく。


 三明は再び空を仰ぎ、小さく息を吐いた。


「……も〜すぐ、町が見える」


「え?」


 しばらく歩くと、地平線に城壁の影が浮かび上がった。


「あ……見えた! 町だわ!」


「予定通りだな」


 三明は淡々と答え、小太刀の位置を直す。


 陽南は一度だけ、その横顔を盗み見る。


(……案外、悪くない旅ね)


 二人の足取りは、出発の時よりも少しだけ軽くなっていた。


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